
総合評価
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powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「救出の距離」は子に何かが起きた時に助けに駆け付けるのに必要な距離。ほとんどがアマンダと少年ダビとの会話なので、セラピーのよう。登場人物は少ないし、衝撃的な出来事もおこらない。ただ、何か決定的な時点があって、それに近づいていくのはミステリっぽい。日常がぬるっと非日常に変わってしまうのは、ホラーのよう。結末は明確に記されていないが、恐らく父親は失敗したのだと思う。
8投稿日: 2025.08.12
powered by ブクログ語り手となる女性が、大人びた話し方をする少年と、どこかの部屋で(もしくは頭の中で?)会話しているような場面から話が始まり、そのシチュエーションは最後まで崩れることがない。 二人が話す内容は女性と女性の子供。少年と少年の母親。大まかに言ってこの4人の事であり、4人を襲った不可思議で不幸な出来事についてである。 少年と会話している女性の名はアマンダ。どうやら彼女はいま瀕死の状態にあるようだ。そしてすぐ側にいる少年の名はダビ。しかしこの少年は果たして実在しているのだろうか。過去に起きた恐るべき出来事について、少年は「よく思い出すんだ」「重要なのはそこじゃない」と、まるでその場に居合わせたかのように促してくる。「何か」が起きたことは事実であり、「超常的な」事柄が関係していることも話している内容から伝わってくる。しかし、過去の回想という語りの構成が示すように、全てはすでに過ぎ去ったことであり、その「原因」となる出来事を突き止めたとて、何かが変わるわけでもなく、「不幸」は不幸としてそこに存在し続けたまま、ただ刻々と時間だけが無慈悲に経っていくだけだ。少年によって私たち読者は理解を促されるのだが、しかし誰かを、何かを救う方法は無く、脱力した気持ちが胸を覆う。 「救出の距離」とは、親が子供を守るにあたって、それを可能にする最低限度の距離のことだ。物語の中でそのことは繰り返し説明され、それでもなお助からないことが私たちは分かっていて、分かっているからこそ、余計にその重要性を意識することとなる。 スパニッシュ・ホラーとしての乾いた空気感だけで無く、母親の愛情、公害という社会派な側面が強く押し出された作品であり秀逸。しかしそれ以上に、「あなた」や「わたし」という言葉が意図的に多く使われ、読者と作者の関係性をひとつ上の階層から意識させるような「語り」にこそ、本作最大の魅力があるように感じた。
6投稿日: 2025.06.18
powered by ブクログ中編くらいの長さのホラー小説。おそらく病床にいるらしい女性・アマンダと謎の少年・ダビとのやり取りで綴られる物語は、静かながらもそこはかとない不安感ばかりがいっぱいです。アマンダに何があったのか、そしてダビは何者なのか。タイトルの「救出の距離」というのは親が子供をとっさに助けることのできる距離のことで、実際にアマンダとニナの間のその距離が伸びたり縮んだりするのにも不安をかき立てられます。地味で静かな印象なのに、なぜかぐいぐいと惹きつけられっぱなしの一作でした。
0投稿日: 2025.04.08
powered by ブクログスパニッシュホラーとあったがどこがホラーなのか、自分には理解できずあっという間に読了。 もう一度読み直してみようと思う。
0投稿日: 2025.02.03
powered by ブクログ瀕死の女性がそこに至るまでの出来事を朦朧としながら話す形で進む本書。構成の新しさと、明確に書かれないままなのに引き込み続ける文章に驚きました。 作中何度も登場する「救出の距離」という言葉はかなり女性的な感覚かもしれず、根拠はないが当たっている「ピンときた」の表現の最高峰だと思います。いい意味で女性的な感覚に溢れている一方、読み終わってから冷静に考えてみれば、イラつく態度を取っていた夫たちにも正しさがあるな、と思えるところもまた面白さがあります。説明が難しいので、とりあえず読んで!となってしまう本です。 あとがきがかなり理解を進めてくれますので、意味がわからず閉じそうになった際にはぜひあとがきを。
1投稿日: 2025.01.14
powered by ブクログ不穏さと曖昧さが漂う不条理ホラー。真相に近づくラストにもはっきりとした描写はなく、どこに怖さを感じるかは読者に委ねられる。分かりづらい展開なのだがあっという間に読み進めていた。新しいホラーの形ともいえるだろう。 #日本怪奇幻想読者クラブ
5投稿日: 2024.11.15
powered by ブクログわが子を愛おしく想う母性と社会問題への警告と呪い… アルゼンチンのサスペンスホラー #救出の距離 ■きっと読みたくなるレビュー アルゼンチンのサスペンスホラー、芸術性の高い文芸作品ですね。母娘の絆がメインのお話なんですが、なにやら忌まわしい雰囲気たっぷりで、さらには社会問題への怖い警告も含まれています。 本作の導入、いきなり意識があるのかないのか、何が起こっているのかさっぱりわからないところから始まる。得体のしれない恐ろしさに包まれながら、ひたすら少年の声との会話を下敷きにしながらストーリーが進行するんです。この二人の語り口調がまるで魔術や呪文のようで、非日常の世界に引きずりこまれていくことになります。 その後、母と娘とのやり取りや想いが描かれていくのですが、アマンダは常にニナに危険が及ばないか気を付けている。タイトルとおり母が子を思う距離感が丁寧に描かれていくのですが、弱々しくて危なっかしい、いまにも糸が途切れそうなんです。精神的に追い込まれるかきっぷりが生々しくて、ほんと息苦しくて胸に詰まってくる。 そして近所に住む母カルラと息子ダビ。この家族に襲った不幸も、もう忌々しい土地や街を恨むしかないのでしょうか。もし自分に降りかかったとしたら、どういった選択をするだろうかと気が狂うような思いです。 物語が後半にはいってくると、何が原因で彼女たちを追いつめているのか徐々に見えてくる。原因も結果も恐ろしく、なにより本来救ってあげる立場のはずの男どもがまるで頼りない。いつの時代も世界中のどこであっても、男性は仕事やお金を最優先に考える。こんな価値観は未来には持ち込まないでほしい。 しかし…、私も自分の子どもを守るためだったら、どんなことでもやってしまうだろうな。子どもたちを犠牲にすることは何よりも罪ですよ。これからの地球は、未来世代のためにあるのですから。 ■映画版もあります Netflix『悪夢は苛む』 原作は芸術性が高く難解な部分も多いんですが、映像ではかなりエンタメ寄りで物語を追いやすく作られています。ストーリーも要素も雰囲気もかなり原作に忠実で、むしろこちらのほうがオススメしやすいですね。 映像だとリアルに怖いしマジ苦しいっす… 心理的に追いこまれ、人間が壊れていく様子があまりにも凄まじいよ。ラストシーンのダビの行動、彼の演技は必見ですね。怖すぎて夢に出る。
89投稿日: 2024.10.21
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
サマンタ・シュウェブリンの邦訳三作目。国書刊行会のスパニッシュ・ホラー文芸シリーズとしても三作目。 病院のベッドで横たわる女性と、少年との会話劇。どうやら少年は、女性に過去を思い出させ、何かのターニングポイントを見つけたいようで… 中編程度の長さで、サクッと読める。 全編に漂う不安感とむず痒さは、まるで虫が体を這うよう。そして地の文がなく二人の会話だけで話が進むため、熱にうなされるような、奇妙な酩酊感を味わうことができる。 題の「救出の距離」とは、母親が自分の子供の危機に対して、すぐに駆けつけることができる距離。このことの説明と、子供が遊ぶ描写が繰り返されることにより、子供の身に何か起こるのではないかという不安感が拭えないまま読み進めることになる。そこからのラストを是非、堪能して欲しい。 ページの割に強気な価格設定だが、相変わらず見惚れるほどの装丁で。次作も予告されているので、楽しみにしている。
12投稿日: 2024.10.03
