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生物界は騒がしい
生物界は騒がしい
D.G.ハスケル、屋代通子/築地書館
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総合評価

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    世界と音の関係を、音と世界と人間の関係を鮮やかな言葉で紐解く。風や波、地面の響きしかなかった世界に原初の生き物が音を出しはじめる。やがてそれは語りかける言葉として何かを伝える道具になって地球を駆け巡る。捕食者を恐れながらもコオロギの奏でる音やカエルの鳴き声に込められた求婚のアピール。深海の鯨の声は海水のチャネルを通って何千キロも先の仲間たちに届く。 第3部までの動物たちの音についての文章は珠玉。第4部以降の人間が関わる音の世界に関する文章(人間が豊かな音の世界をズタズタにしている)は著者の熱い気持ちは理解するしその通りだろうけど前半の詩的な美しさには当然のことながら欠ける。

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    投稿日: 2025.08.12
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    書籍概要:音の世界 - 生物、進化、文化、そして沈黙の危機 主要テーマと重要なアイデア 本書は、生物にとっての音の意味、進化との関わり、人間の聴覚と文化(特に音楽)、そして現代社会における自然音の喪失と騒音問題という、多岐にわたるテーマを探求し、音を通じて生命と世界の繋がりを深く考察する。 1. 音の生物学的普遍性と多様性 生存とコミュニケーションの手段: 生物は空気中・水中を問わず、音を縄張り主張(例:強力な音を出すエビ)、捕食、コミュニケーションなどに利用している。 身体による感知: 生物の体は音のエネルギーを受け取るように進化しており、耳だけでなく皮膚や体細胞でも音(振動)を感じ取ることができる。 種による音世界の差異: 生物種ごとに知覚・生成する音の周波数や音色は異なり、それぞれ独自の音響世界を生きている。昆虫やクモなどは主に体表や関節で振動を感じる。 自然界の音の豊かさ: 鳥のさえずり、昆虫の鳴き声、カエルの合唱など、自然界は本来、多様な生物が発する音に満ち溢れている。 2. 音と進化 聴覚の適応進化: 進化の過程で、各種はそれぞれの生存環境に最も適した形で音エネルギーを受け取れるよう、身体(聴覚器官)を変化させてきた。 求愛音と性選択: 音を用いた求愛行動は、個体の健康状態を示す指標となり、性選択を通じて種の進化(共進化)を促す重要な要素となることがある(特に鳥類)。 形態・音・聴覚の収束: 生物の体の形、音を作り出す仕組み、そして聴覚は、進化の様々な力が作用し、相互に関連しながら形作られてきた。 進化の記録: 哺乳類の中耳の複雑な構造などは、数億年にわたる聴覚の進化の歴史を物語るものであり、化石からもその過程をたどることができる。 3. 人間の聴覚と音楽 聴覚の限界: 人間の耳と聴神経は特定の周波数帯域の音を知覚するのに最適化されており、自然界に存在する音のすべてを聞き取れるわけではない。 音楽と身体・進化: 人間の音楽は、生物としての身体構造や聴覚の進化と深く結びついており、音楽と身体的な動きは不可分である。 音楽と文化・環境: 音楽は人間とそれを取り巻く世界との関係性の中から生まれる文化表現であり、使用される楽器の素材、音色、形状などは、各地の自然環境や文化を色濃く反映している。 音楽と知覚: 音楽の創造や享受は、人間の知識、無意識、感覚を統合し、複雑な美的判断を生み出すプロセスである。 古代の音との関わり: 洞窟壁画のある場所の音響特性や、発見されている原始的な楽器は、太古の人類が音といかに深く関わってきたかを示唆している。 4. 自然界の沈黙と騒音問題 「沈黙の春」の現実化: 殺虫剤の使用やモノカルチャー(単一栽培)化などにより、昆虫をはじめとする多くの生物が激減し、自然界の音が失われつつある。 海洋騒音: 船舶の航行音などの人為的な騒音は、海洋生物のコミュニケーションや生態に深刻な悪影響を及ぼしている。 都市騒音と健康: 都市部の騒音は、人間の心血管疾患リスクを高めるなど、心身の健康に悪影響を与える可能性が指摘されている。 騒音問題の普遍性: 騒音による悪影響は、経済力や社会的階層に関わらず、誰にでも及びうる問題である。 5. 音の知覚と意識 耳を傾けることの重要性: 意識的に音(特に自然の音)に耳を傾ける習慣を取り戻すことは、人間が持つ破壊的な衝動を弱め、世界との繋がりをより深く認識するために重要である。 多感覚的な知覚: 私たちは聴覚だけでなく、他の感覚も総動員して環境を知覚し、そこから様々な感情や判断を引き出している。 都市騒音の特性: 都市の騒音は、自然の音風景とは異なり、予測不可能で断続的であり、人間の注意を散漫にさせる特徴を持つ。 6. 生物多様性と文化 音の多様性と生物多様性: 生物種の多様性は、そのまま音の多様性にも繋がっており、両者は密接に関連している。 文化的多様性の価値: 生物多様性と同様に、文化的な多様性もまた、人類の創造性や環境への適応力を支える重要な基盤である。 感覚の鈍化と破壊: 人間はしばしば自らの感覚の豊かさや、それが自然界と結びついていることを見失い、結果として環境破壊や社会の分断を引き起こしている。 結論 本書は、音という切り口から、生物多様性、進化、人間の文化(音楽)、そして現代の環境問題(自然音の喪失と騒音)がいかに深く結びついているかを明らかにする。自然界の豊かな音は、単なる背景ではなく生命の営みの本質であり、その喪失は生態系の健全性を損なうだけでなく、人間の精神的・身体的健康にも影響を及ぼす。 騒音に覆われた現代社会において、失われつつある自然の音に意識的に耳を傾け、その価値を再認識することの重要性を本書は強く訴えかける。それは、私たち自身の感覚を取り戻し、世界との繋がりを再確認し、生物多様性の危機という現実に対して行動を起こすための第一歩となるだろう。 著者が多分野にわたる知見を統合し、さらに本書から得られる利益の一部を環境保護団体へ寄付する姿勢は、この問題に対する深い洞察と責任感を示しており、単なる学術的な探求を超えたメッセージ性を本書に与えている。

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    投稿日: 2025.04.23