
総合評価
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powered by ブクログ最初の山の谷底での出会いの描写がやや難しくて長かったですが、その後は比較的読みやく最後まで読了。語り手である「彼」の杳子への愛や欲望や葛藤が上品な文体で様々な表現で描かれていきます。展開は単調でした。
2投稿日: 2025.10.25
powered by ブクログ杳子よりも妻隠の方が個人的には断然よかった。 今となっては当たり前のように言われる、精神疾患・境界知能と呼ばれる人たちに当てはまるのが杳子ではないだろうかという気持ちで読んでいた。ある意味とてもリアルでフィクションのために加工されたキャラクターでは全くなく、身近に杳子のような人間がいる世界を見ている気分だった。 妻隠の方が日本の純文学っていう感じがする。アイディアとなる核がいくつかあり、それが絡み合っていて面白かった。そして人間の心情がこちらの方が、うまく描けていると感じた。共感できたという方が正しいかもしれないが。
1投稿日: 2025.10.18
powered by ブクログ純文学とは何なのか? そのわかりやすい例がこの作品のように思う。 異なものを描く事がそうではないかな。 『杳子』には質感がある。 それを質感を伴って体感させる事を通して理解や共感に繋がる可能性がそこにはある。 わかるがわからない作品。 人もまたそうだと思う。
0投稿日: 2025.07.11
powered by ブクログこのような文章で物語を構築することが出来るのか、と思わされ小説というフォーマットの奥深さを知った不思議な読後。
0投稿日: 2025.03.26
powered by ブクログ人称が不思議な小説でした。三人称で書いてるけど殆どは彼から観た視点で、なんで私じゃなくて彼にしたんだろうとか考えたけど分かりませんでした。これは杳子も妻隠どちらも同じでした。描写や観察眼がすごいです。 山の谷底で出会った女の子が岩がなんかすごいの、かくかくしかじか。岩の塔が空にむかって伸び上がろうとする力によって支えられるているように見えるの。とか言われたら、全力逃避対象でしょうね。とか思いつつも、彼女(病気を持つ)の見える世界は僕らの見ている世界とは違うということをちゃんと受け止めなくてはとも思った。
12投稿日: 2025.02.06
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「杳子」は、大人の女性と少女が何度も入れ替わるような危うい魅力のある人物だった。 執拗なまでに細部にこだわる描写で、その神経質さにこちらまで鬱屈してくるようだ。第三者である杳子の姉が登場してから面白くなったと感じた。それまでは杳子もSもそれぞれ生活を送れているのか不安になるほど、生きている人としての現実味がなかった。 姉という他人の目があって初めて、2人の会話がようやく人間らしいものになった気がする。姉という観察対象がいることで客観的になったのかもしれない。2人きりだと、どんどん深みにはまっていく感じがあって危ういけれど、それが一緒になるということかもしれないとも思った。いつまでも安心させてくれない物語だ。 「妻隠」は、若い頃から付き合って結婚した2人の、ささやかな日常を描いた短編だった。暮らしている家や家族に対して、急に見慣れないもののように感じることってなぜかある。何ということもない暮らしの中で不意におとずれる違和感が的確に表現されていた。この夫婦の自由さや、型にはまりすぎていないことが気楽な雰囲気で良かった。
0投稿日: 2025.01.17
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「礼子はとっさに彼の顔を見分けられなかった。しばらくの間とはいえこの家の中に、それも彼の寝床の中に、見も知らぬ男がうずくまっていた。なるほど夫婦という現実などはちょっと揺られると、案外頼りないものだ。それにしても、いったん夫の姿をそんな風に見つめてしまったからには、これからも事あるごとに、夫の姿の中に見もしらぬ男を見るようになりかねない……。」197頁 ←聞き手である主人公が妻に起こったフレームの混乱についてこんな正確に理解して共感できるのって、ありえなすぎて嬉しい
0投稿日: 2024.10.22
powered by ブクログ脚本家いながききよたか氏の話から興味を持って読みました。 『杳子』は芥川賞受賞作品 彼女の庇護者のようなつもりの彼氏の一字一句が、彼女を妖しく表しているようで、そこに愛を感じました。 杳子は精神的に不安定な人物ですが、賢い人です。とても魅力溢れるご婦人で、幸せになってほしいと願いたくなります。 映像化したら面白いだろうなと思いました。 『妻隠』は夫婦の話。 この作品は特に〝夕方の風景〟が妙にリアルで懐かしさが感じられます。 主人公寿夫は発熱で会社を休んで一週間。日常でありながら非日常を経験しているようです。妻の礼子の日頃見られない姿を見て色々と思うところが出てきて、なにかと面白いです。少し艶美なシーンがあるのかと思いましたが、寿夫の性格なのかサラリとしたものでした。 2作品とも主人公は男性で、妻や恋人を丸く包み込むような人物でした。 作者の古井由吉もそうなのでしょうか。
0投稿日: 2024.07.03
powered by ブクログ二、三年前に読んでいたら好きなっていた作品なのかもしれない。 繰り返しの日常に盲目的な今の私は、杳子の目には間違いなく健全なフリをした「病人」として映るだろう。 環境の変化は絶えず違ったやり方で交渉を求め、日常の反復を破壊する。しかし外の世界に応じて生きる中でも少しも変わらない、自分自身に押し戻される瞬間が必ず残る。
0投稿日: 2024.03.27
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「だけど、あなたに出会ってから、人の癖が好きになるということが、すこしわかったような気がする」 外界から遮断された2人の、2人だけで進んでいく物語が好きだから面白かった。2人だけではアンバランスだしとても凸凹がぴったり合わさっているとは言えないけど、妹という外部の人間が介入してくるとそれはそれで均衡が崩れる。ギリギリのところで耐えている杳子の心と2人のぐらぐらとした関係が似ていた。
1投稿日: 2023.11.17
powered by ブクログ筆致に圧倒された。 だれかと関係を持つ、ともに生活を送る。 まったくの孤独ではないはずなのに、閉塞的なその関係によってより孤独が深まっていくような、そんな苦しさと寂しさと、やるせなさのようなもの。自分の中で上手く言語化できなかった感覚が、描かれていたような気がした。
1投稿日: 2023.10.27
powered by ブクログ2023.9.26 「杳子」 読了 何度も噛み締めて読み返したくなる。ということで読み返し。特別なイベントがあるわけではないが、細かい描写が鮮明で綺麗。精神の病をもつ友人が近くにいるが、その難しさを考えさせられる。これが男女なのもまたいい。 2023.10.26「妻隠」読了 大江と同じような暗さを抱いたけど、言語化できない〜閉塞的な何か〜
0投稿日: 2023.09.26
powered by ブクログ閉塞された男女の世界を、 透明人間になって傍から見聞きして書いたような偏執的な描写。 冷徹で枯れていて、思考や目線の端々が几帳面の域を超えている。 その文体から映し出される登場人物は、 そのままそっくり具現化されたようで、 深淵は多層化され、 滑らかで湿り気のある混沌と、 儚げで印象的な齣撮りの時間の中に、 絶えずその性質を留まらせている。 庇護欲でなく同族であることの共通理解が、 男女を一風変わった関係で成立させ、 それがどの抽斗から出てきた恋愛なのか分からなくとも、一応箪笥には収まっているように見せる。 踠いているような、 真っ直ぐ進んでいるような、 その歩き方を絶えず指先まで意識しながらいるような、そんな話でした。 杳子面倒臭いけど、多分可愛い。 話が一筋縄でいかないのを身悶えしながら、 読み進めたが、結局、どうなったんですね?(白目) 読み疲れするし、 の割には感情を揺さぶられるでもない。 理解が追いつかないながらも、 本能的感覚で、 ただその凄さをぼんやり感じる事はできる。 妻隠のほうが読み易い。 思考の並びや、妻の描写に、 ハッとさせられる所が多々あった。 DQNの中で妻がオンナになるとことか、 その後何食わぬ顔で帰って来るとこ、 それに夫が何も示さないとこ、 桃に関心が無さそうに適当に摘むとこが、 わりと印象に残った。 なにか冷たいのか、 冷たい中に熱があるのか、 判然としないなかに、 嫌にまとわりつく読み味が、 読後にはサラッと流れていくようだった。 本格小説といった印象だが、 果たして本格とは一体何をもってして本格とするのか。 古井由吉をもう少し読み込めば、 分かるようになるかもしれない。 #読書 #読書録 #読書
2投稿日: 2023.06.14
powered by ブクログ健康な生活、あるいは常識に基づいた人生というものがもしもあるとすればそうしたノーマルさからこぼれ落ちる人生もあるはずで、それを人は病気と呼ぶのだろう。だが、それは数の論理で決められてしまっているものである以上、病むことを生きるしかない人の生活においては病んだ状態こそがノーマルとも言えるのではないか。杳子は今の目で見れば確実に病んだ側に入る人間だろうが、彼女のこだわりや言葉の空回りは彼女にとっては切実な問題であり、主人公は反発しながらも彼女の病の重力圏に近づいていく果敢さを秘めているのだと読む。ゆえに崇高だ
3投稿日: 2023.02.15
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
先日、縁あって本著者の「聖」と「栖」を読み、続いて著者の著作をシリーズで読んでみようと、図書館で借りた。 「杳子」(ようこ)、精神疾患を抱える若い女とどこか距離を置きながら寄り添う若い男との男女物語、先日読んだ「栖」よりはマイルドな仕立てになっている。ホッとした。 「妻隠」(つまごみ)、同じ大学を出た若い夫婦のほんの数日の生活を切り取った物語、なんとも昭和が漂う男女のささやかな物語だ。 いずれの作品も若い男を通してみた心象の風景が描かれている。
0投稿日: 2023.01.30
powered by ブクログ2022.9.6「杳子」読了 2022.9.16「妻隠(つまごみ)」読了 惜しまれながら2020年2月18日に逝去された「内向の世代」を代表する作家による芥川賞受賞作。 福田和也氏の「作家の値うち」(昨今たまに書店で見かける小川榮太郎氏版は本紙のパクリかオマージュなのだろう)で高評価だった(確か、他作品「仮往生伝試文」が村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」、石原慎太郎「太陽の季節」と並んで最高点だった)ことでその存在を知り、ピースの又吉氏も好きな作家として挙げていたことから、読みたいと強く思うようになって、どうせならまずは芥川賞受賞作をと思って買ってはみたものの、長らく積読になっていた。 「杳子」は、主人公の男と、山で出会った心の病気で普通の生活を送ることが難しい女性との話。当時選評委員に緻密な文章を絶賛され「妻隠」とどちらを受賞作とするか争われたらしい。 2023年の今からすれば53年前の作品だが、そこまで古びた感じはしない。同じことをあらゆる角度から何度も語り直すことで本質に近づこうとしているのに、ますますぼんやりしてしまうよう。 「妻隠」は「杳子」よりわかりやすいような。 今度は男が神経を病み寝込んでいる中、季節労働で集まった近所に寝泊まりしている若者たちと妻と男との話。
0投稿日: 2023.01.18
powered by ブクログ“内向の世代”としてどんどん深化していった中期以降の古井由吉とは内容を異にする初期の大名作。 当時より観察力・透明な筆致は完成しているが、何より表題の『杳子』のひたむきな表現に心が動く。 他作を同様にお薦めは出来ないが、本書に関しては戦後の必読書と言いたい。
3投稿日: 2022.10.06
powered by ブクログ「杳子」 大学生の時にしばらくお付き合いをしていた女性は小柄で可愛らしく、真面目で読書家、友達思いのキュートな人だった。 彼女が北海道へ一人旅に出かけた時に、私は多分何かに嫉妬したのだろう。 彼女が私より旅行を選んだような気がした。 その頃から私は自分の中にあるウジウジとした女々しい思いを彼女に少しずつ吐き出すようになっていたと思う。 私は彼女の本質を知らなかっただろう。そして自分の女々しい思いをぶつけることが彼女の心から私を遠ざけるのだという事を知らなかった。 この作品の「杳子」は心を病んでいるのだけれど、自分が病んでいる事を知っている。そして彼女を取り巻く世の中と人々は彼女を救い出すことができない。 動けなくなった山の「底」で杳子は彼女を救える男に出会い、助けを求める。 男は杳子を救えるのは自分の他いないと知る。 男と杳子は2人だけの空間を作りその中で抱き合いながら生きていくことになるのだろう。 「妻隠(つまごみ)」 妻隠とは一体どういう意味なのだろうか。 辞書を引いても作品を読み終えてもわからない。 多分会社の組合運動に加わっていた男性が、その時の疲れからだろうか体調を崩して1週間近くの休みを取る。 その間会社勤めの身では見ることのなかった日常が目の前に広がる。 果たして自分と妻はどこにいるのか? 自分を包む現実の世界で自分達はどの様に見られ、どの様に生きているのか? 今の自分達の生き方は世の中を構成する真っ当な生き方なのか、疑問が沸く。 気になる事: 妻隠の中に「独壇場」という表現が有る。 本来なら独擅場で独壇場はその誤用だとされていたけれど、今では作家も使うほど正しい言葉として認識されているのだろうか?
3投稿日: 2022.09.15
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
(「杳子」)神経症を病む女子大生の杳子は山でS氏と出会い、その後二人の恋愛とも取れるような関係が始まる。S氏は杳子の病気をどうにかしようとするけれど、だんだん彼女の内面的で閉塞的な世界観に引き摺り込まれるようにも思えた。なぜS氏は杳子に惹かれていくのか?精神の奥底で彼女に通じるところがあるからのようにも思える。S氏も杳子自身も杳子の姉も彼女のことを病気だというけれど、みんな同じだし、誰にでもこういう面はあるのではないかな。 時間をおいてじっくりと再読したい一冊。第64回芥川賞受賞作品。
1投稿日: 2022.09.10
powered by ブクログ読書開始日:2022年4月9日 読書終了日:2022年5月17日 【杳子】 病人と健康人。 この違い、中々に難しい。 精神ならなおさら。 病気を病気で確定させることで、周りはある種の安心につながる。 杳子の姉はそれを望んだ。 姉以外もそれを望んだ。 でも杳子は、自身の病気を認識することを拒んだ。 そんななかSが現れた。 Sは杳子の病気に対して、初めは好奇心や興奮を覚えるが、それが次第に情に変わっていった。 その変遷が、杳子の決心に結びついた。 癖ってある種の病気だ。 健康的な癖、病的な癖、その線引きはどこだろう。 杳子のように、毎日の出来事が全て違うように見えることが当たり前の世界では、姉のような反復がより奇怪に感じる。 その杳子自身も毎日の出来事が全て違うと見える癖に苛まれている。 病気ってなんだろう。 【妻隠】 寿夫が欠勤したことで見えてきた礼子の詳細。 ふとしたことがきっかけで、当たり前の風景が違って見えることがある。 ゲジュタルト崩壊のような。 ふときたときに、人間は動物に戻る時がある。 杳子の場合は、動物の時間が長いことによるある種の精神病。精神病なのか健康なのか。 養老孟司論から推測する。 夫婦の関係を築いても相手を知り尽くすことは不可能。そこに意味がある。 寿夫は新鮮な一面を見せる礼子を片腕に抱き、慈しむ。 きっかけは、欠勤と老婆と礼子の同郷人ヒロシ。 渺とかすむ顔 杳子は動物、同じという人間特有の感覚がない 風に顔を背けることをしない。風を蔑ろにする。 性行為をすることにより杳子の失調に近づけるが、性の興奮がそれを上回る。それが心地よくなる。 そのため、杳子とのいとなみでは成熟せず、若い男が性を求める中に留まっていた。 健康になるってどういうこと?まわりの人を安心させるっていうことよ 杳子は中途半端な状態。病気を病気と認識することで健康にはなる。だが、病気を病気と認識してそれが完全な癖となった自分に耐えられるかが怖い。 【妻隠】 心をたのしませるったって、自分一人楽しめばいいもんではない。自分も、人も、ほとけにもよろ 一視同仁 夫婦の現実などはちょっと揺られると案外頼りない 頤 惰性になった接吻の匂い
0投稿日: 2022.05.24
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ピース又吉が第二図書係補佐で題材としていたため読んだ。 しかし、自分の頭では理解できなかった。読書が下手になったのだろうか。 だけど、雰囲気は全体に好きだった。 杳子は神経症を患う彼女を持つ男の視点で物語は進んでいく。 最終的には杳子が健康になるために、病院へ行くと宣言して終わる。 恋人のためを思って自分の体を治そうとする姿によって、自分の恋人へ姿勢を改めようと反省した。 彼女は私とデートする時はいつも身なりを整えてくる。それに対して、私は不潔感漂う姿でデートに行く。そんな容姿では彼女に対して甚だ失礼だろう。 相手を思うからこそ自分を変えると言う精神は忘れてはいけない。 妻隠は全くわからなかった。 閉塞的な夫婦の関係を物語にしているとは思うのだが、それ以上のことは何もわからない。何故だろう。 この小説も淡い雰囲気があり、とても好きだ。だからこそ、もう一度読んで少しでも理解を増やしたい。
0投稿日: 2022.05.24
powered by ブクログ杳子はよかった。 精神的にちょっと病んでる女の子から見えてる世界の描写がうまい。 冒頭の、岩が頑張って均衡を保って立ってると思ったのに、なぜか急に岩が自ら空に伸び上がってるように見えてきた… みたいな描写が妙に心に残って離れない。 どういう世界の見え方なの。 やば。こわ。すご。 病んでる女の子を好きになる男の子も少し変わっているというか昏いところがあるというのもとてもよく分かる。 妻隠は、今の私にはあまり意味が分からない。 気怠い夏の空気、馴れた夫婦の物憂げな雰囲気はよく伝わってきた。
0投稿日: 2022.05.13
powered by ブクログ随分昔に読んだきりだったので、本当に久々に再読してみたのだけれど、『杳子』とても良かった。私は自分がかなり神経症っぽいところがあるので、昔からフラニーやら杳子やら直子やら、神経症っぽい女子を描く小説が好きというか妙に刺さってしまう。まあ10代の頃よりは距離を取って読めるようにはなってきているので、少しはマシになってきているか。杳子が重力の重さに耐えきれずしゃがみ込んでしまう感じ、しかしそれを訳の分からない病気のせいにするのではなく、あくまでも言葉で執拗に語っていく感じ、それが男女の他愛もない逢瀬を縦軸にずんずんと描かれていき、なかなか迫力のある小説だと思った。そして独創的。自分の読むタイミングともバチッとハマっており、今これを求めていた、という読書体験だった。ありがたい。 しかし『妻隠』はなんかあんましよく分からなかったな。2人の子無しの夫婦の閉じた空間は面白いと思ったが。
0投稿日: 2022.04.13
powered by ブクログひたすら陰鬱な作品で,メランコリーが全体を支配しているのが特徴。70年代「内向の世代」の代表作で,ある種の純文学の王道だろう。 今にも落ちそうな危うさで,といっても落ちたからといって何事も起こりそうもない,といった徒労。閉ざされた世界における不安は,現代でも十分通じるところがある。 「病的」というのを書こうとすると大抵は意欲作扱いされると思うのだが,本書はそれを普通にこなしてしまった。更に,本作が問うのはごく一般的な「存在の境界線」であり,読者の平衡感覚すら奪ってしまう。果たしてどこからがメタ視点なのだろう。
0投稿日: 2021.07.20
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
古井由吉氏の作品ははじめてだったが、 いかにも純文学を読んでいますという時間を過ごした 世にも奇妙な物語にしても面白いと思った
0投稿日: 2021.01.30
powered by ブクログ「杳子」が小川洋子さんのラジオで紹介されていて、気になって読んだ。1971年の芥川賞受賞作品。掴みどころがなく何とも言えない気分になるが、美しい文章だと思った。小川洋子さんが、「繰り返し読むことで発見がある」と評されている。他の古井由吉作品も読んでみたいと思った。
0投稿日: 2020.12.23
powered by ブクログ「杳子」 山の中で出会った杳子という神経を病む女子大生に恋愛感情を抱く青年。杳子の不可解な行動に翻弄されながらも、彼女を理解し守ろうと努める。 杳子の姉も、かつて同じような病気であった。姉妹は反目しながらも同じ軌道上を生きていた。 「妻隠」(つまごみ) 体調をくずし会社を休み、一週間家で静養している男。閉鎖的な空間の中、うつろな状態で、成熟した妻の肢体を見ながら、夫婦の共同生活による絆の深さとともに、脆さも感じていく。 どちらの作品も、感性あふれる状況描写や表現力に圧倒され、非常に強い印象が残る一冊だった。
0投稿日: 2020.09.01
powered by ブクログヨウコは精神を病んだ女性の描写が細かく、優れているのは分かるが読み進めるのに時間がかかる..妻籠は比較的ライトな語り口だが、危うさも兼ね備えている。描写が上手い。事あるごとに淫ら、という言葉が連発されているような。
2投稿日: 2020.05.09
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
「杳子」は統合失調症の女とそこはかとなくメンヘラ男の恋愛、「妻隠」は現実感のないままに夫婦をやっている男女の話という感じなんだけど、文章がすごい。何気ない風景が一瞬でブレて観念の世界へ入り込んでいく、でも地に足つかないわけではなく、むしろ現実感が気持ち悪いくらいに臭ってくるような不思議な感じ。力のある文章、あこがれるなあ。 作中で杳子の女性性が強調されるのでどうしてもそういう方向を意識してしまうのだけど、この文体、女性っぽい観念の世界を男の人のやり方で歩いている、という印象ですごく不思議。 「健康になるって、どういうこと」 「まわりの人を安心させるっていうことよ」 というところには、思わず笑ってしまったが、杳子の神経質な緊張が恐ろしくリアルなので読んでいて神経を優しく逆なでされるような気分になる。ふっと緩み、またあっという間に引きちぎれそうに張りつめる神経を持ち、突如攻撃的になる女。そことつながるチャンネルを持っているのに、他人の視点で観察するように眺める男。共感できないとか、分からないというより、そちらへ引きずられて行きたくない、と思って距離を取りたくなる。
0投稿日: 2020.04.17
powered by ブクログ杳子は神経症のようだが、症状が安定しないなぁとか、あんまり本題と関係ないところが気になって入り込めなかった。非常に観念的。
0投稿日: 2020.02.10
powered by ブクログ古井著作初読。 言葉の硬さがないため早く読み終わることができたが、関係の不確かさと揺らぎいいようのない危うさを覚える本。 うす暗がりの、男女の恋愛。輪郭がぼやける。腕と身体を結ぶイメージが崩れる。隠している心の奥底。怯えと苛立ち。
0投稿日: 2019.03.23
powered by ブクログ平坦な話の流れの中に、登場人物の心情の変化が事細かに表現されている。 男女の仲とは脆く危うい面も持ち合わせているものなのだな、と感じた。
0投稿日: 2018.12.04
powered by ブクログ表題の2編はそれぞれ独立した別作品。 ネットですごく良く書かれていたレビューを見たので気になって読んでみたが、 私には合わなかったようで、最後まで良さがわからず読み終えた。(苦笑) 70年代の芥川賞作品であることも後から知った。 詳しい病名は書かれていないが、今で言うメンヘラ?の女子と関係を持つ男子目線のお話と、 同棲カップルのような若夫婦の夫目線なお話。 時代背景は56歳の私にとっては入り易かったのだが、それを差し引いたら苦手な部類。 ただし、比喩的文章は美しいし文章の流れはとてもキレイだと思った。
0投稿日: 2018.11.19
powered by ブクログ『ピース又吉がむさぼり読む新潮文庫20冊』からピックアップした一冊。 閉ざされた世界での男女の恋愛というものは、かくも重くて暗いものなのか。そもそも恋愛とは実は明るいものではないのかもしれない。そんなことを考えながら読み終えたとき、又吉が帯の惹句に書いている「脳が揺れ…めまいを感じ」たという症状にワタシも見舞われた。
2投稿日: 2018.11.18
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
なーんか背筋が寒いのよね。 文章が、どすーんと鎮座していて その文章を読むのに何手間もかかる感じです。 前者の作品は 強迫観念に取り付かれた女性と 人生を無為に過ごす男性の物語。 だんだんと男性が女性に引きこまれて やんでいくさまが実に背筋が寒いです。 ですが、女性は、やっぱり強いね。 後者の作品は… 二人だけの日常に 思わぬ影がさしていく作品。 二人だけの世界は、ありえないのよね。 そして、なにやら意味ありげな発言が でてくるのが気になるところ… (そうではないと信じたいですが)
0投稿日: 2016.11.17
powered by ブクログピース又吉のエッセイがすごく心に残っていて手に取りました。 「病んでいる」とか「夫婦だ」とか定義付けることに何の意味もないような気がしてくる。社会的には必要なんだろうけど、当人にとっては。 ストーリーは好みではない(たぶんあんまり理解できてない)ものの、面白い描写があちこちにあって、その感覚を想像することは楽しかった。 暗くてじっとりして生々しいんだけど、素っ頓狂な感じ。
0投稿日: 2016.06.22
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
少しでも力を加えると崩れさってしま心の脆さが文章で上手く表現されていると感じる。 「杳子」不安になる。杳子、主人公も、杳子の姉も、その不安定さが不安にさせる。ぎりぎりのところでかろうじて正気を保っている。そんな危うい、絶妙な感覚が読み手の平衡感覚を失う。 「妻隠」人間関係の不安定さが不安になる。老婆や「ヒロシ」という闖入者によって、崩れそうな夫婦。かろうじて保たれているその関係。安堵と溜息が混ざり合うよな感情になる。
0投稿日: 2016.02.26
powered by ブクログ初古井由吉。まぁ、芥川賞はこんなもんだろうと思ってはいたけど、やっぱり重苦しくて時間がかかった。杳子さんは統合失調症の可能性があるので、一刻も早く通院、治療しましょう。
0投稿日: 2016.01.11
powered by ブクログ杳子--おそらく統合失調症である女との交際を実に細かく描写している。登場人物は二人以外にほとんどいないのに、描写の細密さによって最後まで読ませてしまう。これはすごい作品だ。 妻隠--正直、よく分からなかった。
0投稿日: 2015.09.21
powered by ブクログ又吉効果で読者が増えた古井由吉。初めて読んだが、なかなかクセが強い文体だわ。杳子は正直、描写の濃密さに辟易してしまったが、妻隠は楽しめた。夫婦という不思議な関係性を、うまく言葉で切り出している気がする。 どうでもいいけど、どっちも読んでいて気になったのが、体をよじるという表現が頻繁に出てきたこと。古臭い言葉ではないけど、一般生活ではあまり聞かない言葉なだけに気になった。あと、官能性を表現するのに、太ももがよく出てくる。逆に胸については、あまり描かれなくて、古井さんは脚フェチなのかな、と勝手に想像してしまった。
0投稿日: 2015.09.14
powered by ブクログ芥川賞受賞作。 杳子という名前、谷底からの始まり、そして精神の病。これでもかというくらい、暗い物語である。 読んでいると常に杳子の精神の抑揚に振り回される。そこに加え正常であるはずの「彼」の目線にも揺さぶられ、ダブルでしんどかった。
0投稿日: 2015.08.30
powered by ブクログしんど過ぎて なかなか読み進めない。途中まで読んでしばらく放置していた。間をしばらく開けてよみおわった。とにかくしんどかった。 普段気付かないふりをしているけれども、確かに自分の中に存在している暗いもの。触れずに蓋をしてそっとしておきたいもの。その存在に気づかされることが、しんどいのだと思う。
0投稿日: 2015.07.29
powered by ブクログ初めて古井由吉さんの小説を読みました。普段、小説は一気に読んでしまうことが多いのですが、あまりに内容が重くて途中でしんどくなってしまって、日にちをかけて読破しました。 『杳子』 心の健康って何だろう?って考えさせられる内容でした。 杳子は神経を病んでいて、異常といえる思考を持っているんだと思います。けれど文章を読んでいると、だんだんそういう考え方もわからなくもないと思えてきてしまう自分がいました。普段生活していて考えることはないけど、考えてみると実は世界の実体は誰にも理解できません。だからこそ見え方は人それぞれで、誰かの思考が間違っていると言い切ることはできないのではないかと感じました。 病気が直ったという杳子の姉と健康だという杳子の彼、自分の癖に慣れてしまって自分ではわかっていない彼らは、他人から見たらどうなのでしょうか。自分では健康だと思っている人も、他人からみたら異常だと思われているのかもしれません。同じ人に対する意見も人それぞれ異なり、正解はわからないのだと思います。 『妻隠』 『杳子』で衝撃を受けた後読むと、だいぶ読みやすく感じました。不安定さを孕む夫婦の物語でした。 夫の顔が知らない人に見えたり、逆もあったりと、こちらの物語でも見え方の多様性を感じました。
0投稿日: 2015.07.12
powered by ブクログ比喩ではなく実際に眩暈を感じた、 というピース又吉の帯コメントで気になり購入。 な、なるほど。 杳子の言ってることを真剣に聞いていると度々眩暈を感じそうにはなりましたが…。 いやでも確かに後半に出てくる杳子の姉について考えようとするとなかなかクラりと来るものがあります。 好みではない内容だったけれど、危うい空気感が上手いなと思いました。 しかし個人的には『妻隠』のなんとも言えない夫婦の心の揺れ動きにざわざわ。 なかなか一言で言い表せない《恋愛小説》でありました。
0投稿日: 2015.05.24
powered by ブクログ気になってた古井由吉作品。 こういう文体好き。表面のちょっとした仕草からどんどん内面の襞に入り込んでいって、時間がすごく過ぎたような感じになって、でもほんの一瞬の些細な出来事。 妻隠よりも表題作の方が好き。 映像化するなら菊池凛子だなあ。
0投稿日: 2015.03.11
powered by ブクログこの2作品はともに、ある男と女のお話である。『妻隠』は若い2人は現代の憂鬱な暮らしに閉塞している。おせっかいな底意があるかのような老婆が絡み、気怠さを効果的に感じさせる。
0投稿日: 2014.09.14
powered by ブクログ【本の内容】 「杳子は深い谷底に一人で座っていた。」 神経を病む女子大生〈杳子)との、山中での異様な出会いに始まる、孤独で斬新な愛の世界……。 現代の青春を浮き彫りにする芥川賞受賞作『杳子』。 都会に住まう若い夫婦の日常の周辺にひろがる深淵を巧緻な筆に描く『妻隠』。 卓抜な感性と濃密な筆致で生の深い感覚に分け入り、現代文学の新地平を切り拓いた著者の代表作二編を収録する。 [ 目次 ] [ POP ] [ おすすめ度 ] ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度 ☆☆☆☆☆☆☆ 文章 ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性 ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性 ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度 共感度(空振り三振・一部・参った!) 読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ) [ 関連図書 ] [ 参考となる書評 ]
0投稿日: 2014.08.28
powered by ブクログ一文から始まる2作。ザ・芥川賞といった感じを受けた。心を病む杳子と主人公Sとの不可思議な交流を描いた作品は、世界の見方が少し違った、孤独な心を通わせる2人の心象世界が読み応えがある。そういえばいいが、なんだかくらくらしてくる。描写は細かく、比喩がたっぷり。それが心を病んだ杳子と、彼女の心に寄り添える主人公の世界だから仕方ないのだか。好きな人はきっとはまる不思議な世界観。
0投稿日: 2014.04.04
powered by ブクログ1970年下半期芥川賞受賞作。選考委員の間で「杳子」と「妻隠」で意見が分かれたまま、決しかねて両作での受賞となった。委員の一人、川端康成はこのことに苦言を呈していた。私は、やはり「杳子」を推す。徹頭徹尾、暗い小説だが他には類を見ない独特のリアリティがあり、読者をも傍観者にはさせておかない迫力に満ちている。作中では「彼」と語られ3人称体ではあるものの、いつしか(あるいは小説の冒頭からすでに)我々は「彼」の視点と思惟にとり込まれることになる。そして、その視点から見る「杳子」に、はたして我々は何をなし得るのか。
2投稿日: 2013.12.30
powered by ブクログ不思議な小説だった。読み終わった直後は「・・・(´▽`;)」な感じでしたが、なぜか読み返したくてたまらなくなってします。結局二周半してしまった。 「え?つまりどういう事?」→「は、もしかしてこれってこう言う事?」→「あ、何かやっぱり違う気がする」と、途中掴みかけて最後に結局全て見失ってしまう。人生の縮図のような小説だった。完全に飲み込んで消化したいところ。
0投稿日: 2013.12.22
powered by ブクログ「杳子」 …こういう女、いる。 なんだかうそっぽ~い女。メンヘラ。身体感覚を欠いたような女。 それはどんな言葉でもっても定義しえないし、あまり意味がない。だから、なのか? あるいは、女というのは潜在的にこういうものかもしれない、などと知ったかぶりしそうにもなる。 出会い、というのが非常に大事だ。 切り立つ崖の下での出会い。もう完璧だと思う。 空間の力が一点に集中する場。たぶんその場の力も借りて、この話はのっけから既に時間の観念がどっかへ行ってしまったみたいだ。 「病気の女」という言葉は、特別なものだ。ひとつの単語、観念なのだということを改めて思い知る。 男にとってはよほど明らかなことであっても、女はみずからの病気の核心を見ることはない。いや、かえって見えすぎているかのようにその核心のまわりをぐるぐる回っている。それを支えているのは恐るべき慣習の力、意固地さ。男と女という性を分け隔てる力。 しかし本当のところは、男にとってもそれほど明らかではないのだ。男が女を見つめた瞬間に、女にとって病気は凝固してしまい、男がいる限り病気もそこにある。(P.60) そして病気であるが故の、媚態。 あーもうとにかく、かなり複雑な文学体験だ楽しいなこんちくしょう。
0投稿日: 2013.11.24
powered by ブクログ女優の仕事が「見られる」ことなら、作家の仕事は「見る」ことだと誰かが言っていた。その、作家に不可欠な観察眼を、これでもかという描写力で見せつけられた。谷底で杳子と出会った「彼」の奇妙な恋愛を描く表題作。精神を病んでいる杳子の刺々しい感性と、ポジションとしては凡庸な男を演じる「彼」との空気感が、凄まじい筆力で感じられ、圧倒された。もう一つの短編「妻隠」も劣らず、男と女の「あいだ」が描かれていて、感嘆してしまった。
0投稿日: 2013.11.01
powered by ブクログ庄司薫、塩野七生と日比谷の同級生(すごい…)で芥川賞作家。 折角なら受賞作をと思い、借りてきた本。 解説にもあるとおり、密室の物語である。 "内側" と "外側" が、ふたりの意識をとおして、混濁しては、はっと我に返ることの繰り返しで、くらくらとする。 所々で言及される、「子供」が、外側に内側をうみだす存在だとしたら、食べ物はその反物質だろうか。たしかに気持ち悪くなってくる。 意識の波がふたりの間でずれては重なり、また離れる度に、期待することをやめられずにページを捲る自分が、主人公の彼のよう。 しかつめらしく、ということばがよく使われていたけど、しかつめらしく、「はい、大変、しあわせです」という杳子が、えも言われず可愛らしい。恋愛小説としてたのしむとまた適度に気持ちよい。 庄司の、"喪失" を好む人なら読みやすそう、という印象。文体かな。 この時代にして、庄司も古井もなんてものを書いていたのかと。 ピース又吉さんに紹介されていたのは知らなかったけれど、見てみたら良いものばかりピックアップされているので気分が良いですね。 私の大好きな "赤頭巾ちゃん"も、こうやってまた細々と読まれつづけるのであればとてもとてもうれしい…。
0投稿日: 2013.09.12
powered by ブクログ@Nobwow: 「杳子•妻隠」古井由吉 読んだ。杳子超めんどくさい!けども…一皮向けば自分にも、ぐらぐらと揺らぐ心と、行き場のない澱のようなものがあるような…いや、ないな。俯瞰と潜るような接近と、ピントがめまぐるしく入れ替わって振り回される、独特な文章。
0投稿日: 2013.07.08
powered by ブクログピース又吉がむさぼり読む20冊より。 情景描写、心象描写がものすごい量で複雑でとても読みづらい1冊でした。ボクにはまだレベルが高いのかな。
0投稿日: 2013.06.21
powered by ブクログ「あの子は病気です」 「あなたが健康で、あの子が病気だって どうして言えるんですか」 「健康になるってどういうこと?」 「人を安心させることよ」 ああ、美しい。 今があたしの頂点みたい。 杳子の軀がおそらく彼の軀への嫌悪から、 かすかな輪郭だけの感じに細っていった。 (杳子/妻隠)
0投稿日: 2013.06.11
powered by ブクログ絶版になっていたものが再版されたので すかさず購入。 深みに足を取られ、 どれだけ手を伸ばしても 袂には届かない。 不安をかき立てながらも、 とにかくあるのは気怠い感覚。 純文学らしさがぎゅっと詰まった良作。
0投稿日: 2013.05.13
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
独特な文体、表現方法。実験的な幽玄さ。今まで味わったことのない異質な感覚。内田百間が泉鏡花に思いを馳せながら超絶技巧で書き上げた感じ?出会えた興奮で息が苦しい。 「杳子」は神経を病んだ女学生・杳子と自分の関係の物語。 杳子の〝病気〟は多分、自分が観察するもの(外)と自分(内)の関係が曖昧になり、自分を保てず、自分をつかめなくなること。見て・見られて・見合うことの難しさ。これが、2人の視点が交錯する手法で描かれることで、つまり小説の技巧でストーリー上の〝病気〟を比喩的に説明されている。的外れな見解かもしれないけど、そう感じた。 だから、名前も「杳=暗くてはっきりしない」なんだと思う。
0投稿日: 2013.02.16
powered by ブクログこの人の本読んでみたかったんだけどいまいちよくどうっていうのわからない。読んでみて「めちゃくちゃいいわー!」っていうんでもなく、かといってものすごくつまらない/くだらないものでもなく、「どっちかというと好きなほうなんじゃないんかなあ」っていう感じ。あと2~3冊読んでみたら、どこかでばしっとハマるかもしれない。「こってりしたのが読みたい」というときに手を伸ばすかもしれない。と思えたのも、妻隠が面白かったから。杳子のほうは、そこまででもないかなあ。というので余計に分からない。もうちょっと読んでみないと読みきれない。 みっちりとした男女の仲を書くというのは結構個性出るもんだなあという感想、このこってりとした時間の密度の感じは好きだけど、思っている以上に何にもなくて、個人的すぎる潔さがちょっとあざとい感じも感じるくらいで、自分が思っている”男の人”っぽい内容だった。 妻隠のほうは、熱がでて何日かお休みをとった男の人がいつもより濃い妻や近所との時間を色々捕らえなおすような内容で、妻と近所の数人のやりとりだけを書き連ねている。それは杳子のほうにもいえることだけれど、外向きには大変丁寧な人たちなのに(最近の小説だと、こういう内面だと外向きにも変わっているということも考えられる)内向きにも丁寧で、時間は書き出せば書き出すほど細かくなっていくことが示されているようでもあり。
0投稿日: 2013.01.29
powered by ブクログやはり、ぬるぬると沼に引きづり込まれるような・・・ 今自分がいる空間の時の流れが変わってしまうような。吸っている空気まで古井由吉ナイズされてしまうような・・・ これぞ読書の楽しみという感じ。
0投稿日: 2012.11.15
powered by ブクログもう、ひとむかし前に読んだ。 一時、芥川賞というだけで手に取ってみた本の一つ。 内容は全く覚えていない。 とにかく美しい文章を書く人だということだけが残った。 印象を変えるのが嫌で、読み直していない。
0投稿日: 2012.10.03
powered by ブクログずっと気になっていた古井由吉氏の芥川賞受賞作。 このタグにも、複数お笑いの又吉さんの名前があることを見て、つくづくメディアの宣伝力、もとい感染力ってスゴイな、と思った。 作品自体もスゴイから、いいんだけど。。
0投稿日: 2012.07.30
powered by ブクログ70年代初頭を飾る問題作。 狂気の女性を描く。 こんにち、狂気の女性像を巡る作品の原点ではないかと。
0投稿日: 2012.03.09
powered by ブクログ図書館で借りて読んだあと中古品を注文中。届いたらもう一度じっくり読んで感想を書きたい。今はとりあえず、すごく好みだとだけ書いておきます。
0投稿日: 2012.02.11
powered by ブクログひきこもり男子大学生(うつ病)とメンヘラ系女子大生(統合失調症)の恋愛を通して彼らのナイーブな内面を描き出している。精神の健全さと病気との境界がグレーであることを匂わせる描写もあって興味深い。
0投稿日: 2012.01.09
powered by ブクログ繊細で、美しい文章だ。 人は、感じていることをうまく言葉に表せない時がある。でも、古井由吉はそんなあやふやな感情を言葉にしてみせ、そしてそれはとても的を得た言葉に成り得ている。日本語はこんなにも豊かで美しいのだと、彼の文章は教えてくれる。
0投稿日: 2012.01.09
powered by ブクログ《おい、わかったよ。君はそんな風に躯をないがしろにするもんだから、自分のありかがはっきりしなくなるんだよ。だから、行きたいところにも、一人で行けないんだ》 しかしそれは口に出さずに、彼は杳子を右腕の下に包んでやる。重さの感じがすこしも腕に伝わってこなかった。(『杳子』より) ひとはけっして一人でたたずんでいるときに孤独を発見するわけじゃない。自分とむきあう相手がいる、けれどその相手に融けこむでもない、といって相手を拒み去るでもない。そのように自他の釣り合いが宙づりなままにされるとき、ひとは相手とのあいだに横たわる無限に広い名もなき空間をうつらうつらと漂ってその途方もなさに暮れ、仕方なしにその場を孤独と名づける。名づけずとも感じ取っている。感じずともその身はすでに侵されている。杳子と出会った彼も、おそらく――。 『杳子』も『妻隠』も、ともに二人の男女の閉ざされた世界を描いている。しかしどうやらそのアクセントは「二人の男女の恋愛」にではなく、「世界の/からの閉ざされ」に置かれているようだ。個人的にはこのような、自閉しあう関係とでも呼べばいいだろうか、そういう関係にすこし惹かれる。
0投稿日: 2011.12.12
powered by ブクログ何年かぶりに古井由吉を読み返す。 やっぱりこの作家の小説が今まで読んだ どの小説よりも、自分には合っていると 感じながら、読んでいます。 堺から東京に戻る途中の新幹線車内で読み終えました。
0投稿日: 2011.11.14
powered by ブクログ「杳子」だけ読み終えたので一先ず。 この纏わり憑く様な文体は余り吾輩の嗜好と合わない。背景描写と心理描写だらけで構築された作品で、読者、特に女性は杳子に苛立つと思う。この不明瞭な描写が世間からは評価されているのかもしれないが、描写に次ぐ描写だと流石に飽いてしまった。精神疾患ではなく、強迫観念に囚われた女と何故か堕落する男。実際にこのような女が実在したら、如何に鬱陶しいか。寵愛からは程遠く、保護にしては度を過ぎている。この杳子と云う奇妙な女には全く魅せられない。もっと行動が派手な女を描く作品の方が吾輩は好きなので、この芥川賞特有の滑りけは戴けない。不明瞭さが至高なのかもしれないが、狂人を描くならば端的で無いと興奮しまい。
0投稿日: 2011.08.21
powered by ブクログ浦野所有 精神病の女性と、彼女に惹かれる男の物語。芥川賞受賞作にしては、珍しく情景描写がハッキリしてるかな。あんまり、読みやすい作品ではないけどね。あと、舞台設定からして、曇天模様の展開になるのは仕方ないにしても、読後にスッキリ感がぜんぜんないんだよな~。あんまりおもしろくなかったです。ファンの方、すみません。
0投稿日: 2011.03.24
powered by ブクログ自由が人を不安定にする 狂気が人を大人にする 登場人物の不安定な心が リアルにぶちまけられたような文章は 正直読んでて重かった
0投稿日: 2010.05.05
powered by ブクログ両方とも面白かったが「杳子」のほうが個人的に好き。 読みやすく幻想的で、あの白痴の女を描き出す言葉の羅列が綺麗。 生々しくも惹かれる、妖艶さがあった。 精神病に犯されたものの純粋さと狂気は読んでいて酔う。 何度でも読み返したい作品だった。
0投稿日: 2010.03.16
powered by ブクログ著者の小説のなかで、とても読みやすい一冊。 「読みやすい」とは「文章」のことであり、内容のことではないことに要注意。 病んだ少女と彼女に惹き付けられる青年の話。 現在でも小説のテーマと成りうる題材が、1979年にもうこんなにはっきりと描かれ、こんなにも美しく深く書かれていたことに衝撃を受ける。
0投稿日: 2010.03.05
powered by ブクログ読みは〈ヨウコ〉で、「杳として行方が知れない」などの杳、神経を病んだヤンデレ女子大生と山男の関係を描いた作品。 主題の部分的な誇張は刺画でおなじみの技法で、この精神病も同じ、もし杳子が精神病であるなら、世の女性の大半は神経病み、少なくともそう思いこんでる。一般に女は自分を異常―健常でないことに矜持があって、逆に男は自身を健常だと思ってる。翳のある女性に憧れたことってあるでしょう。 そのルーツは終盤の対話にでる二人の人生観の違いにあって、少しも変わらない自分自身の反復、もしくは外の世界に応じる部分、どちらが自分にとっての人生か。 ところで、絶版のため定価320円がama●zonで600円でした。ガッデム
1投稿日: 2009.12.17
powered by ブクログおもしろかったか、と尋ねられれば、おもしろくはなかったと答える。読んでいる間の快楽はなかった。むしろ苦痛にも近かった。 でも十年近く絶対に読みたいと思っていた作家だし、じっさいに読んでよかった。陳腐な言い方だが、この読書経験をつうじて自分について今まで気づかなかったことが見えた気もする。 いずれにせよ快とも不快ともつかぬ不思議な感触を味わった。同属嫌悪とノスタルジーとがまぜこぜになった感覚、とでも言おうか。 この小説が描き出したのは、神経が外界に対してむきだしになってしまったがゆえに、日常生活をうまく送ることのできなくなった女と、その女をなかば理解し、もっと理解したいと願い、同時になかば欲望の対象として消費する男、このふたりのあいだの閉じられた関係性である。起伏にとんだ物語性はなく、その筆致の大半は「極限まで感性が研ぎすまされ、周囲でおこる事象のすべて―自然現象から対面する他人の表情・ことば・しぐさまで―に逐一全身が刺激されてしまうようになったとき、人はどうなってしまうのか」を女をモデルとして描くことに向けられている。 考えてみれば、この小説には「セカイ系」に向けられている批判のすべてが、おそらくあてはまる。そして当時向けられた批判も、それに似たものであったとも聞く。であるならば、この小説を「世界と個とが二項対立的になってしまい、あらゆる歴史・社会意識および世界と個人とをつなぐ社会的中間項への意識が欠落した、自慰的・自足的な閉じられた世界観」として鼻で笑う気になれないのは、どうしてなのか。うっすらとしていながらも由々しい同属嫌悪とノスタルジーを、読んでいる間中感じさせられたのは、どうしてなのだろうか。
0投稿日: 2009.09.11
powered by ブクログこの人の本は何冊か読みましたが、やはりこの「杳子」という中編?だけが際立ってアウラを放っているような気がしてなりません。
0投稿日: 2009.08.19
powered by ブクログ古井由吉初体験。 いや、文学の奥深さを堪能した。 「杳子」なんていうのは今ならばありきたりの設定。 病んだ女と健常な男の恋。 でも古さを感じさせない。 神聖なものに触れたって気分。 もう聖域っていうか。 多分現代の作家が同じテーマで書いたらここまでのモノは無理でしょう。 情景と心理の描写が秀逸。 それでいてサクッと読ませる。 不快な感じもない。 うーん、素晴らしい。 芥川賞も納得。 もう一つの「妻隠」も設定としては普通なんだけど、そこからの展開があるようでないというか。 言葉にできない美しさでまとめ上げてる。 小説を読んだ、っていう読後感がすごい。 こういうの好きだなー。 色々ワイワイと語り合える小説じゃない。 「うん・・・上手く言えないけど・・・良いよね」みたいな、言葉数少なめで味わいたいタイプ。 他の代表作も即チェック決定。 まだまだ引き出しは沢山あると見た。
0投稿日: 2009.03.14
powered by ブクログ「杳子」は高校時代に読んで、特異なセンセーションを覚えた記憶がある。先日、30年ぶりに読み直してみると、ストーリーをほぼ忘れていたので、初めて読む本のように読んだ。高校当時、いかに具体的な内容を理解・消化できていなかったかがわかった。同時に、それにも関わらず当時の僕はこの小説に深く感動したのだ。ここに文学の面白さがある。感受するためには、理解は必ずしも必要ない。 「妻隠」は、初めて読んだ。「杳子」とは全然違った趣のストーリーで、作者の幅の広さを感じた。 特異な感受性は、梶井基次郎や安岡章太郎と並ぶ、日本文学の宝だと思う。
0投稿日: 2009.01.18
powered by ブクログ授業の関係で、図書館で借りた。図書館のはカバーついてなかったので、今初めてこれでカバー画像を見た。怖ぇ。 古井由吉は2冊目。…のはずだが、1冊目に何読んだか思い出せない。しかもここにまだ書いてない頃だったっぽい。すーごい気になるが分かんないし、とりあえずこの本ではなかったらしい。 何となく、この曖昧さが不安感を募らせる。いまいちはっきりとしないぼんやりとした輪郭が、怖い。 というか、これで「つまごみ」って読めないよなぁ…。
0投稿日: 2008.11.26
powered by ブクログ軽い小説ばかり読んでいたので最初は中々入り込めず。 ノッて来たらスルスルッと読めました。 風景や情景の描写が気持ち良かった。 内容は重めやけど、読後感はちっとも悪かない。 日本語を楽しめる種で良かったと思いました
0投稿日: 2008.11.16
powered by ブクログ沢をおりてきた、そこに杳子はたたずんでいた。なんか、山好きならば、こんなことがないかな〜と思わせる書き出しではじまります。しばらくぶりにまたよんでみました!
0投稿日: 2008.07.28
powered by ブクログ一度読んだら脳裏に焼きつく日本文学史上最高クラスの文体。 あとは「ヤンデレ」杳子に萌えられるか否か。もし萌えるなら、一生忘れがたい作品となるでしょう。
0投稿日: 2007.06.25
powered by ブクログ「杳子」の方が好き。 面白かった。 あと、よくこれだけ「感覚」をうまく表現できるよな・・・と感心した。 でも、話自体は教科書的・・・かな(汗)
0投稿日: 2006.07.02
powered by ブクログ「平たいところにいる時に感じるんです。ときどきなんですけど、どうして立っていられるのかわからなくなって……」誤解をおそれずに言うなら、神経症のもつある一面を、圧倒的な筆力で描ききったたぐい希なる小説。読了後はヒロインの病がわずかにこちらに伝染し、食事や電車に乗るなど、当たり前の行為がひどく慣れないものに思えてくる。文章のうまさは本気で日本最高峰、暗い小説がきらいではないという人には特に大推薦。
0投稿日: 2005.06.07
