
総合評価
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powered by ブクログ私たちが当たり前に接している文字 あるのが当然と思っていた物語 文字や文学がなかったら… ~「文学」は地球で暮らす人々の生活を形づくっているもの~ ハーバード大学教授である著者は言う 文学が私たちの歴史を形づくり、歴史が世界を形づくった経緯にについて考えているのに、 文学を探索する際に机に向かっているのはおかしいのではないか… そう考え、著者は偉大なテキストや発明が生まれた場所を訪ねることに(楽しそう♪) 斬新な物の見方と、文字や物語の歴史 何気なく接していた文字や物語をこんな角度で見るとは! わかっているようでわかっていなかったことに何度も目から鱗が落ちる! ◇ギルガメシュ叙事詩 最初の文字は5000年ほど前メソポタミアで発見された 当初は経済や政治の記録を行っていた そう彼らが「書記」である 当初の書記は高貴な身分であり、最初の官僚である 物語の最初は「口伝」だ 暗記している吟唱詩人が詠唱し、弟子や後継者に伝える それをいつしか書記が書き留める、すなわち物語を記録し始める ギルガメッシュ叙事詩の成立は紀元前1200年頃だが、起源はさらに1000年以上遡る (内容について少し触りがあるが、歴史の記録(洪水)、教訓とファンタジー要素が多く面白そうだ) 書記は王の実権を揺るがすほどの力を持つ そこを危惧したニルヴェ(メソポタミア)の王アッシュールバニパルは自ら文字を学んだという 文字を扱えるこの王は、自ら戦場に赴かず指揮することができるようになり、誰よりも情報や知識を蓄え、権力を中央に集約できた 所蔵するテキストの保管場所として図書館を設立 その中の一番のお気に入りは「ギルガメシュ叙事詩」であった ◇ブッダ、孔子、ソクラテス、イエス それぞれインド哲学、中国哲学、西洋哲学、キリスト教の師であるが、 彼らの共通点は、文字がまさに普及する最中に敢えて書かないことを選んだ師たちだ 対話によって教えを授けることにこだわった 師と弟子を中心としたテキストが弟子たちによって出来上がった それは今までの王族のような手の届かない人たちの物語を読むのとは違い、 より我々に身近で親しみやすく、生きていく上、生活の上でためになることがたくさんあるのだった ブッダ:師の文学、世を去って久しいが、その生涯や教えが書字技術と交わったことによって、カリスマ的な師の魅力をとらえた文学となる 孔子:弟子の文学、儒教の経典となり中国文学の全体的規範そのものに ソクラテス:書くことをはっきり拒む なぜなら文字の影響力を理解していた 言葉を捉えることはできても魂までは捉えられない 文字が一人歩きすることを知っておりそれを懸念 イエス:書かれていることはわたしの身に体現する、彼は聖書であり、聖書を体現する者 ◇マルクス、エンゲルス、レーニン、毛沢東 本書で圧倒的影響力を感じたのがマルクス・エンゲルスの「共産主義宣言」である 工場労働についてのエンゲルスの知識と、哲学的ストーリーテリングについてのマルクスの知識の組み合わせが新しい強力な革命ビジョンを作り出した それが「共産党宣言」 出版から70年足らずで最大の影響力を発揮 まずはロシア人革命家レーニン 共産党宣言に心酔する芸術家集団の予想外の後押しを受け、革命を成功させ、レーニンと貧困化した労働者階級を代表する党が国家を動かす そして各地に広がり、毛沢東、ホー・チ・ミン、フィデル・カストロ… 「共産党宣言」は常にどこかに読者を見つけ、読者を転向させ、行動へと誘う 史上最も崇められ、最も恐れられるテキストとなる 時代遅れとみなされる一方、現代のグローバリゼーションに対する反発を予言していたと感じる読者を見つけることができている 読み方が正しいかはさておき、現代の最も影響力の強いテキストのひとつ マルクスの意向に反して、書物が独り歩きした恐ろしい結果である(ああ、マルクスはこのことを知ったらどう思うのだろう…) 生産者である生みの親から手を離れ、使い手が自由な解釈をし思想や信仰、革命に使う… ああ、これも一つの物語創生なのだ ◇ロシアの詩人アンナ・アフマートヴァ そのロシアレーニン死後、スターリンの時代のロシア詩人であるアンナ・アフマートヴァ 彼女の生涯を通じて自由に文字を扱えない時代を知ることになる つねに公安当局の監視下にあったアンナ・アフマートヴァ 詩を作り終えるとすべてを暗記し、書いた詩を燃やす 一人では限界があるため、何人かの友人に暗記を託す 当時のソビエトは詩に異様に執着する全体主義国 芸術や文学の持つ影響力をわかっていたのだろう 息子は何度も逮捕される アフマートヴァ自身は終いには国家の敵とみなされ、排斥される スターリンが死に、時代が移り、ようやく雪解けの時代へ 地下出版から徐々に詩、随筆、小説、海外作品が世間に出るように アフマートヴァの「レクイエム」、そしてグラーク(収容所)の囚人の一日の生活を事細かに書いたソルジェニーツィンの「イワン・デニーソヴィチの一日」が陽の目を見る 「イワン・デニーソヴィチの一日」は1970年にようやくノーベル賞を受賞する このように一個人にフォーカスをあてるとリアリズムが増し、恐ろしさを肌で感じることができる ある意味この章は私にとってフィクション作品であり、歴史の一幕を観たかのようであった ◇紫式部 中国文学は伝統的に男性のだけのものであった時代 賢く好奇心旺盛な受領の娘である紫式部は密かに漢文を覚えた が、そんな漢籍伝統を重んじない女性だからこそ生まれた新しい文学 仮名文字で書かれた「源氏物語」 作法や儀礼を綿密に描いており、読者にこの社会でのふるまい方を教えてくれる 宮中での手引書として利用された はじめは指南書、それから歴史記録となり、現代の我々にとっては素晴らしき古典となる ◇千夜一夜 なぜシェヘラザードはこれほどたくさんの物語を知っているか シェヘラザードの父親は国の最要職の大臣だ 子供の頃から父の蔵書を好きに読んで良いとされていた 王に語るシェヘラザードはある意味書記なのだ! そしてイスタンブールの「千夜一夜物語」と言われる「黒い本」の著者オルハン・パムクにインタビューも試みる 他にも「イリアス」が愛読書であったアレクサンドロスが遠征とともにもたらした「言語」、「アルファベット」 「聖書」はもちろん、海賊版が出現する時代のセルバンデス「ドン・キホーテ」、西アフリカの「スンジャタ叙事詩」… 興味深い文学と歴史とその時代に何が起きて文字がどう影響したのか、伝達方法(印刷技術など)がどう発展したのか… 普段の読書とは異なる角度から切り込む内容が興味深い すべてにおいて、初心者でもわかるよう丁寧なあらすじや歴史背景がまずあり、その上で解説や分析がはいるので、 その物語や文学の触りも知ることができ、楽しめる工夫がたくさんある 私たちが文字や文学や物語を当たり前のように使い、楽しめるのは先祖代々の歴史が連なった産物なのだと改めて実感 そして現代の私たちは未来にどんな足跡を残していくのだろう あらゆることのできそうなAIも小説はまだ完全には書けない(人間の補助が必要だ) が、近い将来それも可能になるのだろうか そんなAIの書いた小説に私たちは心を揺さぶられたりするのだろうか… 贅沢な内容と濃ゆい時間を満喫でき、大満足 またしても読みたい本が増えてしまったのが悩ましいところ… そろそろ覚悟して「イリアス」と「ドン・キホーテ」をぜったい読もう 「ギルガメシュ叙事詩」も外せない アッシュールバニパルに絡んで中島敦「文字禍」も読みたい 「千夜一夜物語」も途中だから続きを早く読みたい オルハン・パムクは前から気になっていたから「黒い本」は外せない 西洋哲学、東洋哲学も気になるところ 困った困った… ------以下は備忘録の目次------ アレクサンドロスの寝床の友 宇宙の王―ギルガメシュとアッシュールバニパル エズラと聖書の誕生 ブッダ、孔子、ソクラテス、イエスの教え 紫式部と『源氏物語』―世界史上最初の偉大な小説 千夜一夜をシェヘラザードとともに グーテンベルク、ルター、新たな印刷の民 『ポポル・ヴフ』とマヤ文化―第二の独立した文学伝統 ドン・キホーテと海賊 ベンジャミン・フランクリン―学問共和国のメディア起業家 世界文学―シチリア島のゲーテ マルクス、エンゲルス、レーニン、毛沢東―『共産党宣言』の読者よ、団結せよ! アフマートヴァとソルジェニーツィン―ソビエト国家に抗った作家 『スンジャタ叙事詩』と西アフリカの言葉の職人 ポストコロニアル文学―カリブ海の詩人デレク・ウォルコット ホグワーツからインドへ
25投稿日: 2023.06.13
powered by ブクログ重厚な装丁の、テーマは文学。ブクログでレビューを拝見しなかったらたぶん一生読まなかったであろう1冊。そして、読んで良かった1冊でもあります。 (図書館で借りたのですが、4,500円という価格もなかなかインパクトありますね…) 本著の内容は、歴史の中で物語が果たしてきた役割…というだけではなく、物語が歴史を作ってきた側面もあって、なるほど「文学の偉大なる力」を実感できます。 "Written World"という原題に対して、「物語創世」という邦題をあてているのもまた面白い。読む前は正直あまりピンと来ていませんでしたが、読み終わってみると非常に良いタイトルだなぁと感じます。 ちなみに、翻訳も非常に読みやすかったです。あと、本著はサイズがデカい割にページあたりの文字数はさほど多くないので、意外とスイスイ読み進められます。 本著で取り扱われているのは有名な物語が多いので、「あぁ、これか」くらいの感じで各章を読み始められるのですが、読み進むにつれて意外な事実を知らされ、著者の力量に感心させられます。 例えば、『ドン・キホーテ』であれば、なぜあのような展開になったのか?という背景、おそらく初めて著作権や海賊版といった問題に直面した本であること、等々。こんな調子で16章も続くのだから、著者の知識の幅広さと言ったら。 あと、個人的には源氏物語の章があるのが嬉しいです。「宮中での作法の手引書」として利用されていたというのは、神話としての物語から、より現実に則した物語への変容を感じました。 マヤ文化のくだりを読んで感じたのは、文字そのものの多様性が、人類の文化や発想の多様性を育んできていたのでは?ということ。アルファベットは確かに便利なんだと思うのですが、長期的に見たらどうなのか。その意味では、日本語も大事にしないといけないですね。 ただただ面白がって読んでも良いし、それでも考えさせられる引っかき傷が結構たくさんできそうな良著でした。 それにしても、私自身はホメロスもまだ読めでないし、この"Written World"は果てしないですね。。
5投稿日: 2021.05.25
powered by ブクログ物語る技は、文字⇒紙⇒印刷と発明・発達し、生まれる「基礎テキスト」は伝播力を増し、世界は「書かれた世界」として形づくられていくという。「文学」のゆくえにベクトルを与え、秩序だてて見せるのはハーバード大の先生。こう気宇壮大に語るのは、なかなか日本人にはできません。「源氏物語」は紛れもなく日本の「基礎テキスト」ですが、それを世界文学史の講義で紹介して頂くのは有難い。でも、残念ながら「源氏物語」を読み通した日本人は極めて少なく、その価値を海外の人たちに説明できる人はさらに少ないのは恥ずかしい限りです。
19投稿日: 2021.01.29
powered by ブクログ成毛眞氏がFacebookで「ボクにとって2019年最高の本になるかもしれない。」と太鼓判を押していた本なので、期待を込めて読んでみました。 いやー読み応えあります。凄いです。 3連休の後半は、この本、にどっぷり浸かりました。 人類史上"文字"が生み出された事で遥か昔の事も後世に伝わることを、紀元前から現代に至り、更に世界中に渡って、物語(本の中では「基盤テキスト」と称される)が創られた背景に迫ってます。
0投稿日: 2019.10.19
powered by ブクログ文字と文学の歴史、テクノロジーと文化がどのように発展してきたか。 文字は楔形文字から表音文字、メディアは粘土板からパピルス、羊皮紙、紙、インターネットへ。印刷は、彫り、手書き(写生)、印刷、テキスティングへ。その発展とともに文字の総量が増大して行って文化に対して影響を与えていった。受けては、古代は特殊な能力を持つ書記。カトリックの聖職者はラテン語で聖なる文書を独占していったが、印刷によりローカライズ版が大きく広まる。焚書も効力を印刷により無くしていった。現代はさらに増えていき、どの瞬間でも文字を打ち出す読むことができる。
0投稿日: 2019.08.22
