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無駄にしたくなかった話
無駄にしたくなかった話
水村美苗/筑摩書房
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総合評価

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    2009年~2024年に、文芸誌などに掲載されたエッセイや書評や講演、日記など短いものがまとめられている。 最初に読んで思ったのは、いやーやっぱり、昭和的?な言葉でいうと「ハイソサエティ」で「インテリ」であこがれる、っていうこと。 あと、たとえば、成金といわれるタイプの人を評する揶揄とか、おしゃれじゃない人に対する観察とか、「(自分が)若い女じゃなくなるとツマンナイ」というところとか、シニカルな率直なもの言いがよい、と。いい人に見られようとしない感じが素敵。 冒頭の「無駄にしたくなかった話」という旅行記がおもしろかった。ヨーロッパの超お金持ちたちとフランスに滞在したときの話だけど、一緒に滞在した普通お目にかかれないようなお金持ちとのやりとりとか人間観察がおもしろい。同行した夫の岩井克人氏と知人のもうひとりの日本人と三人にだけなったときに、あの人は実はこのくらい金持ちみたいだとか復習したりするとか。(夫の「岩井クン」がなんだかすごく素敵だとも思った。)うまく説明できないけど、どこへ行ってなにを見てどう思ったとかじゃなくて、場面の切り取り方とか、とらえる枠組みとかがユニークで、その場面の文章での再現が巧みというか。ユーモアあって笑えたり、楽しくもせつなくもあったり。 あと、夏目漱石についての文章や講演がわたしには興味深くて、わたしは初めて、なるほどだから夏目漱石って「近代文学の父」(だっけ?)とかいわれてるのかと腑に落ちた気がした。(それでさっそく水村さんがいちばん好きだという「三四郎」を読んでいる。) 水村さんは70代半ばで、小説を書きはじめたのが40代と遅かったとか60代は小説を書かずに終わってしまったとか人生の後悔みたいなことも出てくるし、これからあと何作書けるだろうかとか、どうしたって老いの話も出てくるし、そういうところに共感もしたし、現在60歳のわたしがあと十年ほど経ったらこういう状況や心境になるんだろうなと、心構えになると思ったり、ちょっと哀しかったりもした。

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    投稿日: 2025.10.27