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帰れない探偵
帰れない探偵
柴崎友香/講談社
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総合評価

72件)
3.8
13
30
16
3
2
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    捉えどころのない不思議な小説。 読んでいるとここではないどこかに連れて行ってくれる。 それぞれの国のモチーフになっているであろう国を「中欧っぽい」「ドバイかな」「マニラなんじゃないか」などと想像するのも楽しい。

    0
    投稿日: 2025.11.23
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    このレビューはネタバレを含みます。

    途中ツインピークスネタで笑わされたりで油断してたら後半予想してない方向に連れてってもらえて、ものすごく好きな終わり方だった。最初から読み直したらけっこう伏線もあって、ほんと面白くて好きな本。 オードリーでん?と思って、ドナが来て、これはあれだなと分かって嬉しかった(デイルって誰だっけ、としばらく考えながら読んだ自分に笑えたけど)。「終わらない歌」にしろ、好きな本を書いてくれる同世代の作家さんがいることの幸せ。

    0
    投稿日: 2025.11.22
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    結構評価の高いこの小説、 タイトルに相違して、推理小説ではない。 では何の小説か? 著者は何を言いたいのか? 私にはわからなかった。 「今から十年くらいあとの話」 という書き出しで、一人の探偵を主人公に、 いろんな調査依頼をこなすものの、 自分はどこに帰っていいかわからない、、 の繰り返し。 日本ではない国の出身のようで、 政治的理由?で帰れなくなったようで、 しかし結構国際的なスキルの高い探偵のようで、、 気候変動でとんでもない台風がどこかの国を襲い、 それがGoogleと思しきデータを集める会社が 原因している、、、と匂わせるけど、 特にそれも追及されないし、、、 私には面白くなかった。

    1
    投稿日: 2025.11.20
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    めちゃくちゃよかった。感覚的に好き。 探偵の仕事を一つ一つこなして軽い謎解き要素もあり、いろんな国のいろんな場所に赴任するのでどこかなーと想像しながら読んだり、不思議な魅力がある本。

    6
    投稿日: 2025.10.29
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    現実のような幻想のような不思議な感覚。752が帰れるのかはもちろん、企業とか国家とか地球がどうなっていくのか気になる。今、なんとかしないとみんなが帰れなくなる感覚が残る。

    0
    投稿日: 2025.10.24
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    なんだろう。 うまく言葉にできないけど、なんか読み返したくなる。独特な世界観の中に妙な安らぎを感じてしまった。 特別な事件が起こるわけでもなく、探偵の仕事もふわんとした形で終わるのに、なんかまた読みたいと思わせる不思議な本だった。 雨の日にゆっくり読みたい。

    15
    投稿日: 2025.10.21
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    このレビューはネタバレを含みます。

    今から10年くらいあとの話。 世界探偵委員会連盟に所属する私は、自分の生まれ育った国を離れ、とある国、急な坂のある街で探偵事務所を開設する。 だが、不意に発生した大規模停電を境にその事務所へ続く路地を見つけることが出来なくなり帰れなくなってしまう。 そこから寝床を転々とし、国を転々とし、あの日去った国、あの日去った街に思いを偲ばせながら探偵業に勤しむ日々を送る。。 何だこの読み心地。 SFかのような不思議設定、不思議展開を据えつつ、時、場所、人名の断定は徹底的に排除。 唯一無二のふわふわノスタルジックストーリー。 探偵が主人公なので、それなりに事件というか事案は発生するのだけれど、正直「探偵」のワードは目眩し。 ことごとく結末があるようなないような匂わせ終焉。 でもこれはこれであり。 こんなにも長きにわたって郷愁の感情を表現した物語はなかなかない。 そして、この物語の行き着く先があのロックバンドの歌って。 意外なんだけど、なんか合ってる。 聴きたくなってApple Musicで探したけど、本家のはなく、くっきーの歌っているやつしかなかった。 youtubeで探してみたら1000人ROCKというイベントの動画に出会った。これは凄い!これは熱い!! 時を越えて伝わる言葉、響く音。

    43
    投稿日: 2025.10.19
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    SNSで面白いと紹介されてたのを見て図書館で借りました。けどその面白さが自分には理解出来なかった為☆1つにしたけど、最後までちゃんと読みました(時間かかったけど)

    0
    投稿日: 2025.10.18
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    語彙力がなくてうまく感想が書けないのが悔しい。居場所探し自分探しのモラトリアムなわけでもなく、達観してるわけでもない。 大立ち回りも号泣するようなカタルシスもない。ただ郷愁に身を委ね、人々の話の機微を聞いているのが心地よい。 近未来をイメージさせるどこかのいろんな国へ行く探偵。 目立つのは外国人や富裕層で、先住民や土地を捨てた人々の痕跡はあっても管理された情報でうまく辿ることは難しい。今ここにいない人たちに思いを馳せ、同じ景色を見たいと望み、自分の足元を確かめる。

    5
    投稿日: 2025.10.17
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    名前も出てこない女性探偵が、重要かそうでないかすらわからない仕事をこなしつつ、行った先で色々な人々に出会うお話。国を巡る様子は探偵物語的な謎も含ませつつ紀行小説のようでもあり、私も一緒にたくさんの街を巡った気持ちになりました。最後もはっきりわからないけど、想像の余地が沢山ありそこがまたいいかなと思うし、希望が芽生えるような終わり方だと思います。私はとても好きです。

    10
    投稿日: 2025.10.17
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    世界を飛び回り依頼をこなす探偵の物語。 今から10年後の話、帰れなくなった、故郷の体制が変わった等々散りばめられた設定はSFとは言わないまでも独特な世界観。 探偵だから派手な事件と言うよりは調べ物が多く、主人公の名前も地名すら出てこず、淡々と仕事をこなす様は想像力に頼る部分が多く評価が別れるかもしれないが確実に変わりつつある世界に惹かれていき分厚いもののかなり夢中で読めて新しい読書体験になった。 末端だからこそ全貌が明かされず空港でリアルタイムに指示が来て様々な人と会話をする最後の物語がとても好き。

    1
    投稿日: 2025.10.15
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    各章の後先に出てくる、今から10年くらいあとの話し、って何。 どれを読んでもその疑問は解けなかった。 探偵と言えば、ハードボイルドか、浮気調査か、くらいのイメージしか持たない私に、新たな探偵イメージができた。 全体を通して、静かな空気が流れていて、心穏やかに読める。 最後の方で、主人公の出身地はあそこか⁈と思える場面はあったが、、、あ、そか!これから10年後、こんな世界になっているってこと?

    0
    投稿日: 2025.10.13
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    ようやく読み終えた。 SF的な空想の舞台で、時系列としては「今」の10年後の物語。 決して地名や国名が出ることはないけど、政治的な理不尽だったり、異常気象だったり、どこかを想起させてしまう描写に、思わず唸ってしまう。 唐突なエンディングだったけど、考えうるポジティブなエンディングだったように思う。

    5
    投稿日: 2025.10.11
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    初めての読書体験だった。SFなのかミステリーなのか、哲学的であるけど掴めない。読み始めは頭の中に?がいっぱいになったけど、不思議と心地よい空間に感じた。帰れないのか、帰らないだけなのか、帰りたくないのか。帰りたいと思える帰る場所がある。当たり前のようで当たり前ではないこと。分かったような分からないような。そんな気持ちになった。

    3
    投稿日: 2025.10.09
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    このレビューはネタバレを含みます。

    祖国、自宅、が無くなってしまい文字通り帰ることができなくなった探偵。 地元に根付いた仕事をしつつも、根無草の探偵 定期的にどこか縁もゆかりも無い場所へと異動し、またそこでも泥臭い探偵業を行う。 世界は大きく変わるのに、主人公はふわふわとしたまま流れに身を任せて生きてゆく。 どこか憧れる生き方。 でも帰る場所のある安心感があるからこそ、私たちはこちら側から傍観できているだけなのかもしれない。 大きなオチは無いけれど、世界は、組織は歪みながら進んでいる、そして主人公も少しずつ自分を捉え始めようとしている。けれどそれはまだ10年後のお話。 非常に読みやすく、流れるように体に言葉が入ってくる。とても魅力的な作家さんの作品。

    0
    投稿日: 2025.10.09
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    読み始めてすぐ、風土の描写からどうやら日本の土地ではない場所の話のようだと思ったのが不思議だ。筆者の筆力なのだろう。 各国での仕事が連作短編集のようになっているのだが、その結末がこれはどういうことだったのだろう…という想像の余地を残しているところが面白い。

    2
    投稿日: 2025.10.04
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    図書館本。情報全く入れないで読み始めた。 主人公が探偵だからミステリー系なのかなと思っていたが、そうではない。序盤はSFとかファンタジー系か?となり、いまいちどう読んでいけば良いのか分からず戸惑いました。 3話目の「雨に歌えば」から、なんとなく向き合い方が分かったような気がして、そこからは一気に読めました。私はSF、ファンタジー、ミステリの要素がそれぞれ少し混じっている純文学として捉えて読んでいました。 ただ読了した後も、この本の魅力を全然捉えきれてないんじゃないか?という感覚が凄く強く残りました。読解力が高くて理解力があり感性の鋭い人がこの本を読んだらどんな感想を抱くのだろう? 私はいずれも欠けているので、他の人がこの本を読んでどう思うのかとても気になるので、この後感想覗きに行こうと思います。 探偵は帰れなかったけど、私には帰れる場所がある。それは決して当たり前の事ではなく、素晴らしい事なんだなというのを再確認しました。

    18
    投稿日: 2025.10.03
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    他の方がレビューで書いている通り… わからない。 しかし、レビューで「わからない」と書きながら、「面白かった」といっている人もいる。 ??? 最後の話でなんとなく言いたいことが見えた気もするけど、モヤモヤしたまんま。正解が見えない。そういう話? 探偵というよりスパイ設定の方が近い気もするし。帰れない場所は未来の日本であり、いる場所も日本?ファンタジー?

    2
    投稿日: 2025.10.03
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    柴崎さんが、近未来のディストピアを描くとこうなるのか。今まで誰も書いたことのないやり方。今から10年くらいあと、こんな世界が本当にあるのではないかと思わせるくらいの、濃密でリアルな空気感。 帰れない探偵なんて発想! デジタルで時空が歪められた世界。巨大企業が情報をコントロールして、あることが無かったことにされる世界。 そんな抑圧された世界から隔絶して、糸が切れた凧のように生きる探偵は果たして幸福なのか、不幸なのか? みんなが不幸な世界で、息を潜ませて生きる人々。 悲しい世界だ。 でも、きっとすぐそこの世界。

    33
    投稿日: 2025.09.29
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    評価に個人差が出る本。 私は、やっぱり想像力が追いつかなかった。どこに帰れないの?頭の中は、疑問だらけで終わってしまった。

    12
    投稿日: 2025.09.28
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    最初の1行目から困惑。どう読めばよいのかと考えながら、途中から雰囲気を楽しむ本だなと切り替えて読んだ。不思議な異国のようなでも知ってる国のような。

    9
    投稿日: 2025.09.27
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    ニュアンス小説。 なんだか曖昧で、分かりそうだけど、やっぱり分からなかったな。 今実際に世界で起こってることが書かれてるかと思えば、未来のことを示唆してる?と感じる描写もあれば、過去にあった話かもしれない。 時間も時空もゆらゆらしてるような浮遊感のある本でした。

    1
    投稿日: 2025.09.27
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    SNSで絶賛されてたので 掴みどころがなくてふわふわ読んでたら終わってしまった。 自分の知識や感性の問題なのか、色々な方のレビューを見るとそんな事を思って読んでるのかと…

    0
    投稿日: 2025.09.26
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    不思議な世界でした。今から10年先の話ってどう理解するのかいな? いつもなんとなく解決しないまま次に進む感じがなかなか面白いと思いました。

    8
    投稿日: 2025.09.25
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    久しぶりの長編小説で読み応えあり。 帯にある様に何度も読み返したくなる。 個人的なツボはいきなりの関西弁とブルーハーツの終わらない歌でした。

    12
    投稿日: 2025.09.25
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    雰囲気が好き。空気感が好き。とにかく面白い。 仮想の地球の仮想の国を行き来している探偵。身を明かせないし、徹底して「探偵」でいることに、ほんのりと漂う寂しさとか、プロ根性とか、どれもが愛おしくて楽しくて時を忘れて読み耽った。と同時に読み終えるのがもったいなくもあった。 人に裏切られたり、助けられたりしながらも、多くを語ることがない中での仲間との繋がりとか、時折出てくる探偵の心を満たしたであろう美味しそうな食べ物とか、じんわりと心に沁み入ってくるものがたくさんあったなぁ。 帰れない探偵は、最後は居場所を見つけたのか否か、よくわからないまま物語は終わりを迎えたけれど。読んで良かったし、また読みたいし、読む日が来るだろうと思う。

    1
    投稿日: 2025.09.24
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    柴崎友香『帰れない探偵』読了。自分の家に帰れなくなった探偵が街を転々としながら依頼を受ける。近未来SFの空気感と紀行文の文調が心地良い。枷のある探偵は忘却探偵を、「世界探偵委員会連盟」がJDCを想起させたり。主人公はいわゆる探偵ではないけれど。

    0
    投稿日: 2025.09.24
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    誰かが「すごく良かった」って言ってた そんな気がしたので買った本 ちょっと期待しすぎてたので なかなかおもしろくならんなぁって 我慢しつつ読んでたら 読んでたの忘れてて 読んだ内容覚えてないなって また最初から読み直したら 割と好きじゃんこれ ってなってそのまま最後まで読めた 音楽が必ず出てくるなぁってことと 名前になにかしらの共通点があるなぁってことと なんとなく場所はあの辺かな ってことくらいしかわかんなかったけど もしかしてもっといっぱい 比喩とかオマージュとかあったのかも この映画、なんだ?ってググったし そういうの探しながら読める人は きっと楽しいと思う 別に楽しい心躍る話ではないけど こういうの好きそうな人には これどうぞ!ってオススメできるけど 何読んでるかわからん人には オススメしない本でもある 星は3つ

    3
    投稿日: 2025.09.23
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    独特な世界観の物語。 突然事務所兼自宅に帰ることが出来なくなった探偵の「わたし」。その「わたし」が世界各国で探偵の依頼を受けるという不思議な設定。 「今から十年くらいあとの話。」から始まる7つの物語は、未来の話のはずなのになぜか過去形。そしてどこの国が舞台かもはっきりしない。名前や地形から「ここの国かな?」と想像しながら読んだ。 読み終えても、まだ霧がかかったような感じでもやもやしている。このすっきりしないのも面白さなんだと思うけど、私はちょっと読みこなせなかった。

    57
    投稿日: 2025.09.21
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    よかった。 それぞれ架空の国だろうけど、どこの国か想像できるし紀行文のようにも読めた。 劇的な何かがあるとか起承転結がはっきりしてるとかではないけど、ずっと読んでたいそんな本

    0
    投稿日: 2025.09.20
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    「今から十年ぐらいあとの話」 探偵事務所を出てから戻ろうとすると事務所への道が見つからない。あの角を曲がったところの小道にあるはず…。いくら探しても見つからない。探偵は帰る場所を無くした。そして、世界探偵委員会連盟や先輩からの指示で世界の色ろなところに出かけていく。帰る場所を無くした探偵はそうして生きていくしかなかった。

    0
    投稿日: 2025.09.18
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    「帰れない探偵」(柴崎友香)を読んだ。 面白かった。 とてもとても面白かった。 探偵小説というより純文学的曖昧さが香ばしい。 探偵の胸の内の『帰れない』場所というのが何かのメタファーであろうことは容易に想像がつくのだけれど、いま現在のこのきな臭い世界において本当に帰りたい場所なんてあるのか? 自分の中の『帰れない』場所ってどこだろうな。 柴崎友香作品を初めて読んだわけだが、これはちょっと自分的には迂闊だったな。もっと早くにその存在に気づくべきだったよ。 印象的な(たぶん肝な)言葉を引用 《(前略)どこかの意図とか悪意をも超えて、まだ誰もわからない、取り返しのつかないことが起きてくるのが、怖いって思ってて」》(本文より) まだ興奮冷めやらぬ感じ。

    11
    投稿日: 2025.09.17
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    このレビューはネタバレを含みます。

    自分の事務所へ戻る道がわからなくなってしまった探偵の物語。依頼を受けては世界各地を移動し、仕事をこなし、また別の土地へと向かう。物語は依頼ごと(国ごと)に章立てされており、あっさり終わるものもあれば、トラブルめいた状況で幕を閉じるものもある。そのたびに環境や状況の変化は感じられるが、探偵の心境は終始淡々としている。多くの国を巡りながらも、依頼の内容はどこか似通い、似たような場所が現れる。波風が立っても結局は元に戻っていくような、不思議な反復を感じる作品だった。 作品全体を通して、どことなく比喩めいたものは感じられたが、その感覚をうまく言葉にすることが難しい。

    0
    投稿日: 2025.09.16
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    「今から十年くらいあとの話」家に帰れなくなった探偵は移動をして探偵の依頼を受け続ける。雨ばかり降るところ、地の果てのような島、砂漠、私が生まれた国がかつて占領した国。文字を持たない民族の面影。空間旅行と時間旅行を一度に味わった。故郷に帰れなくなることは世界を見渡すと珍しい話ではなくて、少し手を伸ばせば、隣人にもそういう人がいるんだ。その視点で移動を続ける探偵が空港にやってくる場面はもう。ふとフィフティ・ピープルに出てきるケガで入院をする異邦人のスポーツ選手を思い出した。

    0
    投稿日: 2025.09.16
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    場所は変わりゆく。 例えばコロナ禍の煽りを受けてお気に入りの店が閉店する。母校が老朽化によって取り壊されて新校舎になる。かつて生活していた場所から離れて暮らすことになっても、その場所にも等しく時間は流れている。思い入れがあったかつてのあの場所にはいつしか帰れなくなり、時間が止まったままの形で私の中に断片的に留まってしまう。 成長の過程で嫌な経験を多くすると、その経験をした場所そのものを憎み、二度と帰るものかと思ってしまうように、感情と場所は強く結びついている。大きな枠組みの末端で理由も分からず翻弄され、色んな場所を転々としながら、それぞれの場所で誰かに出会って会話をし、いつしかそれが記憶となり、それぞれの場所が感情を伴って私という人間を形成していく。 しかし時間がどれだけ経っても、たくさん経験を積んだとしても、生まれ育ったあの場所はあのときのままの形で私という存在に強く根ざす。 場所を失うことは自分の一部を失うことに等しい。人生で帰らなくなった場所、会えなくなった人、また故郷に帰ることができない人がいるということ。読みながらたくさんの場所と人に想いを寄せていました。

    7
    投稿日: 2025.09.14
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    出版社(講談社)のページ https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000413601 初出、著者紹介、斎藤真理子氏コメント、試し読み 著者と斎藤真理子氏の対談 https://gendai.media/articles/-/156219

    0
    投稿日: 2025.09.14
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    25/09/13読了 帰るところのない探偵が、任務をこなしながら架空の国を渡り歩いていく短編集。モデルの国を思い描いて旅の気分を味わい、込められた風刺の意味を考え、ときおりは危ういシーンにはらはらする。不思議な味わいで、眠気に負けることもあったけど、よかった。この小説のトーンをうまく写している装丁が大変に好き。買おうか悩むなぁ。

    2
    投稿日: 2025.09.13
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    自分の事務所兼自宅に帰れなくなった探偵は、そもそも自分の生まれ育った国に帰れなくなった探偵でもあった。自ら選択したものではあるが、やむを得ずの選択だ。そこからは流されるように、追われるように各地を転々としながら依頼のある探偵稼業を続ける。 そんな探偵がたどり着いた先で(そこもまた次に移るまでの仮の拠点に過ぎないのだけれど)、「終わらない歌」を聞く。そして、初めて自分の意思で、一歩踏み出す。 この作品は架空の土地を舞台にしているのだけれど、ここだけやたらとローカル色が強くて、その落差にぐっとくる。ここは、多分架空ではいけなかったんだ。 ずっと、余韻がある。わたしも一緒に歌っている。

    3
    投稿日: 2025.09.11
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    国際資格の探偵となったが諸事情で帰る場所がなく、主にインタビューや図書館で調べ物をしながらミッションをクリアしていくお話。長いお話だけど、探偵らしくなく、伏線っぽいものも回収されず、何読んだんかなという作品だった。

    1
    投稿日: 2025.09.08
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     柴崎友香さんの新刊です。本作も、柴崎作品の特徴とも言える「多層的に重なる時間と場所」がテーマの作品でした。読み手に多くの解釈が可能な余白を残し、不思議な面白さを提供してくれます。  全章とも「今から十年くらいあとの話」の前置きで始まる本作は7章立てで、主人公は探偵の「わたし」。この「わたし」の未来を、(過去形で)今語るという複雑な時間軸で描かれるのです。  さらに、「わたし」はある日突然、(探偵事務所兼自宅につながる路地ごと消え去り)自宅に帰れなくなり、「世界探偵委員会連盟」の指示で国を跨いで移動し、国にも帰れません。  こんな状態で、探偵として人々や土地の過去の痕跡を探し調査する、という風変わりな物語です。  過去(回想)、現在、未来が重なったり混ざり合ったりする場面、その曖昧な境目を行き来したり、人の記憶にも出入りしたりする描写が、不思議な感覚だけどもそこが面白いと思えました。でもこの辺が評価の分かれるポイントでしょうか?  目指す場所の曖昧さと、未来だけど今ここに居る明確さの対比が絶妙です。柴崎さんは、双方向の時間の流れをつくることで、想像世界が格段に広げられることを示してくれた気がします。  ザ・ブルーハーツの『終わらない歌』のように、時は流れても人は歩みを止めず、人生は続いていくのですね。

    88
    投稿日: 2025.09.08
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    同じ主人公で7つのエピソード。 やっと読み終えた…。 良いとも思うし、嫌いでもないのに、とにかく疲れた。 読書を嫌いになりかけた。 何故この疲労感なのか分からないのは初めて。 主人公の探偵は母国に帰れなくなり、別の国で構えた事務所兼住居も道ごと消えてしまい、様々な国を転々とする。 帰る場所が有るか無いか、それに伴う存在の在り方みたいなことがテーマなのかな。 分からないけど。 最初の2つは慣れなくて、喉に閊えるようなスッと入ってこない読みにくさがあって挫折しそうになったけど、3つ目が良くて持ち堪えた。 3つ目で気付いたのは、海外文学の翻訳みたいだということ。独特のトーンと空気と世界観。静かで坦々としている。葉先から小さな雫がスローモーションで水溜りに落ちて広がる波紋のようなイメージ。 様々な国が出てくるのがいい。行ったことのある国は懐かしく読み、未知の国はどこだろうと思いながら読んだ。 ほぼ全てのエピソードに音楽が書き込まれていて、作家にとって音楽はキーなのかなと思った。特徴のような印象を持った。 私は10ヶ国以上の国を旅したけど、どの国も特に音楽は結びつかないから殊にそう感じたのかも知れない。

    1
    投稿日: 2025.09.07
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    世界のどこかの国に住むことになる自分の居場所に帰れなくなる探偵のはなし。 自分の居場所を探して世界中を旅する探偵のはなし。 純文学だと思って読んでいたらどちらかと言うとSF的でファンタジーみたいだと思った。 最後まで読むとこれは現実のはなしなのに。 今、世の中は目まぐるしく変異していてこれを是と言い切れるかワタシにはわからない。 好きな小説家がどんなふうに世の中を見ているかがわかっただけでも自分の選択は間違いではないように思えて、この本を大切に考えられるひととはなしが出来たらいいのにと思う。 何回『思う』と使っても誰にも迷惑じゃないんだから好きなように感想を考えよう。誰かのために読んでいるわけじゃないし。 探偵は架空の世界に生きているわけじゃない、ここにいる日本語で読むことのできることと自分の頭で考えることができることなんじゃないかと思った。

    11
    投稿日: 2025.08.30
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    このレビューはネタバレを含みます。

    帰れない探偵 著者:柴崎友香 発行:2025年6月24日 講談社 初出 『帰れない探偵 急な坂の街で』:「MONKEY vol.20」(スイッチ・パブリッシング)2020年2月 『帰らない街のように 急な坂の街で2』:「ことばとvpl.3」(書肆侃侃房)2021年4月 『雨に歌えば 傘を差さない町で』:「群像」2021年11月号、2022年2月号 『探す人たちは探しものを見つける 夜にならない夏の街で』:「群像」2022年5月号、8月号 『空の上の宇宙 太陽と砂の街で』:「群像」2022年11月号、2023年2月号 『夢には入れない 雨季の始まりの暑い街で』:「群像」2023年7月号、10月号 『歌い続けよう あの街の空港で』:「群像」2024年3月号、7月号 新作が出たら気になる作家の一人(最近は圧倒的に女性作家に多い)、柴崎友香。この人は純文学系なので小説を読んでも、とびっきりストーリーが面白いということはなく、ちょっと難解な点もある。僕は、他の作家だとほとんど読まないエッセイがこの人の場合は好きで、逆に小説についてはあまり面白いと感じたことがない。 この本は、7編からなる連作短編ではあるが、言うまでもなくエンターテインメントではない。探偵の女性が主人公ではあるが、探偵小説でも推理小説でもミステリーでもない。それぞれの話にオチもない。だから、どちらかといえば長編小説と呼ぶべき作品かもしれない。 ・主人公は氏名が最後まで出てこない ・その他の登場人物の多くに名前(氏のみor名のみ)はあるが全て(仮名)となっている ・祖母など続柄、役割や立場などのみで特定される(名前がない)登場人物もいる ・それぞれの出身国名も出てこないが、登場人物の中には「水田さん」「三田さん」など日本人っぽい名前も結構出てくる ・主人公の出身国は不明だが大国で、探偵になりたくて10年前に出国し、異国の地で金を貯めた後、世界探偵委員会連盟の探偵学校を2年で卒業し、インターンをしながら3年、専修コースで訓練を受けた。その間に国の体制が変わって新たな国となり、外国にいる者は帰国して新しい国が発行するパスポートへの切り替えを求められている。新体制はあらゆる国際機関や条約などを脱退したため、世界各国は批難したが形式的で、旧パスポートも有効扱いにしている。新体制は旧パスポートでの出入国を禁止しているため、切り替えは強制。 ・主人公は、探偵連盟の学校を卒業し、必要とされる実習もこなし、一人前として連盟から認められた探偵であり、これからも続けたいので旧パスポートのままの方が都合よく、帰国はしていない。なお、世界探偵委員会連盟からは、偽名パスポートが配られていてそれを使っている。それを使って帰国したらどうなるか分からない。つまり、探偵を続けるなら帰る国がない。 ・主人公は、1人前になり、仕事としてついに独立してある国のある街に探偵事務所を構えた。ところが、ある日のこと、停電があって、それから事務所へ帰れなくなった。近所はそのままあるのに、最後に入る路地が見つからなくなった。住まいも兼ねていたため帰るところがなくなり、泊まるところもその場しのぎで対応することに 連盟や連盟関係者などに助けられつつ、7話は全て違う街(おそらく違う国でもある)を舞台に探偵としての調査業務を行う。犯罪めいたものや、人の秘密を探るといったことより、文献調査や昔の出来事の関係者へのインタビューといった平和的なものばかり。最終話では、ついに主人公の出身国が舞台となる。しかし、完全に入国するわけではなく、巨大空港のトランジット扱いの場所で調査をする仕事だった。世界探偵委員会連盟の要職にある者の不正かなにかに関わる調査で、具体的にどんな案件なのかは聞かされていない。単に聞く相手と内容を指定されている機械の一部のような仕事だった。 インターン時代に先輩だった探偵からの指示に従っているが、先輩はその内容を知っているようだった。 10年ちょっと前に出国したときより、人工島が大きくなって増えている。世界有数の巨大空港がある人工島、リゾートの人工島。その様子が、どこか大阪をイメージするものになっている。もちろん、大阪の空港は人工島だが世界的に見て決して大きな空港ではない。ただ、7編すべての書き出しと締めくくりに「これは、今から十年くらいあとの話」と書かれているのである。10年すると、そうなっているかもしれない。人工島にIRが出来る大阪。 そして、最終話にその人工島で地元の人と会話するのであるが、その母娘がなぜか大阪弁なのである。 その「大阪のような場所」は、まちや人としての大阪ではなく、体制としての大阪を感じるのである。もう少し言えば、維新大阪なのである。 10年前に体制が変わったのは、クーデターではない。「権力の委譲は、前から決まっていた事項のように粛々と進んだ」と表現されている。これも、維新大阪っぽい。あれほど庶民的な立場から体制に意見したがる大阪にあって、維新の議員が選挙で勝つのは、もう事前に決まり切っているというイメージがある不思議さ。この小説を読むと、それとダブるのである。 小説家として作家デビューしても、著者は出身地大阪にいた。何年か前から東京に行ったようであるが、もしかするとこの小説は故郷・大阪を見た作品なのかもしれない。名前がない主人公は、帰る国をなくし、戻る自宅をなくし、人間として個を定義する手がかりがなにもない。著者にとって、維新大阪はそんな街なのかもしれない。 ************* (読書メモ)   『帰れない探偵 急な坂の街で』 10年後ぐらい先の話。 急坂の港町に来て約一月。主人公の探偵(女性)はまあまあ仕事が順調だが、一つ問題が。事務所兼住宅に借りた部屋に帰れないこと。ある停電があった日から、そこにたどり着く最後の路地がどうしても見つからない。近くの金物屋はあるのに、路地の入口がないのである。 最初の依頼主は一之瀬さん。 この街に来て7日目。カフェで最初の調査報告をしていると停電が起きた。 幸い、PCなど仕事に必要なものはリュックサックに入れていた。 一之瀬さんは、夫の両親が財産目当てで結婚したのではないかと疑っており、自分の身辺を調べているのではないかと彼女は疑っていた。調べているかどうか、調べて欲しいという依頼だった。彼女は、海外に住む自分の両親のほうが財産を持っている上、自身のビジネスも成功しているので、むしろこっちが疑いたいぐらいだとのこと。調べた結果、両親の親族の若い男が調べていたことが分かった。その男についての継続調査を約束して別れ、その夜はファミレスで過ごした。 2日後に調査報告のため再び一之瀬さんにあった。そして、2泊ほどできるところはないかと相談してみると、高校時代の同級生のところに泊めてもらえることになった。 2人目の依頼は二宮さんという夫を亡くした女性。 夫の仕事の都合で15年前にこの街にやってきたが、この街は若い頃に付き合っていた男性が住んでいた街だった。夫を亡くしたいま、その元彼が住んでいた部屋を見てみたいと思ったが、やりとりした手紙などは全部処分していたので、なんの記録もない。二宮さんの記憶だけを頼りに探さなければならない。しかし、二宮さんの家に泊めてもらえることになった。その場合、調査の基本料金は半額にすることにした。 部屋はどうにか見つかり、その部屋に入ることは住人に断られたが、隣の部屋の住人とは交渉成立し、有料で1時間だけ入り、窓からの眺めを楽しむことができた。 3人目は三田さん。 30年前に死んだ祖父が、ある本にメモを挟んでいたが、その本は屋敷を出るために処分をしてしまった。当時、流行したありふれた本なので、古書店に行かず処分されてしまった可能性もあるし、古書店で誰かが買っていった可能性もあるが、とりあえず古書店を探す。調査は、失敗。見つからなかった。 そのメモとは、祖父がたまに作っていた魚のスープの作り方だった。この湾で昔は取れていた魚のスープだった。最後に祖父が書いたものだからという理由以外、三田さんは探す理由を教えてくれなかった。 街の交通機関は、3本のケーブルカーとバス。市長は突然の値上げを発表、反対するデモが静かに起きていた。調査料金の交通費も、値上げ分の支払いを渋る依頼主がいる。   『知らない街のように 急な坂の街で2』 10年ぐらいあとの話。 街に来て半年。まだ事務所兼自宅には帰れない。 四人目の依頼者は四元さん、70歳、三田さんと女学校時代の同級生。 四元さんのいとこの孫の小五郎、17歳が同居している。この街の名門私立学校に通い、もうすぐ卒業、他の国の大学へ。四元さんは彼の卒業にあわせて引っ越す。家は経済特区となってここ10年、急速に発展する前に建てられた高級住宅街の家。街の様子が変わったので引っ越して外国に行く人が絶えない。四元さんものそ一人で、30年前に兄弟が引っ越した国へ行く。 四元さんは、70年暮らしたこの街の様子を写真に残し、移住後のいとこたちに見せたいし、自分の思い出にもしたいから、昔の写真に写っているところを探し、その今の様子を撮影してきてくれと依頼してきた。自分では膝が痛くて急坂が上がれない。 主人公もここに居候して3週間。仕事が終わればまた宿無しになる。これが住んだら別の街で探偵をしようかと考え始める。実は、期間制限つきの就労ビザで滞在しているが、その間に国の体制が変わり、パスポートの有効性が怪しくなってきたので、世界探偵委員会連盟が発行する偽名パスポートを持っている。バレたらどうなるかわからない。 小五郎が探偵費用の見積もりを依頼してきた。音楽の配信をしていて、アクセスがのびたが未成年なので制限を受けている。この国の方針だった。外国経由でできないか調べて欲しいが、費用はいくらか?と。   『雨に歌えば』 新しい町に来て1週間。1年のうち3分の2は雨だが、傘を差すのはよそ者ばかり。30~25年前に4件の連続殺人が起きた町。最後の事件で、中肉中背、緑っぽいウインドブレーカー男が目撃されている。 前の街で帰れなくなったことを聞きつけた探偵専修コースの先輩が電話をくれ、資料整理を手伝ってくれと言われた。仕事に行き詰まっていたので決意をしてこの町に来た。先輩は25年前に起きた連続殺人の3人目被害者、女子大生オードリーの両親から依頼を受けている。犯人捜しではなく、当時オードリーが付き合っていたおそらく同じ大学の学生探しだった。オードリー最後の日のことを知りたい、という希望だった。 ドナ:オードリーの同級生。事件当時は海外留学中でそのまま仕事をしていたが、2ヶ月前に帰国した。 デイル:貸しボート屋の息子。大学図書館で働く。オードリーと一緒に学生時代の写真に写る一人。オードリーのことは覚えていないという。 ドナはデイルを覚えていたが、デイルはあまりドナのことを覚えていなかった。2人は再会して下記の2人を思い出した。 アンディ:学生時代の仲間、背が高い、写真好き、現在は新聞社の写真記者 トミー:学生時代の仲間、よくボートを漕いでいた スノコルミー社 住民のすべての行動のデータを蓄積。 天気をコントロールする技術を研究。 シェリー:ドナの娘、流体力学を学ぶ学生で別の町で暮らす。 いつか飛べるようになりたい、と言って楽器を演奏。 オードリーの両親が、娘はどうも気象学を勉強していたらしいから、その先生に話を聞いてみてくれと言ってきた。調べると、当時の教員はまだ大学で教えていて、研究室を訪ねた。その先生は、オードリーのことを覚えていて、よく喋る子だったと言う。 先輩は、もうオードリーの両親からの依頼は受けなくていいといい、別の町へいく航空券を用意してくれた。この町を離れるんだ、と指示され、空港へ送られた。   『探す人たちは探しものを見つける』 テラさん:新しい街の探偵事務所の同僚。 この事務所の依頼の殆どは、移民のルール調査。旅行に来て、3日ほどで調べて結果を渡す。この国は昔、国外に出てしまった人々が多いため。 水田さん:依頼人、55歳、シングルマザー。父方のルーツを辿って大国から来た。子供が先日大学を卒業。手がかりはたくさんあるので調査するほどでもないのでは?どんな人だったのかを知りたいらしい。先祖は離島の出身らしい。調べるのに移動だけで往復2日かかり、費用もかかるので言っていいかどうか問い合わせようとしていると、次の依頼人の金本さんから仕事を言われる。 金本さん:依頼人。指輪を酔ってなくしてしまった。婚約者が作ったもの。今週末に国に帰って結婚するので取り戻して欲しい。首にサメの入れ墨男が犯人で、離島へ行く。探したが手がかりなし。午前と午後にしかない船だが、午後の船に乗り遅れる。宿屋も怪しんで泊めてくれない。絶望していると、その様子を見ていた火野が声を掛けてくれ、泊まれるだけでいいなら紹介するよ、と。 首サメ男のことを聞くと、木原という男が西の断崖に住んでいて、その弟だとのこと。木原は4,5年前にその家の所有者の子孫だという書類を持ってきたが、島の人間たちはどうせ偽造だろうと信じていない。木原のところに行ってみると、首サメ男なんかはいない、探しているものなんかここにはない、とけんもほろろだった。しかし、男が一人近くにいたのが分かったが、逃げていった。おいかけるのは無理だった。 その日は、食堂の奥のテーブルで一晩過ごせることになった。火野さんのお陰だった。食べ物はほとんどなかったが、スマホの充電ができたので、テラさんからのメッセージを見ることができた。そちらに行くからということと、水田さんの依頼に対する調査情報だった。さすがに優秀な探偵だった。 食堂を出ると、首サメ男に拳銃を突きつけられた。誰かと勘違いしているし、探偵だといっても信じてもらえなかった。お前のボスがお前を売ったんだというようなことを言っている。撃たれそうになった時、男が飛びかかった。木原さんだった。首サメ男は「兄貴はどこだ」とも言っている。木原さんが男から指輪とりあげて投げてくれた。それを拾い、船着場へと急いだ。また乗り遅れるところだったな、と食堂で一緒だった連中にからかわれつつ、船に乗った。そしてバスに乗って港町に戻る。テラさんが来ていた。2人でビールを飲んだ。テラさんは探偵になる前はミュージシャンだったそうだ。国は2つの言葉があり、あるときから一方の言葉だけ公用語となり、もう一方は使ってもいいけれど使うと見下される傾向になったという。 首都の探偵事務所に戻った。3階が事務所で4階が2人のベッドルーム。翌朝、起きるとテラさんがいない。荷物もなく綺麗に片づいている。支部長の手紙が残っていて、次の赴任地が書かれていた。この事務所は占めるという。   『空の上の宇宙 太陽と砂の街で』 砂漠の国、大きなプールを囲むホテルの建物の端っこ、1001号室。半地下の部屋は広々とゴージャス、バルコニーのウケ込みの先に行ったり来たりする脚がいくつも見える部屋。ここへ来て2ヶ月。 青木さん:ホテルの受付 赤井さん:依頼人、投資家の夫とこの街にやってきた裕福な外国人で、宝石を盗もうとしたメイドをクビにしたが、次のメイドが信用できるかどうか調査して欲しい、との依頼だった。 黒田さん:産業スパイが疑われる観察対象。途中、ある女性から受け取った資料のスノコルミー社のロゴがあった 柴藤さん:依頼主、14歳、父は王族につながる有力者、名門私立大学で優秀な成績、留学を希望するが両親はこの国の裕福な一族と彼女を結婚させるつもり。両親から読む本を制限されているため、その本を買って彼女が用意した表紙とつけかえるまでが依頼内容 一色透:探偵の実習生、探偵本科2年目、主人公と同じ国の出身で両親などが住んでいる 緑川さん:依頼人、多国籍企業で働く夫の浮気を疑って依頼。調べたところ、浮気ではなく多忙すぎるのでは?すると上司によるハラスメント調査を頼まれる。 桃井さん:依頼人、20年前に来た移民。美容業を営んでいるが、顧客情報がライバル企業に漏れている。一色が調査結果を報告する。 報告後に探偵事務所のホテルでよく見かける金持ちファミリーを見かけた。翌日の砂漠観光のチケットを買っていた。オンラインで買わないのは証拠を残さないためだろうと思い、主人公もおなじツアーのバスチケットを購入した。一色とは離れた席を確保。 砂漠に到着すると、ファミリーと黒田さんがいた。観光客のように談笑していた。そこに、スポーツジャージの上下を着た男女が加わった。彼らは主人公や一色の国で使う言葉を使っている。黒田さんが胸元からだした何かを渡そうとしたが、表情が凍りつき、何かを言ってその場に崩れ落ちた。男女とファミリーがなにか言葉を交わし、なぜか一色の方をずっと見ている。 主人公(所長)はスマホに仕組んだ高性能カメラを持って立ち上がろうとしたが起ち上がれない。一色がそれを取り上げて立ち上がる。食べ物に薬を入れられた。30分ほどで立ち上がれます、と一色。一色はファミリーとランクルに乗り込む。スポーツジャージの男女は黒田さんを引きずってもう一台のランクルで去っていった。主人公はまだ立ち上がれない。取り残されて死ぬのか・・・ やっと立ち上がれるようになった。スマホを拾い上げた。世界探偵委員会連盟から一色に関する情報が来ていたが、開かなかった。そして、誘われて歌を歌った。   『夢には入れない 雨季の始まりの暑い街で』 3週間前からの主人公の部屋は、探偵事務所としては連盟に登録されていない大学の敷地内にある宿泊施設。ずっと夏の季節がつづく街、交通事情が悪い乗り合いバスが名物で慢性渋滞する街。 前の任地では、連盟のミスで産業スパイがなりすませた実習生(一色)を送られた。埋め合わせに、3ヶ月の基本給と宿泊場所付きの仕事を与えられた。依頼者は、大学に所属する歴史の研究者で、40年前にこの街で起きたある事件の聞き取り調査だった。依頼者は、ユズリハ氏。 ツバキ:ユズリハの教え子学生で、この宿泊施設のアルバイト。 事件とは、40年前、B国資本の商社社長の邸宅に武装集団が立てこもった事件。南部の武装集団を求める10人がB国人の社長とその家族を人質に立てこもったが、7日後に軍の特殊部隊が突入、4人射殺、6人逮捕、社長と家族、使用人などは無事に保護。社長は、B国次期大統領候補に出馬が噂されていた有力議員の息子だったが、最終的に目的は資金調達だと解釈された。犯人はやがて全員死去、社長も昨年に病死 アケビさん:調査対象の一人、40歳、事件の一月前に生まれ、5歳の時に父が死亡。父は庭師で外国人の家の庭仕事をしていて、当日は現場に。事件の目撃者でもあった。父は持病もあったので不審死ではないと思っている。当日は別室に閉じこめられた外国人だったから、事件後も恵まれなかった。警備などB国人は手当などがしっかり出たとのこと。兄も13歳から学校へ行けなくなった。 インタビュー後、アケビさんに依頼された。兄の孫の三歳になる誕生日にプレゼントしたいが手に入らないAI搭載の小型ロボットを探して欲しい。 ウツギさん:大学の送迎自動車の運転手。妻は海軍基地で働く。娘がいる。 *ムーギー&レックス=数年前から世界中の子供に人気のアニメ番組、探偵。ムーギーは人の夢の中に入ることができ、レックスは姿形を変えることができて、どんな難事件にも立ち向かう ヤナギさん:調査対象の一人、姉が事件の際にメイドをしていた。閉じこめられた部屋はバスもあり、自宅より広い。ただ、部屋の外で若い女性の声がした。妻や娘の声はよく知っているので、違う。そう言ったが、とりあってもらえなかった。姉は10年前に肝臓癌のため55歳で死亡。 ツバキは、事件の日、現場にツバキの祖母が居たんじゃないかと言い出した。祖母は南部市野大都市ジュカンで生まれ育った。そこは、ユズリハ氏が学会の共同研究で滞在し、ウツギさんの妻が秘密の仕事で出張している街。B国の大規模な軍事基地がある。ツバキは2歳で父を亡くし、母が仕事を掛け持ちしていたので、ほとんど祖母に育てられた。 祖母は外国語の本をよく読んでくれた。首都で働いている時にもらった本が大半だという。18歳のときにジュカンでツバキの母を産み、祖母の姉に母を預けて5年ほど首都へ働きに行っていた。ツバキが16歳の時に死んだ。ツバキは、ユズリハ先生が持っている写真に若い女性が写っており、それが祖母に似ていると思った。聞くところによると、犯人グループの連絡役として若い女性が出入りしていたという。 ハルニレさん:カフェテリアで働いている人、調査対象の一人であることが判明、ハルニレさんの叔父が事件のあった邸宅に出入りしていたことがあり、叔父もハルニレさんも南部の都市の出身だった。 ハルニレさんによると、叔父は2日おきに邸宅に花を届に行っていた。社長の妻が花好きだった。届に行って邸宅にいたときに犯人グループが入ってきた。叔父が手引きをしたのではと、最初は警察から疑われたという。拷問に近いような取調を受けたようだった。後日もうなされていた。 カーテンの隙間から若い女が見えた。10年以上たってから、その女が小さな女の子を連れているところをみかけた。だから、これ以上、なにも言わないことに。 台風が通過し、天気が回復してきた。避難していた大学から、みんな帰り始めていた。ツバキに誘われ、ジュカンに行くことにした。ハルニレさんを含めて3人で。 若い女の目撃情報はかかないことにした。学生達と親交があったことも。ヤナギさんが聞いた若い女の声も。   『歌い続けよう あの街の空港で』 233:先輩 752:私(主人公) 1153:最近登録された探偵 87:生まれ育った国の空港で会った探偵(女性) ついに主人公の出身国が舞台となる。しかし、完全に入国するわけではなく、巨大空港のトランジット扱いの場所で調査をする仕事だった。世界探偵委員会連盟の要職にある者の不正かなにかに関わる調査で、具体的にどんな案件なのかは聞かされていない。単に聞く相手と内容を指定されている機械の一部のような仕事だった。 インターン時代に先輩だった探偵からの指示に従っているが、先輩はその内容を知っているようだった。 10年ちょっと前に出国したときより、人工島が大きくなって増えている。世界有数の巨大空港がある人工島、リゾートの人工島。その様子が、どこか大阪をイメージするものになっている。もちろん、大阪の空港は人工島だが世界的に見て決して大きな空港ではない。ただ、7編すべての書き出しと締めくくりに「これは、今から十年くらいあとの話」と書かれているのである。10年すると、そうなっているかもしれない。人工島にIRが出来る大阪。 その人工島で地元の人と会話するのであるが、その母娘がなぜか大阪弁。

    1
    投稿日: 2025.08.28
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    自分の帰る場所がわからなくなった探偵が、依頼者の家に泊まったり…もなかなか凄いなと思うが、「世界探偵委員会連盟」から勤務先として、世界のあちこち飛び回るのも面白い。 太陽と砂の街では、危険な目に遭ったり…で、次は何処なんだ⁇と思うが、地名を明らかにしないのも謎である。 謎と言えば、最初の一行目は、今から十年くらいあとの話。と必ず語るのも理解ができなくて、それを言えば探偵のことが一切明らかにされてないままなのも不可解ではある。 探偵は、まだ帰れないまま何処かを走っている。

    69
    投稿日: 2025.08.28
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    記憶と時間、前者は曖昧な情報、後者は確固たる概念、のはずなんだけど、この物語が進行するとそれが逆転するかの如く読者を浮遊させる。落ち着かない、どこにいるのか、現在地がわからなくなってしまう。でもそれでいいのではないか。私たちが求める真実は揺るぎないものではなく、探偵家業の主人公は自身が戻りたい場所同様見失う事態に陥ってしまい、何も解決しない有様が私たちの生活に帰着する。そんなあやふやなものでいい。その覚悟が試されている気がする。

    9
    投稿日: 2025.08.26
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    このレビューはネタバレを含みます。

    ⚫︎本概要より転載 「世界探偵委員会連盟」に所属する「わたし」は、ある日突然、探偵事務所兼自宅の部屋に帰れなくなった。 急な坂ばかりの街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街、太陽と砂の街、雨季の始まりの暑い街、そして「あの街」の空港で……「帰れない探偵」が激動する世界を駆け巡る。 ⚫︎感想 「歴史」と「記憶」と「記録」がテーマだと受け取った。 すごく不思議な冒頭、「これは、今から10年くらいあとの話。」と、最後の「ここから飛び立とうとしているわたしが、ふたたびここから走り出すまでの、長いような短いような話。」とてもきれいにまとまっている。 昔のことって本当に「昔のこと」という記憶にごちゃ混ぜになっていて、本当にそうだったのか、あとから上書きしてしまっているのか、わからなくなる。記憶って不思議だし、頼りない、だから記録を取るんだけど、それすら頼りないよね…そんなことを想起させるお話だった。 全体的に静かなんだけど、探偵なので、少しスリルがあったり、不安定だったりで、好きだった。

    31
    投稿日: 2025.08.24
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    自分の住まいに帰れなくなった女性探偵が受けた依頼を果たすために動く。ただそれだけの話だが何か不思議な感覚を覚え読み続けてしまった。上手い書き手だと思うが読み終えたときも何かしらわからない感覚が残っている。 普通のミステリーじゃない。

    6
    投稿日: 2025.08.21
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    登場人物が全員仮名。出てくる街も、知っているようで知らない街。 全体的に蜃気楼のような、つかみどころがない感じ。 でもなんだか懐かしいような不思議な感覚で面白かった。 続きそうだけど、続かないのか?

    2
    投稿日: 2025.08.19
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    このレビューはネタバレを含みます。

    不思議な本だった。 柴崎さんの本はこれが初めてだったけど、淡々と進む感じがとても良かった。 時代や設定は明確ではないけど、街や人の設定は細やかに描写されてて、想像力を働かせながら読むのが楽しい作品だった。 ミステリが好きなので、思い切った事件解決がないのは、読む前の想像と違ったけれど、ちりばめられた繋がりと少しのヒントで読み進めていくのは、主人公と一緒に街を歩いているようで楽しかった。

    1
    投稿日: 2025.08.18
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    ある日突然、事務所兼住居へ続く路地がみつからず、帰れなくなった探偵「わたし」の物語。 「世界探偵委員会連盟」からの仕事をこなしながら、帰る場所を探す日々。新しく見つけた居場所も失くなってしまい、ますますわからなくなってしまいます。 〈今から十年くらいあとの話〉が続き、不思議な感覚を味わいながらの読書でした。 「わたし」が道に迷っていると同時に、読んでいる読者の私も道に迷っている感覚です。 柴崎友香さんのちょっと変わった探偵小説は、世界中のどこを訪れているのかも明かされず、謎めいていました。わかったような、わからないようなところに不思議な魅力がありました。最後まで読んでみて、何かがわかったような気がした、そんな感じがする一冊でした。 〈目次〉 帰れない探偵 急な坂の街で 知らない街のように 急な坂の街で2 雨に歌えば 傘を差さない町で 探す人たちは探しものを見つける 夜にならない夏の街で 空の上の宇宙 太陽と砂の街で 夢には入れない 雨季の始まりの暑い街で 歌い続けよう あの街の空港で

    53
    投稿日: 2025.08.16
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    ハードボイルド、というより、大人のファンタジーの ような。 探偵である「わたし」が、自宅兼事務所に 帰れなくなってから、「世界探偵委員会連盟」から 回される、様々な国での仕事をこなしていく、 そんな、ちょっと不思議な、そして時間感覚が あいまいになる物語。 一話ごとに、「今から十年くらいあとの話」なんて 但し書きがついて、え、いつの、どこの話?と、 頭がぐるぐるするけど、そのうち、そんなことは、 どうでもよくなって、不可思議さも、どうでも よくなって、淡々とした語り口に、すっかり、 魅了されている。 ただ、ただ、作品のムードに酔いしれている。

    2
    投稿日: 2025.08.12
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    〈今から十年くらいあとの話〉を語る不思議な連作探偵小説。そう書くとオカルト的な展開になっていそうに見えるけれど、実際にはまったくそんな事はなく、寧ろ大部分に於いては堅実な描写の現実的な物語(ある日突然、自宅兼事務所に続く路地が消えて主人公は帰れなくなるという不思議な部分はありつつ)。ただ、一般的な探偵小説と違うのは、依頼の全容やその解決が読み手へ明確に示されることは無いという点。もっと言えばいつの時代の、どこの国々での出来事なのかも伏せられていて、人名に至ってはすべて仮名という曖昧さの極地だ。読んでいると、まるで“わたし”と共に地球単位の迷子になっているかのような心許ない気持ちすら湧いてくる、そんな初めて出会うタイプの小説だった。

    1
    投稿日: 2025.08.11
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    これは、今から十年くらいあとの話。 この1文から始まり、終わる7つの物話。語り手は家に帰れなくなってしまった、探偵。ん?これはどういうことだっけ。ここはどこなんだっけ。わからなくなってページを戻るが、わからない。それでも引き込まれていく。そして私は柴崎さんの文章が好きでたまらない。わからないまま、自分なりに、探偵という職業や依頼者の心理がこのわからなさとリンクしているのだろうかどうだろうか、などと考え考え読んでいくと、心にジワリ広がっていく温かい感動が待っていた。ぎゃー、良い!と興奮しつつ本を閉じ、かっこいい装丁を眺めた。良い。

    1
    投稿日: 2025.08.10
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    とても面白かった。 小説の舞台は今から十年くらいあとの話。  今ある社会問題がもっと悪くなった感じかな。 不穏な雰囲気があるが、語り口はなんだかノホホンとさえしている。 そこがいい。 帰れないというのは何かのメタファーなんだろうな。 何のメタファーかはわからないけど。 もう少し考えてみようかな。

    1
    投稿日: 2025.08.10
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    各章が、「今から十年くらいあとの話。」という一文から始まる。『世界探偵委員会連盟』に所属する探偵である「わたし」が、あちこちの土地に住みながら、依頼人のために街を歩き、話を聞く。「わたし」が探偵の学校へ行くために、生まれ育った国を出たのは、今から十年前のこと。その国は、政治体制が変わり、パスポートも変更され、今はもう帰ることが出来なくなっている。 不思議な話ではあるが、柴崎さんらしい丁寧な描写。上の指示であちこちに行かされ、何が目的かわからない調査に時間を費やし、ときに危険にもさらされる。ふつうに読んでいてラストへ来て、こんなことを言われる。 「これは、今から十年くらいあとの話。 今、わたしは、自分の国にも、やっと見つけた自分の部屋にも帰れなくなることを知らずに、空港から出発しようとしている。」 最初の「今から十年くらいあとの話。」は、スルーしていたのだけど、ん? と、ここで止まってしまった。まだ国を出てない? 今読んだのは何? 妄想? そんな不思議な小説だった。 以下、はっとしたとこ、抜き書き。 「疑うことと、人を信じることって別じゃないですか? どんなに信頼してる、すごく好きな人でも、その人が何をするかなんてわからないでしょう。自分で自分のことだってわからないのに」 「夜と朝にははっきりとした境目がある。それを真っ先に知るのは鳥たちだ。 どの土地へ行っても、度の街の路地でも、世界が夜から朝になった瞬間に鳥の声が聞こえる。」

    1
    投稿日: 2025.08.10
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    今から10年くらい後、という設定に、この「今」は10年後のことがわからないはずなのに…どういうことだ?という不思議に包まれる。その不思議さを忘れてしまう章の終わりと始めに、設定を再確認させられるので不思議な感覚が続く。 特別派手な事件ではないが、世界規模。 現代のような、実在している国のような、架空の世界のような。 大丈夫なんだけれど、帰れない心もとなさ。 着地しているのにどこかフワフワした感じがする物語だった。

    15
    投稿日: 2025.08.09
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    柴崎友香さん初読みです。 ある日突然、探偵事務所兼自宅の部屋に帰れなくなった探偵が、世界を駆け巡るお話。 何とも不思議な読み心地の作品でした。 帰れない探偵が、それぞれの国で依頼された任務について調査をしますが、出会った人と交わした会話に思いを馳せる場面が良かったです。自分は本当に帰れないのか、それとも帰らないのか。 そもそも、「これは、今から十年くらいあとの話ー。」という近未来を語る設定もお伽話のようで、不思議な感覚でした。 柴崎さんの描く世界観が心地良く、ゆっくり浸って読めた作品でした。

    19
    投稿日: 2025.08.04
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    このレビューはネタバレを含みます。

    今空港から飛び立つ設定で10年後の出来事を書いている。帰れない探偵という状況で、次々と居住場所を変えながら淡々と探偵の仕事をしていく、ちょっとハードボイルド風味もある佇まい。はっきり場所の名前は書いてないけれど、これはアイルランドかなぁとかアラブ首長国連邦かなぁとか思いながら読んでいたので、旅行記的な面白さもあって楽しめた。 情報戦、AI、忍び寄る不安な社会情勢など不穏な空気も漂っている物語だった。

    2
    投稿日: 2025.08.03
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    天気を操る?なんとか社の動向に気を取られていたが、探偵は、帰ることが・・ 鎖国した国が再び開かれる瞬間の「ええじゃないか」的なブルーハーツ

    2
    投稿日: 2025.08.03
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    あまり読んだことのないタイプの小説だった。 「事務所への帰り道がなくなった」という第1話の設定では、 不条理もの、あるいは幻想小説の類かと思ってましたが、 それ以外のエピソードは超現実的な要素はなく、 「探偵の世界組織」など架空要素を織り交ぜた現実世界で繰り広げられる。 「政治体制が変わった日本らしき国」 「不穏な動きが垣間見える大手ITプラットフォーマー」 といった舞台装置とともに繰り広げられる、 決して華々しくはない、行き場のない探偵の物語。 ふと「10年ぐらいあと」の自分と世界に思いをはせてみたくなる。

    3
    投稿日: 2025.07.30
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    柴崎さんの新作は、タイトルから想像したようなミステリーではなかった。広い意味でミステリーといって差し支えないとは思うが、犯人探しや謎解きの要素はあまりない。 収録された7篇はどれも同じ文章で始まり、同じ文章で終わる。知らない街に赴き、そこで探偵仕事をする。小出しにされる情報を繋ぎ合わせていくと、この世界が見えてくる。 タイトルの「帰れない」には2つの意味がある。1つは自宅兼事務所に「帰れない」。もう1つは自分の国に「帰れない」。そこにはどんな意味が込められているのか。 最初は乗れなかったが、徐々に面白くなった。

    11
    投稿日: 2025.07.29
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    そこそこの探偵小説マニアで、柴崎友香マニアでもある私には、この組み合わせの意外性には期待値MAX!謎もあり、日常もあり、ちょっとしたハードボイルド風味もありで、期待値を軽々超えて来るのだから、さすが!それにしても、なぜ“探偵”?と思っていたら、MONKEYの柴田元幸さんからの執筆依頼がキッカケだったと、ポリタス石井千湖さんの沈子黙読で作者本人からお聞きできて、嬉しさ倍増。おもしろかった。

    10
    投稿日: 2025.07.29
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    「今から十年くらいあとの話」で始まる7章からなる探偵物語。 訳あって、色々な国に行くのだが、国の名前は明かさず、話は進んでいく。想像しながらあの国かしら、いや架空の10年先の国か?仮名のあの人は何人?と、探偵と共に手探りで進んでいく不思議な世界。 上手く解説できないけれど、今も混沌としているけれど、10年先はさらにこんな感じになっていくのかと想像できる興味と怖さがある。 さて、結末はどう解釈すればよいのだろうか? なんとももどかしい・・・

    11
    投稿日: 2025.07.28
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    初読み作家さんの小説 タイトルと書影と そしてなんといっても 斎藤真理子さんの帯文に惹かれて読み始めた なんだかホワッとしていて よくわからなくて でも浅いところで惹かれていくような... この真夏の日ではなく もっと涼しくなってから ほんのり日が暮れ始めた頃に もう一度読み返してみたいなぁ と思ったり

    2
    投稿日: 2025.07.28
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    終わらない歌を歌おう クソッタレの世界のため 終わらない歌を歌おう 全てのクズどものため 終わらない歌を歌おう 僕や君や彼等のため 終わらない歌を歌おう 明日には笑えるように なるほどね〜 なんだかよく分からな〜い時間が最後までゆ〜っくり流れて、最後にちょっとだけ分かったような気にもなる 不思議なまま終わるけど、終わっていないような気にさせる 『帰れない探偵』は最後に帰ってきたようにも、やっぱりどこにも帰れなかったようにも思える 何も書かれていないように思えて、全て書かれていたような気もする つまりはザ・ブルーハーツなのだ!

    76
    投稿日: 2025.07.23
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    『  今から十年くらいあとの話。  わたしは、急な坂を上っていた。  こんなに急な坂の街に住むのは初めてで、住み始めてからひと月近く経っていた。 』―『帰れない探偵/急な坂の街で』 本当にこれは柴崎友香の新作なのだろうか?と一瞬頭の中の感受機能が停止する。最初の文章から強烈に感じる仕掛け。この伏線めいた投げ掛けはどのように回収され得るというのか。そして小さな謎めいた符牒。名前に現れる数字、一ノ瀬、二宮、三田、四元、小五郎。唐突に打ち切られる連鎖。また現れる別の種類の符牒。柴崎友香らしくない、仕掛けに満ちた連作短篇。 『ただし、停電は街の半分だけだった。急斜面にびっしりと並ぶ高層ビルや住宅のきっちり西側半分だけが、暗くなった。湾のあちらとこちらで真ん中で線を引いたように分かれていた。「きれい」と、この街での最初の依頼者、一之瀬さん(仮名)はうっとりした声で呟いた。停電は、ほんの十分ほどのことだった。消えたときと同じように何の前触れも音もなく、夜景は元に戻った』―『帰れない探偵/急な坂の街で』 ああ、やっと人心地の着いた文章に巡り合い呼吸のリズムを取り戻す。そう、この描写。何も言っていないようで何かの思いに充ち満ちた文章。これが読みたかったのだ。ここには何か思わせぶりなものはない。そんな事をしなくてもこの作家の文章は饒舌でかつ表情豊かなのだ。それでも積み残された謎はどんどんとその嵩を増し、無視できない存在となる。ただし、それが解決されることは決してないのだろうということには、途中から気付いてはいる。気付いてはいるけれど、ほんの少し何かが起こる予感、あるいは起こって欲しい期待が膨らんでいくことは抑えられない。 初出の記録を見ると、この作品が最初から連作短篇を意図したものではなかったように見える。あるいは単に柴田さんがそんな作家の意図を汲み上げる余力が無かっただけなのか。二篇目に置かれた作品は発表媒体は異なっているものの連作であることを方向付ける作品構成となっている。その慣性は三篇目以降での主人公の自由な飛翔を支える土台を構築する。だが、そんな大袈裟とも見える構成の中で、例えばトム・クルーズの活躍するような虚構をこの作家が書き綴るとはやはり思えない。そんな思考の寄り道を繰り返しながら読み進める。 そういえば最近この作家のSNSでは社会性のあるメッセージに対するリツイートが多かったな、と最終盤まで読み進めてから唐突に思い起こす。それもわざわざ媒体を変えて。などと書くと少々変質者的尾行者の響きがするだろうか。そこはほぼデビュー作以降追いかけているファンの呟きとして聞き流してもらいたい。ただ、その行動様式の変化が、この作品が書かれた理由とは決して無関係ではないと思う。良いこととか悪いこととか決めつけたい訳ではないけれど、何か言っておかなければならないという気持ちの昂ぶり。そんなものを作品全体から感じてしまう。 ただし、そんな気持ちの勢いだけで物語の開いた輪を閉じることは出来ない。エピローグ的な一篇は何も解決するわけではないけれども気持ちを落ち着かせるエピソードとなっている。そうせざるを得ないのだな、と少し斜め上から読む。もちろんその流れに気持ちよく寄り添いはする。そして、当たり前のことだが、伏線めいた事柄は何も回収されることはない、そのことに何故か安堵の気持ちを覚えるのだった。

    7
    投稿日: 2025.07.21
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    ・とても良いな〜。 ・はなからミステリとして読むつもりはなかったけれど(いや、その要素もあるのだけど)、何かずっと夢の中にいる様な小説で、その夢も悪夢とも、楽しい夢とも言えない様な。 ・その世界の不安定さが、主人公の覚束なさとイコールにもなっていて、かろうじて「探偵」という職務が物語を進めていく、っていう。 ・最後、その世界も含む覚束なさの中で、自分の足場らしき物を獲得する(かな?)っていう、エモい〜と思ってしまった。 ・ぽやんと抽象化された小説世界だけど、まさしくこれは現実の世界だし、主人公は自分の事だった。好き。

    1
    投稿日: 2025.07.20
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    「これは、今から十年くらいあとの話。」というフレーズがとても印象的。 急な坂ばかりの街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街、太陽と砂の街… 世界のあちこちを飛び回っている探偵の物語。 どこか懐かしかったり、SFっぽさを感じたり… 喧噪を感じたり、静寂を感じたり… なんだか足元が落ち着かない気分で読んだ。 読みながら自分自身がきちんと物語を理解できているのか不安な気分に… 多分、雰囲気と世界観を味わう作品なのではないだろうか。 不思議な読後感の不思議な物語。

    4
    投稿日: 2025.07.16
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    〈今から十年くらいのあとの話。〉という印象的な文章が、各章の一文目に置かれている、〈探偵〉の物語。前ではなく後の未来から、欠けてしまったものとあとの自分が様々な(寓話的な)土地を巡っていく様子が綴られていきます。帰ることのできなくなった探偵の行く街には、強い雨が降っていても傘を差さない町もあれば、急勾配にも程がある街もあったり……。  決して難しい言葉が並んでいるわけではなく、澱みなく読んでいるのに、ちゃんと読めているのか自信がなくなって落ち着かなくなってくるところがあり、その一筋縄でいかない奥行きのある世界が魅力的にも感じられました。〈探偵〉の〈居場所〉とはなんなのでしょうか。ラストは鮮やかな光が射すようで、とても好きでした。

    3
    投稿日: 2025.07.03
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    このレビューはネタバレを含みます。

    「今から十年くらいあとの話」という一文で始まる未来の話が過去形で語られる。 新しい街で開いた探偵事務所兼住居に、ある日突然帰れなくなった。坂の途中にあるはずの、事務所に通じる路地が見つからなくなったのだ。 なぜ?どういうこと?SF?ファンタジ?ミステリ?いろんなハテナが浮かぶのだが、そんなハテナはどうでもよくなってしまう。 帰れない探偵は、世界探偵委員会連盟からの指示で世界中の街で依頼をこなす。どこの国なのか。 いろんな人にいろんな話を聞いていく。 なにかの事件があり、その事件に関わった人の言葉を集めていく。 十年くらいあとの自分の話を語る彼女は、いったいどこで何をしているのか。 社会的な問題、政治的動乱、異常気象、陰謀諭…いま、私たちの周りで起こっている問題とつながっている世界。 明日が昨日になる今日の、物語たち。 足元が揺れる。自分の輪郭がぼやける。だけど、いや、だから、今、私はここにいる。 不思議な手触りの、その芯に触れたくて最後まで読み終える。

    6
    投稿日: 2025.06.29
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    『今、自由に職業を選べるとしたら、探偵になりますか?』  (*˙ᵕ˙*)え? レビューの冒頭から『探偵になりますか?』と訊かれても困りますよね。そもそも『探偵』と聞いてどのようなイメージを思い浮かべるかは人それぞれだと思います。世界に目を向ければシャーロック・ホームズがなんと言っても有名でしょう。国内に目を向ければ、明智小五郎や金田一耕助など、私でも名前だけは知っているという『探偵』の名が思い浮かびます。そして、今もテレビでお馴染みの存在と言えば名探偵コナンを忘れるわけにはいきません。 『探偵になりますか?』と言われてもどの『探偵』をイメージするかで判断に迷いも生まれてくるような気がします。そもそも上記した作品の『探偵』さんたちはアブナイ目にも遭われています。そんなことまで考えると安易に『探偵』という生き方を選択するのも難しいと思います。 さてここに、一人の『探偵』が主人公となる物語があります。『どこの街へ行っても、依頼はあるものだ』と世界各地で『探偵』として働く主人公を描くこの作品。そんな『探偵』が冗談のような境遇に陥っていることが前提となるこの作品。そしてそれは、自宅に帰ることができなくなったという「帰れない探偵」の日常を描く物語です。 『この街でなにをしているかというと、探偵である』、『この街にやってきて、受けた依頼は十件を超えた』というのは主人公の『わたし』。そんな『わたし』は、『煉瓦造りの建物の奥にあ』る『目的の古書店』へと到着しました。『さあ、あるとしたら、そのへんじゃないかね』と『年老いた店主』に言われ、『今にも崩れそうな本の山の捜索にかか』ります。『間違えて引き取りに出した本を探してほしい、という依頼』は、『依頼者の祖父、もう三十年も前に九十歳で死んだその人が書いたメモが挟まっているはず』、『本は、当時ベストセラーになった歴史小説で、貴重なものでもなんでもない』というものです。『建て替える家の中の物をまとめて処分業者に引き取ってもらい、業者はそれをがらくた市の競りで一山いくらで売った』という内容の依頼のために『ありふれた本の捜索』を行う『わたし』は、『これは時間がかかりそうである』と思います。『解決しないのも困るが、すぐに解決するのも、今のわたしにとっては問題である』という『わたし』は、それが『依頼の解決はすなわち、寝る場所がないことを意味するからだ』と思います。『今、自分の部屋に帰れない。いくら探しても、部屋が見つからなくなってしまったのだ』という『わたし』は、『新しい街で心機一転と構えた、探偵事務所兼住居。五階のいちばん奥にひっそりある小部屋で広いバルコニー付きという、まさに探偵にふさわしい場所』のことを思います。『たぶん、あの停電のときになにかが変わったのだと思う』という『停電があったのは、この街に来て七日目の夕方』のことでした。『街中の灯りが消える瞬間を、目撃した』『わたしはそのとき、港に近いカフェのテラス席に依頼者とい』ました。『ぱっと、スイッチを切ったように、街の光っていたところが暗くな』り『わたしと依頼者がいたテラス席も、店内も、照明はすべて消え』ました。『街の半分だけだった』停電によって、『急斜面にびっしりと並ぶ高層ビルや住宅のきっちり西側半分だけが、暗くなった』のを見て、『きれい』と、『この街での最初の依頼者、一之瀬さん(仮名)はうっとりした声で呟』きます。『停電は、ほんの十分ほどのこと』で、『消えたときと同じように何の前触れもなく、夜景は元に戻』りました。一方で、一之瀬さんとそんな場所で『会ったのは、依頼者の依頼内容と関係してい』ます。『一之瀬さんの夫の両親が、一之瀬さんは財産目当てで結婚したのではないかと疑っており、身辺を調べているのではないかという』その理由は、『つまり、探偵されているかどうか探偵するのが仕事』でした。『化粧品の輸入の仕事をしている』一之瀬さんが『その関係者と浮気している、その浮気相手と組んで財産を狙っているに違いない、と夫の両親は思い込んでいるのだという』ものの、実際には『一之瀬さんの海外に住む両親のほうが財産を持っており、自身のビジネスも成功しているので、むしろこっちが疑いたくなるくらい』と『苦笑い』する一之瀬さん。そんな一之瀬さんに『ご懸念の通り、ご両親は一之瀬さんのことを調べています。ただし、探偵を雇っているのではなく、実際に動いているのは親戚の男です』と説明する『わたし』は、『親戚の男の写真や証拠となる書類を』見せます。『相手が探偵でなくてラッキーだった』、『探偵ならかなり慎重に行動しなければならな』かったと思う『わたし』。そんな『わたしは、世界探偵委員会連盟の本科を卒業したあと、さらに三年の専修コースを修了し』、『二つ星にランク付けされ』たあと、『フリーの探偵』になりました。『この街へ来たのは、世界探偵委員会連盟の前理事であり専修コース時代の恩師であった人の紹介』で、『事務所探しも、当時世話になったという不動産屋に頼んでくれ』ました。『いい場所だと思』い、『即決した』『わたし』でしたが、『その不動産屋とも、今は連絡が取れ』ません。そんな『わたし』は、『探偵のまねごとをしている男の調査継続を約束し、その店を出』ます。『そうして事務所に戻ろうとしたら、わたしはもうすでに』『探偵事務所に。自分の部屋に』『帰れなくなっていたの』でした。『地図を読むのは得意だ。道にも迷わない。能力を生かせる職業として探偵と思い当たったくらいだ。自分の家への道がわからないはずがない』と、『坂の途中の金物屋を右に曲がり、その先の細い路地の奥、階段を上った先にあるはずの緑のタイルの建物』を目指す『わたし』。『金物屋はある。緑色のテントに破れ目があるのもちゃんと覚えている。しかしその周りを何度行き来しても、路地の入口がない。どうしても、その路地が、見つけられなかった』という『わたし』。そんな『わたし』=『探偵』が、さまざまな依頼を解決しながら世界各地を転々とする様が描かれていきます。 2025年6月26日に刊行された柴崎友香さんの最新作でもあるこの作品。”発売日に新作を一気読みして長文レビューを書こう!キャンペーン”を勝手に展開している私は、2025年4月に宮島未奈さん「それいけ!平安京」、5月に内山純さん「あなたのためのショコラショー」、そして先週には望月麻衣さん「神様のいそうろう2」というように、私に深い感動を与えてくださる作家さんの新作を発売日に一気読みするということを毎月一冊以上を目標に行ってきました。そんな中、「春の庭」で芥川賞を受賞、柔らかな大阪弁の描写も魅力の柴崎友香さんの新作が発売されることを知り、これは読まねば!と発売日早々この作品を手にしました。 そんなこの作品は、内容紹介にこんな風にうたわれています。  “「世界探偵委員会連盟」に所属する「わたし」は、ある日突然、探偵事務所兼自宅の部屋に帰れなくなった。急な坂ばかりの街、雨でも傘を差さない街、夜にならない夏の街、太陽と砂の街、雨季の始まりの暑い街、そして「あの街」の空港で…「帰れない探偵」が激動する世界を駆け巡る” はい、そうです。この作品は、『わたし』という代名詞のみで本名が最後まで明かされない一人の『探偵』が主人公となる物語です。そもそも『探偵』が登場するような推理小説をあまり読んでこなかった私にとって『探偵』という存在は極めて新鮮です。今までに読んできた『探偵』と名のつく作品を振り返っても、辻堂ゆめさん「片想い探偵 追掛日菜子」、方丈貴恵さん「名探偵に甘美なる死を」くらいしかパッとは思い浮かびません。そんな作品の初出は「群像」中心であり、おおよそ2020年2月から2024年7月号に掲載されたものをまとめて、加筆修正、単行本として刊行された経緯を辿ります。 7つの短編が連作短編を構成するこの作品でまず注目したいのは、そんな7つの短編の冒頭がすべて同じ一文から始まっているところです。  『今から十年くらいあとの話』 そもそも『今』というのがいつを意味しているのか?という問題はありますが、いずれにしてもこれは近未来を描いた作品ということは言えると思いますのでそんな表現を抜き出してみましょう。まずは、『スノコルミー社』という企業に関する記述です。  『スノコルミー社が天気をコントロールする技術を研究してるって。これまでの数百年のデータを分析すれば可能になるって、投資がかなり集まってるらしいね』。 まあ、あくまで『研究してるって』という表現止まりではありますが『投資がかなり集まってるらしい』とかなり現実的です。次は、ある国の街中の様子をこんな風に描写します。  『見上げると、ドームの下部には三六〇度の3Dデジタル広告が設置されていて、ドラゴンやタイガーが飛び出すたびに、子供たちの歓声が各フロアから響き渡る』。 これは面白そうです。今の世であっても3Dグラスをかければイメージとしては同様なものができそうですが、そんなものを使わずに街中にこんな光景が見られるのは興味深いです。三つ目は、昨今身近になりつつある『AI』です。  『グレーのアクリル張りで電話ボックスを思い出させる箱形の機械がある。入って、足の表示の上に立つと、全身をスキャンされる…輪切りに映し出されたわたしの身体を、AIが精査し、すべてが記録される』。 これは、もうまもなくやってきそうな未来ですね。良いのか悪いのか分かりませんが、『AI』が怪しい人を探知するというのはいかにもな未来の描写です。 そんな7つの短編で主人公となる人物が上記でも触れた『わたし』=『探偵』です。どのような人物かをまとめておきましょう。  ● 『わたし』ってどんな『探偵』?   ・『世界探偵委員会連盟の本科を卒業したあと、さらに三年の専修コースを修了』し、『二つ星にランク付け』   ・『別の国の支部で二年ずつアシスタントとして経験を積んだ』   ・『支部のない国にも行ってみたいと思い、フリーの』『探偵』となる   ・『世界探偵委員会連盟の前理事であり専修コース時代の恩師であった人の紹介』で『この街』へとやってきた おおよそのイメージが伝わったかと思います。そして、この『わたし』を読者に決定的に印象付けるのが次の状況です。   ・『わたしは今、自分の部屋に帰れない。いくら探しても、部屋が見つからなくなってしまったのだ』 『探偵』にも関わらず『自分の部屋に帰れない』とほ全くもって意味不明です。そんな頼りない『探偵』に仕事を依頼しようとは普通には思いません。それは『わたし』も十分承知の上です。なのでこんなこともしています。  『依頼を受ける条件として、解決まで宿泊場所を用意してもらえるなら基本料金は半額、とサイトに書いた。ただし、部屋に帰れない理由は、管理者が鍵を持ったまま連絡が取れなくなったと伝えている』。 『宿泊場所を用意』することで半額サービス!これは、自らのピンチを上手く活かした方法です。しかし、読者にはそんなことはすべてお見通しですから、意味がありません。そもそも書名が「帰れない探偵」ですからね。ということで、この不思議な書名の意味はどことなくお分かりいただけたかと思います。まあ、もっともどうして『帰れない』のか?本質的なところはこれだけでは分かりませんが…。 そんなこの作品は、「帰れない探偵」が、世界各地を転々と移り住んでいく姿が描かれています。短編タイトルにそのおおよそのイメージが記されていますので見てみましょう。  ・〈探す人たちは探しものを見つける〜夜にならない夏の街で〉    → 『六月の今は、夜の八時を過ぎても明るい。十九世紀に建てられた煉瓦や石造りの建物が並ぶ、観光客向けのホテルが多い…』  ・〈空の上の宇宙〜太陽と砂の街で〉    → 『砂漠の国…強い日差しと乾いた空気。砂まじりの風。そこに作られた人工都市を中心に、いくつかの小国が連邦を形成している…』  ・〈夢には入らない〜雨季の始まりの暑い街で〉    → 『ここはずっと夏の国で、晴れていれば強烈な日差しが照りつけるが、雨季の始まりである今は曇っていて多少はましである。その分、湿度は凄まじい…』 どことなくこの辺りかなあ?というイメージが思い浮かびますが、主人公が『わたし』であるのと同様、土地についても具体的な地名は一切登場しません。『わたし』は、『前にいた探偵事務所が突然閉鎖になったあと、世界探偵委員会連盟からは次の勤務先として三つの場所が提示された…』というように『世界探偵委員会連盟』が何かしら関わる中でそんな街へと移り住んでいきます。  『浮気調査、遺産相続のもめ事に関わる調査、ビジネス相手の調査、恩人捜し、失せ物探し…。人間のいるところ、どこにでもあることだ』。 『わたし』は、それぞれの街に移り住みながら、『探偵』としてさまざまな依頼に応えていきます。そんな『わたし』は、初めての街で『建物に通じる路地を見失い、二度と帰ることができなくなった』という経験の先に、『仮暮らしの生活』を続けていきます。世界各地を巡り、依頼を通じてさまざまな経験を積みながら、まさしく「帰れない探偵」として生きていく『わたし』の物語。何気ない日常の風景や感情、記憶を繊細に描写していく柴崎友香さんの真骨頂とも言える物語がここには描かれていました。  『十年前、生まれ育った街を離れてから、わたしはずっと「一時的に」どこかにいて、また別のどこかへ移っていく』 そんな思いの先に、世界各地へ転々と移り暮らしていく主人公の『わたし』。そこには、『フリーの探偵』として生きる『わたし』の「帰れない探偵」としての興味深い日々が描かれていました。絶妙な近未来の描写にときめきを感じるこの作品。この街はあの街かなあ?と想像を膨らませながら読む楽しみもあるこの作品。 『探偵』という”お仕事”の大変さを思う一方で、『帰る』という言葉の意味をふと考えてもしまう物語。ハマると沼から抜け出せなくなりそうな魅力を纏った印象深い作品でした。

    292
    投稿日: 2025.06.28
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    海に漂いながら、夢を見ているような物語だった。色彩がとびきり鮮やかな。 自分の国や家に帰れず、今いる場所も少しずつ変わっていくような、足元がグラグラとおぼつかない日々の中、見え隠れする陰謀や影… しかし、国や言葉、風景、季節が変わっても、音楽のように変わらないもの、ずっと残っていくものもあるのだと、そんな風に感じた。 それが分かったとき、帰るべき場所へ走り出せる気がする。

    14
    投稿日: 2025.06.27