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古事記の博物図鑑
古事記の博物図鑑
伊藤弥寿彦/世界文化社
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総合評価

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    『古事記』の上つ巻に登場する動物や植物、鉱物などの 自然物96種を、物語の流れに沿って、1,000点以上の写真や 画像を添えて解き明かす。 ・はじめに ・本書の使い方 第一章 天地開闢 第二章 イザナギとイザナミの結婚と島生み神生み 第三章 イザナミの死 第四章 黄泉の国 第五章 三貴子の誕生 第六章 スサノオの狼藉とアマテラスとの誓約 第七章 天岩屋戸 第八章 スサノオの追放と五穀誕生 第九章 八岐大蛇 第十章 八雲立つ 第十一章 稲羽の素兎 第十二章 オオナムヂの受難 第十三章 オオナムヂの根の国での試練 第十四章 オオクニヌシの妻と子たち 第十五章 オオクニヌシの国づくり 第十六章 スサノオの子 オオトシの系譜 第十七章 アマテラス 使者を送る 第十八章 オオクニヌシの国譲り 第十九章 天孫降臨 第二十章 その後のサルタビコとアメノウズメ 第二十一章 ニニギとコノハナサクヤビメの結婚 第二十二章 ホオリ(山幸彦)とホデリ(海幸彦) 第二十三章 ホデリ(海幸彦)の服従 第二十四章 ワカミケヌ(神武天皇)の誕生 古事記 序 ・古事記現代語訳 ・『古事記』(上つ巻)神名の漢字一覧 ・太安萬侶の墓を詣でるーおわりにかえてー 索引、参考文献有り。 久羅下(クラゲ)、波邇(はに)は粘土、班馬(ふちこま)、 天之眞柝(あめのまさき)はテイカカズラ、呉公(ムカデ)、 岐藝斯(きぎし)キジ、波士(はじ)ヤマハゼ、海鼠(ニ)マナマコ、 木花(このはな)ヤマザクラ、美智(みち)ニホンアシカなど。 これらは博物学的な視点での面白さ。 あくまでも推測ながら「古事記」の中での意味、考古学、 生物学や自然学、信仰での話や学者の説を盛り込み、 フィールドワークを重ね、四季折々の自然の中での写真が たっぷりと添えられている。また、サルタビコが比良夫貝に 手を挟まれた話を体当たりで実験するなどの体験も。(痛そう) 著者は「プラネットアース」などの自然番組ディレクターで 昆虫研究家として世界を巡る人。 分厚い本なので躊躇しましたが、内容は知的好奇心を擽り、 5年かけて撮影した写真のビジュアルが美しく、 大いに楽しませてくれました。

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    投稿日: 2025.08.30
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    書籍の構成と特徴 全24章構成で、天地開闢から初代天皇神武天皇の誕生まで、『古事記』の物語の流れに沿って展開されています。各章では以下のような多角的なアプローチを採用しています: 古代名称と現代分類の対応:『古事記』に記された名称から現代の学名まで特定 生態学的解説:各生物の詳細な生態、分布、生活史 文献学的考証:『日本書紀』や他の古文献との比較検討 考古学的裏付け:発掘調査や出土品による実証 地理学的検証:実在する地名や遺跡との関連性 現代への影響:神社信仰、地名、文化的継承の追跡 主要な章と内容 第一章「天地開闢」 世界の始まりで登場する自然物として、**久羅下(ミズクラゲ)と葦牙(ヨシ)**を解説。ミズクラゲの神秘的な変態サイクルが天地創造の混沌状態を象徴し、ヨシ(現在のヨシ Phragmites australis)が古代日本の湿地環境と深く結びついていたことを論証しています。 第二章〜第四章「イザナギとイザナミの物語」 国生み神話で重要な役割を果たす生物群を詳述。水蛭(ヒル類)、秋津(トンボ)、楠(クスノキ)などが登場し、特に黄泉の国の場面では宇士(ハエの幼虫)、蒲(エビヅル)、**桃子(モモ)**が重要な意味を持つことを解説しています。 第七章「天岩屋戸」 最も多くの動植物が登場する章として、神々がアマテラスを岩屋戸から誘い出すために用いた様々な自然物を詳細に分析。長鳴鳥(ニワトリ)、眞賢木(サカキ)、**天之日影(ヒカゲノカズラ)**など、現在でも神道の祭祀で重要な役割を果たす動植物の起源を明らかにしています。 第八章「五穀誕生」 オオゲツヒメの体から生まれた**蚕(カイコ)**と五穀(稲種、粟、小豆、麦、大豆)について、それぞれの栽培化の歴史や野生種との関係を詳述。日本の農業文化の根源を探っています。 第十一章〜第十三章「オオナムヂ(オオクニヌシ)の受難」 因幡の白うさぎの物語で登場する兎(ニホンノウサギ)と和邇(サメ)、オオナムヂの試練で現れる猪(イノシシ)、蛇(ニホンマムシ)、呉公(トビズムカデ)、**蜂(オオスズメバチ)**など、危険な生物群の生態と古代における認識を解説しています。 第十八章〜第二十四章「天孫降臨から神武天皇誕生」 国譲りから天孫降臨、そして初代天皇誕生までの重要な転換期に登場する動植物群。特にニホンアシカの絶滅、アカサンゴや真珠などの海洋資源への言及が印象的です。 本書の学術的価値 1. 学際的アプローチ 生物学、文献学、考古学、民俗学、地理学を統合した総合的な研究手法を採用し、単なる生物図鑑を超えた文化史的価値を持っています。 2. 実証的研究 著者自身による全国の神社・遺跡の実地調査、動植物の直接観察・飼育体験、専門家との協力による同定作業など、徹底した現地調査に基づいています。 3. 現代的課題への言及 絶滅種(ニホンアシカ、ニホンオオカミなど)への哀悼、外来種問題、環境破壊など、現代の生物多様性保全への警鐘も含んでいます。 4. 視覚的な充実 1000点以上の写真・図版により、古代と現代を視覚的に結びつけ、一般読者にも理解しやすい構成となっています。 特筆すべき発見と考察 タケノコの種類特定:古代のタケノコが外来種のモウソウチクではなく、在来種のマダケであったことの論証 勾玉の材質解析:滑石、蛇紋石、翡翠、石英の詳細な材質分析と時代変遷 古代製鉄技術:磁鉄鉱、褐鉄鉱の利用と「たたら製鉄」の関連性 絶滅種の復元:ニホンアシカの生態と絶滅過程の詳細な検証 植物の栽培化:五穀の野生種特定と栽培化プロセスの解明 本書は、古代日本人の自然観と現代科学を橋渡しする貴重な研究書として、日本文化の源流を理解する上で極めて重要な資料となっています。特に、神話に登場する動植物が現在も日本の生態系や文化の中で生き続けていることを実証的に示した点で、他に類を見ない学術的価値を持つ作品です。

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    投稿日: 2025.06.16