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平等についての小さな歴史
平等についての小さな歴史
トマ・ピケティ、広野和美/みすず書房
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総合評価

9件)
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     読むのにかなり根気が必要だったが、面白い箇所は非常に面白い。なにより平等への道が遠く険しい事、この200年の間に、想像される平等に近づいている事、過去の悲惨な出来事を経て平等が形成されているという事だ。個人感覚では税金を安く抑え、手元の残りをできるだけ残すことが正義に思われるが、社会全体で考えると、そりゃ税収が多い方が国として発展する。国同士の争いだって、国家にお金があるかどうかでも決まる。戦争の結果として、どのように資本が再分配されたか。  専門用語や前提の歴史知識が必要で、中々読み進めにくい本であったが、新たな気づきや視点を提供してくれる良書である。だからといって1000ページを越える過去の著書を読める気はしないが笑

    9
    投稿日: 2025.09.18
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    トマ・ピケティと言えば、私のイメージは『21世紀の資本』によって資本主義においては格差が縮まらないという事をエビデンスに基づいて明かした人。r > g の法則(資本収益率rが経済成長率gを上回る限り、富は労働者よりも資本所有者に集中する)という、格差拡大の根本的なメカニズムは有名だ。だが、この本は約1000ページと分厚く、ペラペラ捲るだけで購入するに至らず、解説本を購入した記憶がある。 これ以外にも、『格差と再分配』『資本とイデオロギー』という著作もあり、3冊合わせて約3000ページ。で、今回の本の凄さは、この3000ページだと読み切れないので、コンパクトに纏めて欲しいというリクエストに応えたものだという事。3冊分の考察とエッセンスが凝縮されたスゴ本である。 共通するテーマは「不平等」で、これを歴史や再分配などの制度、イデオロギーなど多様な角度で考察してみようという内容。私が感じたのは、いずれのアプローチにしても、‟富を追求し、その先行者利得を補強する動機に基づき、格差は守られてきた″という事。先に豊かになった人、先に発展した国はそれにしがみ付き、既得権化したいのが自然な思考であり、それに対して後発者がどこまで抑制できたかという事だ。 そしてその歴史においては世界規模での道徳観念が未熟な中で、奴隷貿易やジェノサイド、植民地化といった収奪、負の軌跡を残してきた。本書ではこの点にもスポットが当たる。 ― 西ヨーロッパ諸国は植民地主義と軍事的支配によって自分たちに都合のいいように世界経済を動かし、他の国々を永続的に周辺的な地位につかせることができたのだ。重ねて言うが、この戦略はとくにヨーロッパに限ったことではない。日本は20世紀前半にアジアの一部地域に対して同じようなことを行い、韓国や台湾が自主的に発展戦略を実施できるようになるには、日本による植民地支配の終焉を待たなければならなかった。中国は、西ヨーロッパ諸国と日本の植民地支配から抜け出すと、数十年間の逡巡の後、1980年代以降、独自の発展戦略を策定できるようになり、たちまち自国より貧しく、低い立場のアジア諸国やアフリカ諸国の経済を支配下に置くようになる。ヨーロッパ諸国が日本や中国と異なる点は、こうした戦略を最初に実施し、長きにわたり軍事的支配を揺るぎないものにしたこと、そして、国内外に十分に組織化された反対勢力が存在しない状態が続いたことが幸いして数世紀にわたってこの戦略を世界規模に拡大したことだ。 ― 1780年代のサンドマングでは全人口の90%が奴隷(メスティーソ、ムラート、有色自由人も含めれば実に95%)で、文字通りの奴隷島だったことも強調する必要がある。178011830年代には、西インド諸島の他のイギリス領やフランス領の島々でも同じような状況だった。たとえば、ジャマイカでは84%、バルバドスは80%、マルティニークは85%、グアドループは86%が奴隷だった。これは、大西洋の奴隷社会の歴史上、より広くは世界の奴隷社会の歴史上、決して見られない最も極端な状況である。 ― ハイチに対する金銭的賠償の他にも重要な問題がいまだに残っている。土地や金融資産を所有しているのは、依然として白人、しかも1848年の奴隷廃止に伴い賠償金を受け取った農園主家庭の子孫がほとんどであるという状況のなかで、奴隷出身者たちが土地の数区画を利用できることを目指すレユニオン、マルティニーク、グアドループ、ギアナでの農地改革の問題は手つかずのままだ。この問題は、どんなに複雑であっても、遅かれ早かれ、何らかの解決策を見出さなければならない ビックリしたのは、‟金銭的賠償“というから、それは奴隷に対して行ったものだと思い込んで読んでいたのだが、そうではなかったという事。賠償してもらったのは、奴隷の雇い主だ。奴隷を解放する事での損失が賠償されたという。現代人が「今だけ金だけ自分だけ」みたいに強欲だと言われがちだが、当時に比べれば随分良くなってきている、あるいは別に何も変わっていないのかもしれない。

    62
    投稿日: 2025.06.18
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    このレビューはネタバレを含みます。

    北側諸国(残念ながら日本含む)が植民地から搾り取った資本をさんざん貯め込み、戦争が終わったり独立した後も補償をすること無く、復興のスタート地点から回復し難い差をつけた。 それにとどまらず、今度は自由主義と市場主義の名の下に、貯め込んだ資本をさらに投資して利益を吸い上げ、援助と言う名の投資すらも自らの利益として還流するシステムを作り上げてきた。 ついにはr>gが決定的となり、自己フィードバックでますます資本が集まるような強固な国際体系が完成しつつある。 これが、自由と平等を謳う民主主義が国際協調の美名のもとに行ってきたこと。ピケティの母国で、自由の国と見られがちなフランスも、例外ではないどころかその最右翼(ピケティは偽善的とまで言っている)。 富の不平等も、その副産物としての成長の限界も、もうこれ以上放置出来ない中で、どうすれば良いか。 これ以上、市場主義を進めても南側諸国へのトリクルダウンは起きない事は十分以上に証明されており、政治的な不安定化、ポピュリズムというより孤立主義の台頭、自然環境の疲弊を考えれば、市場の前提となる社会が崩壊しかねない。 ピケティが提案するのは、一言で言うなら資本の共同管理、と言えるかと思われる。 最大90%以上にもなる所得税の累進性の強化、遺産をいったん公的機関にプールして皆に分配する「みんなの遺産」、グローバル企業への国際的な課税と得られた収益の貧困国への分配、これらで得られた収益を公教育、住居を始めとしたベーシックサービスに徹底的に配分すること。 一見、共産主義としか見えないラディカルな主張だが、あくまで提案されるのは、参加者の合意に基づく資本の管理であり、寡頭制による独占ではない、としている。故に、実効性を持たせるには国際的な枠組みを作ることが必須となる。常任理事国が拒否するであろう国連ではないのだろう(明記されていないが、そうならざるを得ない)。 昔、沈黙の艦隊で日本の共産党に似た政党のキャラクターが言っていた、世界社会主義、と言うのに近いかも。確か作中では、「国連を中心に管理すべきは軍隊では無く資本だ」と言われていた(選挙で負けてたけど)。 リバタリアンでなくとも、ここまでの資本集約は、普通の人なら疑問を感じるだろう。かつての社会主義国のように、イノベーションを削ぎ、パイオニアの意欲を奪い、経済を停滞させるのではないかと。基本的人権の剥奪ではないかと。 本書の特徴として、著者の過去の膨大な研究から抜粋されたデータを引いて論を進めているところがある(故に、ちゃんと読まないとならず、グラフや数値が苦手だと辛いかも)。過去、アメリカで累進所得税の税率が非常に高かった時代の経済成長率はむしろ高かった、としている。累進税による事後的な分配だけでなく、資本化が節税として資産を圧縮する結果、放出された資産が結果として分配される事前分配の効果もある、と説明している。 もしかすると著者の他の著作に詳細な説明があるのかもしれないが、これについては時代の違い、人口構成の違い、主たる産業と要求されるスキルの違い、といった変数があるので、税率のみで比較して良いかはなんとも言えないように思われる。だが、少なくとも十分な報酬が無ければイノベーターや経営者、労働者の意欲を削ぎ、経済が停滞する、との固定観念に疑問を持たせるデータではあるだろう。 むしろ問題となるのは、こういった資産監視を行う国際組織を造りうるのか、に尽きるだろう。ピケティ自身も難しい事は認めているが、現代の社会を構成する有力な国自身が自分たちの優位性を放棄し、過去の清算を否応なしに行わせる(ついでに人道色の化粧も剥ぎ取る)組織の設立など口にすら出すまい。途上国も一致団結するには国内事情の問題が有りすぎて厳しいし、途上国内でも某国のように途上国仲間のはずが援助の振りをして、資本支配を進めようとする国が出て来るだろう。 それでもなお、と言い得る政治家が存在するのかどうか。可能性があるとすれば、巻末に述べられているように、我々市民が経済(大学での経済学では無く、今の世界の成り立ちとしての経済)に関心を持ち、人類が滅亡しないために行動出来る政治家を表舞台に送り込み続け、かつ、常に彼らをチェックする意思を持ち続けるしかないのだろう。これ自体、多大な精神的エネルギーを要する事だ。 ピケティ自身、困難であることは認識しつつも、不可能なことではなく、平等に向かって少しずつでも、時には後戻りしながらも進んできた人類の歴史を振り返りながら進めていく事でそれは可能だ、としている。間に合うかどうかは分からないし、必要性について合意出来た時には手遅れなのかも知れないが。 本書の内容を空論と退けるかどうかは、最終的には個々人の信念によるのだろう。少なくとも、r>gの式だけ流行的に終わらせるよりは、考えて、出来る所から行動出来る市民であれればと思う。

    6
    投稿日: 2025.06.07
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    まわりくどい。 21世紀の資本におけるような鮮やかなデータ分析を期待していたがテイストがまったく違った。

    1
    投稿日: 2025.05.21
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    「r>g」で著名な経済学者トマス・ピケティ氏のこれまでの書籍のエッセンスを詰め込んだ一冊。総計3,000ページを250ページに凝縮(が、内容が簡単というわけでない)。 これまでの「不」平等の歴史や背景を数値で分析・解説。それを以って社会国家・累進税・参加型社会主義・公平な選挙や教育・新植民地主義からの脱却を主張する。本書を読むと、植民地政策や租税方針など、18-20世紀の欧州の悪影響を感じざるを得ず、フランス出身の経済学者だからこそ切れ味鋭く自己批判と推敲が出来ている印象。 現在の権威主義や保護主義が台頭し、分断が再度進む世界において、氏の論説は社会主義や資本主義と並ぶ大変革であろうが、もはや地球がOne Wholeである以上、次のステージに進むための新たな指針なのかもしれない。

    8
    投稿日: 2025.05.08
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    資本主義の歴史を通して、平等がどのように変わってきたか。 平等のあり方を示すのは、資産や富ばかりでなく、権力もまた、不平等の原因の一つであること 奴隷制や植民地支配や解放も、ヨーロッパ諸国の勝手で行われてきたこと 不平等の是正によって、最も富を得たのは、中産階級であったこと 奴隷解放のために、奴隷の雇い主に賠償金を払うと言うのも。納得できない部分もありますが、長い歴史の中で、平等や自由という概念が、人類に根付いたのは本当にここ最近のことの様な気もします。世界の分裂が進む今、公平さを求める風潮がむしろ、後退している気もしました。

    2
    投稿日: 2025.02.23
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    長い歴史を俯瞰したときには、社会の「平等」が進んでいることがデータをもとに説明されている。著者によれば、本書は、過去の複数の著作のサマリとして編纂されており、そのうえで、未来への展望を加えた内容になっているとのこと。たしかに、他書のボリュームを考えると非常に見通しが良くなっており、「比較すれば」とても読みやすい。 読んでいて、感じたこととして、「社会の平等は善である」が当然の前提として議論が進んでいるが、それは「本音?実際?」の社会のコンセサスといってよいのかと思った。つまり、この「平等は善」について、幅広い実際的なコンセサスを図ること自体について課題を考えなくてよいのかと感じた。もちろん、各国憲法などをみえれば、ほぼすべてに記載されていて、それは自明だといえば自明なのかもだが、今の社会を考えると、「本音?」では、皆がそれを善とおもっていないのではと感じてしまう。 ・資産の分布/集中からみた平等の歴史  →これまでゆっくりと進んできたが、戦後大きく再分配(平等)が進んだ。ただ、直近は逆行している。 ・奴隷制/植民地主義を観点とした平等の歴史とその「賠償」に対する問題提起  →ユダヤ人問題はまだまだ賠償があっても、他の植民地の賠償はされていない。むしろ、植民地側が「補償」していういびつ(不平等)の存在。力が正義になってきた歴を踏まえるとそうなるだろうということ含め、なるほどと思った。 ・環境に配慮した多民族共生の民主社会主義へ →理念として分配を強化した社会主義的な発想の社会(既存の社会主義制度ではない)への期待。 著者の提案を読んで、前述の、なにが「善」かという課題について考えてしまった。どの視点での「善」を考えるかによっても違ってくるのだろうと思う。個々の善、社会レベルの善、国家レベルの善、人類レベルの善。地球レベルの善。

    10
    投稿日: 2025.01.19
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    配架場所・貸出状況はこちらからご確認ください。 https://www.cku.ac.jp/CARIN/CARINOPACLINK.HTM?AL=10280550

    0
    投稿日: 2024.12.02
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    累進課税が貧富の差を少なくして、経済を動かしている。目から鱗。 増税に反対する目先しか見えていない人たちには余裕が必要かもしれません。

    1
    投稿日: 2024.10.18