
総合評価
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powered by ブクログ男ってのは、今も昔もホントに碌でも無い生き物ですな。 本作の主人公〈藤山立子〉はバツ2の女性作家、44歳。現在の仕事は順風満帆で予定が絶える事はない。子どもは3人居るが上の2人とは一緒には暮らしておらず末娘と母親と同居中。学生時代からの知人で俳優の恋人〈堂本正〉と不倫の関係にある。 最初の夫〈中山浩一〉との間には子がふたり、〈貴志〉と〈比呂子〉がおり、次の夫〈田所和彦〉との間にはまだ小学生の娘〈町子〉がいる。 物語は立子と比呂子が十数年振りに再会するところから動き出す。 基本的には立子と堂本の道ならぬ恋愛模様を軸に展開し、ほんのいっときは立子・堂本・比呂子・町子の4人がまるで本物の家族のような、まさに『幸福の絵』のようなひと時を見せるのだがあくまでもそれは『絵』、すなわち虚であり作り物でしかなくいつかは色褪せる物という事実をどうだこれでもか、と言わんばかりに読者へ叩き付けて来るのである。 印象的なのは冒頭に述べた通り、立子が関わることになる男らがみんなボンクラなこと。過去の亭主の浩一は軍隊時代に麻薬にどっぷり浸かり中毒患者に、和彦はギャンブルで作った借金の挙句に家の金へ手をつけるクズ。堂本は背が高くて見栄えが良くて優しい男であり、いわゆるハンサム。女学生時代の立子は憧れとも恋心ともつかない感情を抱いていた「私の青春」(p92)と呼べる存在であり、俳優になった堂本と再開した後の不倫関係も堂本の都合に合わせて甲斐甲斐しく尽くしてきたのだが、この堂本がどうしようもない。散々立子を引っ張り回して呼び出して、ふたりで出かける約束も何度も反故にした挙句は妻と別れて君と暮らすみたいな事まで言いながら全然話を進めずに最後は立子から「小心者、不正直、わからずや、スター気取り、世間体病、カッコつけ……」(p300)と、ひねりも何も無いストレートな罵倒を浴びて関係は終了する。 もうひとつ不幸なのは比呂子が若くして亡くなってしまうという悲劇。十数年間別居しており母親らしいことをしてやれず、大学生になった比呂子の恋愛相談に乗ってやったりとようやく良い関係を築き始めた矢先の訃報にもう言葉が出ない。 このように、『幸福の絵』はあっという間に幻のものと霧散してしまう訳であるが、ラストシーン、独り飛行機内に居る立子を機外から小窓を通して見る画角はまるでいちまいの小間絵のようであり、愛だの恋だのを乗り越えた一本自立した女性、仕事に精が出る立子の姿とタイトルが皮肉とも取れる終わり方に思えた。 小説としてどこか釈然としないのは町子の存在があまりに希薄なこと。母と比呂子が亡くなり堂本も失った立子に残っているのは実娘の町子なのだが、どうも町子への愛着が読み取れないのが不思議。町子に対しては「私が勉強を見てやれないので、成績はクラスの中以下だった。」(p36)となんかよそよそしく、町子との会話自体がそもそも少ない。数少ない町子との会話の内容は「比呂子が爪を染めていることへの不満」(p191)であり、それは立子→比呂子に対する母親としての感情と受け取れるのだが立子→町子の関係はなんなんだろう。町子は性格がおてんばというか決して‘いい子’には描かれておらず、もしかすると立子=町子という関係性を通して、町子もまた波乱の人生を歩むのだ…という暗示なのかもしれない。 …と、読み終えてから佐藤愛子先生の略歴をみてみたらかなり私小説の色が濃いことがわかった。戦中・戦後、無為な青春時代を過ごさざるを得なかったことへの反旗や男たちへの示威のような意味合いがあるのかもしれない。 色々大変だったけど、今の私は幸せよ、みたいな感じであろうか。とすれば飛行機の場面はそのまま『幸福の絵』ということになるだろうか。 2刷 2024.12.28
12投稿日: 2024.12.28
powered by ブクログ「九十歳、何がめでたい」や、孫の桃子ちゃんとの写真をとても、読み易い本を読んでいたのだが、、、 作者 佐藤愛子氏の生い立ちのような内容のこの作品。 父親も小説家 母親は女優の両親を持った作者。 詩人のサトーイチロー氏は、異母兄だったのでは、、、 人間の機微の細やかさが、描かれているおり、甲南女子の学校への通学で、遠藤周作が、マドンナというほど美人だったのだろう。 それでいて、人生の流れは、複雑だったのか?その当時、戦争を挟んでの世界が歩ませたのか?、、、 「九十歳、何がめでたい」で、何でも言えるようになるには、人生経験が物を言っているのだろう。 この本の主人公 藤山立子の上流作家が、不倫相手の堂本へ、我慢の尾が切れて、放つ言葉「世界は あなたを中心に回ってるんじゃない!」に30年の月日をかけて、、、 全てが終わった後の静寂の中主人公の立子は、又、上流作家の顔に戻るのである。 現在、不倫の話、そして、財産を守るために離婚調停を伸ばしていた一人芝居劇場の話が、テレビでにぎわせている中、この本を読んで、人生はもっと複雑の中 静かに時を刻む人もいるのだと、、、思った。
0投稿日: 2017.12.16
powered by ブクログこんな生き方もあるんだなと思った。 《本文より》 堂本からの電話を受け取ると、私は書きかけの原稿をほうり出し、着替えをしながら夕餉の買い物を家政婦に命じ、振り出してきた雨の中を、レインコートを着ることも忘れてタクシーを捜した。彼から誘われると、どんなに忙しいときでも私は断れなくなる。堂本に会いたいという気持ちの強さよりも、堂本が私に会いたいと思っているその気持ちを拒むことが私にはできないのだった。私は5分でも早く堂本の待っているコーヒー店へ行きたかった。一刻も早く堂本に会いたいたいというよりは、堂本を待たせるのが辛いのだった。
0投稿日: 2013.06.07
powered by ブクログはたからみると幸福そうな4人家族 その妻は2回の結婚を経てもうけた3人のこどものうち2人を手放し、現在は実の母と娘と暮らしながら執筆活動に励む女流作家 その夫は中流俳優であり妻の幼なじみであり既婚者こどもあり その上の娘は最初の夫との間にもうけた子どもであり妻が手放した子どもであり育ての親のもとあまり気の進まない学問に励む女子学生 その下の娘は妻の2番目の夫との子 主人公リツコの感情の抑制と爆発の起伏の描写が丁寧。嫉妬の裏返しの従順さ、時が流れるにつれはがれていく見栄や過剰な思いやり どきっとするくらい自分の中のいやらしい部分が見透かされたって感じが
1投稿日: 2011.07.27
powered by ブクログ心情の描写がきめ細かい。 自分の中で言葉にでききれない部分が的確に文章になっていて、その言葉の使われ方一つ一つに感動しながら読んだ。
0投稿日: 2011.03.04
