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パワー
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ナオミ・オルダーマン、安原和見/河出書房新社
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総合評価

5件)
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    ナオミ・オルダーマンの小説。 ベイリーズ賞を2017年に受賞。 女性が男性よりも権力を握るようになった世界において、ニールという作家が考古学説をベースに創作した小説を、本書の作者であるナオミがレビューするという設定になっている。 小説では、ある日突然女性が手から強力な電流を放電できるようになり、既存の男性優位の社会を塗り替えはじめた「大変動」時代が描かれる。 その中で特に大きな役割を担う4人の人物の視点を切り替えながらストーリーが進む。 キリスト教の新しい亜流を立ち上げて教祖として信仰を集めていくアリー、マフィアの娘で最強の放電能力を持つロクシー、アメリカで勢力を増していく政治家のマーガレット、中心人物で唯一の男性でネットで人気を集めるジャーナリストのトゥンデ。 彼女たちそれぞれの目線・立場から、数ヶ月で「パワー」を得た女性たちが男性を圧倒し、社会とシステムを作り変えていく姿が描写される。 以上があらすじ。 これまでほぼすべての人間社会では、伝統的に男性が権力を振るい、女性がそれに支配される構造になってきた。 この事実に対して、本小説は「女性が男性を圧倒的に上回る力を手にした場合、社会はどうなるのか?」という、ある種の思考実験を行っている。 この点が、本小説が権威のある賞を受賞し、各界の(リベラルな)著名人から推薦されている所以である。 実際、女性と男性の優位性が入れ替わる過渡期におけるカオス、結果的に現れる社会の形の描写は興味深かった。 特に、女性が力を持ったとしても男女が平等になるわけではなく、残虐に弱者を虐げ、搾取するのが女性側になるだけだという結論は皮肉だが人間の本質をよく表していると感じた。 トゥンデの視点から見た「本能的に女を怖れる」「夜道を歩くのが恐いとはじめて感じた」というような心情も生々しくて良かった。 一方、小説としてのストーリーや登場人物の動きに違和感が多く、没入できなかった。 冒頭および巻末の「この小説は既に女性優位の社会が確立して久しい未来で描かれていて、本当の作者はナオミではない」というメタ設定は、何の伏線もなく小説に加味されていない安易なもので、この必要性を感じない。 また、世界的にパワーが発生しているはずなのに描かれるのが一部の地域のみで、風呂敷が畳めていないこと、核兵器などの大規模兵器の存在がほとんど無視されており、現実味が少ない。結論ありきのストーリー運びになっているため、違和感を感じる。 後は、これは個人的な好みの問題だが、シンプルにアメリカ小説特有の読みにくさがある。 小説としては好みではないが、設定と仮説は興味深い題材だった。

    9
    投稿日: 2025.01.21
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    ある日女の人に特殊な能力が目覚めて、男女の立場が入れ替わって行く過程を描いた作品。訳者後書きを読んで、すごく考えさせられた。 展開は読みやすく進んでいき、これってディストピアか?と思ったけど、読了するとちゃんとディストピアでした。ブラボー!

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    投稿日: 2023.12.25
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    このレビューはネタバレを含みます。

    非常に面白かったけれど、これを通してどう受け止めればいいのか少し戸惑う 男が女に行なっている行為を逆転させることで残虐性を男性が感じる それで男性たちに気付きを与えることができるのだろうか 寧ろその残虐性は女性だから、という結論にならないだろうか 寧ろここでこの残虐性は男のものとイコールであると気づく層はそもそもリベラルであって、女性たちの声に対して揶揄する層ではないのでは、と 揶揄する層は恐らくこれらを女性特有の残虐性と取り、やっぱり女性に権力を与えてはいけないみたいな考えになるのではないか(そういう層は読まないかもだが しかしこの本の中で恐らく言いたいのは作中でもあるように、物事は二元論でない、つまり男がダメだから女という選択肢ではないということだと考える そこに至る解決策があるわけではないが

    0
    投稿日: 2023.08.17
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    中学3年生の「課題図書」の一つとして紹介された書籍です。 「女性が手から電撃を出せるようになる」という設定ひとつで、ここまで現代社会を風刺した小説を書くことができるのか、という驚きに満ちた読書体験でした。 力を得た女性が、それまで自分たちを征服し、虐げてきた男性社会にたいして叛旗を翻すという流れ自体は想像できるものですが、今の世の中に「当たり前」にあると考えられている「女性ならではのやさしさ」という幻想を打ち破るような激しい攻撃性を目の当たりにすると、私自身、男として居心地の悪さや一抹の恐怖を感じます。 大いなる力には「責任」が伴い、それを無視して濫用すると「歪み」が生まれること。人間は理性よりも感情を優先することがままあること。復讐は復讐しか生まないこと。他者を信じたとしても、その信頼が裏切られることもありえること。この世の中の「不条理」な現実がありありと描き出されているところも、本書の魅力の一つだと思います。 この物語は、女性が男性よりもはるかに強く、女性が男性を「支配」するようになってから数千年を経た時代に、とある男性作家が書いた「過去の男が強かった時代から転換したとき」を描いた歴史ファンタジーという位置づけの小説になります。 この作中の小説を読んだ女性作家からの手紙に「『男性の支配する世界』は……きっといまの世界よりずっと穏やかで、思いやりがあって……」という記述がありましたが、これこそ現代の社会への痛烈な批判でしょう。 現実には女性が、そしてこの作品の中では男性が、その性別ゆえに「生きづらさ」や「恐怖」を感じながら生きてゆかねばらならないという現実があります。もちろん、そのような状況は変えていかねばなりませんが、その前に「どのような困難があるのか」ということを自分事として理解することが必要でしょう。 その助けとして、とくに男性読者にこの本を読んで欲しいと思います。 作中の小説で、一人の男性が次第に「ただ生きているだけなのに男性であるという理由で恐怖を感じるようになる」という描写があります。これが、女性が抱く(抱かされている)恐怖なのだと思いますし、それを追体験することができるというのは、貴重な経験だと思います。

    3
    投稿日: 2023.07.16
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    凄かった。上手く説明できないけど、これは要約ではダメで、読書の体験そのものに意味がある本だと思う。 最初のワクワク感から、どんどん凄惨な方向へ転がっていく。 残虐さに目を背けたくなるシーンは多々あるが、裏返してみれば、これは戦時中や不安定な情勢であれば「よくあること」だ。 ミラーリングというのか、男性であれば「普通」とされていることを女性が行うと、こんな感じ方をするのか。読み終わってからも、この本の色々なシーンを何度も思い出す。

    2
    投稿日: 2023.06.29