
総合評価
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powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
その国で出会ったすべてがつながって。 ロシアに留学していた日々を綴ったエッセイ。渡航時の不安、出会った人々、文学大学の授業、日常と事件、そこから考えた自分、国、文学、言葉。どうして、と問う事態になっている今だからこそ、ロシアを見つめる。 途中まではふむふむと、米原万里を思い出したりしながら読んでいた。しかしアントーノフ先生の話を一通り終えて、これは壮大なラブレターだと思った。恩師への敬愛と感謝を込めた大きな意味でのラブレター。そう思ってから全体的に見て、やはりこれはラブレターだと思う。ロシアへの、文学への。 歴史には詳しくないけど帝国ロシア、ソ連、ロシア連邦と変わってきた中で、幾度ともなく変わる思想と政治と国境。変わってしまう人と、変わらないために戦う人と、どちらもがそれぞれ抱える痛み。著者が見つめるロシアの、一言では言い表せない姿。一言では伝えられないから散文となるのに、直接には表せないから詩になるのに、文字にすると現実とは異なる意味が加わり、ありのままの姿はそこにない。そんな文学の苦悩と価値。文学が語れる言葉は止めてはならない。ありのままじゃないからこそ、読む人がそれぞれ考えるからこそ、文学は時間も空間も超えて人と人を繋げる大きな力を持っている。
1投稿日: 2025.08.17
powered by ブクログ神戸のおしゃれな本屋さんで買った。背表紙やタイトルに惹きつけられた。なにか文学の特定のものを探しにいくフィクションかと思っていたが、そうではなかった。ロシアへ留学した日本人の女の人の留学日記だった。ちょっとした時間に読めるコラムのように小気味よく分けられていてた。見出しに詩や文学からの引用が2行ほどあり、その引用になぞらえて、話が展開する。 プロフィールを読むと、ぼくの一年先輩だった。 ここから書くのは、本の内容じゃなくて、この本を読んで思い出したことを書く。 大学で論理学という授業を採った。コンピュータが始まる前に人類が到達していた機械言語の本流のかけらに興味があったのだった。たしか土曜の午前中で比較的のんびりした時間だった。 50代くらいのふつうのおじさんにしか見えない教授は、当時のカセットテープが再生できる機械がビルトインされてた教卓におもむろにテープを入れ、音楽を再生した。 ♪目薬さすとき無意識に口を開けてしまう 嗚呼 小市民 再生されたのは、牧歌的なフィドルの音とともに、ダミ声で関西弁の男の歌声だった。 教授、いくらなんでも間違いすぎじゃないか、恥ずかしい、論理学の授業に、嘉門達夫って。。しかもその時はもう2001年だったので、もう古い。 ずっこけそうになっていると、教授は、全くあわててない、いたって真面目なていである。 教授は言った。 「これがパラダイムシフトという。いまぼくは授業という枠組みをすり替えた。枠組みをかえてしまうことをパラダイムシフトという」 教授は最高にダサくて最高にかっこよかった。 話は、この本にもどりますが、 大学のころの、学問にもっとも近づいた気がした数年のことを記録した、とても良質な本でした。
10投稿日: 2025.08.08
powered by ブクログロシア文学の知識がほぼ無い私には(ドストエフスキーとか有名どころの名前のみ知っている)少し難しかったけれど、普通にロシア留学エッセイとしても楽しめる部分が多く、読んで良かった。 今の情勢を目の当たりにしているからか、どこか切ない気持ちになる。
0投稿日: 2025.06.20
powered by ブクログ若い頃に外国で暮らすことで出会う喜び、1人ではどうにもできない世界の複雑さとの直面、全てのかけがえのなさが痛いほど伝わりました。ニュースからは得られないロシアの姿が、やっと少しわかりました。
1投稿日: 2025.06.05
powered by ブクログああ、私は生まれ変わりたくて本を読んでいるんだと思った。この人生を生きることは決まっているから、せめて本を読んで、学んで、別のものに変わっていきたいんだと。そして文学はそれができる数少ないものなのだ。嬉しい。そんなものに無限に触れられるこれからの人生が嬉しい。
1投稿日: 2025.06.01
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ロシア文学を勉強しにロシアに行き、文学大学に入学した日本人の学生の生活記録である。中にあるロシア文学の半分も翻訳されてはいない。ロシアの地理の棚にあったが、高等教育あるいはロシア語あるいはロシア文学の棚に置くべきものであった。黒田の日本でのロシア語の勉強についての本以上に面白く、ウクライナ情勢も書かれている。1年ちょっとで6刷も出版されているので、人気がある。あとは文庫本になるのを待つばかりである。 ロシア文学に興味がある学生、ロシア語を学習中の学生へぜひ読むことが薦められる。
0投稿日: 2025.05.24
powered by ブクログ微笑ましく、どこか懐かしくもあるエピソードの数々。少しほろ苦く終わるロシア留学記なのかと思いきや…… 1章から引き込まれる。「ロシアはほぼ新潟」に始まり、コペンハーゲン、ペテルブルグ、そしてモスクワ。ロシア語のとりこになり、文学の授業に夢中になり、先生の一語一句に集中し、図書館に入り浸る。 29章までは、読みながらさまざまな思いがよぎっていたのだが、ああ、30章を読み終えたあとでは、ことばにならない。
0投稿日: 2025.05.02
powered by ブクログなんとなく気にかかっていた本で、図書館の返却本コーナーに刺さっていたので迷わず手に取りました。ソ連崩壊後のロシアの文学大学に入学した筆者の日々の記録。いまは彼の国も不寛容と独裁に支配されているが、せめて文学くらいは、自由でいて欲しい。
80投稿日: 2025.03.22
powered by ブクログ淡々とした語り口とは裏腹に、そこには静かに燃える情熱を感じる。 後半のアントーノフ先生との関係は、切なくも美しく感じた。誰もが感じることの出来るものではない彼らの繋がりを、羨ましくさえ思った。 言葉を学んでいく過程の瑞々しい表現もとてもよかった。
1投稿日: 2025.02.26
powered by ブクログロシアの作家は名前や作品は知っているが、ほとんど通読したことがないことをあらためて痛感させられた。奈倉さんのロシア文学に対する膨大で愛に溢れた知識と、それを育んでくれた恩師の方々への尊敬の念が最後のページまで感じられた。
1投稿日: 2025.02.05
powered by ブクログ作者のロシア留学時の体験を振り返るエッセイ アレクセイ・アントーノフ先生との交流が印象的 こんな授業を自分も受けてみたかった 学ぶ側の意欲も作者位あったら、ノートから先生の声が聞こえてくるのだろうか 本は図書館で借りて読む派だが、この本は買ってもいいかな
1投稿日: 2025.01.14
powered by ブクログなんと同士少女よ敵を撃ての著者のご姉弟。 ロシア文学部へ留学した作者の現地交流を交えて、ロシア文学を紹介してくれます。 この中から順次本を発注しております。
1投稿日: 2025.01.01
powered by ブクログロシア文学の知識があればより楽しめるかなと思いました。 もともとロシアには興味があったけど、この本を読んでからよりその気持ちが強くなりました。 奈倉さんの平和に対する強い気持ちがひしひしと伝わり、またそれが簡単には実現しないという事実に胸が痛くなります。
0投稿日: 2024.12.19
powered by ブクログ素敵な本でした。ロシア語にちょっと興味があるかなぁと考えいたこの今、この本に出会ったのは運命的かなと思いました。 ロシアは常にミステリアスで、一歩近づけたと思っても二歩遠ざかるような国。その懐に思い切り飛び込んで、著者は自ら道を切り拓いてきた、もちろんそんな自負はなく、大好きで、大好きだからこそ、諦めない気持ち、今となれば奇跡のような数々の出来事。 そして、それは過去では無く、今日を生きる私にまで繋がって、現在進行形であること。 バトンを渡された訳では無いけれど、本を通じて繋がって、私もちょっとだけ関わる事が出来た、 もうちょっと私も、私の向き合いたいものに真正面から向き合ってみようという気持ちにさせられた、素敵な本との出会いでした。
2投稿日: 2024.12.03
powered by ブクログ奈倉友里さんの紡ぐ言葉に、どうしようもなく惹かれています。好きすぎて、うまく言葉にできません。 これまで遠く感じてきたロシアのことが、本書を通して、少し身近に感じられるようになりました。
1投稿日: 2024.11.20
powered by ブクログなにかのおすすめで見て、BOOKOFFオンラインにて購入、読了。 私は現在、duolingoという語学学習アプリでロシア語を学んでいる。ロシア語は私にとっては因縁のある言語で大学時代にいた西洋近代語近代文学学科の研究室がロシア語と一緒だった。教授陣も兼任だったので自然とロシア語を学ぶことになった。 まずキリル文字が読めないから(яとかыとか)そこからだったし、2年学んだがアルバイトに忙しくあまり熱心に打ち込んだわけでもなかった。あっという間に卒業になり、そのままロシア語は忘れた。だが、真面目に取り組まなかったのがどこか心残りだった。なので今になって少しずつアプリで勉強している。 だから作者のロシア語に全力で取り組む姿は私にはとても眩しく映る。そして引用される文学作品の数々。それらの作品が作者の血となり肉となる姿が感動的だ。 今から学んでも原書を読みこなすまでになることは多分ないが、巻末に邦訳が出ている書籍一覧があったので少しずつ読み進めてみようかと思う。 ロシアのウクライナ侵攻は決して許されることではないが、古くからのロシアとウクライナの関係やロシア人の国民性を知ることはこの侵攻を理解するために(決してロシアの肩を持つという意味ではない)、役に立つような気がする。
16投稿日: 2024.11.12
powered by ブクログただひたすら文学への愛と情熱を持って。 著者のロシア留学の思い出が語られている。 学生らしい友達との交流や生活のありようは微笑ましく、作者の勉強する姿に驚嘆したりしながら読んだ。 そして。最後の2章が素晴らしい。恩師への想いをことばにのせているんだけど、何とも言えない感動があった。作者の学問や文学、ことばそして、人に対する誠実さは私のような末端の本読みにも届く力があった。
7投稿日: 2024.11.03
powered by ブクログロシア・ウクライナ周りの話やそこに住んでいる人々のことが窺い知れるだけではなく、文学を好きでいていいんだ、と思わせてくれる本。本当に読めてよかった。
1投稿日: 2024.10.20
powered by ブクログ奈倉有里さんのあまりにもまっすぐな「学び」に胸を打たれました。特に最後の「30 大切な内緒話」がとても良くて、温かな気持ちで読み終えました。本の中に出てくる詩や本が印象的でロシア文学に触れてみたくなりました。
16投稿日: 2024.10.16
powered by ブクログ物凄く好きな本。 ロシア語を学びにロシアへ赴いた20歳の女性の、文学に対する情熱、大学の先生や学生との葛藤、戦い、そしてロシアという国を前にして感じる無力感。 などが激しく伝わってきた。 文字に込められた感情が躍動していた。 P38 語学学習というと、心の底にあるドロドロした得体のしれないもの。それを掬って言葉にしていくことは、その言語で思考できるようになるための第1歩。 →自分も留学経験があるから分かる。 母語では言えるのに、、、!と何度も悔しさを噛み締めた瞬間。言いたいことがあるのに、その感情を伝えたいのに、言葉が分からないばっかりに地団駄を踏むしかなかった。 「言葉は人を繋ぐこともできるが、分断してしまうこともある。」というトルストイの詩。 「愚かな心よ、高鳴るな。」 と、希望を求め、生を愛していたにも関わらず夭逝してしまったエセーニンの詩。 各タイトルと共に記されている詩の一部分を読むのが楽しみだった。 やはり時代的に、心に響いてくるものばかりだ。 国家から制圧され、攻撃を受け、制限だらけの中で抵抗する民たち。 彼らの反骨精神が文字となり、血をまとったように響いてきた。
3投稿日: 2024.09.07
powered by ブクログこの素敵な装丁とタイトルに惹かれて入手し、積読していたが、名倉有里さんはあの「同志少女よ 敵を撃て」の逢坂冬馬さんのお姉さんだったのですね。 1982年生まれ。9歳の時に「ソ連崩壊」のニュースに両親が「とんでもないことが起こった」と騒いでいたのが「最初の世界のニュースの記憶」だった奈倉さん。 その後、語学好きの家族の中で、親が勉強していないロシア語を勉強し、やがてロシアへの興味と元々好きだったトルストイなどの文学への興味から、20歳の時に一人、モスクワへ留学。ペテルブルクの語学学校からモスクワ大学予備科を経て、ロシア国立ゴーリキー文学大学へ。 2002年から2008年まで奈倉さんはロシアの文学大学で、歴史図書館で、友人との質素だが心温まる寮生活の中で、文学漬けの日々を送った。 文学、それは本の中だけのことでは無い。奈倉さんがおられた間でも常に緊迫状態だったロシアとチェチェンやクリミア、ウクライナとの関係。その空気の中での犯罪、それらに関わる地方出身の友人たちの生の声。そういった環境やその中での人の心は現代ロシア文学だけでなく、古典にも反映されている。奈倉さんのロシアでの青春を時系列で一つ一つのエッセイにしながら、毎回、そのエッセイに関わるロシア文学の中の一節を紹介されている。「この作品を読んでみたい」とそのたびに思って、翻訳がないか調べてみる。だけど殆ど出てこない。当たり前だ。ロシア現代文学なのだから訳してくれる人が少ない。奈倉さんに訳してもらうのを待つしかない。 語学を勉強したいモチベってこういうことなのかなと思った。どうしてもその国の言葉で表されたものを読みたくて、人に訳してもらうのを待てなくて自分で勉強したい気持ち。英語の歌で、一つ一つの単語が大体分かるものでさえ、和訳を見てしまう私は足元にも及ばない。 「文学を探しにロシアに行く」という副題が付いている。「ロシア文学を探しにロシアへ行く」では無い。確かにロシアという風土の中だから生まれたロシア文学。だけど、「文学」の中に書かれていることは遠い国の人々とも普遍的に繋がっている。 一番、目から鱗だったのは、名倉さんがマーシャという友達のために「千と千尋の神隠し」の「いつも何度でも」という歌を露訳しているとき、「繰り返すあやまちのそのたび、ひとはただ青い空の青さを知る」という箇所が、トルストイの「戦争と平和」で、戦場で倒れたアンドレイが青い空を眺めて自らの過ちを悟る場面そのものだと気づかれた箇所だ。文学を探しに遥か遠いロシアで暮らされながら、その文学は生まれた国、日本とも世界中とも繋がっていたと悟っていかれた。 足元で起こっていることが世界の普遍と繋がっているとしみじみ気づかれた一方で、ロシアに留学しなければ得られなかったものがあった。それは歴史のなかから今もつづく、国や民族間の紛争、崩壊、統合など、その国に住む人と人を「分断」する出来事の中で、その土地の人々と「魂の交流」をし、人と人を「つなぐ」言葉を沢山見つけてこられたことだった。 素敵なエッセイ集だった。私の想像の中の重厚で美しいロシアの冬景色が魂の温かさで色付けされた。ロシアに行ってみたい。遠くてなかなか行けないけれど、本の中だけでももっと行ってみたい。
90投稿日: 2024.07.27
powered by ブクログ課題のために読み始めたが、美しい文章と遠いロシアの地で作者に起こった様々な出来事に魅了されてあっという間に読み終わってしまった。 特に文学大学での日々の回想録において、作者が講義や多様な文学作品に没頭する描写が印象的だった。そして、自分はこんなに文学研究にのめり込めないので羨ましくなった。 何かに夢中になることとロシア文学の素晴らしさを再認識させられると共に、混乱を極めるロシア周辺の情勢と、昨今の文学軽視の風潮に思いを馳せた。
1投稿日: 2024.06.07
powered by ブクログ珠玉。地を穿つような学びは人間の奥底に通じている。無力のようで、実は深く大きな力として。アントーノフ先生への思いは限りなく尊く、胸を打つが、これは現実なのだと思い直しすと、粛然とせざるを得ない。
2投稿日: 2024.05.31
powered by ブクログ3月に青木理「時代の叛逆者たち」で逢坂冬馬の姉だと知り、4月にネットの古本屋で見つけた「世界臨時増刊」でエカテリーナ・シュリマンのウクライナ戦争に関する講義を読んだ。奈倉有里の翻訳である。 そして本書。ロシア語、ロシア文学に興味を持ちロシアに渡って文学大学で学んだ日々を友人や教師との交流などを交えて教えてくれる。 学ぶ姿勢の深さにまず驚かされた。深いから到達点も高い。彼女がこの先もおおいに発信してくれることを願っている。楽しみな人だ。楽しみな姉弟だ。
3投稿日: 2024.05.29
powered by ブクログとても楽しく、感動もあり、文学を愛す著者の渾身の一冊なのだろうと、共感もありました。魂のこもった文学にまた出会いたいです。
1投稿日: 2024.04.27
powered by ブクログ最近全然聞かなくなってしまった、高橋源一郎の飛ぶラジオで紹介された作者。ゲストで出演もされていた。それを聞いて以来読みたいと思いつつ一年くらいがすぎてしまって、やっと読んだ一冊。 作者がロシアに留学し、語学学校を経て、ゴーリキー文学大学で過ごした日々を綴ったエッセイ集だ。 作者は私と同じ82年生まれ。こんなにも言語・文学を探究し、愛し、体感した作者に一種の感動を覚えた。 素晴らしい先生や友人たちとの出会いを、自身の文学的な力にすることができたのは、紛れもなく、作者のあくなき探究心と好奇心と努力だ。 作者が愛したロシア文学とそこに住むさまざまな国から来た友人や同級生たち。敬愛する先生との出会いと別れ。変わりゆくロシアと悪化していくウクライナとの関係。それらが、揺るぎない文学への信頼に基づきながら語られる。 作者が執筆したときよりも、さらに世界情勢は悪化してしまった。だからこそ、筆者が綴った言葉を胸に刻みたい。作者が通った大学のある教室に掲げられたレフ・トルストイの言葉。「言葉は意外だ。…人と人をつなぐことができれば、分断することもできるからだ。…人を分断するような言葉には注意しなさい。」それを引用して筆者は、「どうしたら人は分断する言葉ではなく、つなぐ言葉を選んでいけるのか。その判断はそれぞのいかなる文脈の中で用いられてきたのかを学ぶことなしには下すことはできない」と語っている。 文学者ほどうまく言葉を扱えないにしても、日常的に使うもの。だからこそ言葉を「つなぐもの」にするために、学び続けることが必要なのだと感じた。 ロシア文学を読んだことがないので、これを機に少しずつ触れてみたい。
2投稿日: 2024.03.30
powered by ブクログ全30話あり、どれも読み応えがあるが、特に後半の25〜30が素晴らしかった。 文学性と論理性が両立した文章でとても良かった。
2投稿日: 2024.03.16
powered by ブクログ『夕暮れに夜明けの歌を』、本当に素晴らしかった……。 奈倉さんが文学を通じてモスクワで過ごした人たちとのエピソードの一つ一つから、スープの温かさや金具の冷たさや校舎の外壁に落ちた木漏れ日が揺れる様子、薄暗い階段の傷んだ木材、文学作品への憧れとリスペクト、国全体に膜を張る緊張感まで伝わってくる。 奈倉さんが過ごした大切な日々の様子を一章また一章と捲るたびに、なんがかわたし自身もその期間を一緒に過ごしたような気分になってくる。そして賢い文学生になった気になった頃、最後の一文にグッと胸を掴まれる。それは恋に落ちる様子であり、同時にお前は奈倉さんではないぞという忠告でもある(なんておこがましい!)。 学びによって裏付けされた圧倒的な文才とそこに振り掛けられたユーモアのセンス!奈倉さんの作品を初めて拝読したがすっかりメロメロになってしまった。 エピソードたちが少しずつ現在に近づいていき、未来に向かって纏まっていく様子はあまりにも美しく、エッセイにも関わらずまるで一冊の長編小説を読んでいるようだった。 この本を読了した今、『ウルフウォーカー』を思い出すのはなぜだろう。作品の後半で、アントーノフ先生から「学ぶ」という概念を学び、そこから蔓を伸ばした「学びがずっと続けばいい」という願いすらそこに帰還しねじれた輪となり完結する、という円環のお話をされていたからだろうか。 大切な内緒話を聞かせていただけて嬉しかった。学びを追求する奈倉さんの、生まれ直す感覚というものを味わってみたい。 印象に残ったシーン…『灰色のミツバチ』の章。 グレーの人々が存在することで白黒つけなければ気がすまない人たちによる争いを招くことがあるというところ。だが、白か黒かではなく、ただそこにある何種類ものグレーに目を向けなければ争いは止まない。
3投稿日: 2024.03.01
powered by ブクログロシア、という言葉の先入観から、大国らしい描写もあるのかと思いきや、等身大の感覚で読み進めることができました。肩肘はらず、またリラックスしすぎず。学生時代の話は、想像を沸き立たせる描写がとても新鮮でした。むしろ、今の社会情勢から振り返ると、周囲の人たちとのエピソードが優しくて泣けるような感覚も。私はあまり表現が得意な方ではないですが、多くの文化や人の感性に触れてその感じ方や対処を学ばれたのだな、と感じました。だから紛争中の今が悲しくなります。 素敵な人たちが描かれています。おそらくこの本を通じてしか出会えないです。他の人が描いても異なる描写になるでしょう。
1投稿日: 2023.12.24
powered by ブクログ星2.5 紫式部賞 筆者の名倉有里は「同志少女よ、敵を撃て」の逢坂冬馬の姉ということもあり、読み始める。 私には難しいところが多かった。特に文学論についてのくだりなど。他の方のようには理解できず、少々焦る。星2.5というのも、私が理解できなかったという意味。 それにしても、ロシア人以上にロシア文学を愛し、勉学に励む筆者には脱帽してしまう。母国語でもないのに、ロシア人学生よりも熱心に学問に取り組む姿勢は驚嘆の一語。 また、この本で書かれているウクライナ情勢は2014年時のこと。今のロシアのウクライナ侵攻を筆者はどう感じているのだろうか?
1投稿日: 2023.12.23
powered by ブクログ"文字が記号のままでなく人の思考に近づくために、これまで世界中の人々がそれぞれに想像を絶するような困難をくぐり抜けて、いま文学作品と呼ばれている本の数々を生み出してきた。" この一文がすごく沁みてくる本。
1投稿日: 2023.11.26
powered by ブクログ読んでいて何となく堀江敏幸氏の本を思い出した。 なにも言えなかったのは、言うべきことがなかったからではない。ただ、どの言葉も心を表しはしなかったからだ。そして言葉が心を超えないことを証明してしまうような瞬間が人生のどこかにあるからこそ、人はどうしてその瞬間が生まれたのかを少しでも伝えるために、長い長い叙述を、本を、作り出してきたのだ。
1投稿日: 2023.11.17
powered by ブクログロシア文学者の留学時代の思い出。ロシア文学というジャンルにハマるというのは凄い縁ですね。好きだからこそここまでできたのですね。私は文学というもの、更にロシア文学というものと全く縁遠く、ついていけない内容も多々ありました。著者のロシア文学への愛を感じ、そしてソ連崩壊後の大学教育や言論への締め付けの悲しみを感じました。文学って、思想?なんですかね?深く噛み締めたら引き込まれるものなんでしょうね。
1投稿日: 2023.11.06
powered by ブクログ外国文学を徹底して学ぶということを知った ほかのプロ翻訳家がどのようにして外国語を学ばれたのかがとても気になる 著者の熱量に圧倒された
2投稿日: 2023.10.30
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「同志少女よ、敵を撃て」→「文学キョーダイ!!」からたどり着いた。 ロシアの文学大学留学中をメインとした、エッセイ。当時の様々な背景を持つ人々との交流や文学への愛が大いに綴られている。 恋をする同級生や、ニーチェ本で卒倒する子。おかゆ文化、3人で教会へ行く話等もある。この大学は、日本人は奈倉先生1人。ロシア語で全てコミュニケーションを取り、ロシア語をフランス語に訳す授業もあったらしい。自分なら直ぐに帰国するので、純粋に凄いと思う。 ロシア内部の不穏な空気も描かれている。突然人が消えたり、警察が犯罪を平気で行ってたり。教授が「ロシア語よりウクライナ語より文学的で優れている」と言ったり。歴史で学ぶこととは異なり、現地の雰囲気が味わえた。 日本で行えば、即退場レベルなことが行われているが、居続けた奈倉先生は肝が据わっていると思う。 ↓印象的だった言葉達 ある大教室の壁には、レフ・トルストイの言葉が掲げられていた―ー「言葉は偉大だ。なぜなら言葉は人と人をつなぐこともできれば、人と人を分断することもできるからだ。言葉は愛のためにも使え、敵意と憎しみのためにも使えるからだ。人と人を断するような言葉には注意しなさい」227ページ 「そうしてようやく、先生に出会ってからの「学び」がそれまでとどう違い、自分の身になにが起きたのかを知った。それは私にとって、少しずつ生まれ変わることだった。新しいことを知るたびに、それは単なる知識ではなく、細胞がひとつひとつ新しくなるような喜びだった。浮き輪につかまって海に入ったようなかつての心もとない学びではなく、いくらひとりでいても孤独ではない安心感があったーーだって、私はひとりではなかった。 そしてこの先もずっと、永久にひとりになることはない。いつのまにか、かつての自分といまの自分はまったくの別人というくらい、私の内面は変わっていた。私を変えた人はこれからもずっと、私を構成する最も重要な要素であり続けるだろう。」258ページ エレーナ先生やアントーノフ先生との出会いが、奈倉先生の人生に大きく関わっていると思う。純粋に羨ましい。自分もそんな人達に出会えると良いな。 "””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””” 「19世紀の伝統的なロシア詩では耳で聞いてわかりやすい、二拍子なら二拍子、三拍子なら三拍子で統一されたリズムの詩が多く、なかでも一行のなかで弱強格を四回繰り返す四脚ャンプが好まれました。」129ページ ↑これを体感したいため、某動画サイトで詩を読んでいる人を探したが、見つからなかった。ご存知の方がいらっしゃれば、教えてください!
3投稿日: 2023.10.30
powered by ブクログこんなにも没頭して読書し、勉強した留学生活……。 ただただすごい。 ……という視点で読んでいたのだけど、終盤、アントーノフ先生との顛末がえがかれるに至って、涙をこらえながら読むことに。 文学への、詩への情熱を媒介に、アントーノフ先生とユリの間には、たしかに愛情が流れていたように思うけれど、それはやはり文学への愛情だったんだろうな。そしてアントーノフ先生を追いつめ、アルコール依存症へと駆り立てたものは、文学者らしい鋭敏な感覚で嗅ぎ取った時代の転換だったのかもしれない。 そうか……クリミア併合は2014年だったのか。ソチ五輪という言葉が出てきてどきっとしたけれど、ウクライナ侵攻も北京五輪の直後だった。五輪というものは、悲しいかな極度に政治的な道具になりうるのだ(泣) 本書が書かれたのは2021年で、今回の本格的なウクライナ侵攻はまだ始まっていなかったけれど、そこへ至る道筋も描かれていて胸が痛くなる。
2投稿日: 2023.10.25
powered by ブクログ「文學界」の連載で好きになったロシア文学者の奈倉有里さんのエッセイ。モスクワの文学大学での留学中、ロシア文学や言葉の大切さについて真摯にそして熱中して勉強している様子がとても瑞々しく描かれています。悩むことやつらいこともあるけど、学ぶことは楽しいというのが伝わってきました。ロシア文学は今まで読んだことがなかったけど、奈倉さんのおかげで読んでみようと思えました。
1投稿日: 2023.10.02
powered by ブクログ『ことばの白地図を歩く』では著者がなぜ「ロシア語」に惹かれたのかをさらりと紹介していたが、本書は真逆。たったひとりの日本人留学生がどんな環境でどれほど熱心に学んできたか、友人達との交流や日々の生活やそんじょそこらの恋愛よりもよほど濃密な師弟関係に、最後に添えられた世界地図に、読み終えた今も経験したことのない感情で心が揺さぶられ続けている。 「文学が歩んできた道は人と人との文脈をつなぐための足跡であり、記号から思考へと続く光でもある」 世界にはその光を灯し続ける人々がいることを信じている。
3投稿日: 2023.09.08
powered by ブクログ翻訳家、奈倉有里さんのロシア留学中の話。 ロシア語で会話してることを忘れるくらいルームメイトや教授との会話がナチュラルで、奈倉さんが深くロシアの人と関わり合いながら生活していたのがよくわかる。 穏やかに進む物語のなかに、民族事情や社会情勢の変遷が描かれていて「へぇ、ロシアってこんな感じなのか」と好奇心をくすぐられる。 仕事でくさくさしている時に読んだのだけれど、心地よくフラットな描写に心が洗われた。
0投稿日: 2023.07.22
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「坂道の向こうの図書館から漏れている-あれは本の光だ」(14/290頁) ソ連崩壊時に9歳、高校生のときにロシア語を勉強し始めてNHKのテキストを手に取り、ペテルブルグへの留学を決めたのは20歳。 著者は最初に語学学校、それから文学大学へ。語学学校ではエレーナ先生とタイトルにも使われるブロークの詩に出会い、文学大学ではとんでもない先生、アントーノフ先生に出会う。語学学校でも文学大学でも真面目に人一倍(どころではなく)勉強に邁進する。 一方では、テロやチェチェン問題、ロシアとウクライナの不穏な関係も身近なこととして体感する。 とても大切にされているまさに掛け替えのない思い出を聞かせてもらった。留学記としてもロシアを知る書としても良書だと思う。 「母語ではとうにありふれていたものになっていたものごとを、もうひとつの言語の世界でひとつひとつ覚えるたびに、見知った世界に新しい名前がついていく。」(14/290頁) 新しい言語を学ぶというのはまた自分と自分の世界を違う方向から確認するきっかけなのだと再認識。
3投稿日: 2023.03.23
powered by ブクログ2023.3.22市立図書館 →購入(2023年4月3日) ずいぶん前に予約を入れてずっと待っていた本。ウクライナ侵攻から一年余、ぎりぎり春休みを使って読み終えられそうなタイミングで順番が回ってきた。 こどものころにロシア語に興味を持ったきっかけから書きおこし、20年前にロシアに留学していた間の勉強三昧の毎日と仲間や師との交流、当時のロシア社会や現地で見聞きした事件などを回想してえがくエッセイ。終盤は帰国して大学院に進学してからこの作品を執筆した2021年ごろの日本での思い、ウクライナはじめロシア国内外での分断を憂う話も入ってくるが、なんといっても中盤に登場するアントーノフ先生との出会いからお別れまでがこの作品の幹であり核だろう。 コンパクトな1篇1篇に内容にふさわしいロシア文学(小説や詩)からの引用が添えられていて、紹介されているロシア語文学の作品を次から次へと読みたくなってきた(巻末に登場した書籍一覧がついている)。特にワシーリー・アクショーノフ「クリミア島」や「ウクライナ日記」のアンドレイ・クルコフが2018年に発表した長編「灰色のミツバチ」が気になるけれど、これらは未邦訳のようで残念、著者やヌマヌマコンビあたりが鋭意翻訳中と期待したい。 奈倉有里さんのことはこの1年のロシアとウクライナの情勢にからむ発信で名前を覚え、翻訳を手掛けたサーシャ・フィリペンコ『理不尽ゲーム』も読み、冷静に真摯に考えて発信している姿をずっと目の端に入れていたが、このエッセイ集は雰囲気的にちょっと須賀敦子さんを思い出させる美しい作品で、いずれ文庫になったら・・・いやいやこの単行本の手触りや雰囲気がいいので手元においてときどき読み返したいので返却期限を待たずさっそく手にいれた。思いがけない展開にひきこまれつつ最後までたどりついて、またすぐにでもはじめから読み返したいが、すこし寝かせておいて、いくつか芋づる式読書をしてからのほうがいいかもしれない。
4投稿日: 2023.03.22
powered by ブクログ筆者の奈倉友里氏は、ソ連崩壊後、2002年にロシアに単身留学し、ペテルブルクの語学学校から、モスクワの国立ゴーリキー文学大学でロシア文学を学び、同大学を卒業した最初の日本人となった。 今はロシア文学の翻訳者としても活躍している。 その彼女が、ロシアで過ごした学生時代の思い出を、毎回ロシアの伝統的な文学作品や、ソ連時代に政府に隠れて発行されていた地下文学、詩作などと絡めながら語る。 そして後半は自分が大きく影響を受けた講師との、どこかしら淡い恋愛感情さえも感じさせる交流も語られる。 昨年あたりからソ連時代に書かれた作品や、ソ連という国家について書かれたものなどをいくつか読んできたが、そこで描かれていたソ連という国の暗部、そして時には命をかけて抵抗し、見つかれば重罪となった政府を批判する作品を地下出版していた人々の物語などが、ここにも出てきていた。 そして、何よりも奈倉氏の大学での友人やルームメイトたちが、ウクライナやベラルーシから来ていた事なども今の情勢と照らし合わせて、なんだかモヤモヤしてしまう。
6投稿日: 2023.02.04
powered by ブクログロシアの日常の空気感、留学生の生活を感じることができた。文章も美しく読みやすい。 大学の講義内容については読み飛ばしてしまうところもあった。 夏目漱石のこころが引用されている箇所があった。 「恋に上る楷段なんです。異性と抱き合う順序として、まず同性の私の所へ動いて来たのです」 文学を読み込んでいる人は日常生活のなかで本から学んだことを思い起こして、自分の気持ちを整理したり、客観的に分析したりすることができるのか、そんな風に文学を自分の血肉としているのは格好いいなと思った。
0投稿日: 2023.01.02
powered by ブクログある大教室の壁には、レフ・トルストイの言葉が掲げられていた― 「言葉は偉大だ。なぜなら言葉は人と人をつなぐこと も できれば、人と人を分断することもできるからだ。言葉は愛のためにも使え 、敵意と憎しみのにも使えるからだ。人と人を分断するような言葉には注意しなさい」。その教えは私たちにとって指標であり規範であった。 人には言葉を学ぶ権利があり、その言葉を用いて世界のどこの人とでも対話をする可能性を持って生きている。 しかし私たちは与えられたその膨大な機会のなかで、どうしたら「人と人を分断する」言葉ではなく「つなぐ」言葉を選んでいけるのか その判断は、それぞれの言葉がいかなる文脈のなかで用いられてきたのかを学ぶことなしには下すことができない。 文学の存在意義さえわからない政治家や批評家もどきが世界中で文学を軽視しはじめる時代というものがある。おかしいくらいに歴史のなかで繰り返されてきた現象なのに、さも新しいことをいうかのように文学不要論を披露する彼らは、本を丁寧に読まないがゆえに知らないのだ-これまでいかに彼らとよく似た滑稽な人物が世じゅうの文学作品に描かれてきたのかも、どれほど陳腐な主張をしているのかも。 統計や概要、数十文字や数百文字で伝達される情報や主張、歴史のさまざまな局面につけられた名前の羅列は、思考を誘うための標識や看板の役割は果たせても、思考そのものにとってかわりはしない。私たちは日々そういった無数の言葉を受けとめながら、常に文脈を補うことで思考を成りたたせている。文脈を補うことができなければ情報は単なる記号のまま、一時的に記憶されては消えていく。 文字が記号のままではなく人の思考に近づくために、これまで世界中の人々がそれぞれに想像を絶するような困難をくぐり抜けて、いま文学作品と呼ばれている本の数々を生み出してきた。だから文学が歩んできた道は人と人との文脈をつなぐための足跡であり、記号から思考へと続く光でもある。もしいま世界にその光が見えなくなっている人が多いのであれば、それは文学が不要なためではなく、決定的に不足している証拠であろう。 いま世界で記号を文脈へとつなごうとしているすべての光に、そして、ある場所で生まれた光をもうひとつの場所に移し灯そうとしているすべての思考と尽力に、心からの敬意を込めて。
1投稿日: 2022.12.25
powered by ブクログアントーノフ先生とロシア文学研究者だった水野忠夫先生が被って見えた。もう、三十数年前かあ。 奈倉さんは凄い。 今年のベスト本。
0投稿日: 2022.12.12
powered by ブクログ◯私は「ああ、ほんとうにそうなんだ」と思った。この瞬間を、あの鳥を、私は生涯忘れないだろうと。(39p) ◯いちど清書してしまうとそのノートからは、いつひらいても先生の声がした。(100p) ◯私はいまでも、もし一瞬だけ過去のどこかに戻れるとしたら、あのとき歴史図書館に向かっていた坂道に戻りたい。(184p) ◯なにも言えなかったのは、言うべきことがなかったからではない。ただ、どの言葉も心を表しはしなかったからだ。(255p) ★ここまで何かにのめり込めるのは素晴らしい。こんなに眩しい思い出を持つ著者を羨ましく思った。
2投稿日: 2022.11.16
powered by ブクログシンポジウム「戦争・コロナの先 文学で世界をよむ」 鴻巣友季子氏のおすすめ本 2022/10/28日経新聞
0投稿日: 2022.11.05
powered by ブクログ呆然と幸福感に包まれながらも、嫉妬と後悔が綯い交ぜになったような読後感。おそらく僕の今年のベストワン。 こんなにも真摯に、身体ごとぶつかかっていきながら、楽しく「学ぶ」姿は、とても眩しく、羨ましく、そして自分自身の後悔をも喚起させる。「細胞が生まれ変わる」ほどの勉強を僕もしたかった。いや、したくなった。(そう今からでも!)でも素直な文体がとても可愛らしく、まるで(SPY×FAMILYの)アーニャが大人になったみたいで心が癒やされる。この本こそ、僕は孫に読ませたい。あと何年後だ?
4投稿日: 2022.10.28
powered by ブクログ大変に愉しく読了したが、同時に余韻が深いような一冊だった。 少し前に『戦争日記 : 鉛筆1本で描いたウクライナのある家族の日々』という本を読んだのだったが、巻末に解説文を寄せていたのが本書の著者であった。その記憶が新しい間に本書のことを知り、直ぐに入手して読んでみたのだった。 著者はロシア文学の翻訳家であり、大学の教壇にも立っているということのようだ。ロシア語や文学を学ぶべく、高校卒業後にロシアに渡って大学に入って学び―随分を思い切ったことをされたのだと驚いた。―、研究を続けようとした中で帰国して日本国内の大学院で学んだということである。 本書は、そのロシアへ出て過ごした学生時代の回顧というような内容が軸になっている。時期は2000年代だ。 雑誌等に長い期間に亘って連載されるエッセイのような文章で読み易いのだが、或いは「“著者”が主要視点人物になる、独立した短篇にも見える章を折り重ねて創った長篇の小説」というような雰囲気も漂うような気がした。 題名に在るように「ロシアに行く」ということで、そこへ至った経過や、出逢った人達との様々な交流、出くわした巷の動きに感じたこと、更に著者がロシアに在った期間に感じた社会の雰囲気の変化に関する事等が綴られた篇が折り重なっている。何れも好いのだが、殊に秀逸なのは「アントーノフ先生」関係の篇だ。 「アントーノフ先生」というのは、著者が学んだ<文学大学>で出逢った人物で、最初に受講した講義に強く惹かれたという教員である。この「アントーノフ先生」との交流は続き、学年が進んでからも別な担当講義を受講している。<文学大学>卒業後も、一生懸命に独自に作った講義録を参照する機会が少なくなく、しばしば思い出した懐かしい人物となっていた「アントーノフ先生」だが、やがて衝撃的な事実に出くわしてしまう。 この「アントーノフ先生」に纏わる数々の篇に触れていて、「独立した短篇にも見える章を折り重ねて創った長篇の小説」というように感じたのだった。 更に、本書が登場したのは2021年だが、その時点で顕在化もしていた「ウクライナを巡る色々」に関しての論が在る篇も入っていて、何れも読み応えが在る。 ロシア語圏での文学、文学に纏わる批評、それらを包括した諸々の経過、そういうようなことに関して様々な教員達の論に耳を傾け、考え、時に学友達と語らったであろう著者による論だけに酷く説得力が在る。 濃淡は様々ながら“灰色”という中に在る人達が大勢居たが、或る時に“黒”と“白”とに分けようということになって、何か息苦しくなってしまったというような論だ。そして人々を「結び付ける」のも「分断する」のも、何れも“言葉”という論にもなる。更にそれは、ロシアの有名作家が論じていたことでもある。 2021年に本書が登場し、翌2022年からは「特定軍事行動」とロシア側が称するウクライナ侵攻という事態になってしまっている。現在時点で“出口”も視え悪い。そのロシアとウクライナとの問題に関しても、両地域に所縁が在る作家―作家に限らず、そういう人達は実に多いのだ。―のことを取上げる等しながら、濃い内容が入っている本書である。そういう点では「今こそ!」という一冊かもしれない。 実を言えば、自身もこの著者がモスクワに住み始めるような時期の10年程以前、モスクワに滞在した経過が在る。当時は随分と街を歩いたのだったが、そういう理由で本書の中に登場する街の感じの一部は「よく判る!」というように思う面も在った。そういうことも手伝いながら、「何かの雑誌に連載されている気の利いたエッセイ」を集めた一冊という感で、気軽にドンドン読み進めた本書である。が、そういう表層的な「気軽さ」の奥に、非常に強い魅力が在ると思った。広く御薦めしたい。
1投稿日: 2022.10.21
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ロシアの文学大学での日々を中心とする筆者のエッセイ。さまざまなエピソードからは学ぶことの喜びや楽しみが、各章の最初に記されたエピグラフからは文学の味わい深さがひしひしと伝わってくる。 アントーノフ先生に傾倒し、私淑する様子や、そうして全身全霊で書き上げたレポートに敬意を払って向き合ってくれるアントーノフ先生に、恋とは違うけれどそれに近いような敬愛・師弟愛を感じて、心が共鳴した。鍵のかかった部屋で、レポートの講評をしてもらう最後のシーンの沈黙、これだけ言葉について語ってきた筆者だけに、その沈黙に込められた言葉にできない万感の思いに心を震わせた。 戦争をはじめとして、個人ではどうしようもできない大きな出来事を前にして、小さな言葉が人々を語り、つないでいく。戦争の対義語は文学。
1投稿日: 2022.09.25
powered by ブクログ純粋な師弟関係だなと思った。こういう関係にすごく憧れる。 (「創作科」みたいな人たち、いるなあ...)
0投稿日: 2022.09.22
powered by ブクログ文学を、あるいは文学の勉強を語る筆致がとてもイキイキと楽しそう。学ぶのが心の底から好きなんだなあ、この人。読み終わると切なさも残る。 そしてロシアとウクライナがこうなってしまった今読むと更に、いろいろ思う。こうなってはしまっているが、ロシア文学やロシア文化の深さ豊かさは変わるものではない。そのことは心しておきたい。
1投稿日: 2022.08.10
powered by ブクログエッセイだが、小説を読んだような読後感。 現代ロシアのリアルがロシアで学生時代を過ごした作者によって語られる。 ソ連時代は過ぎ去り、一転してなんと無宗教であることが許されないロシア。(前近代に戻ってしまったのね…。)そして、一番信用ならないのは警官という治安の悪さ。(それは昔から同じ) その潮流の中、次第に制約を強める大学。(お陰で彼女は日本の大学院に帰ってきたのだが。) そして、ロシアで青春を過ごす生きた学生たちの姿。ウクライナやベラルーシ出身の友。 ひときわ存在感があり、魅力的な人物がアントーノフ先生だ。人間的で思索的内省的で、自暴自棄でシャイで、なんて魅力的な先生が大学に生息しているのだろう! 作者の愛が伝わり、アントーノフ先生の虜になった。 師弟関係や恋愛関係を遥か超えた、アントーノフ先生との絆(「絆)という手垢のついた言葉は本当は使いたくない)が最後に「大切な内緒話」として、私たちに語られる。こんなに無防備に大事なものを差し出すなんて、作者は書くものに対して、誠意がある人だと思う。 フィリペンコの「理不尽ゲーム」と「赤い十字」で、翻訳者の奈倉有里って何者⁉️と思っていたが(特に「理不尽ゲーム」の訳者後書きがすばらしい)、奈倉有里は今の世に稀有な「ホンモノ」なのだった。 この本の中で、彼女がどのような学生時代を送ってきたか、どう学問と向き合ってきたかを知ることができるので、さもありなんと納得できる。 逢坂冬馬と奈倉有里を輩出した家庭もすごいなと思う。冒頭のエピソードに出てくるお母さんの影響も大きそうだ。 いくつか印象に残ったところ ブロツキーのノーベル賞講演の言葉 「詩人が詩を書くのは、詩作によって意識や思考や世界観がめまぐるしく加速される特殊な感覚を味わうためで、この加速をひとたび体験した者は何度でも繰り返しそれを味わいたくなり、その感覚の虜になっていく」 そして最後の締めくくり 「文学の存在意義さえわからない政治家や批評家もどきが世界中で文学を軽視し始める時代というものがある。おかしいくらいに歴史の中で繰り返されてきた現象なのに、さも新しいことをいうかのように文学不要論を披露する彼らは、本を丁寧に読まないがゆえに知らないのだーこれまでいかに彼らとよく似た滑稽な人物が世界じゅうの文学作品に描かれてきたのかも、どれほど陳腐な主張をしているのかも。」 全く同感!
4投稿日: 2022.08.08
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
本書に巡り会えた幸運に感謝せずにはいられない。 本書は文学である。それも珠玉の逸品。 著者の言う「言葉があまりにも無力になる瞬間」に出会った思い。 かわりに印象に残った言葉を引用したい。 p13 「…賢さや幸せという、普段は自明のものと認識している言葉の意味を考え直すことになる。そうして緩やかにつながる言葉同士の関連性に目を凝らし、意味の核心に迫ろうとするが、核心は近づいたかと思えばまた遠ざかる。「言葉」と「意味」はひとつにはならい、でもだからこそ面白いー」 p55 「「この世界の光は闇よりも少しだけ多い」という言葉が空虚な約束や気休めではなくなるためには、「原因」を問い続けることが必要なのだと。」 p201 「偉ぶったり叱ったりすることで表面的に授業を成り立たせることはできても、それは力で抑え込んだだけで、そこから対話は生まれない。先生は、まだ学生とはいえ文学に従事する人間を尊重し、対話することを決してあきらめなかった。」 p245 「世界のニュースが報じなくなった灰色の世界で、ただ日々を生きようとする人々。その灰色はしかし、単純なひとつの色ではない。白か黒かを迫らずにそれぞれの灰色に目を凝らすことなくしては、対立は終わらないのだろう。」 p263 「文字が記号のままではなく人の思考に近づくために、これまで世界中の人々がそれぞれに想像を絶するような困難をくぐり抜けて、いま文学作品と呼ばれている本の数々を生み出してきた。だから文学が歩んできた道は人と人との文脈をつなぐための足跡であり、記号から思考へと続く光でもある。もしいま世界にその光が見えなくなっている人が多いのであれば、それは文学が不要なためではなく、決定的に不足している証拠であろう。いま世界で記号を文脈へとつなごうとしているすべての光に、そして、ある場所で生まれた光をもうひとつの場所に移し灯そうとしているすべての思考と尽力に、心からの敬意を込めて。」 もっとたくさん取り上げたいが… 本書は1ページ、1行たりとも不要なところがない。 タイトルもそうだが、文章のリズムや各章の構成、引用される詩や小説の一節など注意深く効果的に配置されていながら不自然さは微塵もない。著者の体験した驚きや喜び、切なさなどが瑞々しく感じられ、一緒に体験している気持ちになれる。読書する幸せを味わえる。
7投稿日: 2022.06.10
powered by ブクログ一度に読むのが惜しくて、少しずつしか読み進められなかった。図書館で借りていたが、どうしても手元に置きたいと感じて結局購入。 後半は涙なしには読めなかった。 ロシアの文学大学での生活を追ったエッセイだが、そこには人々との出会いと別れ、学びへの探究、ロシアをめぐる政治的な動き、そして文学への想いが語られる。 「文字が記号のままではなく人の思考に近づくために、これまで世界中の人々がそれぞれに想像を絶するような困難をくぐり抜けて、いま文学作品と呼ばれている本の数々を生み出してきた。だから文学が歩んできた道は人と人との文脈をつなぐための足跡であり、記号から思考へと続く光でもある。もしいま世界にその光が見えなくなっている人が多いのであれば、それは文学が不要なためではなく、決定的に不足している証拠であろう。」 著者には到底及ばずとも、文学部で学んだ者として、そして曲がりなりにも国語教育に携わるものとして、この部分には、文学と共にあることをここまで言語化できる著者に畏敬の念を示すとともに、自分も末端ながらもその「光」を守るための行動をとらねば、という勇気と決意を抱かされた。 静かな文章だが、徹底的に言葉にしているところに著者がこれまで言葉や文学にいかに真剣に向き合ってきたかが感じ取れる。 これからの人生で何度も開きたい一冊となった。
5投稿日: 2022.06.08
powered by ブクログ星5では足りない。この本は今後、何度も読み返すことになる。 "どうしたら「人と人を分断する」言葉ではなく「つなぐ」言葉を選んでいけるのか" 文学の役割を信じて、善き読者でありたい。
12投稿日: 2022.06.01
powered by ブクログ素晴らしいエッセイを読むのは至福の時間だ。 引き込まれながらもゆっくり読んでいった。 どのエピソードも印象的だが、最後はアントーノフ先生に持って行かれてしまった。ずっと気になりつつ読んでいたのだが。 読むきっかけは高橋源一郎さんのラジオ「飛ぶ教室」。 「同志少女よ、敵を撃て」の逢坂冬馬さんの姉と知り、姉弟揃ってすごいなぁと感心して(弟さんの方も読んでいないのだが)「ロシア留学」というのにも関心があったので読む。 そんな姉弟が育てたご両親ってどんな方、どんなご家庭?と好奇心はラジオ聴きながらムクムクしてたのだが、最初の章で早速お母様登場で、なるほどなぁと心を掴まれてしまった。 こんな下世話な感じの感想は本書にふさわしくない。申し訳なく思います。
3投稿日: 2022.05.21
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
小さく副題として「文学を探しにロシアに行く」とあるが、タイトル、装丁から、ロシア関連図書とは思えない本書。2月以降、どの書店でもロシア関連図書のコーナーがあり、そこで出会えた。いいこともある(← もちろん皮肉を込めて)。 高校卒業後、ロシアに渡り、ST.P、モスクワで暮らし、文学大学を卒業した筆者が、大学での授業、ロシア文学を軸に当時の生活と、現代につながるロシアの日常をリアルに描き出す。 ロシア文学、ロシア語への造詣は実に深く、とはいえ、米原真理ほど破天荒な性格ではないからか(あくまで推測)、地に足の付いた、実に飾り気のない実直な日々が真摯に描かれていて、親身に感じられて好印象。 1991年夏のクーデター。著者は9歳だった。 私は、まさに秋からのロシア赴きの準備中で、この先どうなるのか?と戦々恐々だった時だ。そんな冒頭第1章の記述から、現代に至るまでのロシアにまつわる体験談なだけに、共にこの30余年を振り返ることが出来て、懐かしい。 “ 「ヒトラーの誕生日には外出しないように」という主旨のメールが日本大使館から届いていた。ヒトラーの誕生日にどうしてスラヴ人がアジア人狩りをしなければいけないのか皆目見当がつかなかったが、そもそも排外主義は知識や論理とは無縁だ。 こうした 2000年代に入ってからのキナ臭い空気も、同じモスクワで体験していたんだと、勝手ながらに親近感を覚える。 時節柄、今はロシアとウクライナの問題、世界との軋轢、分断に言及した箇所に、ついつい目がいきがちだ。 2014年以降の章には、そうした記述が増えるのも事実。 「ロシアでは、言論の画一化があきらかに進んでいた。(中略)まず、マスコミの変化 — 独立系テレビ局や新聞社への弾圧やスタッフの(政府によって都合のいい人員への)総入れ替え、出版社へのモスクワ中心地からの立ち退き要請といった現象が立て続けに起こった。」 「大学時代の私やマーシャに「ロシアとウクライナが戦争をする」などと言っても、私たちは笑い飛ばしていただろう。」 終盤の章で引用されるトルストイの言葉も胸を突く。 「言葉は偉大だ。なぜなら言葉は人と人をつなぐこともできれば、人と人を分断することもできるからだ。言葉は愛のために使え、敵意を憎しみのためにも使えるからだ。人と人を分断するような言葉には注意しなさい。」 そんな箇所に読者が気を取られるのは、著者にとって望んでいたことではないだろう。本書には、異国の地で、その国の文学を通して学ぶ生活、思想、文化、語学を通じて理解し合える人と人との繋がり、広がりゆく世界、洋々たる未来、そんな喜びに満ち溢れている。 そして敬愛する恩師への感謝と愛を綴った最終章。 その文末にだけ記された日付を見れば、本書は何のために編まれたかは一目瞭然なのだった。亡くなった恩師への弔辞、いや、ラブレターと言ってもいいものだろう。 恩師への愛、文学への愛、ロシアへの愛、言語や文章、書物に秘められた人類叡智への果てしない愛情が感じられる、とても温かい作品。 本書を、 “「分断する」言葉ではなく、「つなぐ」言葉を求めて。” という帯の惹句で紹介しなければならない世相を恨む。
1投稿日: 2022.05.16
powered by ブクログ分類するなら「エッセイ」だと思う。 著者がロシア語に目覚め、ロシアに留学し、日本に帰るまでを描いた。 エッセイにも論文に近いもの、小咄みたいなもの、マンガ的なもの、いろいろあるが、これは極めて小説的。読んだ味わいが。 おそらく、この文章の中には創作はないだろうと思う。それは事実を確認したという意味ではなく、読んでいて著者の人柄を感じてそう思うのである。 個人の名前や細かいところはプライバシーに配慮して変えてあるかもしれないが、学んだこと、出来事などは事実だと思う。 私小説というのは、作者が小説を書くという意識を持って書いているわけだし、これは小説を書こうとして書かれたわけではない。だからエッセイとしか言えないのだが、上質の小説を読んだような味わいがある。 著者がロシアで出会った人々。学生、サーカスの団員、大学の先生たち。社交的でたくさんの知り合い、友だちを作るタイプの人間ではない著者だからこそ少ない人々と深く関わることができる。 どの人物も深い印象を残すが、多分これを読んだ人はアントーノフ先生の下りで涙せずにはいられないだろう。 お涙頂戴の文章では全くないし、著者は著者が感じたことしか書いていない。 しかし、伝わるんだ、アントーノフ先生の気持ちが。切なくて苦しい気持ちが。 二人の恋愛関係を描くのが恋愛小説なら、これは恋愛小説ではない。いや、小説じゃないんだ。 でも、恋愛小説を読んだような気持ちになった。 もちろん他の部分も素晴らしかった。ロシア語ができるのは言うまでもないが、これほどまでに文学が何であるかわかっている人なら安心して翻訳を任せられる。 奈倉さんの訳した本も読みたい。
2投稿日: 2022.05.15
powered by ブクログロシアとウクライナの報道が続いているなかで、ロシアが10-0で悪い報道と(実際悪いのだけれど)ロシア人も憎まれてくことに居心地の悪さを感じて、国同士ではなくて人の話が知りたくて何となく読み始めた。 2バイオリン弾きの故郷で出てきた一緒に飛行機に乗ってくれるおじさまの優しさと、最終章30大切な内緒話の先生 が特に嬉しくて愛おしくて泣けてきた。 文学と学問と、それを愛する人たちのラブストーリーだった。
2投稿日: 2022.05.08
powered by ブクログ20歳でロシア留学をしたときの出来事を中心にしたエッセイ。知らない人に助けられたり、友人たちとの交流など暖かく優しいエピソードだけでなく、身近に起きるテロや警官の腐敗、知人の蒸発などの様子など、2002年当時のロシアでの学生生活や社会の様子が活き活きと記される。そして、言論の画一化や統制強化、ウクライナとの関係悪化などが進み、大学や信頼する恩師の生活も影響を受け変ってゆく。届くはずのなかった亡くなった恩師の思いを知るくだりは、まるで小説のように切ない。時代の制約の中での個人の生活、人との信頼関係、別れの悲しさと出会ったことの意味、生み出され、受け継がれ、残り続けるものについて考えさせられる。読んで良かった。 #夕暮れに夜明けの歌を #文学を探しにロシアに行く #奈倉有里 #イーストプレス
3投稿日: 2022.04.02
powered by ブクログなんだろう、この感動は。今までこんな静かに大きな感動を受けた本ははじめてだ。とても、心地よいながらも、切ない、哀ししい気持ちになるのは、お互いを尊重し言葉を交わすことの大切さを忘れて、争いが絶えない現実が広がっているからか。どうか、ウクライナとロシアが最悪の事態を迎えることがないよう、言葉を尽くしてほしい。
4投稿日: 2022.01.30
powered by ブクログ旅はしないけど、旅本。強烈な異文化体験。ロシアの社会思想は、いまだにトルストイやドストエフスキーや・・その他多くの文豪、文学者の思想や思索が底流にあるにあるらしい。すごい。共通知になっているということ。僕らは、漱石や鴎外や、川端も三島も、春樹だってみんな知っている、読んでいるっていう前提では話なんてできないのに。 著者はソ連崩壊後のロシアへ。ペテルブルクの語学学校でロシア語を学んだ後、モスクワの国立ゴーリキー文学大学に入学。学生数は全学年合わせても約250人程度だが、ロシアでは知らない人はいない大学らしい。「文学大学」なんてあるのもすごいし、そのカリキュラムもすごい、というか・・・ロシアっていう感じ。卒業すると「文学従事者」という資格を得るらしい。 学友も先生もユニーク。東京藝大をもっとずっと圧縮したような感じだろうか? 多分そうなんだろう。 ソ連崩壊後の混乱・・・テロ、宗教、貧困・・の渦中のモスクワで文学を通じて先生や学友との交流。 当たり前だけど、ロシアの人々も普通に生きている。
2投稿日: 2022.01.15
powered by ブクログ大丈夫、ロシア文学の知識がなくてもそこそこ楽しめた笑 ただ列車に揺られるように身を任せ、筆者の記憶の広野を渡る。 翻訳家である筆者の自伝なんだろうけど、彼女が大好きなロシア文学で彩られた紀行文にも見て取れる。こちらが作家や作品名を知らずとも、簡潔明瞭に解説してくれるおかげで、気になる作品もちらほら出てきた。(近寄り難くなった時には本書に助けを求めよう) そのかたわらで、真面目な筆者とルームメイトちゃん達とのやり取りがコミカルで可愛かったりする笑 文学だけじゃなくて、ロシア語をマスターしていく筆者の成長も垣間見られ、気が付けば語学に一生懸命だった頃を回顧していた。「若い」&「目的がある」の条件さえ揃えば頑張れるのは頷ける。でも学習の中で筆者に訪れたという「思いがけない恍惚とした感覚」にはまだ至れていないんだよなー笑 現地の大学進学を経て、看板にまで文学的ユーモアを見出した時には上達の早さもさる事ながら、「ついに来るところまで来ちゃったかー!」と圧倒された。(これぞ理想的なレベルアップ…) 「語学をはじめたときにはただの記号だったものが、実態となり、さらに実感となる」 ガイドブックに「最も警戒すべきは警官」と書いてあるような国にハタチになりたての子が単身で留学とは…留学中にテロや最寄駅では殺人事件も発生したりしてご本人やご家族も気が気じゃなかったと思う。本当に命があって良かった。。(ご家族の反応が明記されていない…という事はしょっちゅう衝突されていたのか?と近所のオバチャンみたいに勘繰っていた汗) 筆者がテロの脅威にもめげずベランダで詩を朗読する姿を見ていると、これまで革命やらで殺気立った世の中をサバイブしてきた人達も、こうして言葉に救いを求めたから国内で文学が盛んになったのかなと思えてくる。 後半以降はウクライナとの紛争等政治と絡めたエピソードが所狭しで、筆者の解説にしがみついていないと簡単に読み飛ばしてしまいそうだった。こちらは彼女が見た/見ている景色をただ眺めているだけだが、向こうで出来た大好きな友人や恩師を取り巻く環境を追わずにはいられない、追うことで少しでも彼らとの繋がりを感じていたいんだろうな。 そう解釈した途端、自分は今まで自分の「大好き」と真剣に向き合えていなかった事を痛感、筆者の前で小さくなっていたのだった。
26投稿日: 2021.12.13
