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powered by ブクログ1. はじめに 本ブリーフィングは、提供された資料「愛国心とは何か (扶桑社新書)」を基に、戦後日本における愛国心を巡る主要な議論、テーマ、そして重要な事実をレビューすることを目的とする。特に、戦後社会の変化、教育における愛国心の取り扱い、死者への視線、グローバリズムと愛国心の関係、そして将来に向けた愛国心のあり方といった側面に焦点を当てる。 2. 戦後日本の愛国心に関する主要なテーマ 2.1 「日本人」のアイデンティティーの喪失と国家観の欠如 資料は、江藤淳が指摘した「ごっこ」の1970年代、戦艦大和の生き残りである吉田満が戦後に見た光景、戦没学徒の追悼が提起した「公」と「私」の問題に触れながら、戦後日本において「日本人のアイデンティティー」が抹殺され、「無国籍市民」としての甘えと国家観の欠如が生じたと論じている。高度経済成長を経て、「滅私奉公」から「滅公奉私」の時代へと変化し、国家意識の低下が問題視されるようになった。教育においても愛国心の問題が争点化され、「国家への「忠誠」」という問題提起がなされた。 2.2 「死者への視線」の欠落 資料は、「死者の民主主義」という視点に触れ、柳田國男の『先祖の話』が日本人にとっての死の意味を問い直したことを紹介している。戦没学徒の追悼が訴えるもの、そして「死者への視線」を欠いた戦後教育が批判されている。戦没学徒の遺書が示す、愛児への深い愛情と国家への思いは、現代においては理解されにくいものとなっている。佐伯啓思は、「未来の美しい日本のために戦死した者たち」としての「他者」の喪失こそが、戦後日本の大きな欠陥であったと指摘している。「戦死した若者たちの忘却の上に成り立った自己中心的な平和と繁栄」という佐伯の言葉は、戦後日本の姿を的確に表現しているとされる。死者を忘れ、死者の思いを無視した愛国心は偽物であり、危険であるとまで論じられている。民主主義は伝統を土台とすることで健全に機能し、「死者との協働作業」であるという視点が示されている。 2.3 愛国心の定義と戦後日本の議論 資料は、愛国心の定義について様々な見解を紹介している。清水幾太郎は愛国心を「自分の国家を愛しその発展を願ひ、これに奉仕しようとする態度」と定義し、「民主主義と愛国心の結合」の必要性を説いた。また、市川昭午は「国民として自覚を高めるとともに、国を愛し、これをよりよくしようとする意欲をもつこと」と学習指導要領に示された愛国心を評価している。しかし、戦後日本の愛国心に関する議論は「タブー」視される傾向があり、特に敗戦直後には左派による「新しい愛国心」の模索があったが、それは戦前・戦中の愛国心を「拙劣的愛国心」「忠君的愛思想」と批判する共通点を持っていた。 2.4 国旗・国歌の法制化と教育における愛国心 国旗・国歌への批判と反論、「国旗・国歌」法の成立、そしてその後の問題が愛国心問題として扱われている。教育基本法改正で愛国心が明記された経緯、学習指導要領への愛国心の規定、「道徳の時間」設置への教育界の批判、そして消極的な愛国心資料の現状が述べられている。学習指導要領に「我が国と郷土を愛し」が加えられたこと、道徳の教科化の意義などが議論されている。しかし、道徳の教科化が実現したにも関わらず、教育現場での愛国心に関する資料は低調なままであり、子供たちが愛国心について学ぶ機会はほとんどなかったと指摘されている。「心のノート」の作成・配布は、学校における道徳教育の停滞への対応であったが、「国民精神改造運動」という批判も受けた。教育現場での国旗・国歌の扱いは混乱し、国旗・国歌法成立後も議論は政治的イデオロギー対立に終始し、国家観や歴史観などの基本問題に踏み込むことはなかった。 2.5 グローバリズム時代における愛国心と将来 グローバリズム時代に抱く愛国心の必要性と、国民国家の枠組みの変化、そして移民問題や国際協調、自国優先の動きといった国際情勢の変化と愛国心の関係が論じられている。グローバリズムが進展し、国家が弱体化するという議論がある一方で、ウクライナ戦争やパレスチナ・イスラエル戦争に見られるように、国家間の対立は依然として存在し、国家の再構築が進んでいるという見方も示されている。このような状況下で、愛国心を巡る議論は「迷走する確率が高い」とされている。 2.6 愛国者として生きるために必要なこと 資料は、五輪メダリストの「特攻資料館」発言を取り上げ、生きていること、当たり前にできていることへの感謝と、戦争の悲劇を伝えてこなかった歴史教育の欠陥を指摘している。また、特に若い世代における愛国心の自明化や、東日本大震災などを機に国民意識が変化し、天皇や自衛隊に対するステレオタイプの批判が崩れたことが述べられている。社会主義の敗北による思想軸の変化も、若年層の愛国心の自明化に影響を与えている。 愛国心は「一人ひとりの決断」であるとし、鈴木貫太郎の指針である「私が『国』である」という言葉を引用しながら、一人ひとりが「我が国」を愛し、その発展に貢献しようと努力することが重要であると述べている。これは、自国の価値をいっそう高めようとする「心がけ」であり、「努力」を伴う愛であるとされる。「正しい愛国心は人類愛に通ずる」という視点も示され、「国家」と「個人」、「日本」と「世界」との関係性を問い直す必要性が強調されている。
0投稿日: 2025.05.12
