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服従
服従
ミシェル・ウエルベック、大塚桃/河出書房新社
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総合評価

46件)
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    フランスは着々とムスリム化していき各界トップも改宗していくという近未来の予言的小説。虚しさを感じている現代ヨーロッパは大きな力に跪きたがっている。十分ありえる。ファシズムかイスラムか

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    投稿日: 2025.09.11
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    【作品紹介】 2022年フランス大統領選で同時多発テロ発生。。 極右・国民戦線マリーヌ・ル・ペンと穏健イスラーム党党首が決戦に挑む。 テロと移民にあえぐ国家を舞台に個人と自由の果てを描いた傑作長篇 世界の激動を予言したベストセラー。 佐藤優=解説 フランスが本当に「自由・平等・友愛」をすてて「秩序・家父長制・信仰」を選ぶとは思えない。 しかし、この日本を見ても分かるとおり、今の政治は激動の時代だ。 ーー池澤 夏樹(毎日新聞) 全方位的にお薦めの本です。フランスの政治的・思想的・霊的な劣化という現実を自虐的なまでに鮮やかに摘抉。 細部が異常にリアルで、もうほんとのこととしか思えない。 ーー内田 樹

    1
    投稿日: 2025.08.17
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    イスラムの文化が現在の資本主義、キリスト教的世界に広がっていく様を、惰性や諦めと共に受け入れる主人公が印象的だった。大きな歳の差のある一夫多妻を最初は軽蔑していたのかと思ったら、最後は期待も込めて受け入れている。 ステータスのある男性目線ならあるかもしれない。一方で、女性の教養、社会進出への抑制が強くなるが、幸福の定義次第で受け入れられる、リアリティーのある内容なのか?分からなかった。 初めてのウェルベック作品。 文体の印象は、性的な描写が多い村上春樹。 なんとなく感じていたが、明文化されるとハッとする表現が多い。 現実的で直接的。表現がシャープで遠慮なし。 比較すると村上春樹のファンタジー性が強調される。

    0
    投稿日: 2025.02.10
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    (2015/11/19) なんでこの本を入手したかその経路を全く覚えておらず、 どんな本かもわからないまま読み始めた。 ときおり物凄い性描写があって引きつけられ、 その後政治的な話になって斜め読みし、、、 しかしそこがポイントの本だったようだ。 近未来、フランスにイスラム政権誕生、人が神に服従する。 O嬢の物語は女が男に服従する。 それを大学教授が両方同時並行的に体験する、、、 みたいな本だったような気がする。 シャルリー・エブドのテロがあったり、 イスラム国などが跋扈したり、 ヨーロッパならではの視点。 それにしても女にもてるのねこの人

    0
    投稿日: 2024.09.04
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    このレビューはネタバレを含みます。

    「人間の絶対的な幸福は服従にある」。 2022年のフランス大統領選で、ファシスト党とイスラーム党が決選投票に残り、イスラーム政権が誕生するお話でした。 楽しいの意味はなく、面白かった。 知識や教養は、超越神の前では脆い。インテリほど迎合も早いというのは驚きです、フランスはレジスタンスの国だと思ってたけどインテリはこうなのかな? この主人公は、再び大学で教鞭を執って生活していくためにイスラームに改宗するというより、何人も妻が欲しい…の方が強そうなのにもやもやするところがありました。もともとノンポリなのも珍しいかも。 外堀から埋められるみたいなところに寒気がしました。その方向からか、と。 実際にこれが起こるかと言われれば8割方無かろうとは思います。でももしも…となれば、このお話の流れは自然に感じられました。 一神教の国でこうなんだから、多神教だともっと容易そう。だけど、男性観で拒否しそう。。 2024年に読んでいるので、解説にあるイスラエル人のご友人の「ハマスの主敵はイスラエル」がつくづくわかります。イスラーム国とハマスがガザ地区で内ゲバやってたのは存じなかったけれど…どちらもスンニ派なんだな。 世界的に世論はパレスチナ支持に傾いてる。イスラーム支持でなく、イスラエルがやり過ぎという方向で。 でももしもイスラエル側が「敗戦国」とされても、それがそのままイスラーム支持という意味にはならない気はします。見方が甘いかなぁ。

    3
    投稿日: 2024.02.11
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    宗教の話なので難しそうだなぁと敬遠していたが読んでビックリ!スーパー面白かった。今まで読んできたウエルベック作品の中でもストレートでシンプル。複雑さが控えめで読みやすい。主人公一人にしか焦点が当たらず分量も少なめなのもあるが。オチへ行き着く云々よりも、主人公が孤独に生きている些末な日常のディテールがツボだった。徹底的に孤独で、やる気もなく、生活に不自由もなく、社会的地位もあり、中の上な生活水準だからこそ希死念慮が襲うと言う部分が。

    0
    投稿日: 2024.02.09
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    西欧文明の行き詰まりからありうる近未来を描くということなのかな。一つの極端な基本的にはなさそうな可能性っていうことなのかもしれないけど、全体的なインテリ限定の世界にいまひとつ入り込めない印象。佐藤優の解説が余計に胡散臭さを感じさせる。この人の作品は初めて読んだけど女性の書き方はなんか酷い。この作品だけ?

    0
    投稿日: 2023.09.28
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    イスラム化していくフランスを強固な政治的リアリズムで描くという実験的な試みが小説の主軸にはあるが、見落としてはいけないのがユイスマンスの存在。享楽に埋没していた中年男性が精神的にも身体的にも危機に襲われる。 結末にやってくるのが、まさに主人公にとっての救い。 これはまさにユイスマンスの人生そのものとも共鳴してる。

    0
    投稿日: 2023.08.14
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    このレビューはネタバレを含みます。

    2022年のフランス大統領選は、極右政党・国民戦線とイスラーム同胞党モアメド・ベン・アッベスの決戦投票となり、結果、イスラーム政権が発足する。パリ第三大学で教職につくユイスマンス研究者の「ぼく」は、イスラム教徒でないことから、教職を追われるものの、改宗を決断し、再び大学教員となるところで物語は終わる。 語り手の「ぼく」は、博士号を取ったのち、15年大学で教鞭をとってきた。しかし、社会に対して関心がなく、距離をとって生きてきたために、「社会にでなければならないだろう」と考えると、「ちっとも心楽しむことがない」男である。 1年に一人のペースで教え子の女子学生と付き合うものの、「新しい人と出会った」と言われて別れることになる。教職を追われても、定年並みの年金を提示されると黙って受け入れる。新学長にイスラム教への改宗を勧められると、気にするのは一夫多妻制と、妻の選ばれ方であり、最終的には、あっさりと改宗する。彼の生き方は、まさにタイトルの通りの状況への「服従」であるように見える。 歴史的な政治の大変動によって、死人が出るほどのテロまで起きているフランスにあって、その政治的なテーマとは裏腹に、若者的な自意識の中で悩む語り手が目についてしまうかどうかで、好き嫌いが分かれるように感じた。 自分は、苦手な作品であった。

    0
    投稿日: 2022.12.29
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    全体的に大きな爆発的なエピソードはなく、ゆっくりと食べ物が腐っていく様を見ているような話だった。 序盤は社会情勢についてどこか他人事で非常に呑気な振る舞いをしているがだんだん自身の生活が変容していき、なすがままに飲み込まれていく様子が異様にリアルだった。 主人公が人生を通しての研究対象としたユイスマンスと彼自身の人生との相似形な構造が生きる事の奇妙さを際立たせるように感じ、惹きつけるものがあったし、宗教の力に国が飲み込まれていく様が流麗で恐ろしさを感じた。 人は抗うよりも順応していった方が生きるのが楽だもんなぁ。それがヨーロッパでいち早く市民革命を起こしたフランスであったとしても。

    0
    投稿日: 2022.04.21
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    西洋のヒューマニズムの終焉はイスラム文化と結びついてしまうのか。もはや人間自らが地球を切り開いていく力は残っているのだろうか。コミュニティが瓦解して、指針がなくなった人類はそれと相性の良いイスラム教を利用して、受動的に生きる術に縋ってしまう可能性は多いにおるのではないか、 教授の知的水準は高いのにも関わらず、彼は一人では満たされることができず、女や名誉、お金、食事など世俗的なものを持ちいることでしか幸せは掴めないのである。これが人間の性なのであろうか。彼にとって、国の情勢はどうなろうと構わないのである。イスラム系が政権を取ろうと、極右がとろうと彼の行動自体は変わらないのだ。

    0
    投稿日: 2022.02.04
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    なんと文庫化していたので美容院の暇つぶしのために買って一気読み。フランスがイスラム政権の党に取られて徐々にイスラムに傾き、、、とのあらすじ、ふとした出来事をきっかけにじわじわと世界が変わっていく様、2021年に読むとなんとまぁ皮肉に思える。 スジとは別に本の全体に流れる強烈な差別意識というか、まぁはっきり言って相当きついセクシズム描写はまさかウェルベック本人無意識に書いてるわけでなく、この本の筋を浮き立たせるために意識的に使っているのだろう。というかそう思いたい。 それ以外にも、本から距離を取って読める人でないと危険な本になってしまう。それだけの求心力というかカリスマを発する本で、ウェルベックすげーなー

    0
    投稿日: 2021.11.17
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     かなり考えされられる内容だったが、全体的に女性への無理解がキツすぎた。女性を同じ人間として見ていないし(エキゾチックとか言っとけば許されると思っているのか)、自分の姿勢を客観視しようとする素振りも見えない。例えば、同僚の女性のマリー=フランソワーズの夫妻に親切に家と別荘に招かれてディナーをご馳走になっておきながら、イスラム優位の社会では彼女のキャリアが全く断絶してしまうだろうということに一言の言及もない。そりゃ自由恋愛で結婚できるわけないわこいつ……と思いながら我慢して読んでいた。  そういう自省のない傲慢な知識階層へ、イスラームが都合の良い面を押し出してアプローチしてきて、なし崩しに受け入れていくという粗筋が、今のヨーロッパのイスラムへの恐れの心理を皮肉に暴き立てるためのレトリックなのか、それとも単に著者の人間性なのか。ウェルベックをこれしか読んでいないので分からないが。

    2
    投稿日: 2021.03.20
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    2020河出文庫フェア対象本。2022年の仏大統領選挙でイスラーム系政党の代表が大統領となり国内が変化して行く様を、主人公のパリ大学の教員から見た物語。この主人公の線の細さに少し居心地の悪さを覚えながら読み進めたのだが、徹底して彼は孤独であり、家族はバラバラで、ユダヤ人の恋人はイスラエルに去って行く(このユダヤ系仏人のイスラエル移住は実際に2010年代以降増えている)。これは新大統領が「家族」を大切な価値観としていることととても対照的な姿で描かれる。最後には孤独な主人公の友であり研究対象でもあったユイマンスとの決別が訪れる。しかし最後まで彼は、他人の意見を傾聴しつつ決断ははっきりとした意思表明といった感じでなく、流されるように従っている。この、知らず知らずに物事が進んでいくような流れの居心地の悪さは、作者の将来への不安を表しているのだろうか。 もう一つ読みながら不思議だったのは、こうしたイスラーム系国家元首が欧州の真ん中に誕生し、国家がイスラーム化して行くのなら、周辺の欧州教国からの反発があるだろうに、そういった国際世論は全く描かれない。逆にトルコやモロッコ、地中海周辺のイスラム国との交渉と同盟の進展は描かれる。最後に、欧州で仏に続きイスラム系の代表が選ばれる国が出てくることがさらっと描かれる。 2024年、仏は五輪・パラリンピックの開催国である。その時仏はどんな政治体制になっているのだろうか。 メモ:読了日:ヒジュラ暦1442年ムハッラム(第1月)2日

    1
    投稿日: 2020.08.23
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    おもしろいし興味深い設定なんだけど、一夫多妻制で釣ってるのか?おっさんの(ための)話か?ラストは、はあ?と思った。ずっとおもしろく読んでたのに。 この設定で、他視点での話を読みたいなあ。 と思ってたら「イスラーム・ジェンダー学」っていうのがあった。ネットでちょっと見てみたけど字がびっしりで読みにくい。段落分けするとかしてほしい。

    0
    投稿日: 2020.05.25
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    タイトルから想像されるプロット(暴力的な場面も多いのでは?など)とはまったく違う、どちらかといえば知的な会話や主人公の内省によって展開に、やや意外な印象を受けた。読後、すべては「ぼくは何も後悔しないだろう」というラストに向かっての布石だったと知るのは、ある意味で衝撃的でさえある。 主人公の知人の乗車がルノー・トゥインゴと記されていたが、そんな身近なもの(他には、料理、酒、スーパーマーケットなど)によって、一気にストーリーが現実味を帯びてくるということにも気付かされた。 まるで村上春樹の小説を思わせるかのような訳文も秀逸。

    0
    投稿日: 2020.05.14
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    よみまぴた。なかなかダウナー…主人公が女性にたいして言及してるところにちょっとピリッと思うところが多かった、でもウエルベックって「非モテ男子」にすごく人気があるみたいで、ああなんだかんだ知識や教養があってもこういう風に女性を見ている人が多いんだなとゲンナリした。 その点ではクンデラと比べてみたら面白いかもと思った。クンデラといえば小説の中でだいたいモテる男子だし、女性をより深く理解しているように(わたしには)感じられる。愛がとか恋がとか、そういう話も多いし。 村上春樹はちょっとウエルベックとクンデラの間のような、でもどっちかというと私は村上春樹には女性の描写にあまり嫌な思いをしたことがない。 フランスがイスラム政権になってしまう、というのは突拍子もないように思えて案外あり得たり、いや有り得ないな…とかいろいろ考えるのが楽しかった。でも小説の中でもっと広がりがあって欲しかった気がする、なんせ主人公がダウナーで孤独であまり色んなことに興味がないから、世間の動きと切り離されていた。 ウエルベック…他のも読んでみたい、けどやっぱり私にとっては時間の洗練を受けたもの&日本以外の国で書かれたもの、つまりある程度今の自分と距離がおけるものを読む方が息が詰まらなくてのびのびと読めるな〜って改めて思いました。

    2
    投稿日: 2020.04.27
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    ずっと前に書店で『素粒子』というタイトルの文庫本を見つけ、物理学系の読み物かと思ったら小説らしかった。変わった題のを書く作家だなと思い、その後もあちこちでウエルベックの名を見かけたが、ついぞ読まずに過ごしてきた。 やっと初めて読んだのがこの本。 現在のフランスの大統領選で、極右政党とイスラム教系の政党がぶつかることになり、フランス国民がイスラム教の方を選択することとなって、結果、女性のスカートがなくなったり、一夫多妻が一般的になったり、大学等の教員はイスラム教徒でなければならなくなる、という話。 いま世界中で「あまり頭の良くない極右」が台頭しているので、それを受け入れない場合の選択肢は何が残るのか?という問題を提起している。 実在の現役政治家等の名前が多数出てきており、これがベストセラーになったのだから、かなりリアルな小説なのではないか。 イスラム教は、我々日本人にとってほぼ完全に未知の世界であるが、それよりは長い付き合いの筈の西欧人にとっても「異質な他者」であるようだ。 イスラム教とは何か? ここではルディジェという登場人物が開陳する物語として示されているのみだ。素晴らしい文明ではあったが、結局は敗北した西欧というイメージ。 とりあえず、小説として面白い作品だった。出てくるフランスの政治家の名前にまったく馴染みが無いとしても。 ほかにはどんなものを書いているのか。ミシェル・ウエルベックの小説をまた読んでみたい。

    0
    投稿日: 2020.03.14
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    ウェルベックの作品は和訳も多く出版されていて、かねてより興味を持っていました。フィクションですが、フランスの政治や社会情勢については、かなり現実を反映しており、実在の政治家も登場します。ここに描かれるのは、イスラム政党のフランスでの台頭ですが、ウェルベックが描きたかったのは、「ヨーロッパの自死」ではなかったかと思います。 西欧文明が、キリスト教支配の頚城から逃れ、理性・啓蒙主義を軸に文明の発展を図ってきたものの、アナーキズムとニヒリズムが社会と精神の停滞を招き、この小説の舞台である近未来のフランスで、イスラームの信じる神とその世界観に「服従」していく。ウェルベックは、フランスが精神のバックボーンを喪失し、方向性を見失っていると考えているのでしょうか? 作中には、大学教授である主人公にウェルベックがこう語らせています。「希望が無くなったとき人々に残されているのは、読書だと信じるべきなのだろう」 フランス経済の低迷の中で、出版業界は比較的業容が良い状態を踏まえての言葉ではあるものの、読書が人にとって救いとなることがあることは事実ではないでしょうか。

    1
    投稿日: 2020.01.23
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    このレビューはネタバレを含みます。

    『セロトニン』からの『服従』。2019年の末から、パリにて先の見えない公共交通機関のストライキが続いている。偶然ながらそんな中でこれを読んだ。 ファシズム政党を阻止するために、究極の選択として社会党はイスラム同胞等と連結しフランス初のイスラム政権が誕生する。 じわじわと伝わってきたのはイスラムが政権を取ってからの大学の状況の変化。女性職員が解雇され、イスラム教徒ではない職員は出世やポストの維持の可能性が閉ざされ、義務教育期間が短縮化され、大学関連のパーティでは女性の姿が消える。一方、サウジアラビアからの巨額の金銭的支援を受け大学は潤い、これまで大学運営の採算を取るためにショーやイベントに高値でレンタルされていた大学の施設はその必要はなくなり(そして禁止され)アカデミックな尊厳を取り戻し、女性と縁のなかったような元同僚がいつの間にか(アレンジされて)結婚していたり。主人公の淡々とした語り口から、それが現実に起きることとをリアルに自然に想像できた。 主人公のライフワークとする研究対象のユイスマンの人生、主人公の父の死後に知った主人公の知らない別の顔、それらが伏線となり主人公自身も淡々と改宗に向かっていく。

    0
    投稿日: 2019.12.28
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    イスラム同胞党がフランスで勢力を伸ばすという架空近未来を背景に、文学者の訳のわからない生活を描く。自由な個人という概念は、中間的な社会構造を解体するには有効だが、家庭という基本的な社会構造を破壊するに至って、否定するべき概念であるという理論、自然淘汰圧によって一夫多妻とそれに伴う少数のエリート男性による女性の独占の肯定などが目新しい。

    0
    投稿日: 2019.12.08
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    イスラム社会への逆説的な批判、または賞賛や支持として揶揄されるこの作品には、もっと別の大きな主題、時やイデオロギーを超えたところの「理解」というテーマがあるように思えた。ほぼ1世紀半の時を隔ててフランソワに研究されているユイスマンス。彼は作家の著作を援用し、日常的な現実を理解しようとする。しかし作家の信仰による隠遁生活には共感することができず、最終的にはイスラムへの改宗が語られる。プレイアード叢書序文の執筆によってユイスマンスとの関係を終えた主人公。また、確かに女性蔑視的表現は見られるものの、宗教という服従状態における幸福は一種のあり得る存在容態なのであり、この作品をそこに一元化して批評してしまうのはもったいない。フェミニズム的側面だけでなく、文学的普遍性を背景とした考察対象として了解したいと思う。

    0
    投稿日: 2019.11.11
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    イスラム政党が政権を奪取した数年後の近未来2022年のフランスを描いたミシェル・ウエルベックの小説。シャルリー・エブド紙が、ムハンマドを侮辱したという理由でイスラム過激派に襲撃されて12人が犠牲となった事件の当日(2015年1月7日)に発売されたことでも有名となった。小説の中では、移民排斥を訴える極右勢力であるマリーヌ=ル・ペン氏に対して、イスラム政党の元に対抗勢力が集結したことで新政権が誕生することになっているが、2017年の大統領選で国民戦線のマリーヌ=ル・ペン氏が決選投票に残り1/3以上の得票を獲得したこともあり、この小説をシニカルなユーモア小説として片づけることが難しくなっている。移民政策により西欧文化が危機にさらされていると主張した『西洋の自死』でもウエルベックのために一章を割いて取り上げられている。 イスラム政権の誕生については、そんなことは起きないだろうという向きが今は多数派であるが、極右勢力に政権を奪われるよりはどんな政党であってもましだと考えることについても反論できないことから、フランスにおいても微妙な現実感があるようだ。その前提として、多くのフランス人が極右ではない政党によって、生活に影響がある大きな変化が起きるとは考えないだろうと思っているからだ。この微妙な現実感が、この小説を成立させる肝になっている。 小説の中では、新政権により経済的にはアラブのオイルマネーが流れ込み好調となる。イスラームの教義に即して女性を家庭にいることを優遇させたことで失業率が下がり短期的には好感される。政治的にもモロッコが欧州連合に加わり、アルジェリアとチュニジア、レバノンやエジプトがそれに続き、フランスを中心として新たなブロックが形成されという設定になっている。しかしながら、彼らの政策の中心は経済ではなく教育であった。イスラーム政党が他の勢力と手を組む際の条件が、すべての人がイスラーム教の教育を受ける可能性をもたなければならないということであった。そこでは男女共学の思想はなく、女性に開かれているのは限定された教科だけで、家政系の学科を学んだ後はできるだけ早く家庭に入ることが推奨される。さらに教師はイスラム教徒の男性でなくてはならない、という。 主人公のフランソワは、19世紀の文学者ユイスマンスの研究をし、ソルボンヌ大学文学部で教鞭を取る教育者だが、カトリック系の学校ではすでにそうなっているのだし、新たな多様性を受け入れることだと気持ちの上でも受け入れる。彼の所属するソルボンヌ大学がサウジアラビアからの資金援助を受けてイスラム教の施策に従い、女性やイスラム教徒以外の教師を排除しておくことになっても、多額の年金と父親からの遺産を受けてあっさりとその境遇を受け入れる。 さらに面白くなるのはここから。政権交代後にソルボンヌ大学の学長となったルディジェがフランソワを復職へ誘う。それはイスラーム教への改宗を伴う。ルディジェは、イスラーム式の教育と男女性差の正当化と、そこからフランソワが「正当に」得られるであろうメリットをもって説得にかかる。それは、教授の職と名誉と報酬そして、一夫多妻制による若い女性である。 「あなたは特に問題なく三人の妻をめとることができると思いますよ」 主人公のフランソワは、虚無主義で、無神論者ではあるが、どちらかといえばヒューマニズムに対して若干の嫌悪とともに居心地の悪さを覚えているようなタイプである。それはある種の知識人の態度でもあるかもしれない。そのような個人にとって、正当性と欲望がそろえば転回は容易だ。フランソワは、イスラム教に改宗したが、それはそもそも転回ですらないからだ。そして、著者はそのことを実は問題として提示するのでもない。 ここに至り、この小説において提示されているもののひとつが、人間中心主義への疑義ということがわかる。人権を絶対視して、安定しているものだと捉えている人にとっては気が付かないのかもしれないが、著者が人権について信用をしていないのは明かであるように思える。もちろん、おそらくは女性差別的な教育や社会に賛同すべく書いているわけではないが、小説で描写された教育制度への反論があるとすれば、それは人権を基礎とした人間中心主義によるものであるからだ。 フランス革命以来、西洋を中心に絶対視されてきた基本的人権の思想とそれに基づいた「人間中心主義」。構造主義やポスト構造主義などを通して哲学的な観点での批判をされることはあったが、世俗的な世界においてその規範の支配力は強化されてきた。 現在、人間中心主義の基盤には、すべての人が平等であるという原則がある。しかし、実際にはしばらく前はそうではなかった。人種は、異なる扱いをされて問題ないどころか、そうであるべきだと多くの人に考えられていた。男女はまず異なるものとして捉えられ、男らしさや女らしさは異性をつかまえるためである前に、そうであるべき社会規範として受け入れられていた。西欧においてさえも女性に参政権が与えられたのは100年程度前の話でしかない。少なくとも「男の子なんだから」と怒られ、「女の子らしく」としてたしなめられることに対して違和感を抱くことがない社会はそれほど遠い昔の話ではなかった。性に関する平等は、男女だけではなくレズビアンやゲイに対しても「平等」を原理として扱うことが広く求められ、それはかなり速いスピードで社会に浸透した。かつて自分たちは彼らを「オカマ」と呼んでそれを笑い、「キモっ」と言って、憚ることはなかったのではなかったか。そのことを思い出すと、逆に平等思想の脆さを意識させられるのだ。 イスラーム教は、少なくとも性に関しては両性の「違い」をその原理とする。男女は同じではなく、それが違うことを基礎とする。両性が違うものであるから、そこには中間であるLGBTが存在する余地もない。一方、平等の原理の基礎となっているのは人権思想であるが、これもまたある意味で宗教的であり、それは絶対の真理などではなく、容易に躓くことができるものであると考えるべきなのだ。ウエルベックが小説の形で示すことのひとつはこのことである。 ルディジェがフランソワに渡した著作の中で次のように性的位置づけを説明している。 「哺乳類の場合には、雌が懐胎している時間、そして、雄のほとんど無限の繁殖能力を考慮すると、選択への圧力はまず雄の方に掛かってくる。雄の間での不公平 - ある者は複数の雌を得る喜びを持ち、他の雄は必然的にその機会を奪われる - は一夫多妻の倒錯的な結果ではなく、まさにそれこそが本来達するべき目標だというのだ。そのようにして種の運命は完結する」 ほぼ同じ理屈を、今から25年ほど前にかつて大学院の研究室で席を同じくしたシリアからの留学生から聞いた。彼は、婚姻関係のない男女での性交渉を神への冒涜であるがごとく厳しく非難する一方で、女性に生理の期間があることも含めて一夫多妻制の正当性を説いていた。国に戻ると結婚すると言っていたので、誰か決まった人がいるのか聞くと、それは親族間で決められるのだと言った。それは、彼の中では一本の筋が通った論理でもあるのだ。 ウエルベックは「平等」に加えて、人間中心主義のもうひとつの絶対的な信条である「自由」についても、この小説を通して相対化している。「自由」に対峙しておかれるものは、タイトルにもなった「服従」であると言ってよいかもしれない。「服従」という言葉が出てくるのは小説の最後の方にかかってからである。先に出たソルボンヌ大学の新学長であるルディジェは、『O嬢の物語』を引用しながら、フランソワを大学への復職に誘って次のように話す。そこに出てくるのは女性の男性への「服従」と、人間の神への「服従」である。 「『O嬢の物語』にあるのは、服従です。人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力をもって表明されたことがなかった。それがすべてを反転させる思想なのです。...(略)とにかくわたしにとっては、『O嬢の物語』に書かれているように、女性が男性に完全に服従することと、イスラームが目的としているように、人間が神に服従することとの間には関係があるのです。お分かりですか。イスラームは世界を受けいれた。そして、世界をその全体において、ニーチェが語るように『あるがままに』受け入れるのです」 この文脈において、小説では明らかに「服従」を否定的に評価していないし、避けるべき屈辱的なことであるとも考えていない。主人公のフランソワもキリスト教を強く批判したニーチェを引いているが、同じ宗教としてキリスト教とイスラーム教の違いについて次のように述べる。 「イスラームにとっては、反対に神による創世は完全であり、それは完全な傑作なのです。コーランは、神を称える神秘主義的で偉大な詩そのものなのです、創造主への称賛と、その法への服従です」 主人公があっさりと変化を受け入れるのは、キリスト教の神を信じていないのと同様に神を信じていないながらも、イスラームの協議に論理的矛盾性をあえて見いださないことで、自ら得られる特典を受け入れることに対して罪悪を覚えることがないからでもある。女性からすると、とんでもないことであるのは間違いなく、嫌悪感とともに空恐ろしさを覚える近未来のフィクションであるだろう。ただ、そのことが、よって立つところの世界の見方の違いであると主張されることに対して、人権思想(これもある意味では宗教的だ)以外に反論する根拠は何なのだろうか。何せ彼らは進化論を信じており、キリスト教原理主義者よりもよほど論理的だと言えるかもしれないのだ。 悪い冗談であり、シニカルなエンタテインメントと捉えて、単純に知的な楽しみとともに受け流すことは簡単で、ある意味では正しい姿勢だ。しかしながら、ウエルベックが小説の形で込めた問いかけの気味の悪さを正面から受け止めることは、この本を読んだ後では必要なものであるように思える。人間中心主義の後に来るのが、イスラーム教的世界観であるとは到底思えないのだが、それが、人間至上主義が意外に脆いものであることがこの小説から伝えられるメッセージのひとつでもある。 ルディジェはこうも言っていた。 「文明は暗殺されるのではなく、自殺するのだ」 自殺をした文明の後に、どういう文明が生まれてくるのかが問われていることなのだ。 当然、著者ウエルベックと小説の主人公の考えは違う。小説内のディストピア的イスラーム化社会を男性観点でよしとしているのではない。ただ、そのように思わせて男女問わず嫌悪感を生じさせた上で、その中から嫌悪感だけではなく世界の常識へのある種の違和感を感じさせることがウエルベックの狙いのひとつではないのだろうか。 一定の人に強い嫌悪感を催すであろうが、それだけで終わってしまうにはもったいない。 --- 『西洋の自死』のレビュー https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4492444505 『服従』は新たな視点で読み直されるのを待っている [レビュアー] 関口涼子(詩人・翻訳家) https://www.bookbang.jp/review/article/531512 「服従」(ミシェル・ウエルベック著)が描くのは男性にとっては実はユートピアで、女性にとっては絶望のディストピアであるということ https://souheki1009.hatenablog.jp/entry/20151030/p1

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    投稿日: 2019.09.15
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    ユイスマンス カップルとは一つの世界、独立して閉じられた世界であって、もっと広い一つの世界の真ん中を、傷つけられたりすることなく移動できるのだ。 人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力をもって表明されたことがなかった。

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    投稿日: 2019.06.16
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    会話の中で登場するフランス文学や哲学を織り交ぜたストーリーは、消化不良であった。 しかし、主人公のユダヤ人の彼女・愛人がイスラエルへ避難したり、徐々にパリの街並みがイスラム教色に染まっていく風景に、ただ流されるだけの主人公の小説。 そして、思慮深いがノンポリな主人公が、環境適応するために、イスラム教へ改宗し服従するという文学的な作品。 観光や仕事で、パリを観た事がある私にとって、憧れのヨーロッパ的風景であるパリが、イスラム色に染まっていく本作のストーリーは衝撃的だった近未来小説。

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    投稿日: 2019.04.13
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    え?え?と驚いているうちに、状況がどんどん変化していく。 リアリティは半端ない。 背景として人口増と共にイスラム教徒が世界で増加していることもあって、背筋が凍る思いがするディストピア小説だった。とくにジェンダーをめぐっては皮肉と真剣さがない交ぜになって、深く考えさせられる。 最後にソ連崩壊後の世界に触れた佐藤優の解説もよい。 ただ、イスラムへの偏見は感じる。

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    投稿日: 2019.04.11
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    このレビューはネタバレを含みます。

    2022年、フランスがイスラム政権下に置かれ、潤沢なオイルマネーに懐柔されてソルボンヌ大学が買収され、女性はブルカを被り、労働を禁止され、イスラム教国になっていく。主人公の文学部の教授は改宗しなければ、教授を続けられずついに改宗し妻を娶るのだった。 世界をリードし、どこまでも個人主義を推し進めた西洋文明が自殺をとげ、人口減少、経済衰退の中、イスラム教を取り込むことでかつてのローマ帝国を復活させようと試みる。

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    投稿日: 2019.02.10
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    原書名:Soumission 著者:ミシェル・ウエルベック(Houellebecq, Michel, 1958-、フランス、小説家) 訳者:大塚桃(翻訳家) 解説:佐藤優(1960-、東京都、作家)

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    投稿日: 2018.12.08
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    "2017年に行われたフランス大統領選では、中道政党であるアン・マルシェのエマニュエル・マクロン候補と、極右政党である国民戦線のマリーヌ・ル・ペン候補の決選投票となり、39歳のエマニュエル・マクロン氏が選ばれ、フランス大統領となった。 本書「服従」では、極右政党と移民系イスラーム政党の決選投票となり、イスラーム政権が誕生するシナリオ。2022年でも極右政党党首は、マリーヌ・ル・ペンさんであり、現実感あるストーリー展開。中盤のパリを離れる主人公の周りで起こっている出来事は、現在テロが頻発するフランスの様子を見事に描き出している。 一つの可能性を提起した小説で、世界中で翻訳され、話題になっているらしい。"

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    投稿日: 2018.11.25
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    このレビューはネタバレを含みます。

    近い未来、フランスでイスラムが政権を勝ち取ったらどうなるのか、というお話し。もともとキリスト教信者だった人たちも最初は疑いつつもアッベスから発せられる口当たりの良い言葉を聞いて安心させられているうちに労働のあり方や家族のあり方、教育までいつの間にかイスラムを基とした形に変わっていってしまう。でも考えてみたら当たり前の話しだ。宗教や信仰はその人の進むべき指針や考え方に大きく影響するのだから。この本が発売された時フランスには激震が走ったというが日本だっていつ同じ状況になってもおかしくないと怖くなりました。 服従とは「あるがままを受けいれること」と述べられていて主人公もいつの間にかイスラムになっていく。紹介された妻は形ばかりの服従の姿勢を見せるかもしれないけど、主人公が望む「あるがままを受けいれてくれる」とは思えないなと感じる後味の悪い小説でした。

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    投稿日: 2018.07.31
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    尊敬する平野啓一郎さんがウエルベックが好きだというので『地図と領土』と本書を読んでみたが、……うーん。 女性の登場人物の描き方が酷い。童貞の脳内から飛び出してきたような、男にとって都合のいい存在としてしか描かれてない。 「現実にありえるかも」と思わせる物語の構成は巧みだと思うが、評判のとおり、イスラームの描き方にも差別的なものを感じる。 あまり愉快な読書ではなかった。

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    投稿日: 2018.05.09
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    2018/1 読了。 2022年のフランス大統領選において、国民戦線とイスラーム政党が争い、既存の右派左派政党がEU離脱を掲げる国民戦線を嫌ってイスラーム政党を支持してムスリムの大統領が誕生する。大学教授の主人公は最終的にイスラームに帰依して教授の職を得る。 現実には既にフランス大統領選は中道のマクロンの勝利で幕を閉じた。しかし、小説と同じところとしては、国民戦線が大きく標を伸ばし、従来の左派、右派は大きく崩れた。 この小説は、EU統合の失敗とヨーロッパにおけるムスリムの増加(すでにこれは現実のものとなっている)の側面から語られることが多いが、ニーチェによって確立された独立した個人を是とするヨーロッパ近代哲学によって生み出された個人主義と家庭感の限界を示しているのではなかろうか。

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    投稿日: 2018.01.15
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    2022年のフランスでイスラム主義政党が国政を掌握するという、一見あり得ないだろうそんな事、と思いがちだけど、よく考えるとあり得なくもないのか実は、と思ってしまう、現在のフランス及びヨーロッパ諸国の激動を描いた作品でした。 著者はこの本の中で、ヨーロッパは資本主義を推し進める中でヨーロッパの良さを自ら放棄してヨーロッパを自殺に追い込んでいる、そしていまそこに残っているのは疲弊だけだ、と語っています。 そのヨーロッパの大国フランスで行われる2022年の大統領選で、移民の完全排除を掲げ内向きなフランスを目指す極右政党と、穏健派のイスラム主義政党との一騎打ちとなり、疲弊した国民がイスラム主義政党を勝たせてしまいます。 すると何が起きたか? 学校や企業から女性の姿がなくなります。女性は街を歩くときにイスラム教の伝統的な衣装を身にまとい肌の露出が一切なくなります。一夫多妻制が認められます(認められるどころか、世の中の人口構造に着目した場合、一夫多妻制により弱い雄が自然淘汰されることがイスラム教の摂理に基づく自然な結論だとされています)。 そして恐ろしいのが、既存のシステムに疲弊していたフランス国民は女性も男性もこのイスラム政権が繰り出す政策に次第に順応していき、主人公のフランソワを含め多くの人がイスラム教に改宗し、イスラム政権の下で新たな社会活動を築こうとしていく点です。著書のタイトル通りまさに「服従」です。 この本は2015年に刊行されたものですが、著者はこの本の中でEUの崩壊について言及しています。EUからの離脱を模索する国が現われたり、それとは逆にEUに取り入ろうとするイスラム系国家の台頭に触れていて、2016年のイギリスのEU離脱の決定を予言しているかのような内容で、恐ろしくも読み応えのある作品でした。

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    投稿日: 2018.01.03
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    これはただのSF小説ではない。個人・国家・自由といった概念がこれからどのような変貌を遂げるのか、ウェルベック独自の視点で読者に提示する傑作である。私の理解では、この作品のテーマは先進国における個人主義・自由主義の未来であると考える。重要なのは「服従」というタイトルで、多様性の中で自由を謳歌していた個人がその自由によって疲弊し自己を見失い、共同体的なしがらみに「服従」することで「自由疲れ」からの解放と生の実感を得るという筋書きになっている。 「フランスにイスラーム政権が誕生!」「社会をリードする知的エリートがイスラームに服従!」という設定はセンセーショナルだが、よく読むと服従する先は何もイスラームに限った話ではなく、それこそ伝統的なキリスト教でもよかったことがわかる。その証拠に、「中世キリスト教文明が1000年も続いたこと」が、「近代文明が高々200年しか続いていないこと」と対比して描かれ、「近代社会に対する中世キリスト教文明の偉大さ」が賞賛される場面が多くある。本書の主人公はキリスト教の聖地を訪れ心の平安を求めようとするが、上手くいかず修道院を後にする。ウェルベックが「服従先」としてあえてイスラームを設定したのは、人々の思想や行動に対する拘束力・人々が進んで身を委ねようとする求心力を、今のキリスト教に見出せなかったからに相違あるまい。 個人的に尊敬する佐藤優氏が解説を寄せているが、「イスラームによるヨーロパの統合がウェルベックの作業仮説であり、知的エリートはとかく権威に服従するものだ」という氏の見立てはどこか的が外れているように感じる。 私は、本書はヨーロッパ統合の問題ではなく個人の生きかたを問いかけているのだと考える。より正確に言うと、「このままでは本書のような社会がやってきますよ、読者の皆さんはそれでいいんですか?」といった感じだろうか。本書で描かれる世界がすべて現実のものとなるということはないとは思うが、本書を構成する様々な要素は現実社会に大きな影響を与えることとなる気がしてならない。

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    投稿日: 2017.12.17
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    フランスにて極右政党とイスラム穏健派政党が首班を争うことになったら、 という設定のもとに、 大学で教授を務める主人公の姿が描かれる。 政治の動きを実名政治家も用いながら説明しており、 フランス人にとってはかなりリアリティの高い作品なのだろうと思わされる。 正直なところ、読後感はすっきりしない。 これが実際に起きる出来事なのか、 といわれるとかなり確率が低いのでは、とも思う。 しかし本題は、その政治・社会的な混乱の中、 「服従」を選択するエリート層に対する批判なのではないだろうか。 日本だとここまでの思考実験は難しいのだろうな、とも思う。 左だ右だという形式にとらわれて、 本質的な危機があることに気付けない。 申し訳ないが、エンタメ・純文学を望むのであればお勧めしない。 ヨーロッパ圏での危機感やイスラムに対する不安感を感じたい方に教養の本としてお勧めする。 フィクションながらもノンフィクションのように感じさせる、 なんとも言えない小説。

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    投稿日: 2017.11.26
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    この小説のことはユイスマンスを読んでから考えよう。というわけでKindleで「さかしま」を。(17.11.20)

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    投稿日: 2017.11.21
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    主人公の研究対象であるユイスマンスのことをわからないとわからないんだろうな。。。と読みながら思った。これまで読んできた「闘争領域の拡大」「プラットフォーム」「ある島の可能性」とはなんか違う感じ。消化不良。

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    投稿日: 2017.10.29
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    単行本が出た時からかなり話題になっていたウエルベックの最新作が文庫化……といっても、4月のことなので、随分と時間が経っているw ついつい後回しになってしまった。 あらすじや社会情勢に対応させた話は色々なところでされているだろうから置いておくとして、終盤で『O嬢の物語』が象徴的に使われているところがとても印象に残った。

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    投稿日: 2017.09.25
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    このレビューはネタバレを含みます。

    ウェルベック・ミーツ・イスラム教。 フランス大統領選の話だけど、政治ネタは3割くらい。セックスと食事の話が楽しい。 宗教やユイスマンスの話は、よく分からないなりに楽しい。 最近「一夫多妻制って制度化されてないだけで日本も実質そんなもんじゃ?結局、所得が高いやつが愛人とか囲ってるわけで」 って事を知っちゃって、せちがらい。

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    投稿日: 2017.07.19
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    フランスの政治状況について全然知識がないため、読むのが難しかったです。もっと知識があれば、もっとこの本の魅力を味わえるのだろうなと思います。 フランス大統領選挙で、国民戦線とイスラーム同胞党が決選投票に挑み、イスラーム同胞党が勝利します。イスラーム同胞党は、フランス人の子弟がイスラーム教の教育を受けられる可能性を持たなければならないとしています。イスラーム教育は男女共学はあり得ず、ほとんどの女性は初等教育を終えた時点で家政学校に進み、できるだけ早く結婚することが理想とされます。教師もイスラーム教徒でなければなりません。 そんな社会になっても、思っていたよりは反乱、暴動が描かれていないように思いました。もちろん銃撃戦があったり、人が殺されていたりする場面もあったのですが、想像していたよりも少なく、報道管制の恐ろしさも感じました。最終的に主人公もイスラーム教に改宗を決めてしまい、そうやってどんどんイスラーム教が受け入れられていくのも恐ろしくなりました。 主人公については、孤独な人、という印象を持ちました。その場その場で誰かと付き合ってはいても、誰かと深く関わることはないのではないかと思ってしまったからです。

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    投稿日: 2017.06.18
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    このレビューはネタバレを含みます。

    主人公に共感できない。イスラムが政権を取ってからの描写は、女性の身から読むと、恐ろしくなるほど不安な IF の世界が描かれているが、ある意味男性にとっては、これってもしかしてユートピアなのか?それとも、この結末は大学教授のような知的エリートの人々が、政治に関しても宗教に関しても、あまり関心が高くないことに対する皮肉なのだろうか?

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    投稿日: 2017.06.16
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    書店にて「文庫になってる!」と手に取り、そのままレジ直行。 イスラム教にヨーロッパが支配されたらどうなるのか、という挑戦的な内容の小説だということをテレビで知り、興味を持っていました。 ある程度哲学、文学、政治への素養がないと厳しいかもしれません。でも新聞の海外欄を読み通せるくらいの知識があれば問題ないと思います。 あとフランス人の作家のせいか(それは偏見でしょうか)ベッドシーンが多用されています。特に前半は。 読んでるときはちょっとくどく(っていうか主人公何してるんだよと)思っていましたが、あとから考えると、ヨーロッパの生命力を欲望として表現していたのかもしれないとも思えます。 ラストに非常に前時代的な結論が受け入れられてしまう様子は、何が正しいのかわからなくなる、足元が落ちていくような感じがしました。 失業者増加、賃金低下、出生率低下はすべて、イスラム教に基づき、女性が必要以上の教育を受けないこと、仕事につかないこと、一夫多妻制とすることによって一発解決してしまうという。 複雑です。

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    投稿日: 2017.06.14
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    だらだらごちゃごちゃゆってるな感はあるけど笑それも含めておもしろかった。何となくの村上春樹感ある。絶対的な幸福は服従にある。イスラーム世界は創造主による創世は完璧、称賛と法への服従。人間主義とインテリは弱く脆い。

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    投稿日: 2017.05.25
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    読書会の課題本ということで読んでみた。言葉の端々に見られる女性蔑視・イスラム蔑視・ユダヤ蔑視がすごすぎて、眩暈がしそうになる。この話のキモであるはずのイスラム教徒大統領誕生後の流れも安直で非論理的な偏見に満ちており、何度も途中で読み捨てそうになった。「こんなのが流行るとはフランス社会も相当病んでいるな」という以上の感想が出ない。

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    投稿日: 2017.05.21
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    2017年の現実もル・ペンさんの敗北。 しっかしこれ、中年独身男が服従したのはイスラムではなく寂しさじゃないですか。

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    投稿日: 2017.05.08
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    近未来を描くディストピア小説。 フランスの国民戦線とイスラーム党の政権抗争と、その帰結、およびそこから描かれる影響が表されている。視野狭窄と他者への寛容性を失った社会の起こり得る帰結と、そうした非日常が日常化していく中で作られていく新たな「当たり前」が描かれていく中で、現在の持つ特異性や良さ、改善点に改めて気付かされた。 著者の白人男性としての価値観も少々感じることがあった、ムスリムへのある種のぬぐいきれない固定観念みたいなものもところどころ感じたり。 自分はディストピア小説に割と心動かされることが多いのかな。ただ一方で、物語の大筋と個人の世俗的な欲望がどのようにリンクしているのか見えにくい部分があったことと、描写の直接性には少し違和を覚える場面もあったので、

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    投稿日: 2017.04.23