
総合評価
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powered by ブクログ密室状態の無菌室で意識不明の重体患者の自殺死体が発見されることから始まる病院内での不可思議な事件を描いた奇想ミステリ。 謎が謎呼ぶ展開に一気読み必至の面白さだが、最後の最後の解決編で失速。奇想ミステリは事件や謎が奇想天外、非現実、不可能性が高ければ高いほど面白いが、事件の解決は非現実がつまらない現実に回収されることに他ならず、(さらにいえば奇想を現実に回収するにはかなりの強引さが必要というのもあって)最後の最後でガッカリしてしまうというのはある意味宿命なのかも。
0投稿日: 2024.05.09
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
● 感想 なんとも山田正紀らしいミステリ。聖バード病院を舞台に、いくつもの謎が提示され、最後は、一応、それらについて合理的な説明がされる。バカミスっぽさ、エロチックさも含まれるのが、山田正紀らしい。 読者に提示される謎としては、金庫の中に閉じ込められた、記憶喪失の女が誰なのかという謎がある。この謎は、このミステリ全体を通じ、病院内での謎の焼死事件と死体の紛失と相まって、「新枝彌弥子」なのか、「藤井葉月」なのか。二人のいずれかだと絞られる。これが読者を引き付ける謎 この謎で読者を引っ張りつつ、メインの謎としては、「女は天使なのか悪魔なのか。」という命題を突き付ける。これは物語の中では、狭更という余命いくばくもない刑事が、後輩の仮谷という刑事に突きつける命題。臨死体験をした自分に献身的な看護をし、自分の死を見たときに、悪魔のような笑みを見せた女性は誰なのか。その正体を突き止め、なぜ笑ったのかを確認してほしいという。 仮谷は狭更が緊急病棟に運ばれた日に看護をしていた看護婦が誰かを捜査するが、なかなか見つからない。当日、アルバイトをしていた篠塚という研修医に聞くことで、「新枝彌弥子」か「藤井葉月」のいずれかだったことを知る。 新枝彌弥子がどういった人物かはほとんど描かれない。藤井葉月については、片山成吉という男との関係を含め、その心理の変化についての描写がされる。藤井葉月はどうして横断歩道に飛び出すのか。無力な自分を罰しているのか。それとも交通事故を誘発して楽しんでい要るのか。片山成吉も交通事故で死ぬ。 結果的に藤井葉月はモブキャラ的存在だと分かるが、その藤井葉月にこのようなエピソードを加え、片山成吉を事故死させるという展開が、なんとも山田正紀らしいと感じる。 読者に示される金庫内の記憶喪失の女性は誰かという謎のほか、無菌室に現れた死体の謎、女性が焼死した原因となる自然発火の謎、新枝彌弥子という女性は看護婦なのか、風俗で働いているのかという謎、病院から落下した篠塚が別の場所に落ちてきた謎等が示される。これらの謎について、探偵的な位置付けで推理を披露する修善豊隆という少年の存在。もう一人、刈谷が偶然に会ったカラスを埋めていた少年の存在 飯田という狭更の付添をしている老女。この老女とその孫の存在が出てくる。この孫がキーパーソンの一人。孫娘かとおもいきや、孫は男性。じつは女装をして、新枝彌弥子という名でマドンナ・メンバーズで働いていたのが、この孫、飯田晃だった。この飯田晃については、内面的な描写はない。この飯田晃の存在が多くの謎のポイントとなっている。しかし、唐突感は否めず、このミステリ全体にバカミスっぽさを醸し出している原因でもある。 犯行をしていたのは、探偵役だと思われた修善豊隆。修善は、飯田晃と付き合っていたが、看護をしてもらった新枝彌弥子に惚れ、不治の病であるという運命に逆らうために、新枝と無理心中をしようとする。これがこの物語のメインプロット。これも、バカミスチックである。 無菌室で自殺が偽装された男の謎は、修善がしようとしている自殺のテスト。実行犯は管理婦長の逗子礼子。 謎の自然発火の原因。火炎ビンを作ったのは修善で、仕掛けたのは飯田晃。修善が火炎ビンを作るために、ケーキの作り方を見せたのは、狭更 金庫にいた女性は、新枝彌弥子。藤井葉月は、新枝と服を交換し、焼死していた。 新枝彌弥子は献身的な看護婦でありながら、聖バード病院の院長と夜に会い、サディスティックな遊びをしていた。この新枝彌弥子という女性の描写がはっきりしない。金庫内では内面の描写もあるが、その段階では記憶を失っている。どういう内面の人物なのか。狭更の死に直面した際の悪魔のような笑みの謎も描かれない。 表面的には、提示された謎について、全て論理的な解決がされる。本格ミステリとしての体裁は整っている。しかし、「女は天使なのか悪魔なのか。」この命題にこのミステリなりの回答はない。 ミステリ全体を通じるバカミスっぽさは、飯田晃の存在が原因だろう。新枝彌弥子そっくりの男。内面的な描写はなし。このミステリに、本格ミステリ的な解決を与えるために、つじつま合わせのために登場した人物のような印象を受ける。 この作品全体の印象はどうか。山田正紀の作品は、同業者からの評価が高く、一般受けがそこまで高くないという印象が強い。よくできた作品でありながら、分かりやすさに欠けるという印象。この作品も、新枝彌弥子という鍵となる人物がどういう人物か描かれない。ここが独語のカタルシスを減少させているように思う。新枝彌弥子はもっと献身的な看護婦で、金庫から抜け出してハッピーエンドといった分かりやすい物語にしてれば、もっとカタルシスがあったと思う。 個人的な評価としては…★3で。全体を通じた評価が★3どまりなのは、飯田晃が死んでからの展開。仮谷が城所に「おまえが犯人だ。」と言ってから、狭更が黒幕的存在と分かる当たりのどとうのどんでん返しが、意外性と感じるより、蛇足と感じた点にもある。 不可思議な謎、論理的な解決、どんでん返しと、エンタメ満載の本格ミステリだが、詰め込み過ぎで食傷気味になってしまった。本格ミステリとしてのつじつま合わせ感を感じた点もマイナス。バカミス的な要素はあるものの、材料は一品。料理の仕方が、ゴテゴテしすぎという印象である。バカミスチックな部分はバカミスとして消化し、本格ミステリとしては、分かりやすいカタルシスを与えてくれれば、もっと評価が上がったと思う。 ● メモ HCU(緊急病棟)にいた患者が消え、無菌室に現れる。昏睡状態の患者を、自殺に偽装し、無菌室を密室状態にすることに何の意味があるのか? 自分が誰か分からない女が巨大な金庫の中にいる。持ち物等から自分が看護師であると気付く。 死んだカラスを地面に埋める謎の少年。妖鳥(ハルピュイア)を恐れているから、カラスを殺しているという。 狭更奏一という警察官は、自分を献身的に看護した看護師が、自分の死を見て悪魔のような笑いを見せた姿を、霊のように見たという。狭更は、後輩である刈谷に、その看護師から笑いの意味を確認してほしいという。 白粉をしている50代半ばの男 立体とマジックリボンというエッシャーの絵と、マンセル表色系の透明度断面 刈谷と篠塚による「見えない部屋」探し。書庫室と時計台の小部屋に行くことになり、その前に、刈谷はME器材室に行く。刈谷は、ここで、この事件全体をつらぬく重要な秘密の一端に接していたが気付かない。 時計台の時計には長針がない。篠塚は興奮して「ケーキ」と叫ぶ。 刈谷が緊急病棟で拾った「ギリシャ・ローマ神話」のには、謎の図を描いた紙が挟まっていた。 篠塚はだれかに押され、落下するが、落下した場所にその死体がなかった。 場面は変わり、巨大な金庫の中にいる謎の女。女は、「新枝彌弥子」の身分証明書を持っている。女は脱出しようとし、真っ黒に焦げた死体を見つける。女は新枝の名札を付けている。金庫の中にいる女は新枝彌弥子なのか?そうではない誰かなのか。 場面が変わる。篠塚の死体は、落ちたと思われた場所から離れた場所で見つかる。 刈谷は捜査を続け、城所という後輩に新枝と藤井の調査を依頼。また、カラスの羽を見つける。 刈谷は無菌室に入る前の修善に会い、「見えない部屋」が緊急病棟に仮に作られた部屋ではないかと聞く。刈谷はこれまでの経緯を修善に話す。その中で、刈谷が拾った「ギリシャ・ローマ神話」を藤井葉月が読んでいたということを聞く。 刈谷は、藤井葉月についての話を聞き、ライアヘッドというファミリーレストランに行く。刈谷は、ライアヘッドで藤井の友人である片山成吉に会う。片山成吉から、葉月が横断歩道で信号無視をしている話を聞く。 刈谷は、城所から、新枝彌弥子という風俗嬢がいるという話を聞く。刈谷はその店に行く。新枝は、看護師のコスプレで働いていた。また、片山が交通事故で死ぬ。 その後、交通課の刑事の話を聞き、刈谷は、藤井葉月は事故を誘発するために信号無視をしていたのではないかと疑う。 場面が変わる。金庫室の女。金庫室の女は、自分が藤井葉月ではないかと疑う。 刈谷は、片山を藤井葉月を名のる者が呼び出していたことを知る。また、片山が最後に叫んだ言葉は、「葉月」ではなく、「事故」ではないかと疑う。 刈谷は、修善との話で、厨子が飯田に言った「ちゅうしゃ」が「注射」ではなく、「駐車」であったことに気付く。 刈谷は厨子を追い詰めるが、厨子は、全ては院長がしたことだという。刈谷は院長に会う。院長の鳥居は、マドンナ・メンバーズでも会った、白粉をした男だった。 鳥居の自白。鳥居は、マドンナ・メンバーズで遊んでいただけでなく、看護師とも会っていた。その二人は同一人物なのか。新枝彌弥子が焼死したが、それは看護師の新枝なのか。風俗嬢の新枝なのか。刈谷は、「ギリシャ・ローマ神話」に挟まれていた図を鳥居に見せる。鳥居は、これはレーザーの波ではないかという。 刈谷は、飯田い会いに行く。そこで曼荼羅の話をする。金剛曼荼羅と、胎蔵曼荼羅についての話を聞く。飯田が住むマンションには公安が追っている人物がいた。そこで話を聞く。新枝彌弥子は、飯田の孫だった。しかし、娘ではなく息子だった。 場面が変わる。金庫の中。金庫の中で、藤井葉月が書いたメモを見つける。女は筆跡鑑定をする。自分は藤井葉月なのか。 刈谷は、無菌室に入る前の修善に会う。修善の推理を聞く。「ケーキの作り方」とはテロリストの教本。この本で、自動発火装置を作り、時計台を利用して発火させた。これが自動発火の真相 無菌室の真相。これはマジックベッドを使った物理トリック。しかし、これは真相でない。ここで、刈谷が城所に依頼していた動きが生じる。飯田晃が鳥居に接触し逃亡のための資金を都合するように依頼した。そこを抑える。飯田晃は逃走に失敗し、死亡 金庫の女は藤井葉月ではない。新枝彌弥子だった。新枝を襲ったのは、バレンシャーガの香水を付けた厨子礼子だった。焼死したのは藤井葉月。 新枝彌弥子は自力で脱出。修善と飯田晃は恋人同士だった。その後、修善は、新枝彌弥子に会い、惚れる。 無菌室の死体の謎は、実験だった。修善は自分が死ぬことができるかの実験に使った。修善は、新枝と無理心中をしようとしていた。無理心中失敗。そこで、新枝を監禁し窒息死させるタイミングを見計らい、自分も無菌室で自殺しようと計画していた。 修善の告白。藤井葉月を焼死させた火炎ビンを仕掛けたのは飯田晃。火炎ビンを作ったのは修善豊隆。新枝彌弥子に麻酔をかけ、図書室に閉じ込めたのも修善。仮谷は、二人に警察が取調べをすると告げる。そして、たまたまあった城所に、「おまえが犯人だ。」と告げる。その真意は、城所が銃を渡した狭更こそが黒幕という意味 黒幕的存在は狭更だった。狭更は、警察に押収されていた「ケーキの作り方」を修善豊隆に見せ、修善を心理的に操っていたのだと指摘。狭更は、城所が持ってきた銃を使おうとするが、刈谷が止める。心臓が弱っていた狭更は死亡する。その死亡の際に心臓マッサージなどをした新枝彌弥子は、賢明な看護をするが、最後にあの謎の笑みを浮かべる。「女は天使なのか悪魔なのか」その謎は永遠に刈谷の胸に残される。 篠塚嬰児 医師。聖バード病院でアルバイトをしている。アルバイトをした初日に、新枝か藤井のいずれかを抱いた。 刈谷作弥 警察官 狭更奏一 警察官 飯田静女 狭更の付添婦 修善豊隆 16歳の少年 厨子礼子 管理婦長。バレンシャーガという香水をつけている 新枝彌撒子 看護師。刈谷が探している看護師候補。緊急病棟が火事になり、焼死したという。 藤井葉月 刈谷が探している看護師候補 城所 警察官 片山成吉 藤井葉月の友人。ライアヘッドで藤井と会っていた。 鳥居 院長。白粉をしている。
2投稿日: 2022.07.24
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本書はその予定は全くなかった(存在も知らなかった)が、店頭でデザインにひかれ購入した。 著者のことは前々から知っていて、最初に読むなら「ミステリ・オペラ」が良いのかとも考えていたが、つい、本書を購入してしまった。また、解説が阿津川氏であり、同氏が本書に「お墨付き」を与えてくれているようにも感じた。 結果的に、とても楽しんで読めた。ハルピュイア、曼荼羅、臨死体験など、オカルティックというか、全体としてリアリズムというより幻想的な雰囲気で物語が進んでいく。 一つ解決されても、また謎がどんどん展開されるようであり、最後にはこれら全て解決が示されるのか不安になるくらいであった(残りのページ数で全てに答えが出るのか、はらはらするような気持ちになった)。 結果的には、(当然かもしれないが)結末までにうまく謎が回収されたが、「犯人」は明らかになったものの、起こったことの実相は分かっても、なお不可思議に思える要素も残っていると感じ、それがどことなくいい意味の不気味な後味を残していると思う。 ただ、少し、描写に繰り返しが多いようにも感じた。内面の(心理的な)描写は、あえて執拗に書き連ねて、重たい表現を意図していたとも言えるかもしれない。
1投稿日: 2022.02.03
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冒頭から立て続けに起こる事件の突飛さや、狂ったような語り口は、どう見てもニューロティック系のホラーや幻想文学のそれ。これを凄まじいまでの強引さで、そのほとんどを合理の範囲内に全て着地させてしまう、その途方もない力業に圧倒される。これ一作にぶち込まれたトリック、アイデアの総量たるや、これまたとんでもない。人ごとながら心配になるレベル。個々のトリックを子細に見れば結構雑だったりもするが、もうそんなことはどうでもいいや。まいりました。
0投稿日: 2021.10.22
