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疵(きず)の迷楼 耽美幻想セレクション
疵(きず)の迷楼 耽美幻想セレクション
芥川龍之介、泉鏡花、江戸川乱歩、小川未明、小栗虫太郎、木下杢太郎、坂口安吾、谷崎潤一郎、中島敦、夢野久作/宝島社
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総合評価

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    まず装画が怪しげで綺麗!いわゆるジャケ買い あとタイトル『疵の迷楼』別世界へと誘い込まれるような魅惑的な感じに加え、名だたる文豪たちの作品に興味を引かれてしまう。 まだ、このとき耽美という言葉の意味を理解していなかった。ただ「美しい」くらいにしかとらえていなかったので読んでみたら本当の意味を思い知らされ、常軌を逸した世界への入り口だった。 なかなか普通の感覚では理解、共感し難い作品ばかり。どの作品も何かに心を奪われていたり、病的にのめり込んでいたりと現実からかけ離れていて危うい空気が漂っている。 抗いがたい好奇心や欲望、まるで[パンドラの箱]を開けてしまったようなそんな感じだ。 収録されている一部の作品の感想  『鏡地獄』 江戸川乱歩 鏡や凹レンズの魔力の虜囚となっていくKの話。 自宅の実験室で奇妙な物を作りその後Kは… Kが見た世界は何なのか?鏡に纏わる話はたくさんある。異界の入り口、魂を抜き取られる、神の依り代。そんな鏡の持つ神秘性、恐怖感とあわせ、鏡に耽溺していく狂気の過程とKの末路が常人には理解し難くカオス。極めてはいけないものを極め、見てはいけないものを見た。 そしてKの見たものも語られていないから一層恐怖心と好奇心がわいてくる。 『妙の宮』 泉鏡花 少年士官が肝試しに妙の宮という神社を訪れ不可思議な光景に遭遇し不可解な結末を迎える。 明治28年の作品とあって文体が古臭くて読みづらい、けれどどこか美しい文章。たった四頁の中にはたくさんのメッセージが詰まっていた。 寂れた山中の神社が醸し出す妖しい雰囲気、夢か現実か幻か。いったい全体どこへ引き込まれてしまったのか?曖昧で幻想的な世界観にゾクリとさせられる。 金時計が意味するものは何なんだろう?時間を盗られた? 『死後の恋』 夢野久作 美しい宝石に魅入られ元貴族の男が罪悪感に耐えられず死後の恋というロマンスに変え自己正当化しようした? 宝石が持つ魔力と呪いが彼を狂気に導き歪んだ愛に発展させたのか。そもそも語り手の男の話がどこまでが真実かも曖昧。 実は敵軍に殺されたのではなく語り手の男が殺し話を美化したのかも。 戦争の狂気、宝石の魔力が男を狂わせたのか? 結末も曖昧なので読み手に委ねられる。 「強制的な肉体の結婚」という言葉が衝撃的だった。 『疑惑』 芥川龍之介 芥川らしい繊細な男の物語。 罪の意識、良心の呵責から「本当は妻を殺したかったから殺した」のではと悩み苦しむ男の話。そもそも本当に殺したいと思っていたら、そんな長期間悩まないのではないだろうか。 妻を愛していたが故に自分を罰するために「愛していないから殺したことにしたかった」という風に思いたい。 どうもこの物語の主人公の男が芥川自信の心の葛藤を投影しているように思えてしょうがない。 「今日私を狂人と嘲笑っている連中でさえ、明日私と同様な狂人にならないものでもございません」最後の台詞がこころに妙に残った。 耽美文学は面白いとか面白くないではなく 耽美的、幻想的な世界観を楽しむもののように感じた。 たまにはこういう変わった世界観を味わうのも良い読書経験になった。

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    投稿日: 2025.10.15
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    このレビューはネタバレを含みます。

    ■江戸川乱歩「鏡地獄」 既読を再読。 ■谷崎潤一郎「人魚の嘆き」 未読のまま。 水島爾保布の挿画ありの中公文庫で読みたいので。 ■小栗虫太郎「方子と末起」 ★ 初読。まさことまき。 百合、スール、手紙のやり取りという少女小説、にして不思議の国のアリスモチーフ。 推理小説<恋愛小説。 ■泉鏡花「妙の宮」 ★ 初読。 たった4ページだが、なんでこんな風景を思い描いたのだろう? と。 ■木下杢太郎「少年の死」 高原英理・編「少年愛文学選」で既読。 ■坂口安吾「蝉―あるミザントロープの話―」 初読だが、混乱をそのまんま文章にした風情で、よくわからなかった。 Misanthrope はフランス語で「人間ぎらい」の意味。 ■夢野久作「死後の恋」 ★ どこかで読んで、ポッドキャストで朗読を何度も聞いて、また読んだ。 グロテスクと美が結びついたらこうなる。 ■芥川龍之介「疑惑」 初読。 まあまあ。 ■小川未明「百合の花」 初読。 太郎。勇。独楽。泉。お花。百合の花。 言葉と絵で描く夢のような。 ■中島敦「文字禍」 ★ 再読、かもしれない。 いわゆる「ゲシュタルト崩壊」を、その概念が提唱されるもっと前に小説化している。 しかもある意味残酷童話的な話として。 これは面白い。

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    投稿日: 2025.07.07