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寝煙草の危険
寝煙草の危険
マリアーナ・エンリケス、宮﨑真紀/国書刊行会
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総合評価

21件)
3.8
7
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5
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    貧困と社会不安から湧き上がってくるホラーを、ドライで簡素でありながらマジカルな筆致で描きだした短篇集。 評判はかねがね聞いていたのでどんなものかと探る気持ちで読み始めた。「展望塔」辺りまでは語り口がスタイリッシュな今風のホラーだなくらいに思っていたら、「どこにあるの、心臓」以降キレ味鋭い作品がズラッと並んでいてすっかり参った。 あけすけな語り口で身も蓋もないことがサクッと言葉にされているので、一瞬気づかず通り過ぎたあと二度見してギョッとする、みたいな文章が持ち味なのだが、エンリケスはジャーナリスト出身だそうでとても納得した。その身も蓋もなさには、どこかルシア・ベルリンのような味わいもある。以下、印象に残った作品の感想。 ◆「ちっちゃな天使を掘り返す」 結末に、確かに成仏って生者本位のシステムなのかもなぁと納得して笑ってしまった。語り手のヤケクソ具合も相まってコントのよう。 ◆「湧水池の聖母」 洋画・洋ドラを見ていると10代のドラッグとセックス問題が繰り返し描かれるので、ンモーこいつらも本当は何も楽しくないだろとうんざりだったのだが、この小説の少女たちが語る「湧水池の冷たい水で体を濡らしたまま、狭い浜辺で横になっている彼と代わるがわるセックスしながら、池の主がいつ発砲してくるかと待つ。そして、銃弾の雨が降る中を、半裸のまま幹線道路をめざして一目散に走るのだ」というスリリングな欲望は叶わないからこそ鮮烈で、私がうんざりしていたティーン表象をも説明してくれている気がしてストンと腑に落ちた。 ◆「哀しみの大通り」 腐臭の描写が上手くて嫌。政治的にはクリーンになったはずの都市にストリート・チルドレンの霊魂がうようよと犇めいているというイメージはかなり歌舞伎町っぽく、読みながらトー横ホラーという概念が頭に浮かんだ。この辺からエンリケスは物凄く絶妙なタイミングで物語をぶった切る天才だと気づく。 ◆「どこにあるの、心臓」 乙一の『GOTH』を初めて読んだときを思いだした。これ以降の三作は日本の90~00年代の青春ホラーと共通する空気が漂っていると思う。インターネット時代のゴスの生態。薄暗い熱病のようなフェティシズムと性描写の身も蓋もなさ。 ◆「肉」 夭折したスターとそのファンダムを聖書になぞらえて描いためっちゃ今っぽい話。スターの死にざまとその後の死肉食らいシーンは収録作中でも一番ゴアだが、カリカチュアライズされているせいか他の作品よりポップでもある。男性アイドルオタクとしては、ファンダム内の力関係でトップ2にいる二人が手を繋いで墓荒らしするという設定にリアリティが感じられて嫌だった(笑)。男性スターを人身御供に捧げて勃興するシスターフッド。津原泰水の『妖都』も思いだす。 ◆「誕生会でも洗礼式でもなく」 悪魔憑きを訴えるティーンの女の子を説得するため、ハメ撮り専門カメラマンを雇う母、という構図がもうダメなんだけど、父親による性的虐待の可能性に語り手が最後まで一切触れないのが一番不気味。この人の作風からして明らかに故意だろう。カメラマン本人ではなく彼の女友だちの視点から描くことで、悪魔憑きの女の子への好奇心ではなく彼女を取り囲む状況の不穏さに焦点を当てている。 ◆「戻ってくる子供たち」 これは本当に怖かったし居心地悪かったしマジで容赦ないな~~と思った。第一に、子どもたちの失踪にまつわる現実的な背景が恐ろしすぎる。児童保護施設に勤めながらも、記録庫の管理係という壁一枚隔てたところにいる語り手は、ジャーナリストに資料を差しだしながらも直接深入りしようとはしない冷淡さも卑近でリアルで、身に覚えのある感情だからこそ怖かった。この子どもたちのゾンビは「哀しみの大通り」の幽霊たちと同じで、個々人が蘇ったというより全員の意識を共有した、社会的な罪悪感の擬人化のようなものなのだろう。ホラーというエンタメが持つ、生者と死者の別れを切なく演出するためのロマンティックな甘さがこの作品には全くない。実録犯罪もののような緊迫した読み味。 ◆「わたしたちが死者と話していたとき」 こっくりさんをしながら、知り合いに失踪者が何人いるかを自慢していく女の子たちの会話がリアルだなと感心していたが、解説で社会的な背景を知ると余計に恐ろしい。そして一番怖いところでスパッと終わる。最近はホラーでも腑に落ちるオチがあったり伏線回収したりするのが人気だけど、やっぱり無差別に襲い掛かる理不尽が一番恐ろしいんだよ。そして、その点では幽霊も悪魔も邪神も犯罪組織も一緒なんだよな。

    5
    投稿日: 2025.11.10
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    1973年ブエノスアイレスで生まれたアルゼンチン女性作家。 ジャンルはホラー短篇なのですが、背景にはアルゼンチンの社会情勢、貧富や人種の格差、児童売買、女性への暴力などがあり、そして呪術や悪霊の存在が混じって、土着的な物語となっています。 時代背景として、アルゼンチンでは1976年から83年の軍事政権時代に、警察や軍による市民弾圧がおこなわれ、3万人もの人々が姿を消した、ということがあります。 グロテスクな描写、短篇の中では解決していない、弱者は酷い目にあう、などやりきれない展開ではありますが、そんな死んだ人、表面的にはきれいにされてもそこにある悲しみや苦しみ、霊となって戻ってきた者たちへを再度表面化させて、鎮魂するような短篇だと思いました。 なお、ある短篇で「日本では、あの世がいっぱいになると入りきれなくなって霊魂が地上に戻って来る」って言われますが、どの宗教だ?日本のホラー映画とか見たのか?「地獄の蓋が開いた」みたいな? さらに「日本は狭いけど人口が多い」って言う会話に続くのですが、これって日本人の中には霊魂(幽霊)が混じってるけどそのまま生活してるかも〜、ってのが日本人ってことかな? 『ちっちゃな天使を掘り返す』 小さい頃に住んでいた家の裏庭から小さな骨が出てきた。おばあちゃんは「赤ん坊の頃に死んだずっと下の妹だ」って言う。今でもたまに、雨の日には妹の鳴き声が聞こえるんだって。 やがて家族は家を手放した。私は一人暮らし。だが眼の前に赤ちゃんの亡霊が現れた!腐った顔に体、ボロボロの毛布、口がきけずにどこかを指差すだけ。 どうすればいいの!? 数日経つ間になんだか慣れてきた。触ることだってできるから、腐った体と顔を白い布で覆ってみた。裸足で付いてくるからリュックに入れた。 どうやら、昔住んでいた家に行きたいらしい。わたしは赤ちゃん大叔母さんを連れて昔の家に行くことにした。 == 怖い、んだけど、なんだか笑ってしまう。不気味なものでも慣れちゃって、亡霊に振り回されるだけじゃなくて語り手が亡霊を振り回したり・笑 『湧水池の聖母』 思春期女の子グループのなかで一歩先に行くのはシルビア。もう働いて一人暮らし、みんなのやったことはとっくに体験済み。なんか悔しい。だってわたしたちはイケイケの美少女揃いなのに、シルビアは色黒のちび!(多分他の子は白人系、シルビアはインディオ系)それより気に食わないのは素敵なディエゴと付き合い初めたから!! 私達だってディエゴとセックス体験したい!付き合いたいわけじゃない、せっかくならディエゴを夢中にさせて夢のようなセックスがしたいじゃない。 ある時グループは湧水池にピクニックに行く。シルビアとディエゴは泳げるから池で「聖母の祠」まで行く。わたしたちは汗びっしょりで池の周りを歩いたの!くやしい! でもね、この湧水池の周りには野犬の群れがいるんだって。そして「聖母の祠」は、キリスト教のものではなくてなんか邪悪なものなのよ… 『ショッピングカート』 汚らしい老人が道端で汚らしいことをしたので、みんなで追い払った。一人、私達のママだけは「そんなにしなくてもいいじゃない。ほら、あんた、もう行きなさい」って言ったの。老人はショッピングカートを置き去りにして逃げていった。 それから数日して、近所のみんなは全員ひどい事故や詐欺で破産した!全員!みんながあの老人の呪いだって言っている! でも実は私の家だけは破産を免れているの。それがバレないうちにここから逃げなくちゃ… ==最後のママの言葉と行動がよくわからない…(-_-;) 『井戸』 ホセフィーナと姉のマリエラは、おばあちゃん、お母さんに連れられてある家に行った。ホセフィーナ以外のみんなは何かを異常に怖がっていた。家から出られない。誰かが事故に合うのではないかと考える。食事もろくにできない。眠ることも怖い。 その家の「魔女」は何かをしたみたい。おばあちゃんたちはすっかり元気になった。 でもそのあと、ホセフィーナが何もできなくなった。怖い。食べるのが怖い。外を見るのが怖い。でも家の中も怖い。眠るのが怖い。人が怖い。自分が怖い。生きるのが怖い。死ぬことが怖くて自殺なんてできない。 姉のマリエラは、子供の頃に行ったあの家にホセフィーナを連れてゆく。 だが「魔女」がいうのは… ==これは苦しい。遺伝性精神疾患なのか、太古の悪霊とか呪いなのかわからないけれど、悪霊だとしてもこの祓い方か。カウンセリングに連れて行ってあげてほしいが、この家族ではなあ… 『哀しみの大通り』 ソフィアは、バルセロナに住む女友達フリエタを訪ねている。バルセロナってこんなに汚い街だっけ?こんんなに腐った匂いがするの?こんなに変な、苦しそうな、あたまのおかしそうな、嫌な目をした人ばかり居る街だっけ? フリエタがソフィアに言う。以前バルセロナでは小児性愛者組織があった。貧しく死んだ子供、親に売られた子供がたくさんいた。みんなここに留まっている。子供たちを忘れるなって彷徨っている。酷い臭いを撒き散らしている。私はもう出られない。でもあなたは早く逃げなさい。 『展望塔』 海辺のホテルを舞台に、二人の女性の目線で交互に語られる。 一人は、酷い経験をして仕事が続けられなくなり、一人で旅に出たエリナ。 もう一人は…?読んでいくとこのホテルに閉じ込められた女性の亡霊だと分かる。誰かを身代わりにしたい。でも自分のことが見えない人たち、脅かし方を間違えてホテルを去った人たち。この女エリナはどうかしら? 『どこにあるの、心臓』 私は子供の頃から病気の人にエロスを感じた。まずは物語の登場人物で心臓病肺病の患者が息も絶え絶えになり、その呼吸が途絶える事を考えて気が狂うくらいに自慰行為に耽った。 やがて実際の人の心臓の音に惹かれる。その中でも奇妙な心音を持つ男と実際に会うようになった。彼の心臓の音!気が狂うくらいの自慰行為! でもだんだん飽きてきた。本物の心臓がほしい、触りたい。鼓動を握りつぶしたい…。 『肉』 カルト的人気のロックスターのサンディアゴの最後のアルバムは「肉(カルネ)」。そしてものすごい死体で見つかった。葬儀は思ったより混乱しなかった。墓で過ごすファンも思ったよりおとなしかった。 かと思われた。 だがある日守衛は二人の少女が、サンティアゴの墓のそばで…、…、…(読んでください…(=_=;) 彼女たちの行動は国中の話題をかっさらった。やがて二人が自由になったら、他のファンたちはサンティアゴを真に理解した彼女たちを通して復活を祝うだろう。 『誕生会でも洗礼式でもなく』 私は、隠し撮り映像で金を稼ぐニコと知り合った。たまに彼の隠し撮り撮影を見せてもらう。カップルの性行為、小児性愛者用の好みの女の子詰め合わせ。 ある時マルセラという少女の母親から依頼が来た。「娘のマルセラが幻覚を見て暴れて暴言を吐いて自分を傷つけて自慰行為をする。マルセラが幻影を見ているところを撮影してほしい。マルセラが自分で見れば、幻影だって分かるだろう」 マルセラは撮影に来たニコに「あなたならきっと分かる」と言う。だがニコの撮った映像にはマルセラしかいない。彼女の見ていたのは本当に幻覚なのだ。 ニコはしばらくマルセラを訪ねたが、やがていかなくなった。 きっと幻覚を見て大暴れして自分を傷まみれにした後で、ただ眠りに落ちる姿に惹かれたんだろう。だから行かなくなったんだ。 『戻ってくる子供たち』 メチは行方不明児童のファイル整理の仕事に就いた。この町ではたくさんの子供たちが姿を消す。家族からの暴力や強姦による家出、誘拐、売春組織に売られる、急に姿を消す… メチの男友達のペドロはジャーナリストで、印象的な事件を!と、児童誘拐を追っている。メチとは情報を交換し合っている。 メチが、多大なファイルのなかでも特に印象的なのはバナディスという14歳くらいのインディオ系の美少女だ。幼い頃から裏道で売春をしている。少女の美しさ、神秘的な様子に、道で生きる人たちのファンが付いた。バナディスの最後の目撃談は、二人の男の性行為の相手をさせられ録画されたというもの。男たちはネットで稼ぐのだろう。 だがメチはそんなバナディスを見つけたのだ!公園で!ただ座って! その時から、行方不明の子供たちが次々に戻って来る。大喜びで迎え入れる親たち! だがすぐに違和感に気がつく。何年の前に消えたというのに、その時と全く同じ様子で帰ってきたのだ。食事はしない。親たちは「そっくりだけど自分の子供ではない」と言って、帰ってきた子供を追い出したり、絶望で自殺する者もいた。 追い出された子供たちは施錠されているはずの空き屋敷に集まっていった。 もう一度バナディスを追いかけたメチは、子供たちはすでに「集合体」なのだと悟る… 『寝煙草の危険』 パウラは寝煙草で焼け死んだ老女の話を聞く。彼女は一人でマットレスでシーツを被って食事をして、煙草を吸っている。マットレスは汚れて臭いし、被ったシーツは焼け焦げている。 でもその焼け焦げから天井に光が届く。まるで星みたいだ。 『わたしたちが死者と話していたとき』 思春期少女たちは降霊術(コックリさんみたいなやつ)に夢中になっている。 彼女たちの状況が少しずつ分かってくる。ポーランド系大家族のポラーカ、祖母の家に弟と住むフリータ、スラムぐらしのナディア、郊外に住むどんくさいピノキア、そして私。 時代はまだ軍事政権による市民弾圧の痕跡がある。多くの国民は知っている誰かを連れさられていたのだ。フリータの父母を初めとして、友人の兄、近所のおじさん。わたしの世代は直接被害者にはならなかったけれど、本や映画、歴史の授業で、どんなに酷いことがおきたのかは知っていたのだ。 ある日の降霊会、それは最後になった。だって本当に現れたのだ。理由は「一人だけ、知り合いの誰も連れ去れられていないから」。 ==間接的であっても被害を受けていない人が非難されてしまう。この話では、霊魂が「自分と同じように苦しんでいないやつは気に食わん」って感じてるのか? 降霊ということで書いているけど、社会全体が何事もなかった人への批判があったんだろうか。

    42
    投稿日: 2025.09.12
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    同発行元の「救出の距離」でスパニッシュホラーを知り、次に手に取った本書。本書も、むしろ本書が増して面白い。古くからある恐ろしいものが違和感なく現代に現れる短編集で、バナディス、フリエタと出てくる人名は馴染みがないものの、じわっとくる気味悪さはどこか親和性を感じ読みやすかった。 ○ちっちゃな天使を掘り起こす 雨の日に祖母が聞いていた泣き声。その元凶が突然ベッド脇に現れる。腐りかけのそれは主人公を終始追いかけるが、PC作業中に横で座っていたりと少し可愛く見えてしまった。 ○湧水地の聖母 ブスのくせに!というねっとりした嫉妬、正体不明の噂話、湧水の清らかさが美しく組み合わさった人怖。 ○井戸 魔女の家に行った日から極度の恐怖症になった少女。精神科治療と呪術の両立が面白い。ラストが悲しく新しかった。 ○悲しみの大通り 清掃と秩序が重視されたバルセロナに入った途端、感じる異臭の正体。淡々と語られる街の違和感を読み進めるのが面白い。 ○どこにあるの、心臓 心音に興奮する女の進みきった自己世界の話。 ○肉 急死したロックスターとその想いをまっすぐ飲み込んだファンの人生について。最高にロック。 ○戻ってくる子供たち 行方不明児童の情報センターで起こる出来事。「夏になったら下りる」と答えた群れの想像が何故か頭から離れず、好きな物語。 ○寝煙草の危険 表題。ぷつぷつしたものの気持ち悪さがいつしか壮大な星空となる素晴らしさがあった。

    2
    投稿日: 2025.08.24
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    『寝煙草の危険』は、ドラッグや集団失踪といった現代社会が抱える問題に、呪術や幽霊といった超常的要素を織り交ぜた短編集であり、ジャンルとしては「ポリティカルホラー」となるでしょうか。 前半の5話辺りまでは、呪術的な災いに直面した登場人物達が、どう抗い、いかに折り合いをつけて生きていくのかが短くまとまっており、不条理系ホラーが持つ得体の知れない怖さや魅力が際立っていました。 一方で、作者が力を入れていると思われる、社会問題を前面に押し出した作品群では、ホラーとしてのインパクトがやや薄れた印象を受けました。社会情勢という「集団の論理」を扱う中で、個人の恐怖や驚きが相対的にぼやけてしまい、物語がドラマ寄りに傾いてしまっている箇所も。社会背景の描写がやや冗長に感じられたり、ホラーとしてのオチが弱い話が見受けられました。社会問題の複雑さと、個人に根ざしたホラーを両立させる構成は難しいように思えました。 とはいえ、現代社会が抱える根深い問題と超常現象という非現実を組み合わせ、現実と非現実の境目をホラーの舞台として描こうとする試み自体は新鮮でした。従来のホラーとは少し違った、社会に潜む歪みや不条理に目を向けたい読者におすすめの一冊です。

    1
    投稿日: 2025.07.22
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    お初のジャンルでございました。 短編集というのもあり非常に読みやすかったし、 いい感じのホラー感と面白さかな〜と。 幽霊や呪術と人の悪意がいい感じに共存してて ヒィー!ってはならないけどおお〜となる感じ。 個人的には湧水地の聖母が1番良かったな。 まさに人の悪意なんですけど、 私も読んでて悪意から願ったので…笑 後書きのアルゼンチンの歴史を知るとなるほどそうなのか〜ともなれます。知識がある方は本編を読んでいる最中にきっと気づけるのだろうね。 めちゃどうでもいいんですけど作中2回うんこが出てきて、それがどっちもげりぴーだったのはちょっと笑いました。お気に入りなのかな?!

    2
    投稿日: 2025.07.08
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    アルゼンチンと言う国の不安定さとゴシックホラーの融合 あとがきがとてもわかりやすく魅力を伝えていると思う。 国の事情や風土のようなものがあるからこそのなんとも言えない不気味さなんだなと。 国書刊行会のスパニッシュ・ホラー文芸 ・兎の島 ・寝煙草の危険 ・救出の距離 とすべて所謂、ジャケ買いしていますが… やはり買い時は毎回躊躇するお値段

    0
    投稿日: 2025.05.26
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    このレビューはネタバレを含みます。

    アルゼンチンの女性作家さん。初読み。 「スパニッシュホラー文芸」と呼ばれてるらしい。 「このホラーがすごい 海外編 2024年」での1位。 12篇の短編集。 ・ちっちゃな天使を掘り返す   赤ん坊の亡霊 ・湧水池の聖母   女子の嫉妬 ・ショッピングカート   じいさんの呪い ・井戸   押し付けられた恐怖 ・悲しみの大通り   臭う ・展望塔   いわゆる地縛霊 ・どこにあるの、心臓   心音フェチ ・肉   推しの死肉を貪る少女たち ・誕生会でも洗礼式でもなく   自傷行為 ・戻ってくる子供たち   姿形だけは一緒だが ・寝煙草の危険   寝煙草は危険 ・わたしたちが死者と話していたとき   アルゼンチン版コックリさん 平易な文章で書かれた暗くて黒い物語。 とても読みやすい。 その書き方からか、あまり怖さは感じなかった。 意図してそうしているんだろうが、投げっ放し系が多いな。 オチというか、結果や謎解きのカタルシスは得られない。 起承転で終わり、みたいな。 訳者あとがきでも触れられているように、アルゼンチンという社会とホラーの融合なのだろう。 アルゼンチンの現実をリアリズムで描き出すのはそもそも難しい。(中略)私たちの現実はすでにホラー要素満載だったから。行方不明者たちの存在、私たち自身が死者の子供たち、失われた世代の子供たちだった……私はどんな種類の沈黙にも与したくない。恐ろしいものに怖気づいていてはとても危険だと思う。ホラーというジャンルは、政治的暴力みたいな言葉に埋もれてしまう本物の恐怖に光を当てる(著者インタビュー抜粋) 帯にはいろいろ書かれている。  カズオ・イシグロ絶賛「今年のベスト・ブック」  文学界のロック・スター  ホラー・プリンセス  12篇のゴシカルな恐怖の祭典 しかし、個人的には帯の隅っこに小さく書かれている数字が1番のホラーだった。 定価:4180円(10%税込み) (✽ ゚д゚ ✽)ポカーン ていかよんせんひゃくはちじゅうえんかっこじゅっぱーせんとぜいこみかっことじ!? 272ページポッキリで!!! 強気な値段設定だなー。 今って、俺が知らんだけで本はそんな高くなってんの? 単行本って二千円前後のイメージなんだか。 海外物だからか? 1149ページあった京極夏彦さんの「了巷説百物語」は4400円税込みで、さすがにあの重量と内容には納得できたが、これはな〜。 図書館推奨しま〜す。 一読してお気に召した方はぜひお買い上げを。 そうそう。 内容だけなら★2〜★3の下くらいだったんだけど、値段のコスパを考慮して評価を下げました。 m(_ _)m

    35
    投稿日: 2025.05.13
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    ホラー、、、苦手だ。。。と思いつつ読み始めたけど、(最初こそ入り込めなかったものの)楽しく読めた。特に「戻ってくる子供たち」が面白い。 とはいえ、最初入り込めなかったのも、私がアルゼンチン(あるいは南アメリカ)の社会状況をよく理解できていないからだろう。現実の方がもっと恐ろしいものだとすれば、ホラー小説という形式でオブラートに包んで追体験させてもらっているという事か。そう考えると「戻ってくる子供たち」を読んでいてなぜか感じた痛快さも理解できるような気がしてくる。

    3
    投稿日: 2025.02.09
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    このレビューはネタバレを含みます。

    土地に根ざした恐怖は、その国の文化や社会情勢や歴史と分かち難く結びついていて、そこから逃げることはできない。私はこれをフィクションとして怖がることができるし、物語である以上それは正しいんだろうけれど、呪いや幽霊や異常な現象の背後にある現実が身近にある人たちが読んだ時の恐怖は私では想像も及ばないものがあるのだろう。その隣り合わせの恐怖をほんの端っこだけでも理解するのに、この物語たちはうってつけだと思う。 ・ちっちゃな天使を掘り返す アンへリータ、ビジュアルが悪夢的なのにどこか愛らしい。主人公のやれやれ感も合わさってどこか楽しささえ感じる。ところで、別に幼少期のことだけが原因ではないよね、主人公の元にアンへリータが来た理由は。 ・遊水池の聖母 邪神〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!邪神邪神邪神〜〜〜!!! 思い上がった若者から見る思い上がった若者の描写が良すぎる。いやそんなことで、と言いたいところだけど、でも熱中している時はそれが世界の全てだもんな。わかるよ。綺麗さっぱり忘れられるのかなこの子達は。 ・ショッピングカート ラストの解釈がちょっと難しくて、あれは、母親のいう「あの文無しの年寄り、くそったれよ」って、うんち爺のこと?フアンチョのこと? みんながみんなより弱い立場の人たちを馬鹿にしている。呪いなんてなくたって、ゆるやかにこういうことが起きたんだろうな。誰もが同じように不幸になった時、奪い合うんだこの人たちは。 ・井戸 ジャパニーズ因習ホラーのような味わいもあるなこれ。知らずにいる権利をすら奪ったという点において、姉はマジで最悪です。自分の慰みのために最後に残った妹の拠り所すら奪う権利がお前にあるのかよ〜〜〜 ・悲しみの大通り 嗅覚にくるタイプの怖さが苦手なのかもしれず、えらい怖かった。臭いの記憶はいつまでも残るよね。忘れるな、忘れるなっていう声まで聞こえてきそうで辛い。その土地に住む人間がどう歩んできたか知らないまま楽しむこと、過去を何もなかったことにすること。どっちも最悪だけど、だからって何ができるんだ?とも思う。 ・展望塔 視点が気持ちわるくて好き。 同じ悲しみ、あるいは苦しみをもつ人間じゃなければいけないんだとしたら、未来永劫ここには不幸しかないじゃない。 繰り返しが続くだけ。嫌だな。 ・どこにあるの、心臓 うわぁ〜〜〜〜。欲しいものが手に入っても入らなくても、到達してしまった人間は壊れてしまうの?いやでもここまできたらいっそ美しささえ感じるな。その自己弁護も含めて。 あと私は心臓が好き。 ・肉 やった!!!!!やったぜ!!!! 対象人物を物理的に取り込むことでその人物に近づこうとするタイプのカニバ!だ!!! カルト的な人気っていうだけでは説明がつかない何かが生まれていく悍ましさは同時にやたらと高潔なものに見える。不思議。 ・誕生会でも洗礼式でもなく このパターンのタイプの悪魔憑き、よく見るけどこれはどうかな、実際に悪魔の仕業だと思いたい。この両親のまるで駄目な対応を見るに、そうじゃない場合もあり得る気もするけど、どちらにしても娘の証言云々はともかく苦しみは本物であることを受け入れて接することができない時点で何もかもおしまいだ。 ・戻ってくる子供たち 怖い。一番怖い。途中まで完全に油断しており、社会問題の話だなぁと思いながら読んでいた。基本的にはそうなんだけど、中盤以降の怖さはちょっと尋常ではない。何かの器が溢れてしまったのだという認識は合っているのかもしれない。 ・寝煙草の危険 そんなものより倦むべきものが多すぎるよね世の中は。心の安らぎと死の恐怖を天秤にかけて、手近な安寧をとりたい気持ちはわかる。それがたとえ死を招く結果になったとしても。 ・私たちが死者と話していたとき 身近に行方不明者が多すぎる。そうじゃない人間が不興を買うようなことが「あたりまえ」なのが一番怖い。 コックリさんはどこの国でもやっぱり人気なんだろうけど、ことこの物語では出てくる霊に人格がありすぎる。方向性が違う怖さだよこれは。

    5
    投稿日: 2024.12.26
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    ついにキターーー!やっと図書館の順番が回ってきたよ(一冊4000円強の訳書なので貧乏学生にはさすがに買えないでふ…) 「このホラーがすごい!」で海外部門1位だった寝煙草の危険、どんな話かお手並み拝見させてもらおうじゃないの 途中まで読んだ 面白いんだけど、訳書だからどうしても読みづらい、あとホラーではあるけど全く怖くない。 グロいシーンも少ないし。最初の一編くらいじゃないかな? 普通に少し暗い小説の短編集って感じ。 物語としてはホラー(ゴシックホラーってやつかな?)なんだけど、やっぱり西洋のホラーは全く怖くないな〜 自分がアジア人だからなのか、アジアンホラーが普遍的に怖いのか、どっちかわかんないね。(個人的には後者だと思ってる) ホラーとして読むとちっとも怖くはないけど、まあ、文学作品として読むと、感情の機微が丁寧に描かれてて、小説としてのオチはどの短編も基本的に面白いかな。ボキャ貧でごめん ホラーだからこう、人間の利己的で汚いところ、社会の闇みたいなのは結構描かれててよかった。あと例によって性格の悪い女性の解像度が高いですね。女性作家あるある。 エンタメとして完結してるんじゃなく、ちょっと社会派的なメッセージも込めてるタイプのホラーでもある ぼぎわんシリーズとかもちょっとそういうところあるけど ※一応読んだ短編のうち面白かったやつを記録しておく 井戸 いわゆるオチのあるホラーって感じで面白かったな 露悪的な感じも含めて 展望塔 同じくオチがあってよかった 悲しみの大通り 点と点が繋がる的な、ちょっと謎解き要素もある 友人の最後の一言がいいね わたしたちが死者と話していたとき あー、よせばいいのに禁忌に触れてしまったんですね とてもクラシックなホラーの展開 こういうことを面白半分でやってはいけませんね

    8
    投稿日: 2024.09.07
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    2024/8/3 読了 外国が舞台の本は、文化が違うからか読みづらく感じる本が多いけど、これは違った。訳者の方が良いのか、つっかえることなく読めた。 少しグロテスクな内容で、性があけすけ?な感じが驚くと共に、ホラー感があり、別の本も読みたいなと思った

    3
    投稿日: 2024.08.03
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    「アルゼンチンのホラー・プリンセス」と呼ばれる作者のホラー短編集。アルゼンチンというのはあまり馴染みのない国で、だから風習とか国の雰囲気とかそういう部分はすっと入って来にくい部分はありますが、それもまた作品の味わいとして印象的です。 お気に入りは「展望塔」。オーソドックスなゴシックホラーという感じの雰囲気がとても好きな一作です。これは際限なく連鎖していくのかも、と思わせられるところもまた恐怖。 「わたしたちが死者と話していたとき」もぞっとさせられる一篇でした。ウィジャボードは魅力的なアイテムなのですが、やはり底知れない恐ろしさを感じさせられます。しかもこの恐怖は予想外のところから来たなあ。 「どこにあるの、心臓」はタイトルの意味が一番気になった作品です。こんなジャンルがあったの? と驚いてしまうフェチズムの物語。どんな要素でも感じる人にとってはエロティックなんですね、というのが衝撃的です。

    3
    投稿日: 2024.07.24
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    おすすめ資料 第589回 言語を超えて届く作品を味わう(2024.07.12) 図書館では、スペイン語圏の小説の日本語翻訳版を網羅的に集めています。 こちらの2冊は、今年の日本翻訳大賞の最終選考作品に選ばれ、また、英訳はブッカー国際賞の最終候補に入りました。 言語を超えて評価された作品を味わってみませんか。 【神戸市外国語大学 図書館蔵書検索システム(所蔵詳細)へ】 https://library.kobe-cufs.ac.jp/opac/opac_link/bibid/BK00363114

    0
    投稿日: 2024.07.17
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    現代を生きる若者たちを主に主人公に据えて、昔ながらの民間伝承や信仰を織り込み、現代の社会問題を絡めて描き出した味わい深いホラー短編集。不条理さと現実の不合理さが同時に味わえる、複雑な面白味のある話を楽しめました。 この短編集の中では、「戻ってくる子供たち」が一番印象的でした。一見現代の社会問題を追っているような筋書きから、次第に不条理な不気味さが表に出てきて、現実を凌駕していく。けれどその不条理さは、辛く酷い現実を今生きている少年少女たちのどこへも表出しない辛みの別側面でもあるようで、けして絵空事だと軽んじて受け止められない重みを感じました。 多くの短編でこの短編のように貧困などに晒されて辛い現実を生きる少年少女の姿が描かれていて、それに向き合い切れていない国や社会の「不条理さ」を物語のかたちに変えて描いているような印象も受けました。 この地に足が付いた不可思議さを描く作風はとても好みでしたので、別の作品も読んでみたいです。

    9
    投稿日: 2024.07.15
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    海外のホラー自体あまり読んで来なかったのですが、こちらはスパニッシュ・ホラー(スペイン語圏のホラー文芸)という馴染みのない本で、新鮮な読み心地でした。 心霊現象、呪い、降霊術といった、ホラー作品においてポピュラーな素材を使ってはいるものの、お国柄なのか、それとも作者の特性なのか、どこか乾いた空気感が常に漂っていて、暗い話というよりかは人間の”狂気”にフォーカスしている側面が強いように思います。 全12篇の短編集であり、10ページくらいでサクッと終わる話もあれば50ページ近くの話もあります。不可思議なことが起こったときの反応は短編ごとにバリエーションがあって、例えば「ちっちゃな天使を掘り返す」では赤ん坊の頃に死んでしまった祖母の姉妹が霊となって出てくる話なのだけど、主人公がさほど怖がっておらず、手のかかる子どもに接するくらいの距離感でいるのに情緒(と言って良いのかわからないけど)を感じました。 呪いをかける側の話、かけられる側の話どちらもあり、普段通りに日常生活をしていただけなのにポイッと絶望的な状況に落とし込まれるってこともしばしば。でも霊にしろ生者にしろ、嫉妬とか性欲とか後ろ暗い感情も併せて持っている場合が多いため、作品全体に「生気」が満ちています。てか変態っぽい登場人物が案外多いです。道ばたで脱糞する話が2回もありますし、恐さのベクトルが狂気寄り。アルゼンチンの歴史、あるいは女性性についてをホラーとして語ることを作風としているようで、政治性やメッセージ性は意外と強いです。が、それが作品のわかりづらさや難しさになってるということはなく、むしろ芯の通った話になっていると感じました。 あと「そこで終わるの!?」という短編がちらほらあって、もっと続きが読みたくなりました。でもたぶんあそこで終わらせるからこそ、物語の広がりとか恐怖感の持続に繋がってるんだろうなあとも。 お気に入りの短編は「ちっちゃな天使を掘り返す」「ショッピングカート」「肉」。タイトルから想像するものを超えたグロテスクな内容で、嫌な情景が脳にこびりついて離れません。

    6
    投稿日: 2024.07.02
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    このレビューはネタバレを含みます。

    〈アルゼンチンのホラー・プリンセス〉による12編の悪夢。幽霊や魔女、呪いといったガジェットが登場するゴシック調ホラーに描かれるのは、現実のアルゼンチンが抱える過去の傷と病理。本書全体に漂う倦怠感と閉塞感、絶望、そしてグロテスクなまでに生々しい生への渇望。 ・小さな骨を庭から掘り出したことで赤子の幽霊に付き纏われる少女「ちっちゃな天使を掘り返す」。アンヘリータ(ちっちゃな天使)の望みとは一体何だったのか。 ・少女たちの憧れと嫉妬が残酷な結果を招く「涌水地の聖母」。この"少女たち"というワードもエンリケス作品の重要な要素なのかも。 ・住宅街に現れた酔いどれの老人はゴミを満載したショッピングカートを押していた「ショッピングカート」。呪い以上に怖いのは嫉妬……あるいはそれも呪いだったのか。 ・家族旅行からの帰宅後6歳の少女は"恐怖"を知った「井戸」。異様なまでの恐怖心を抱えた少女が辿り着いた悍ましい真相。結末は収録作で最も惨い。 ・5年ぶりにバルセロナを訪れた主人公が悪臭に付き纏われる「悲しみの大通り」。スペインも"陽光溢れる国"という顔だけではないということ。 ・ホテルの展望塔に棲む"彼女"「展望塔」。正調ゴシック怪談を45度ずらして描いたーといった趣き。 ・他人の心音に激しい興奮を覚える女性「どこにあるの、心臓」。フェティシズムの行き着く先。 ・異様な自死を遂げたロックスター。熱狂的ファンの少女2人が彼の歌に従った行為とは「肉」。凄惨な聖餐。 ・幻覚に苦しむ娘を撮影して欲しいとの依頼を受けた映像制作業の男が映したもの「誕生会でも洗礼式でもなく」。少女のいう"彼"とはエクソシスト的なものなのか、あるいは抑圧された精神によるヒステリーだったのか。 ※正直、この3編はどうも好みでないw ・行方不明の子供たちの情報を管理する部署に勤めるメチは、ファイル中の美しい14歳の少女に強い関心を覚える「戻ってくる子供たち」。収録作中最も長い(といっても70㌻弱)作品。アルゼンチンの抱える闇と不条理が色濃く描かれ、現実の恐怖と超自然的要素が相俟って恐怖度は作中随一。 ・自宅のベッドで煙草を吸い続ける女性のモノローグ「寝煙草の危険」。"倦み疲れる"という感覚が行間からじくじくと滲み出てくるような表題作は、超自然的要素はないが、本書で描かれた世界の肌触りと臭いを集約しているようにも―。 ・友人宅でウィジャボードに興じ、行方不明者を呼び出そうとした少女たち「わたしたちが死者と話していたとき」。いわゆる"こっくりさん"テーマなので馴染みはあるが、半世紀前の軍事政権下で起きた大量の行方不明事件という史実が織り込まれることで、単なる怪談に留まらない怖さを帯びている。

    3
    投稿日: 2024.01.18
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    このレビューはネタバレを含みます。

    マリアーナ・エンリケスのデビュー作。 国書刊行会のスパニッシュ・ホラーシリーズ第2弾。 幻想味が強いエルビラ・ナバロと違い、純粋ホラーな作風。人間の怖さというより、呪術やゾンビ、幽霊などの怖さを描いた作品が多い。 わかりやすくホラーな分、読みやすかった。そしてエゲツない表現は共通。ある意味リアルなのだろうか。。。 (本体が高いこともあり)高級チョコのような味わい方で楽しませてもらった。第3弾が待ちきれない。 ○ちっちゃな天使を掘り返す ちっちゃな天使の正体がエグい。そして描写もグロい。だけどユーモアあふれるゴーストストーリーなのが不思議。 ○湧水池の聖母 気に食わない先輩と狙っていた男子が付き合い始め、全然面白くない女子グループの話。全員肉食系。あと呪い方法がエグい。 ○ショッピングカート ★おすすめ 追い出した浮浪者が置いていったショッピングカートから呪いが湧き出て、その区画の住人に不幸が襲いかかる話。悲惨。サラッと悲惨。 最後は誰の?という疑問と、ママも同列になったのでは、と思わせる終わり方。 ○井戸 ★おすすめ 子供の頃、呪い師の家に行った時から、何をするのも不安と恐怖でいっぱいになった女の子の話。救いもなく酷い話。 ○悲しみの大通り 友人の家がある通りの匂いが耐えきれない。その昔は治安の悪い、モラルがない通りだったが、今はきれいになっている。だけど上部だけで、死んだ子供たちの霊が徘徊している。子供たちの霊がエグい。 ○展望塔 古いホテルが舞台。恋人に捨てられたが、まだ連絡を待っている女と、それを見守るホテルの幽霊の話。思ったよりテンプレなゴーストストーリーか。 ○どこにあるの、心臓 ★おすすめ もうサイコパス。変態のサイコパス。変態しかいない。途中で着地点は読めるけど、それでもやっぱりキツい。 ○肉 ★おすすめ うん、ヤバい。短めな短編だが、「どこにあるの、心臓」を軽く超える狂気だった。二人の少女の究極のファン行為。 ○誕生会でも洗礼式でもなく 誕生会でも洗礼式でもなく、そういった普通のイベント以外での撮影を専門とする男が出会った少女の話。エクソシストか?それとも虚偽か?どうやら前作にも関連するキャラが出ていたようで。 ○戻ってくる子供たち ★おすすめ 少し長めの短編。行方不明になった少年少女が、行方不明になった時のまま戻ってくる話。チェンジリング。じわじわと蝕まれていく、ねちっこい怖さが良い。 ○寝煙草の危険 表題作。火に誘われる女の話。不感症?自殺願望?短いながらも、この短編集の性格をギュッと詰めた話だと感じた。 ○わたしたちが死者と話していたとき ウィジャボードで行方不明者と会話をする5人の少女の話。これも、割とテンプレートなゴーストストーリー。特に日本はコックリさんがあるから、見たことがあるストーリー展開かも。

    9
    投稿日: 2023.10.09
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    ・とっつきにくいかな?と思っていた読む前の印象と違い全然読みやすかった。訳が良い?のか?言葉も現代的なスラングも使われている所もあり、面白かった。 ・全体的に覆われる不穏感。ラテンアメリカ文学的は不思議さみたいのも感じるけど、何となく思っていたのは映画のJホラー的な不穏さ。何もまだ起こってないのに何かが進行している様なドキドキ。日本的な環境とは明らかに違う場所での話なのにスッと入っていけるのは、その感覚の既視感があったから、かな?

    3
    投稿日: 2023.09.23
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    ★5 弱者の現実と奈落の底からの叫び声が聞こえる… アルゼンチン作家のホラー短編集 #寝煙草の危険 ■きっと読みたくなるレビュー アルゼンチンの作家、掌編・短編からなるホラー作品集。良い作品なので、しっかりと読みましょう。 テイストとしては文芸作品ですが、痛烈で狂気な描写が多く、アルゼンチンの歴史や現実も克明に記された内容。正直、治安と経済状況がいい日本に生まれたことを安堵してしまいました。 本作はあからさまな表現で豊富で、めっちゃメッセージ性が強い。そして気がついたら読み切ってしまうほど、熱中度が半端ないです。読めば読むほど味わい深く、すっかりエンリケスの沼にはまってしまいました。 〇ちっちゃな天使を掘り返す 可愛いんだけど怖いという矛盾に包まれる。哀愁も漂う美しい作品。 〇湧水池の聖母 惜しげもなく表現された女の嫉妬と業。冷酷さが怖すぎ。 〇ショッピングカート まさに絶望への階段…薄暗く不安定な恐怖を体験できる。 〇井戸【おススメ】 魂と狂気、井戸の底に見えたものは… 不安に包まれる少女の精神描写が力強く、心臓がつぶされる感覚になる。 〇悲しみの大通り 書かれている一文一文、何もかもが受け入れがたい。唯一救われるのは、友人の思いやりだけ。 〇展望塔 いわゆるこんな症状に侵されている人間の深淵を垣間見る。絶望すら生ぬるく、生気が全く感じられない。 〇どこにあるの、心臓【おススメ】 変態。あまりにも純粋すぎる変態。すべての描写がストレートで潔く、ラストも大好きな作品。 〇肉 アルゼンチンの推し燃ゆ+狂気。彼女たちがこうならないための手段はなかったのだろうか。 〇誕生会でも洗礼式でもなく 小児性愛の変態性すら霞む異常性、1ミリも理解できない。穢らわしい表現が読者の精神を蝕んでいく。 〇戻ってくる子供たち【おススメ】 本書の中では比較的長めの短編。全編にわたって現実から目をそむけたくなる。アルゼンチンの非業な歴史、辛辣な社会を感じさせる。意外な展開から結局どういうことなのか混乱するが、作者の言いたいことは最後の一文に現れている。 〇寝煙草の危険 弱弱しい生命の灯、それでも吸い寄せられてしまう光。虫けら同然の無為の人生に包まれる。 〇わたしたちが死者と話していたとき 交霊術の恐ろしい顛末。ウィジャボードからのメッセージが怖すぎる。これもアルゼンチンの悲しい歴史を感じさせる作品。 ■きっと共感できる書評 本作各編の主人公は、子ども、経済的に恵まれない人、病気の患っている人々など社会的弱者が多い。彼らの現実と奈落の底から聞こえる叫び声が、読者を追い込んでいくのです。 ある程度恵まれた国で生活している私たち。保身のために、彼らから目を背けてしまうますが、我々は手を差し伸べる勇気を持たければなりませんね。

    81
    投稿日: 2023.08.06
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    ちっちゃな〜の最後で赤ん坊の幽霊が走って追いかけてくるのが可哀想なのかシュールなのかわからなくなり笑ってしまった。 「肉」の女の子たちの気持ちはわからなくもない。

    0
    投稿日: 2023.08.01
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    ものすごく大好きな短篇集だった。 マリアーナ・エンリケス女史の小説は初めてで、どういうものを書くのか知らない状態で読んだらホラー短篇集で、ホラー大好きな私は大歓喜。しかもマジックリアリズムを強く感じる作品が多くてより楽しく読んだ。 最初の短篇「ちっちゃな天使を掘り返す」は、祖母と一緒に住む家の庭を掘り返していたら骨がでてきた。祖母が言うには幼くして亡くなった妹だという。妹は寂しがりやだから家族の近くにと庭に埋めたのだという。時は流れて主人公が大人になり一人暮らしをしていたある雨の日、体が不廃した幼子が目の前にあらわれた。最初は怖がり気味悪かったが慣れてきて外出もするようになる。それでも鬱陶しいのでどうにかいなくなって欲しいのだが何してもいなくならない。という話。見た目のグロテスクさにぎょっとするが、何も悪さをしない幼子にイライラしつつ慣れる主人公のあまりにも現実的な思考と行動に、実際にそうなったらそう考えるよなあという妙な納得感があってとても素敵な短篇だった。 他にも「湧水池の聖母」「肉」のティーンのもつ危うい凶暴性や「どこにあるの、心臓」の依存、執着、「ショッピングカート」の運命をわける分岐点と「井戸」にもつながる信仰や生活に溶け込んだ呪といったものを感じた。どの短篇も不条理な出来事が日常に溶け込み、日常に溶け込んだ不条理さが言葉に発せず空気で人々の間に広がっていくのがリアルで理解できるからこそ怖くなる。想像する余地が多分にあるからこそ、タイトルで想像して怖くなって、物語のオチを読んで想像して怖くなる。連鎖していくことにたいして何もできない無力感も読んでいて感じる。 また女性のもつ強い思いや快楽といった部分、いまだにおおっぴらに言えない性についての描写などを読んでいて70年代に起こったウーマンリブの脈を私は感じて感慨深くなった。 また私が好きな映画がいくつか出てきてちょっとテンションが上がった。

    3
    投稿日: 2023.07.13