
総合評価
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powered by ブクログ映画公開時に、映画を見て小説も読んだんだけどまったく理解してなかった、と思う。 カズオ・イシグロのノーベル賞受賞(受賞から数年経っちゃってるけど)でちゃんと読んでみることにした。 1956年、オックスフォードの由緒正しいお屋敷ダーリントンホールに勤める初老の執事スティーブンスは、今のご主人ファラディ氏の休暇に伴い小旅行を計画した。ダーリントンホールは以前は名門貴族ダーリントン卿の持ち物だったが、卿の死後アメリカ人富豪ファラディ氏が屋敷を買い取り、スティーブンスはそのまま新しいご主人に仕えている。政財界に携わり世界の情勢に影響力を持つイギリス人貴族と、戦後の自由なアメリカ人。ご主人の違いにも悩む。それより一番の悩みは使用人の未経験や不足によりお屋敷のご奉仕が行き届かなくなっていることだ。 スティーブンスには一つの解決方法を望んでいた。20年以上前にお屋敷を結婚退職した女中頭のミス・ケントン(結婚後はミセス・ベン)に復帰してもらうことはできないだろうか?ミス・ケントンとはたまに交わす便りだけの仲だ。そしてスティーブンスは最近受け取った手紙に、彼女が人生に悩んでいること、ダーリントンホールにいた頃を懐かしむ気持ちを読み取っていた。そこで彼女の住む西岸の町クリーヴトンに行ってみることにしたのだ。 …というのは建前、どうやらスティーブンスはミス・ケントンと自分の間に別の関係が成り立つことができたのではないかと考えているっぽい。 この小説は、ミスター・スティーブンスが読者に向かって語るという一人称形式。1956年の小旅行、第二次世界大戦前後のダーリントン卿につかえていた頃のこと、現在のファラディ氏とのこと、そして長年悩み続けている、執事に必要なもの、特に『品格」とはどのように身につけることができるのか。 一人称なので『このような状況になり、私はこのように発言したけれど、それを言うに至った心境や本心はこのようなものなんです」という本音と建前のようなものも見える。そしてさらに読者には、その奥の彼の本心も見え隠れしてくる。…要するに彼が語ることは表面的で取り繕ってる感じなんです。 彼はいかにもみんなが思い浮かべる執事で、自分の考えは表に出さず御主人様の考えに従い、屋敷の隅々の細かいところまで目を光らせ、言葉や立ち居振る舞いは慇懃で、常に完璧を目指し、ご主人やお客様が何を望んでいるかを瞬時に悟り意に沿うサービスを提供する。ご主人やその客には最大限の敬意とおもてなしを行い、他の従業員には厳しくも適度な距離を保って接する。「あなたの未熟さが…」とか言うけれども人格否定ではなくて自分と同格の人間と認めたうえで言っている感じではあるんだけど、私にはお屋敷努めは務まらんなあ(^_^;) 二つの世界大戦を通して時代が変わっていく渦中のため、登場人物たちの国の運営に関する考え方の違いも見えます。 民主主義とは言え何も知らない素人は政治に口出ししない方が良い。 知的階級だけが国を動かす立場に就くべき。 それぞれのものが自分のふさわしい立場や役割を保ちそこから出るべきでない。 身分に関わらず『品格」は持てるのだから、全員が意見を持つのだ。 それらは、かつてダーリントン卿のもとで見聞きしたもの、1956年現在の旅で新たな意見に出会ったものたちだ。 長年仕え続けたダーリントン卿は、紳士としては完璧で、自分たち上流階級が国を導く気持ちが強い。スティーブンスは卿に使えることにより、世界を揺るがす決定に自分たちのサービスが影響していることを感じていた。しかし第一次世界大戦後のドイツの困窮に心を悩ませたダーリントン卿は、第二次世界大戦前後ではナチスとの繋がりを囁かれてしまい、晩年と死後はその名誉を失っていた。 現在のご主人はファラディ氏は執事にもアメリカ人らしきジョークを投げかけてくる。スティーブンスはファラディ様は自分がジョークを返すことを期待されているのではないか?と考えるて精一杯のジョークを返したつもり、なのだが相手からは『え?なんだって?」とジョークと認識してもらえない…このジョークに関してのやり取りは『おっさん、慣れないことは無理すんな」と言いたくなる(^_^;) この『スティーブンスが実際に言ったりやったりしたこと、そのためにスティーブンスが考えたこと、それを読んで読者が考えること」の構造が一番見えるのはやっぱりミス・ケントンとのこと。スティーブンスが実際に行ったりやったりしたことは礼儀を保った仕事だけの関係、そのために考えたことは『ドアを開けるべきかと思ったのだが」など巻kネイが変わるかもしれない機会は何度もあったこと、読者はその奥に『ロマンスを感じてるの?」と見る。でもさー、親族が亡くなった相手に向かって『お悔やみを伝えるべきかと思ったが」実際にやったのは仕事が行き届いていない小言や、相手を愚かな未熟者扱いだもんなあ…。 そしてスティーブンスが仕事上で悩むのは『品格」のこと。ダーリントン卿に仕えていたころ、少しはそれを身につけた時があったと思う。だがその後は?そして自分が思っているものが本当に『品格」なのか?そして今の現在はそのような『品格」は必要なのか?それはミス・ケントンと再会して言葉をかわした後にさらに悩む。 終盤、スティーブンスは一人で考える。自分には品格などなかったのではないか、過ぎ去った日々に取り残してしまったものはあまりにも多かったのではないか。 小説ではずっと『スティーブンスが語ることは表面的で、その向こう側に本心があるはずだ」と見えていたんだけど、最後の悔恨は深刻なんだけども取り繕った感じのない清々しさがあった。 そしてたまたま言葉をかわした男の『一日の家で夕方が一番いい」という言葉に目が覚めた思いを持つ。自分は老いた。かつてのような伝統に基づいた完璧なご奉仕はできない。しかし時代が変わった今、ファラディ氏には新たにご主人と執事の関係が築けるのだ。例えばファラディ様のお気に召すジョークだって、自分はこれから取り入れる事ができる。 自分は老いて、かつての古き良きものも失われつつある。だが人生は夕方こそ一番良いのだろう。 いやーー、一人称のためにスティーブンスの取り繕ったような自分中心なところが読みながらスッキリしない、彼の言う事の向こう側を考えちゃっていたんだが、終盤ですっきり! 人に語るという形式ながらも対外的に作った感じだったスティーブンスが、彼の奥深くの悩みを受け入れて、読み心地が爽やかだ。彼の「品格」は、世界を変えるその場にいてわずかながらに役割を果たしたってことではなくて、自分自身の悩みに向かい合って前に進むことに決めたということだと思う!
25投稿日: 2026.02.01
powered by ブクログ途中まで、いや、6割読むまで!何が面白いんだろう。ここから何が起こるんだろうと考えながら読んでいましたが、最後まで何も起こりませんでした。 ネタバレとなりますが、この、「信頼できない語り手」の無意識のバイアスを上手に表現していて、読後は、スティーブンへ思いを馳せ、作者の技巧に感嘆することになると思います。 興味があれば!ぜひ!
12投稿日: 2026.01.26
powered by ブクログスティーブンスの鈍さが最後まで一貫していたのが良かった。確かに彼は卿の判断を信じただけの受動的な人間だが、それについて思索を巡らせることができる時点で立派な人物だと思った。
1投稿日: 2026.01.19
powered by ブクログ物腰は柔らかいけど鈍くて堅物なおじさんが、尊敬していた父やお屋敷のご主人の直視したくない真実に直面したり、ほのかな恋愛相手だった女中頭の成長を目の当たりにしたりして、最後にビターなことがありつつもラストが明るく、晩年もう一回読みたいと思うカラッとした爽やかさがあった。途中に立ち上る影とのギャップがラストを際立たせてるのかも知れない。
1投稿日: 2026.01.15
powered by ブクログこれぞカズオ・イシグロ!という名作。 英国の美しい情景や伝統を描きながら、人間ってこうだよね…というリアルが詰め込まれている。 英国の執事の一人称視点で物語が描かれる。 人生をかけて仕えた主人への尊敬や、世間からの評判への後ろめたさ、後悔、恥辱、仕事への誇り、不器用な恋愛等、主人公の中で色んな感情がごちゃ混ぜになった結果、自分に不都合な事実や出来事に蓋をして、自分に都合の悪い部分を隠した主人公の語りが続く。 そのため、話の核心にもやが掛かったような進行に気持ち悪いなあと思うのだが、これが人間のリアルだよね、ということなのだろう。 日本にはない執事の文化が興味深かった。
6投稿日: 2026.01.13
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
原書で途中まで読んでパラパラと読んだが、すまぬ、あまり響かなかった。 読む時期が違うかったかも…また違う心持ちの時にチャレンジしたい。 Never let me goは好きだから…いやー、 主人公の思いを馳せる時に回り回る感じとか、過去回想をねっとり同じ事言いながらなぞる感じとか、本当はそこが魅力なんだろうけど、なんか読んだ日の心持ち的にたるかった。 またいつかリフレッシュして読んで凄さを改めて感じたい。
1投稿日: 2026.01.11
powered by ブクログ品格とは何かを問う素晴らしい小説。 主人公のスティーブンスは偉大なる執事として、感情を排した献身こそが品格であると信じ生きてきた。 しかし、幾つかの出来事が示す様に、その信念によって自らの人生を縛り、結果として取り返しのつかない後悔を生んでいった。 では彼は自らの心に誠実でなかったから、品格がなかったのか?そうは思えない。 もしここで彼が過去を否定し、失敗を他人のせいにし、感情を受け入れていなければ品格のない人間に成り下がっていたのかもしれない。 しかし、彼は旅の中で、自らの後悔を受け入れ、人生を投げ出さず、執事として生き続けることを選んだ。 自らが生きてきた人生に向き合い、後悔を受け入れ、責任を持ってそれでも未来へ歩いていった。 この姿勢こそが、この作品の示す人として本当の「品格」であるのだと感じた。
0投稿日: 2026.01.11
powered by ブクログ訳者が相当に技量のある人なのだと思う。特に感嘆詞などは、一体これに該当する英語は何になるのだろうと想像しても全く思い浮かばないが、不自然に思う瞬間や違和感を感じる瞬間は全くなかった。物語を楽しめた。 一方、訳者の技量に頼らず生の英語によってダイレクトに本書を読みたいという気持ちも芽生えた。日本語でこんなに心地よく読めたなら、英語ならどれだけ素晴らしいか、、。 次は英語で読むべきだろう。
0投稿日: 2026.01.05
powered by ブクログひたむきで有能な執事の残りの人生を失意の中に放り込まず、ユーモラスに締めくくってくれたイシグロに拍手。
1投稿日: 2026.01.03
powered by ブクログ『正しい人生』などというものがこの世にあるのだろうか?そんなことは誰にも分からない。 それゆえに、人生を捧げて全力を尽くした「何か」が、今思えば間違っていたということもあるだろう。 でも、それでいいのかもしれない。 燦然と輝いた太陽が沈む頃、『日の名残』とも言うべき光もまた美しいものなのだ。
2投稿日: 2025.12.30
powered by ブクログ執事という職業自体が私にとっては、外国文学の中でしか触れることのない職業で、執事がどんなものかは作品の中で想像するしかないが、このお話の主人公は第二次世界大戦前から大戦後までをイギリスの貴族のお屋敷で働いていた1人の執事。初めは、世界大戦中の、貴族や国の重要人物のお話だったら、もっと面白そうなのに、なんで、執事のお話なんだろう?と思って読んでいた。主人のダーリントン卿が出会う国の中枢の人物たちとの話が漏れ聞こえてきて、執事は、ダーリントン卿がいかに立派な考えを持っているかということを説明していく。でも、何せ、漏れ聞こえてくる情報だけしか私たちには知らされないから、なんだか、曖昧でもやがかかってる感じ。 それが、本当の本当にラストになって、「このお話の言いたかったことは、これだったんだ!」と私は気づいた。執事のスティーブンスは、ミスケントンの想いに気づかない鈍感さだったけれど、私も同じで、最後の最後になって、やっと、わかった。 夕方がいちばんいい時間なんだ。足を伸ばして、のんびりするのさ。
0投稿日: 2025.12.21
powered by ブクログ「クララとお日さま」を読んで著者の別作品に興味が湧き、英国最高の文学賞ブッカー賞を受賞作と知り、期待して読み始めましたが、取り立てて特別の感動を感じませんでした。 英国の品格ある執事としての理想を追求する主人公スティーブンス、女中頭として同じ館で働き始めたミス·ケントン、主人公に思いを募らせるケントンと執事としての役目に没頭してその思いに気づかないスティーブンスとの切ないやり取り。 ダーリントン卿に絶対の信頼感を抱き、その高潔な人格を持つ主人に仕えることこそ執事の本望であると仕えるも、敗戦国ドイツと祖国イギリスの間を取り持とうと卿が奔走するも人々から中傷を浴び、また、自分の過ちもあったことを吐露するダーリントン卿。 ダーリントン卿が亡くなり、館を買われた新しい主人から休みを貰い、結婚で辞めたケントンからの手紙でもう一度働かないかと打診する為にケントンと会いに旅に出るスティーブンス、再会したケントンから昔の思いを聞くも哀しく別れたスティーブンスが公園の夕日、日の名残りを眺めながら過去を追想するシーンは印象的でした。 ただ、執事の品格や民主主義ではなく高貴な貴族こそが国を導くという考えはいかにも昔のイギリスであり、本作の歴史的背景であるその記述に厚みや心の震えは起きませんでした。ブッカー賞の受賞理由のひとつはそこにあるのでしょうか?
0投稿日: 2025.12.21
powered by ブクログおじさんの虚無。 読んでいる途中、激しい感情の起伏は起こらないけれど、執事さんの脳内トークの言い訳に味があって、だんだんと面白くなってくる。 そして、しみじみとする。 品とノスタルジアの小説。 仕事ばかりしてプライベートを台無しにする日本のおじさんに(おばさんにも)お勧めする。
54投稿日: 2025.12.19
powered by ブクログ福大病院図書室で借りる。久々感動の本。何がよいのか?スッと言葉が出ない。が、読みながら残りページ(紙の厚さ)が少なくなっていくのが残念になるという初めての経験をした。まだ終わってほしくない、まだ読み続けたいと。主人公が「品格」にとてもこだわりがあり自分も「品格」ある行動をせねばと思うようになった。
2投稿日: 2025.12.18
powered by ブクログ途中までよくわからなかったが、最後の方になってどういう話だったのかわかる気がした。 スティーブンスが首相、外相、駐英ドイツ大使リッベントロップの会談をうまく凌いで幸福感を感じるが、その20年後に分かった女中頭の自分への恋慕の情がそれをふいにしてしまった。スティーブンスは鈍感すぎた。僕も読んでる最中全く気が付かなかったから鈍感なのかなと思った(笑) 解説を読んで分かった気になったが、自分でわからなかったのが悔しい。また読みたい。
0投稿日: 2025.12.17
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
後悔と過ちの日々。ただその一切はすぎていく。 品格のために執事の服を常に脱がずにいたスーティーブンスが、最後に「自分で決断しなかったこと」を悔いて泣いてるシーンがとても印象的だった。 いままでほぼ全編にわたってスティーブンスの仕事の素晴らしさ、正しさを説かれていた身としては冷や水をかけられる思いだった。 ただ、後悔した先の、過ちを犯した先の日々が目の前にはただ広がる。もし過去に戻ってそこ後悔を解消したところで、自分の望む未来が手に入るなんて確証はない。 「これでよかったんだ」と、ただただ明日に向かって歩いていく事。明日をより良いものにするために、ジョークの勉強をしようと決めるスティーブンスはあまりにもいじらしかった。
5投稿日: 2025.11.30
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
目的がわかりやすく終盤に配置されていて、読み進めるほどに何が起きるのか期待させられてしまう物語だった。はじめ、スティーブンスはたいへん有能な執事かのように見えるのだが、だんだんと信頼できなくなっていく。どうも仕事一辺倒で、他の面が疎かになっているのではないかと。だが全てがスティーブンスの語りゆえに、その疑念が読者に伝わっているのは、だんだんとスティーブンスの自信が揺らいでいることの表れでもあるという構造がおもしろい。 物語終盤、スティーブンスのこれまですべての自信が一気に崩れ落ちてしまう。そこから終わりまでがあまりにも短いのもこの物語の特徴のように思う。だから、「昔ほどうまく仕事ができない?みんな同じさ。いつかは休むときが来るんだよ。」「夕方が一番いい時間」という言葉から晩年の身の振り方を感じ取るのもいいが、終盤までの一連の流れを「後悔のないように生きるためにはどうすればいいのか?」という考察のとっかかりとするのが楽しめるのではないかと個人的には思った。
4投稿日: 2025.11.29
powered by ブクログ後半一気に面白くなるタイプの本。ナチドイツ周辺の歴史的な知識があればもっと面白く読めたかもしれない。信念を突き詰めるのもひとつの素敵な生き方だと思うが、スティーブンスは色々なものを引き換えに差し出しすぎたのだろうと思う。人間臭くてよかった。ストーリー展開の派手な物語ではないので、時々眠くなるけれど、日の名残り、というタイトルがしっくりくる穏やかでノスタルジックな小説だと感じた
3投稿日: 2025.11.24
powered by ブクログカズオイシグロは難解だ、 訳文だからか私の読解力不足だからか読みづらい、 映画にもなってるそうなのでイージーそうなそっちから読めばよかったか? なんて逡巡を口笛で飛ばす読後感です。 氷河期世代で仕事人間たる私には、重みが残りました。 仕事を選んできた人生に後悔はないか?と問われるとイエスと即答できない。 同じように仕事を選んできたあの人にも、読んで欲しい。
1投稿日: 2025.11.23
powered by ブクログ主人公に比べるとまだまだ若輩者だけど、過去の自分の行動や選択を振り返って、選ばなかったその先の人生について考えることがある。まぶしく輝くような時間が過ぎ、まばゆさが薄闇に包まれていく時間こそが一番いい時間だと、人生になぞらえながら読んだ。美しい物語だった。
4投稿日: 2025.11.22
powered by ブクログ序盤から執事として勤めてきた過去回想とミスケイトンとの馴れ合いが続く。 物語の後半まではスティーブンスが行なってきた仕事ぶりと、そこで巻き起こる歴史の変革に自分がいる感覚に没頭しているようにも見えた。 この作品が信頼できない語り手の回想だったことを理解し始め、「今までのあのシーンのこういう事だよな!!」と私も解釈しながら読めて面白い。 ラストスパートでは、過去ばかり目を向けてはいけないというメッセージ性が沢山書かれており、自分に言われてるかのようで、前を向こうと思いました。
1投稿日: 2025.11.06
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
時代は第二次世界大戦の後,1950年代。 執事スティーブンスは、現在はアメリカ人の主人に仕えているのだが、主人が帰省する間、かつて同僚だった女中頭に会いにいくことになった。かつてかれらは、有力貴族ダーリントン卿に仕えていた。物語は大半は、旅中で想起される戦前の出来事(1920〜30年代くらい)が中心となっている。 ダーリントン卿は、政界にコネを持ち、その屋敷は幾度のなく国際政治上の密会の場となっていた。そして、スティーブンスは主人に心酔していた。彼は、ダーリントン卿がいかに偉いか、ということを何度も回想している。 と同時に、そのように高らかに誇張されることによって、その陰にあった(が実は明らかに見えていたはずの)物事が示唆される。 読んでいくうちに、スティーブンスの回想には自己欺瞞があることを、読者は感じとるはずだ。彼は幾度となく「品格」とは何かという問いを反芻している。だが、彼自身は、ダーリントン卿の親ドイツという負の側面を、見て見ぬ振りをしていたのだ。 彼は記憶を辿っていくうちに、自分でも自己欺瞞に気づき始める。物語の途中で、彼の想起の仕方がいつの間にか変化しているように感じられた。 こういう疑問が出てくる。本当は見て見ぬ振りをしてはいなかったのではないか。すなわち、時間が経って自分の過去の思い出し方が変化してはじめて、見て見ぬ振りをしていたということになった、のではないか。記憶が変化してはじめて、その過去が生まれたのではないか。 物語の終局、スティーブンスが桟橋近くのベンチでバスを待っていたとき、居合わせた老人との会話のなかで、こう告白する。 「卿にお仕えした何十年という間、私は自分が価値あることをしていると信じていただけなのです。自分の意思で過ちをおかしたとさえ言えません。そんな私のどこに品格などがございましょうか?」(350頁) スティーブンスは海を見て泣く。彼の記憶は変わってしまったのだ。彼はかつての過去を、もう二度と思い出せまい。
0投稿日: 2025.11.06
powered by ブクログこーれはすごい まるで実在する執事が滔々と自らの職業人生を語っているかのようで、ノンフィクションの自伝を読んでいるような錯覚に陥りそうになる 確かな構成力に加えて生真面目な執事が時折見せる人間臭さや登場人物の会話など、ここまでのリアリティと緻密さをもって細部まで描き切る著者の筆致の力量に圧倒された
5投稿日: 2025.11.02
powered by ブクログかなり前に読んだものの再読。 前半部分はわりと覚えていたのに、ミスケントンと再会する場面を全く覚えてなかった…。 でもそのお陰で新鮮に楽しく読めました。 当時も思ったけれど、私みたいに歴史的背景や知識がなくても、主人公の執事としての日常や矜持、過去の日常についての独白が続くのに、退屈せずにどんどん読める。 スティーブンスは執事としては忠誠心があって優秀かもしれないけど、遊びがなくて、人に対して不器用で鈍感で空気が読めないところがイラッとしつつ段々と可愛らしく思えてくる。 個人的には言葉遣い一つで登場人物の印象も変わると思っているので、作家さんが書いた言語で読みたいのだけれど、こちらの訳も十分魅力的に描かれていて品があって美しい文章たちでした。 彼が人生の夕暮れにこの旅ができてよかった。 またしばらくして読み返すのもいいかもしれない。
20投稿日: 2025.10.21
powered by ブクログ古き良きイギリスの原風景が美しく描かれ、映画で触れるくらいしかなかった社交界、執事の世界、その厳しさも垣間見ることができた。 史実との整合性は不明、仄かな恋愛ストーリーはあったものの、執事が昔を懐かしみ、振り返っているだけなのに、退屈せず、なぜこんなに惹き込まれてしまうのか、、、自分でもよくわからなかった。 それにしても、翻訳がうますぎる。。。全く違和感なく、読み進められた。
2投稿日: 2025.10.19
powered by ブクログ猪瀬直樹さんが、「公」のなかで、公の中の私の話で名作、と書いてので、読んでみたが、正直何も分からなかった・・・。色々と解説を漁ってみたい
0投稿日: 2025.10.12
powered by ブクログこの作品は、大きな事件もなく、執事スティーブンスの日常が淡々と描かれていますが、その静けさの中に彼の過去や現在、そしてこれからの人生への深い思索が込められています。 特に最終章では、自らの人生を振り返り、これまでの生き方やこれからの在り方を静かに見つめる姿に強く心を打たれました。 読後、自分自身の人生とも重なり、「これまでの人生は何だったのか」「これからどう生きていくのか」という問いが胸に残りました。 年齢を重ねるほどに、仲間の死や老いに直面し、生きる意味を考える機会が増えます。 ただ日々を過ごすだけでは満たされないもどかしさや、今の現状を変えるにはなにか怖気付いてしまうという思い――この作品はそんな中年期の揺らぎを静かに映し出しています。 若い頃には理解できなかった深い味わいを、今だからこそ感じられる一冊でした。
0投稿日: 2025.10.11
powered by ブクログ序盤から中盤にかけて退屈だなあと思いながら読んだ。執事たるものこうあるべきとか御主人のこととかそういうことばかりで。ところが中盤以降、徐々に小さくゆらゆらと燃え上がる何かが起こってくる。ちょっと先が気になってきたという状況がやってくる。最後にその燃え上がる何かが弾けるのかと思いきや、そのままゆらゆらして消えていった。そんなお話でした。あと読んでいて感じたのは、スティーブンスに対して「ええ、それはなあ…」という場面が多かった。もちろんこれは自分が現代の日本で生きているという状況で、かつ執事文化にもイギリス文化にも馴染みがないものにとってはなかなか書かれているもの全体を深く味わうことが難しかった。 でも、最後にケントンはスティーブンスに色々と告白をしたのに、彼の旅の道中たくさん色々と思いを巡らせあそこが分岐点だったなんて語ってたのに、最後まであの態度を変えられなかったことにはがっかりだよ、それも人生といえばそれまでのことなのかもしれないけど。ギャグなんかよりヒューマンドラマを見たまえスティーブンス?
17投稿日: 2025.10.10
powered by ブクログお堅いお仕事小説 脱線に次ぐ脱線がとても長い…ただ物語をつくりこむ執筆の凄さ、そして前作同様 静かな物語だったのを感じた 今作もイシグロ氏による回想、文学用語の信頼できない語り手 と呼ばれてる物語だった わたしを離さないで から入った方が多いと思われる、今作物語はこちらも少し悲劇的に描かれてて、雇主だった者の過ち、女中の思いを気づけなかったなどが最後に想いにふけながら終わってく。しかし見知らぬ男との夕刻の話、つまりダーリントン卿との時間は素晴らしいものではあったのだと、イギリスの執事とはこれほどの仕事で素晴らしくあったのだとと思わせるような内容だった 誰にでも一生懸命のとき、じっくり考慮したとしても周りが見えなく選択の判断を悔やむこと一つや二つだってある、しかしというかやはり前を向けば新たな出会い、自分なりの楽しみを見つけられると、そんな想いが伝わってくる日の名残りだった 好きなフレーズ引用 人生が思いどおりいかなかったからと言って 後ろばかり向き 自分を責めてみても それは詮無いことです 私どものような人間は何か真に価値あるもののために微力を尽くそうと願い それを試みるだけで十分であるような気がいたします
20投稿日: 2025.10.07
powered by ブクログ自分の領分において他人との境界含め自分の関与すべき物事を徹底的に分別して、努力次第で自分の掌中に収まる目の前の物事をコツコツと行い、穏やかな生活を維持していくスティーブンス。 自分の範囲を限定するのではなく手を伸ばす意欲を持てば政治においても人間関係においても多くに触れられて自分で舵を切れるという見方もあるかもしれないが、自身の環境はコントロール不能な側面が多いため、知識の補填や強い意志でどうにかなるものではない(3日目夜ハリーの語る品格への疑念)。スティーブンスはあまりに頑固で枠内に収めることに気を取られすぎているので、関与すべき、関与できる範囲を自ら狭めているような気もするが。 ああすればよかった、こうすればよかったの一言で正解の選択肢を振り返って単純に丸つけをできるほど、記憶も含めて人生、世間の流れは明確なものでも操作可能なものでもない。後になって負の側面が目立つようになった選択を信奉し、過ちと後々判断される行為に従事した人たちが善悪で評価され、全ての信念と誇りを一概に否定されるのは酷すぎる。一貫性を好む性質がどこに適応されるかな問題なだけな気もしてくるし(時代によって更新される正解を追求する一貫性or自分が決めたものに寄り添い続ける一貫性)。父の衰え、病に際して情動を抑えて執事としてのあり方を遵守すらのすら、品格という信念、一貫性。 人の人生をとやかく講評すること自体必要ないことだし、必ず発生するそういった野次に反応するのも馬鹿げているけど、何かを信じて自分の身を捧げる覚悟をもって生きてきた。そういう姿勢がそこにあったということを認識して、仄かな灯で照らされた夕方に温かく迎え入れられるような、そんな生でありますように。ジョークのように、丸つけから離れた文脈で色づいた夕景に恵まれますように。 イシグロカズオは回想が鮮明すぎず、不確かなところがそのまんまぼやけた形で描写されているのが好き 歴史わかんない!
6投稿日: 2025.10.05
powered by ブクログイギリス屋敷に仕える執事が主人のフォードに乗って旅をしながら過去を回想する物語。 「私を離さないで」とはまた違った雰囲気で、しっとりひたるような読書体験。 静かに胸に染み入るおすすめの物語です。 「日の名残り」のタイトル通り、人生における夕暮れ時に後ろを振り返るのは楽しいことばかりではないのだろう。 あぁすればよかったのではないか、今とは違うもっと良い人生があったのではないか、自分の選択は間違いだったのではないか。 そう思いながら、夕日を見て涙するシーンは大変に美しい。 でも、過去においてこうすればよかったのかもしれない、という選択点がたくさんあることは、必ずしも後悔すべきことだけではないのかもしれない。 それは、無限の可能性に恵まれた豊かな人生であった、ということそのものなのかもしれない。 隣の芝は青い、のように他人の芝が青いのではなく、自分の中の世界が青く広がっていることの表れかもしれない。 そう思って幸せを噛み締めつつ前を向いて生きていくべきなのかもしれない。 とりあえず、執事は苦手なジョークを練習し、新しいアメリカ人の主人を立派なジョークでびっくりさせて差し上げよう、と決心するのであった。
1投稿日: 2025.09.26
powered by ブクログ英国貴族のダーリントン卿と、その名家に仕える執事のスティーブンス、ミスケントンの3人を中心とした物語です。スティーブンスの回想録になっていて全て口語調で書かれています。そのため読みやすく、当時のダーリントン家で行われている会合や執事として働いている情景が鮮明に浮かんでくるため、没入感が素晴らしかったです。とにかく真面目で堅物なスティーブンスの人柄も良い味が出ています。 この物語の最大の魅力としては、3人ともが自らの「人生」と深く向き合っていることです。それぞれが自らの信念のもと進む道を決断・選択しているのですが、上手くいかずに後悔、そして苦悩・・・といったシーンが描かれています。そのため、「もしあのとき違う選択をしていたら・・・」という、もう一つの人生の可能性に関して深く考えさせるような内容となっています。タイトルが「日の名残り」としている点からも、その点が大きな主題になっているのかな?と勝手に推測していますが、そういった点を読者に想像させるような構成が本当に素晴らしいです。 また、フィクションながらも当時の時代背景の細部まで緻密に反映されている点が凄いです。 第一次世界大戦後でドイツに対して弾圧を強めるか、それとも宥和的な政策を取るか英国内や諸外国との間で不和が生じていた政治的な時代背景をもとに、秘密裏の会合で各国の駆け引きしている様子も描かれています。また、英国貴族が没落していった時代背景も表現されていたり、文学作品として見事に昇華されています。ブッカー賞受賞作品はダテじゃないですね。本当に素晴らしい作品でした。
12投稿日: 2025.09.23
powered by ブクログ昔のこと、お屋敷での過去のこと、ドライブ中の出来事。 読んでるうちに靄の中に巻き込まれた感覚で睡魔が…読むのに時間がかかって、手強かった。 なんとなく、ところどころ"ダウントンアビー"を思い出したかな、全然違うんだけどね。 …そもそも"ダウントンアビー"全部見てないんだけど!
0投稿日: 2025.09.21
powered by ブクログ素晴らしい作品だった。雇主が戦前戦後の欧米各国の思惑に翻弄され失意の中で去る話、女中頭の過去と現在の話。最終的には、執事も前を向いてジョークにまず向き合おうとこの旅を経て思えた事、何もかもが素敵なストーリー。 カズオ・イシグロの本の中で、マイベストです。
1投稿日: 2025.09.19
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
主観以外が入り込まない回想形式で書くのが生きる題材、素晴らしい。スティーブンスなんて不器用で愛おしい人なんだろう。彼やその主人を愚かだと思うことはわたしにはできなくて、そのときそのとき信じたものがあって、一生懸命で、それに不正解はないよね。人生取りこぼしてしてしまうものがたくさんあるのは多くの人にとってきっと事実で、ジョークを鍛えようと屋敷に帰ったスティーブンスみたいに今持っているものを大事にできたら良いな。
0投稿日: 2025.09.14
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
面白かった…! 堅苦しい、古風な作品かと思いきや、するすると読めてしまった。 ずっと積読していて、二の足踏んでなかなか読まなかったけれど、久々に手に取ってよかった! スティーブンスの言い訳のような語り口に、思わずにやっとした。 特に、ミス・ケントンへの思い。 素直になりなよーと何度言いたくなったことか。 スティーブンス、すごく意地悪な言い方しかしないんだもん! 私がミス・ケントンだったら、超嫌いになるところだよ。 でも、ミス・ケントンは、スティーブンスが実は自分に好意を抱いていると気づいていたんだろうな…。 素直になれない小学生のようなスティーブンス…。 ジョークのくだりもいいね! 頭の中ですっごく考えて、ここぞというところで繰り出したのに、シーン…。 いたたまれないよ、スティーブンス!! そして、やっぱりダーリントン卿のこと。 純粋だったのかな。 人を疑わないというか。 人を信用しちゃうんだね。 最期はとても悲しいものだったけれど、スティーブンスの胸には生き続けるんだね。 人間味溢れる登場人物たちの物語を語ってくれてありがとう、スティーブンス!
1投稿日: 2025.09.14
powered by ブクログ1989年ブッカー賞受賞作とのこと。ダーリントン卿というイギリスの上流階級に属する主人に仕えた執事の語りで物語は進む。 解説を読むと、私が読み取れなかったこの作品の文学的価値が書いてあり、なるほど、とは思ったが、 そう難しく考えずに読むと、ただ哀れな執事の話だ。 執事という職業に高い誇りを持ち、世界の中心にかかわる(時代は世界大戦期)ような有力な階級の主人に仕えることで、 自らもその世界を動かすような重大事の一助を担っているという自負。 その職業的領分を果たすことにすべてを懸け、我が事を顧みることはない。 父親の死も、人生の伴侶となりえたかもしれない女中頭との関係も、個人的な感情はすべて抑制されている。 物語は、大戦が終わり、新しいアメリカ人の主人に仕えることになった主人公が、しばしの休暇で旅に出るところからはじまる。 ダーリントン卿に仕えた思い出や、結婚して屋敷を出た女中頭との思い出を蘇らせながらの車旅。 読んでいて、その生真面目さに辟易とするが、時にそれはユーモアとなって描写されることに救われる。 真の偉大な紳士であると信じて疑わなかったダーリントン卿は、大戦後には対独協力者としての烙印を押され、 旅の最後で再会を果たした女中頭に抱いていた淡い期待は裏切られる。 ラストは見事だと思う。結局、そのようなこれまでの自分の人生を嘆いたとしても、彼はやはり執事としての道を生きるのだ。
1投稿日: 2025.09.13
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ある屋敷に長年執事として勤めた人物の回想と現在、これからの話。 屋敷の主が亡くなり、スティーブンスは新しい主人の執事となったが、ノリがうまく合わずジョークすらうまくできないと思い悩んでいる。その主人の勧めで小旅行をすることなり、屋敷が全盛を誇った頃に同じ屋敷で働いていた元女中頭のミス・ケントンに会いに行くことになる。 昔の回想と今を行き来しながら、スティーブンスが色々なものを犠牲にして、重きを置いてきた品格とは何だったのかを問う内容になっている。 相手への配慮というか直接的な表現を避ける独特な言い回しで、訳文なのにとてもイギリスっぽさを感じる。 人によって好き嫌いはあるかもしれないが、個人的にはかなり好み。 一日のうちで夕方が一番いいという話も年齢的に刺さる言葉だった。
0投稿日: 2025.09.08
powered by ブクログ全体的に漢字が難しかった。前半は難しい漢字と名前に苦労したが、後半は一気に読み進めることができた。人に支えるものとしての考え方、苦悩、過去の後悔これを振り返りながら旅をする物語。真面目な主人公が、公私を混合しないように時に無慈悲になる姿が一貫していて素晴らしい。 時代が戦争前ということで、その時の正しいと思われた考え方が戦争後に変わることで否定される残酷さ。主人公が前に支えていた主人の話をもっと聞きたかった感はある。 過去を振り返ってばかりだと憂鬱な気持ちになる。という老人の一言がかなり効いた。
0投稿日: 2025.09.04
powered by ブクログ人生の”夕方”になって過去を一度振り返る時期になったら、また読み直したいと思う作品でした。 そして、その時に誇りを持っていられるように今を生きなければならないと感じました。
5投稿日: 2025.09.01
powered by ブクログ5年ぶりくらいに再再読。 冒頭はスティーブンズのモノローグがすっごい「めんどくさ…」って思えてページをめくる手が止まりかけるのですが、それを乗り越えて読みすすめ、終わりまいくと、やっぱり素晴らしい作品だったと感動できました。
0投稿日: 2025.08.27
powered by ブクログ「こういう後悔することって、あるよな」の連続。 最後、主人公は過去の過ちを悟って涙する。でも、それだけにとどまらず、未来を前向きに生きようともしている。そこに大きな救いがある。 『浮世の画家』と同様に、隠さねばならない過去がある者の悲しさを感じる。
0投稿日: 2025.08.25
powered by ブクログさぁ、どうしよう? ブッカー賞である ノーベル文学賞である お前らみたいなもんは、どうせこの世界的名作は敷居が高いだろうから、読んだ気になるレビューを書いてやろうかと思ってはみたが、外気温が35度を超えているので、ちょっと無理かも 語り手はイギリスの著名人に仕える「執事」のスティーブンス このスティーブンスが、昔の同僚に会いに行く小旅行の中で、その同僚との思い出なんかを思い出しながら「過去語り」をするというストーリー まずは控えめな語り口ながら、わたし仕事出来ますよ感を全身から発してきます はいはい、一流の「執事」なんですね、え?一流じゃなくて超一流?あーそうね、そうですね、超一流の「執事」様ですね まぁ、正直言ってだいぶ鼻につくスタートですが、話が進むにつれて、ちょっと怪しくなってきます あれ?こいつ確かに「執事」としては超一流だけど、人としてはだいぶお間抜けなんじゃなかろうか むしろ大馬鹿野郎で、欠点の多い人間なんじゃなかろうか そして最終的には、あーこいつあかんわ、ぜんぜん分かってないわ、むしろ恥ずかしいわ となって行き、小旅行自体も最後にはまあまあ恥ずかしい”やらかし”で幕を閉じます でもね、この年になって自分の半生を振り返ってみると、まあまあ恥ずかしい”やらかし”で埋め尽くされた人生だったような気もします 誰もそうなんじゃないでしょうか? 『日の名残り』のある夕暮れの中で思い返してみれば、あの時ああしていれば…なんてことばっかりなんじゃないでしょうか 思い返してみれば、涙がこぼれてしまうようなこともたくさんあるんじゃないでしょうか 誰もが実はスティーブンスなのではないでしょうか だけど、となりには薄汚いハンカチを差し出してくれる人がいて、ちょっと苦笑いさせられたり、新しい出会いや、新しい課題が、ほんのちょっぴり前に進もうとする明るい気持ちにさせてくれたりする 結局それが人生を生きるってことだったりするんじゃないでしょうか そんなことを感じた書評家三宅香帆さんおすすめの一冊でした
78投稿日: 2025.08.23
powered by ブクログまだ学生の頃に映画でみて全くピンと来なかったのですが、歳を経て小説を読んだら、読みどころが良く理解できて、素晴らしい小説でした。カズオ・イシグロさんのマイベストです。 英国執事の視点から語られるストーリーは時と場所を超えて英国執事の価値観や深い想いを追体験させてくれます。その中で描かれる淡い恋心。人間の心の尊さを描く感動の小説です。
6投稿日: 2025.08.21
powered by ブクログノーベル賞を受賞した、日本とダブルなイギリス人が書いた小説。 年老いた執事が、自分の半生を振り返りながら、旅をし、かつての同僚に出会いに行く話。 本人にとっての執事という仕事に対しての向き合い方はどういったものなのか。それを振り返り、その仕事に真摯に向き合ってきたがゆえに、その他のこと、具体的には、プライベート、恋愛、そうしたものを犠牲にしてきたを少しずつ自覚し、世間的な状況をも自覚する。 ビターなエンド。自分はこういう終わり方は好きだ。 日本語の文章でも非常に美しかったが、これは原文の英語だとさぞ美しい英語なんだろうなと思う。正直、日本語で執事調の喋り方をされると、どうしてもフィクション味がしてしまうのが「偽りの品格」しか見ていなかった影響だなぁ…
0投稿日: 2025.08.21
powered by ブクログ読み進めていくうちに、目が次を、次をと追うようになっていった。 1920年頃のイギリスの様子を感じながら、執事という主人に忠誠に仕える仕事を貫いた一人の男が、旅の節々に過去の記憶や思い出を振り返る。ストーリーはそんな現在と過去を行ったり来たりして進んでいく。執事としての力を存分に発揮できていた日々と、些細な過ちをおかすようになってしまった現在。懐かしみ、悔しみ、疑問を抱きながらも、旅の最後に出会った一人の老人の言葉に救われる。過去の努力と実力、そして現在との間に生じるギャップ。辛くともそれでも前を向かなければ、楽しんで生きなければという老人の言葉が胸に響く。 その通りである。一日一日が様々なことに追われてあっという間に過ぎていく。家事に仕事に育児に。気がつくと夜になりため息が出る。目の前に広がる片付けられていない皿や部屋を見ながら、今日は何をしただろう、何ができたのだろうと悲観的になる。まだ子どもを寝かしつけていない。寝かしつければ一緒に寝てしまい、夜中に起きても家事の続きをする気力は起きない。そんな毎日に嫌気がさす。そんな私の日常が頭に浮かんでくる。でもそんな毎日ではいけない。人生は楽しくなくては!老人の一言に、私の影がさしていた気持ちが晴れていく気がした。夕日ーうちからは感動的な画は見られないが、一日の中でも心が落ち着く瞬間はあるはずだ。ミスタースティーブンスがジョークを磨くと決めたように、私にもできることはまだある。明日への目標をもつことができる。一冊を読み終えた時には、不思議と明るくなれた気がする。 一冊を読み終えた時、なぜか主人の顔が浮かんだ。仕事に生きる彼にこそ読んで欲しいと。
1投稿日: 2025.08.19
powered by ブクログ知らない世界なのにどんどん入り込んでしまった。品格、dignity。人によってこれほど定義が違う言葉はあるだろうか。日の名残りにさしかかっている我が身、夕方が一日でいちばんいい時間なんだ。楽しまなくっちゃ。
0投稿日: 2025.08.17
powered by ブクログ1956年のイギリス、さらにそこから昔を振り返る、名家に仕えた執事スティーブンスの物語。 舞台が古く、歴史的、政治的な背景もあるために、理解が難しい部分がある。 スティーブンスの執事の仕事への、誠実な姿だけを追いかけていると、頑なな大真面目さに驚かされる。「品格」を携えられる執事になれていたか、常に内省している。 読者はスティーブンスの内情がわかるから、どうしてそんなに自我を犠牲にして…と思ってしまう。だが、自分語りの中の細かい描写を見ていくと、決して自分の心まで殺していたのでは無い、と感じ救われる。 口が固すぎるスティーブンスの口から、優しいジョークが出て来る日が来ますようにと願う。
0投稿日: 2025.08.11
powered by ブクログある御屋敷に長く務めている執事が、ふとしたきっかけで数日の外出を許され、その数日の間に自身の過去を回顧していく物語。 まるでブログを読んでいるかのような感じだった。 主人公は、その回顧の中で、執事に求められる「品格」や、職業観についてエピソードとともに誇りを持った感じで述べられているんだけど、その一方で、ジョークを言うのが下手だったり、自分に恋心を寄せる女中頭を無碍に扱ってしまったりしていて、結末として自分の生き様に後悔して涙を流す場面があるんだけど、きっと「主人に忠臣を誓う執事」としてあり続けることが自分にとってラクな生き方だったし、間違っていない生き方だという自負があったんだと思う。 そういう、一見とてもスマートな紳士の回顧を読んでいる印象だったのだが、読んでいくうちに、実は不器用な生き方しかできなかった一人の男の話なんだなという印象に変わっていった。
0投稿日: 2025.08.09
powered by ブクログ三宅香帆さんのYouTubeで、一番好きな作家がカズオ・イシグロと知り、読む順番のおすすめとしてはこの「日の名残り」が一番目ではないんだけど、とりあえず家に積んであったのでこれから読んでみることに。 だって「あの文芸評論家」の三宅さんが一番好きな作家なんて言われたら、読むしかなくない?!笑 YouTubeで三宅さんが言われていた「信頼できない語り手」って何のこと?と思っていたんだけど、これを読んで体感した。 語り手であるイギリスの執事、スティーブンスのバイアスがかかりまくりで話が進み、「偏ってるな〜」とは思いながらも、読者はしっかり中立的に、客観視しながらストーリーを追えるから不思議。 それは「信頼できない語り手」ということを前もって知っていたからなのか?は分からないけど。 そして私は初めからスティーブンスの「品格」に固執する職業的プライドのせいで、「悪い人じゃないけど不器用」な人柄にシンパシーを感じていた。 そしてスティーブンスの言う、全世代は職業をはしごとして捉えていて、自分の世代は歯車として捉えているというところに強い印象を持った。ここを注目して読んでほしい! 最後に私の中で刺さったところのメモ。 「〜“プロ“と言う言葉で何を意味しておられるのか、だいたい見当はついております。それは、虚偽や権謀術数で自分の言い分を押し通す人のことてはありませんか?世界に善や正義が行き渡るのを見たいという高尚な望みより、自分の貪欲や権利から物事の優先順位を決める一人のことではありませんか?」 「私は部屋には死臭があるものと予期していましたが、ミセス・モーティマーのーあるいは、エプロンのーおかげて、部屋には焼肉の香ばしさが立ち込めていました。」 (↑死と焼肉を同じ文に入れ込められるって天才か?!!とびっくり) 「品格」とは 「結局のところ、公衆の面前で衣服を脱ぎ捨てないことに帰着するのではないかと存じます」 「私どものような人間は、何か真に価値のあるもののために微力を尽くそうと願い、それを試みるだけで十分であるような気がいたします。そのような試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、その覚悟を実施したとすれば、結果はどうであれ、そのこと自体がみずからに誇りと満足を覚えてよい十分な理由となりましょう。」 いやー名作だった。
2投稿日: 2025.08.08
powered by ブクログ初めてイシグロ・カズオを読んだ。品格を言いながら、駄目になっていっている個人と国家を上手く書いている。自分のしてきたことが、意味があったと思いたい。でももっとこうしていたら、という屈折した思いが一人称で語られて、一気に読んでしまった。
0投稿日: 2025.08.03
powered by ブクログまさに在りし日の名残り。 イギリスの名家に仕えていた男執事が、かつての思い出を偲びながら、かつての女同僚に色々な理由をつけて会いに行くお話。
0投稿日: 2025.07.24
powered by ブクログ再読 読後、独特な余韻を残す物語 タイトルと結末が秀逸 前回読んだときもだけど、ダウントン・アビーが観たくなる(ダウントニアンなので)
0投稿日: 2025.07.18
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
親愛なるミス・ケントンへ はるかに広がる未来は、今日も明るくていらっしゃるかしら? ミスター・スティーヴンスのことですけど、あの方はずっと執事の品格にこだわっていらっしゃいますのね。 あなたの人道的な考えやや職業的倫理観のひたむきさに間近にいながら気づきもしない、主人と自身を同一化している男なんてろくでもないものですわ。 もちろんご自身で気付いていらっしゃると思いますけども、あなたのご結婚の判断は正解でしたわね、ミス・ケントン。失礼、もうミセスとは存じているのですけども、スティーヴンスに習ってミス・ケントンと呼ばせていただきますわね。 スティーヴンスの働きざまや彼の述べる品格は現代社会における社畜の奴隷根性に近く感じましたわ。どこも大変な労働は同じですのね。自分の仕事は代わりのない大いなる仕事だと思わないと精神が持たないのでしょう。 彼を外に出したファラディ様は、意図してのことではなかったかもしれませんけど、とても親切な方でしたわね。 ミス・ケントン、あなたとリトルコンプトンで歓談されたあと、あの方はずいぶんご自身のことを顧みることに成功したようでしたわ。きっと、あなた方は本当にもうお会いすることはないのね。 どうぞ、彼のわずかな未来がいつまでも夕日のように遠く光の差し込むものであるよう祈りましょうね。 追伸、彼の旅路をGoogleマップで追って私もイギリス旅行をしましたの。本当に綺麗な土地ですのね!
1投稿日: 2025.07.16
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
図書館をぶらついていて目に入り、イシグロ・カズオといえば、もうすぐ映画公開があるな、と思い、同じく有名なこちらの著書を借りてみた。 終始、イギリスの執事スティーブンスの一人称で語られるため、はじめ、少しとっつきにくいと感じたけれど、不思議な構成で少しずつ明らかになる過去にどんどん引き込まれていった。 間違いなく傑作だと思った。 物語は、スティーブンスの新しい雇主であるアメリカ人のファラディが、スティーブンスに自分の留守中にイギリスを見て回るといい、という提案するところから始まる。 冒頭は老いたスティーブンスがかつての栄光のときほど、立派にダーリントンホールを切り盛りできなくなった状態から始まる。ファラディの申し出をはじめは断るスティーブンスだったが、今の状況を改善すべく、かつて共にダーリントン卿に仕えた女中頭のミス・ケントンを再度リクルートしようと思い、旅に出るスティーブンス。 旅のあいだ、スティーブンスはイギリスの美しい景色を見、そして、何度も過去を振り返る。この現代と過去への時系列の行き来に混乱するかと思いきや、どんどんと明らかになるダーリントン卿の過ち(最後にはスティーブンスもそう認めている)と、ミス・ケントンとの関係性にページをめくる手が止まらなくなる。 日の名残りの時間(人生の終盤)に、スティーブンスは人生を振り返り、大切にしてきたことが揺らぎ、またそのために失ったかもしれないものに気づき涙する。けれど、取り返しのつかないことを嘆くよりも、新しいアメリカ人の雇主のためにアメリカンジョークを習得しようと決意する最後の場面がとても、ちょうど良い。 翻訳は自然で見事だと思ったけれど、イギリス英語の空気も含めて原文で読めたらなぁと思った。(英語は不得手)
11投稿日: 2025.07.16
powered by ブクログ自分はまだ若すぎて、この本の良さを理解するには時間がかかりそう ある程度生きていくと、ああしてれば/こうしてれば良かったみたいなことが多くの人に存在するから、執事に共感する人が多いのかな?と思った。自分が歳を重ねてまたこの本を読んだ時、後悔の気持ちが少しでも少なければいいなと思う。そのためにも、いつも自分の気持ちに素直でいたい 1日の中で夕暮れ時が一番綺麗だ、と言ってるシーンがとても感動した 人間も同じで、年老いてからの人生が美しいのかなと思った 20代が全盛期と言う人もいるけれど、歳を重ねるにつれて知識や経験が豊富になって、より内面が美しくなると思うので、共感した
1投稿日: 2025.07.07
powered by ブクログ読了後、昔何処かで聞いた(器には容量は入れる順番で感覚的に変化する)との関連がまず思い浮かびました。体積の大きい石を先に入れればあとから砂や水が入る余地があるが、先に砂や水を目一杯いれるとその後器には大きい石を入れるスペースが無くなる。 今を生きること、プライドはもちろん大事だが、時には人生にとって本当に大切なものは何か?を考え行動するしないと後悔が大きくなってしまう。 さっぱりとした文体の奥に潜む皮肉と悲しいストーリー、読んでいて引き込まれました。
1投稿日: 2025.06.30
powered by ブクログ「品格」ってなんなのだろう?単に「品」と言う場合とも少し違う気もするし、「格」と言う場合とも違う。 今までの人生で、この人は「品」がいいなと感じる人や、ある道を究めていて「格」が違うなと感じる人には出会ってきたが、「品格」がある、と言う考え方・感じ方をしたことはなかった。 こういう作品は、年を重ねてから読むと味わい深い。おそらくこれをもっと若いころに読んだなら、もう少し退屈に感じたかもしれない。 まだ主人公のように自分の仕事人生を振り返って郷愁を感じるところまでにはいかないが、それでも若かった時に感じていたこと、その時に出会った大人たちのこと、同世代のこと。この年になるとそれなりに懐かしくも思うもので、この作品の良さを味わえる年齢にさしかかっているんだなあと。 元々、タイトルの響きがとても好きだったけど、読み終わって改めて「日の名残り」って良いタイトルだなあと思う。
2投稿日: 2025.06.30
powered by ブクログ20年以上前に、短期間ではあるがイギリスに留学する機会を得た。留学先はロンドンではなく、シェフィールドという街であった。ある休日、学校の先生にすすめられた、シェフィールド郊外の「チャッツワース」という場所をバスを使って訪ねた。Wikiによると、チャッツワースは、「イングランド・ダービーシャー・デイルにあるデヴォンシャー公爵キャヴェンディッシュ家のカントリー・ハウスである。16世紀に建設」とある。すなわち、貴族の館であった場所だ。広大な敷地に、豪華な屋敷、華麗なイングリッシュガーデン。チャッツワースは、シェフィールドからバスに1時間程度乗り、そこから更に何キロか歩いて行ったように記憶している。シェフィールドに到着してから間もない頃に行ったのであるが、バスの途中から見える、また、バスを降りてから屋敷までの間の、イギリスの田舎の田園風景は、息をのむほどきれいで感動したことを今でも覚えている。本書の主人公は、第二次大戦前に貴族の屋敷で務めていた執事である。また、戦後のアメリカ人の主人のはからいで、イギリスの田舎を何泊かするドライブ旅行にでかける。それらは、まさに、私がイギリスで見た、貴族の屋敷であり、イギリスの息をのむ田園光景だったのだろうな、と、当時のことをあらためて思い出した。 物語にも感動した。 物語の中身は、文庫本の解説で丸谷才一が、書いていることに付け加えることはない。主人公の執事が仕えた主人は、立派な人ではあったのであろうが、特に戦後、社会的に厳しい評価を受けてしまう。また、舘で一緒に働いていた女中頭の好意に主人公は全く気がつかないまま、チャンスを逃してしまう。 そのあたりのことを、丸谷才一は、下記の通り記している。 【引用】 スティーブンス(主人公)はダーリントン卿に心服していた。尊敬すべき大物だと信じ切っていた。つまりダーリントン卿は従僕にすら軽蔑されない偉大な存在だった。そういう、敬愛というよりはむしろ畏怖の対象である貴族への評価が次第に崩れてゆく、そのいわば公的な悲劇とないまぜにして、この従僕はまた私的な悲劇を持つ。女との関係を回顧して、自分が勿体ぶってばかりいて人間らしく生きることを知らない詰まらない男だったという自己省察に到達するのだ。この公使両方の認識の深まり方につきあうのが「日の名残り」を読むということなのである。 【引用終わり】 主人公は、旅の4日目に、その女中頭に会う。彼女は、結婚していて、もうすぐ孫ができる。その彼女から、「もしかしたら実現していたかもしれない別の人生を、よりよい人生を-たとえば、ミスター・スティーブンス、あなたといっしょの人生を-考えたりするのですわ。」と言われる。 旅の終わりの夕方に海辺の街にやってきた主人公は、桟橋に電球がきれいに灯るのを見る。そして、たまたまベンチで隣り合った男と会話を行う。そして、自分の人生が残念なものであったことに気がつき、泣きそうになり、男からハンカチを渡される。男は「夕方が一日でいちばんいい時間なんだ」とスティーブンスを慰める。それは、年老いたスティーブンスの「私には、ふりしぼろうにも、もう何も残っておりません」という嘆きに対しての慰めであった。「日の名残り(原文では、 The Remains of the Day ) 」というのは、そういう意味のタイトルなのである。 丸谷才一は、「わたしは、男がこんなに哀れ深く泣くイギリス小説を、ほかに読んだことがない」と解説を結んでいる。それはそうだな、と思う反面、私などは、それでも、スティーブンスの人生は、スティーブンスなりにかけがえのないものであったというか、もう少し、優しく見てあげても良いのではないかな、とも思った。 久しぶりに面白い感動的な小説を読んだ。
18投稿日: 2025.06.30
powered by ブクログとても良かった。わたしカズオ・イシグロとても好きだな。主人公が自分のことよく掴めてないのとかを説明せずに見せてくれる描写、すごいなぁ。周りの人が心配したり声かけてくれるんだけど、自分は何もない様に平常でいると思い込ませて思い込んでやってるのがわかる。 最後の「夕日が1日で1番いい時間なんだ」のとこでめっちゃ泣いた。最近すごいだろ?みんな泣くだろ?と押し付けがましい日本の映画見てしまって辟易してたので、この辺の描写で「これだよ〜!!こういうのがいい、沁みる!」となった。 執事のさ、これが執事道みたいな仕事のスタンスも結構日本人あるあるぽくて、すごく理解できた。日本とイギリスの重なった世界感があるんだろうな、、 カズオ・イシグロの霧のかかったような世界感、イギリスの街の感じと思ってたけど、自分の思ってる自分と、実際他からみた自分との輪郭の揺らぎとかもあるなと思った。心のすれ違いも そういうのを全部やった上で、淡々とした描写なのに飽きさせず、引き込んでいく力もすごい。
1投稿日: 2025.06.25
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
大きな屋敷で執事として働く主人公。 雇い主のはからいにより、長めの休日を貰うことになる。 主人公は人手の少ない屋敷で忙しく働いていたため、小さなミスとも言えない体験に危機感を覚え、以前働いていた女中の一人を訪ねる。彼女から届いた手紙は、郷愁に包まれた内容や人生を悲観したようなもので、もう一度この屋敷で働く気はないか、と提案するつもりで彼女の元に向かっていた。旅の道中、目を見張るような風景や、不慣れ故のトラブルが起こりながら、女中との日々を思い出す。 私がカズオ・イシグロを読んだのはこれで二作目。1作目の遠い山並みの光が あまり理解できないままに 読み終えてしまった私はカズオ・イシグロを敬遠していた。 しかし今作は分かりやすい面白さで単純に読み進める喜びが大きく、最後にはため息がでるような読了感に包まれた。 まず、最初の三十ページ。 主人が執事に旅を提案するまでの下りが一人称で語られるのだが、その執事の思考がや仕事の向き合い方で仕事馬鹿のカチカチ思考が描かれる。その極端なキャラクターぶりにすぐに彼が好きになった。 そこから、老いにより執事業に完璧さを欠く父、歴史を動かす会議に邁進する主、そして理想を違う女中との日々が、旅路の合間に描かれる。 女中に会いに行くために旅を初め、その合間に女中との日々を思い出す、という構造が良い。 これから起こる事の重大さを描きながらそこに向かう、という作りはその道中を飾り立てながらも、常に最後に描かれるであろう再会を意識させる。 以下は気に入った部分の引用、なのだが、 中盤がごっそり抜けている。集中してメモが出来なったのだろう。 P52 父にはお気に入りの話が一つ ございました。(中略)父は実話だと言っておりました 雇い主に従って インドへ行きその地の召使だけを使いながら戦国時代と変わらぬ 水準を維持し続けたという 執事の話です。ある日の午後 晩餐の準備に手落ちがないことを確かめに食堂に行ったところなんと食卓の下にトラが一頭 寝そべっていたそうです それを見つけた 執事はそっと食堂から出て 注意深く ドアを閉め 平然とした足取りで主人が数人の客をもてなしている居間に向かいました。そして軽い咳払い で 主人の注意を引きこう耳打ちしたと言うのです。 「お騒がせして誠に申し訳ございませんが ご主人様食堂に虎が1頭 迷い込んだようでございます。12番径使用をご許可願いましょうか」 父の話によれば 数分後 主人と客の耳に3発の銃声が聞こえてきました。やがてお茶を継ぎ足し に現れた執事の前に主人は「不都合はないか」と尋ねたそうです。 「はいご主人様何の支障もございません」と執事は答えました。「夕食はいつもの 同じ時刻でございます その時までは 最近の出来事の痕跡もあらかた 消えていると存じますので どうぞご心配なきように願います。」 執事の最後の言葉「その時までには 最近の出来事の痕跡もあらかた 消えていると存じますので......」に来ると父は簡単の面持ちでかぶりを振り 嬉しそうに笑いました。 P56 父もまた同様の エピソードをいくつも持った人でした。 例えば ダーリントン卿の時代によくお見えになった チャールズ・アンド・レビング社のデイヴィッド チャールズ様から伺った 話もその一つです。(中略)「今思い出しても恥ずかしく悔やまれることだが......」とチャールズ様は言われました。ある日の午後 同じく お屋敷に招かれていた2人の客に誘われるままつい 酔っ払うほど お飲みになられたそうです。その2人の客はある方面ではまだ名前を知られている方々ですので ここでは仮に スミス 様とジョーンズ様とお呼びすることにいたしましょう。1時間ほど お飲みになった後自動車がまだ 珍しかった時代のことであり このお二人は近くの村々をドライブして回ろうと言い出されました。そして チャールズ 様を強引に誘い その日 たまたま運転手が休暇を取っておりましたため 父に運転を命じられたそうです。 さて出発 いたします と 中年の分別盛りであるはずの スミス様とジョーンズ様がお二人して卑猥な歌を歌ったり 窓から見える 風物に野卑を述べたり まるで高校生のような振る舞いを始められました。さらには近くに モーフィ、ソルダッシュ、ブリ グーンという3つの村があることを地図で知り 急にそこへ行きたいとも言い出されました。今申し上げたのが正確な 村名 なのかどうか存じません。が要するに それらしい3つの名前から最近見たばかりの____ご存知の方もおられるでしょう___『マーフィーとソルトマンと猫のブリジット』という 芝居を連想されたらしく この奇妙な 符号を祝い さらには 俳優たちに経緯を表すためにぜひ その村を回ってみたいという気になられたようです。 チャールズ様が言われるにはまず1つ目の村に立ち寄った後もうすぐ2つ目の村に入ろう という時でした。お二人のうちどちらかがその村がブリ グーンであることに気づかれたのです。つまり 芝居の題名に従えば 2番目ではなく 3番目の村だというわけです。お二人は怒り出し すぐ車を戻して「正しい順序で」回れと命じられました。そのためには 今来た道を かなり 引き返さねばならなかったようですが 父は至極当然のこととしてその要求を受け入れ申し分のない丁寧な態度で終始したようです。 しかし スミス様とジョーンズ様は今や父に格好の標的を見出されました外の風景に飽きたこともあって父の過ちに 露骨な 嫌味を浴びせかけそれで憂さ晴らしをされたようです。が父は深い怒りをかけらも見せず 事故の尊厳とお客様の服従を完全に両立させながら 運転を続けたと言います チャールズ様はつくづく感心したと言っておられました。しかし 父の冷静沈着は長続きを許されませんでした。父の背中 に侮辱を投げつけることにも飽きた お二人は今度はお屋敷の主人であり 父の雇い主であるジョン・シルバーズ様にも矛先を向けられたのです。話の内容は次第に低劣な 中傷に堕していきました。 チャールズ様も____少なくとも ご自分でおっしゃるには____さすがに みかねて そんな言い方は礼儀にもとると注意なさったそうですがその注意は 猛烈な反発を食い チャールズ様はご自分が次の標的にされるのではないかと恐れるとともに実際に殴りかかられそうな危険まで感じたと言われます。さて シルバーズ様についての最悪のあてこすりがなされた時 突然 車が止まりました。そして次に起こったことが チャールズ様に忘れがたい印象を残したのです。車の頭部 ドアが開きました。父は車から数歩下がってたし ずっと内部を見つめていたそうです。父の圧倒的な存在感 に3人の乗客は一様にケアをされたとチャールズ様は言っておられました。それはそうでしたろう 肉体的には6フィート3インチの大男でしたしいつもは楽しさしか感じさせない顔つきにも 状況によっては非常に厳しいものを浮かべることのある人でしたから。チャールズ様が言われるには 父は特に怒りをあらわにしていたというのではありません。要するに ただ ドアを開けただけだったのです。が、車に覆いかぶさるように立ち尽くす 土の姿には相手を告発してやまない 何かがあり 同時に近寄りがたい雰囲気が立ち籠めていてチャールズ様の酔っ払った同乗者は2人ながら思わず身をすくめてしまわれました。まるでりんご 泥棒の現場を抑えられた子供のようだったと言います。父は開けたドアを手で押さえたため 何も言わず そこに立ち続けました やがて お二人のどちらかが「先へ行くのかな 行かないのかな」ポツリとつぶやかれたそうですが 父は何も答えず黙って立ち続けました。降りてくれとも言いません しかと言って他に何をして欲しいと思っているのか 態度からは何も読み取れません。その向こうには 穏やかなハート フォードジャーの風景があったでしょう。しかし 黒く 厳しく 立ち続ける父の姿に遮られせっかくの風景も台無しだったに違いありません。奇妙に怖いひとときだった。とチャールズ様は___ご自身は忘却無人な振る舞いに加担しておられなかったにもかかわらず___言っておられました。沈黙が永遠に続くかと思われた時ようやくスミス様か ジョーンズ様 かが勇気を奮い起こし「さっきはちょっと分別を失ったようだな。もうしないよ」と反省の言葉をつぶやかれました。父はこの言葉をしばらく 噛みしめている風でしたが やがて ドアをそっと閉め 運転席に戻って車をスタートさせました。村めぐりは その後 ほとんど完全な 沈黙の中で行われたそうです。 P65 P255 あの時もしああでなかったら結果はどうなっていただろう......。そんなことはいくら考えてもキリがありますまい。しまいには気がおかしくなってしまうのが関の山です。「転機」とは確かにあるものかもしれません。しかし 振り返ってみて初めてそれとわかるもののようでもあります。あの瞬間もこの瞬間も確かに人生を決定づける重大な一瞬だったように見えます。しかし 当時はそんなこととはつゆ思わなかったのです。ミス・ケントンとの関係に多少の混乱が生じても私はその混乱を整理していける無限の時間があるような気がしておりました。何日でも 何ヶ月でも何年でも.......。あの誤解のこの誤解もありました。しかし私にはそれを訂正していける無限の機械があるような気がしておりました。一見つまらないあれこれの出来事のために夢全体が永遠に取り返しのつかないものになってしまうなどと当時 私は何によって知ることができたのでしょうか。 P349 「おやおや あんた ハンカチがいるからね?どこかに1枚持っていたはずだ。ほら あった。結構綺麗だよ。朝のうちに一度鼻をかんだ だけだからね。それだけだ。ほら あんたもここにやんなさい」 P350 「なあ あんたわしは あんたの言うことが全部理解できているかどうかわからん。だがわしに言わせれば あんたの態度は間違っとるよ。いいか いつも後ろ振り向いていちゃいかんのだ。後ろばかり向いているから気が滅入るんだよ。何だって?昔ほどうまく仕事ができない?みんな同じさ いつかは休む時が来るんだよ。わしを見てごらん。隠退してから楽しくて仕方がない。そりゃあんたもわしも必ずも もう若いとは言えんが それでも前を向き続けなくちゃいかん。」そしてその時だったと存じます。男がこう言ったのは____「人生楽しまなくちゃ。夕日が1日で一番いい時間なんだ。足を伸ばしてのんびりするのさ。夕方が一番いい。わしはそう思う。みんな にも 尋ねてごらんよ。夕日が1日で一番いい時間だって言うよ」
0投稿日: 2025.05.17
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
展開が「春にして君を離れ」だった、そういう話だと思ってなかったので叙述トリック読んでる気分に。主題は正反対に位置するように受け止めたが。
0投稿日: 2025.05.10
powered by ブクログ名作やん。 執事のこれまでの職務にどれほど忠実であろうとしたかを独白で語るので、すごくマンネリになりそうな筋立てなのに、読ませる。引き込まれるようにスティーブンスが品格についてどう思い、どうあろうとしたかを感じていたら、時代背景としてナチスの影が見え始めて歴史の厚みが出てくる。ここらへんの出し方というかプロットが巧みで、気付かないうちに飲み込まれてしまう。 また、スティーブンスのジョークがひどすぎて、周りがやや困惑してるところもまた小技が効いてる。 ミス・ケントンとのやりとりも、最初犬猿の仲だったのにいつのまにかココア会議してたり、本の取り合いのようなドキッとするじゃれあいもあったにも関わらず、スティーブンスの見栄や意地で発展していかないという焦ったさもすごい。スティーブンスの徹底した職務忠実ぶりが伝わる。 全体的にとても品があると感じるのは、スティーブンスが新旧のご主人や女中頭、客人に対して一定の敬意を払っているから。ラストの涙とジョークの上達への意気込みがまた味わい深い。
23投稿日: 2025.04.25
powered by ブクログ描写が本当に美しい。細かに説明するのではなく、登場人物の会話や一文の描写の中に物語の真髄がふと出てくる。だからこそカズオイシグロの作品はどれも丁寧に読みたくなるのだが、本作品は特にその精巧さが伺える。偉大な執事である主人公の父の年老いた姿を、ミス・ケントンが「まるで落とした宝石でも探しているかのように、、、」と表現した場面が悲しくも美しく、とても心に残った。そしてこれは土屋政雄さんの名訳があってこそで、個人的には過去読んだ和訳本の中で最も素晴らしい翻訳でした。
1投稿日: 2025.04.21
powered by ブクログ前に映画を見てて、随分と好きな映画だったのですが、小説もとても好きな感じだった。スティーブンスの、頑ななまでの職業意識、イギリスの伝統の誇り高さとその翳り、失ったものに気づく時の、取り返しのつかなさと諦念、でも、生きていくしかないという気持ちが切々と感じられて。読んでるとどうしてもアンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンで脳内再生してしまうが全く違和感がない。 それにしても、彼の朴念仁具合がもう、あまりにも徹底していて、滑稽なくらい。でも切ないな。 最初は、あまりにも慇懃無礼なスティーブンスの語り口と物語の進まなさに退屈さを覚えたりもするのだけど、ダーリントン卿がドイツに傾きつつある日々のあたりから一気に面白くなってきて、読む手が止まらなくなった。スティーブンスの、思わずとってしまう自己保身も、人間らしい部分が垣間見えるというか。 一通り読んで、もう一回最初から読むと、また、面白い。こんな複雑な思いを抱えながら、新しいご主人様につかえているのか、と少し印象が変わった感じがする。 スティーブンスが、自分はその役割にない、として自分で判断することをやめてしまったことがたくさんあるのだけれど、実はていよく逃げてしまったこともあって、そのために失ってしまったものをもう取り返せないことに気づくラストは、とても悲しいが、救いでもある、と思う。 少なくとも、蓋をしてしまっていた、自分の悲しさには気づけたのだから。
2投稿日: 2025.04.21
powered by ブクログ2025/04/15 イギリスで執事をしていた男の話。あとがき読むまでケントンが恋心あったの全然分からんかった。スエズ危機に触れなかったのはなんで?
0投稿日: 2025.04.15
powered by ブクログ自分の仕事に誇りを持ち、全力を投じて、少しでも世界をよくしたいと願う、スティーブンスの生き方に感動した。 人生を仕事に捧げるというのは、周りから見ればなんだかかっこよく見える。 しかしそうして走り切った後に、何が残るんだろう。 満足感を得るためには、どんな走り方をしたらいいんだろう。 スティーブンスは、最後に自分の人生を振り返って、夕方の桟橋で涙を流した。 それでもその後、また別の楽しみに向けて、前向きに考え始める。 人生を一日に表すなら、35歳の私は今、昼間なんだろう。 自分の人生も、いい「夕方」を迎えられるだろうか。 そうなるように、一所懸命に生きていきたい。
3投稿日: 2025.04.13
powered by ブクログカズオ・イシグロのブッカー賞受賞作。自らの来し方を語るノスタルジックな雰囲気は『遠い山なみの光』『浮世の画家』と共通しているが、過去や現在において周囲の人との視点のズレや対話のすれ違いに焦点があう場面の多かった前二作品に対して今作の主人公は対話的ではなく、語り口調ではあるもののその語る対象は誰かではなく自分自身が想定されているような内省的な雰囲気が強い。現在において旅の途上にあるという場面設定も影響しているのだと思うが、その内省がまた悲しくもズレた感じや自己欺瞞を感じてしまい、でも聞き手である読者としてもどうにも身に覚えのある思考や言動が多く自己嫌悪的な感情と向き合いながらスティーブンスと読者の旅が続いていく。その旅の終着点で見る景色と感情に前二作品とは大きく異なる美しいカタルシスがあって、大きな満足感を得られる。酸いも甘いも承知しきった大人向け。
2投稿日: 2025.04.01
powered by ブクログ執事ってそんなに大変な仕事なのか、と思いました。こんな「品位」なら私はいらないと思いました。凄いのは自分(の意思)を殺すことが良いことだとされていることです。それも含めて面白かったです。
0投稿日: 2025.02.14
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ダーリントン家に従事した品格を追求する主人公、スティーブンスが新しい主人であるアメリカ人、ファラディから休暇をもらい高級車、フォードで旅する物語。20年ぶりに再開するミス・ケントンからもらった手紙を何度も咀嚼しながら執事としての責務を追求する半生を振り返る旅路。それだけだが、この堅物とも言える主人公の人柄やエピソードに興味が湧くと共に、ミス・ケントンとの再会に期待しながら楽しく読み進めた。再会の結果はいささか残念な結果ではあったが主人公の、最後まで自分の主張を抑えた態度に切なさを感じる。最後、過去の後悔から、前を向く気持ちへ切り替えようとする主人公の、これからの生き方に期待する。 全体的に抑えた静かな雰囲気が素敵です。
1投稿日: 2025.01.29
powered by ブクログイギリスに行くことになった時に、同じ大学だよと友人に渡された本を久々に読み返した。淡々と語られるので、夢中になったり感情が揺さぶられたりすることはないが、中々に切ない優秀な品格のある執事の人生だったと思う。品格のある執事であることの素晴らしさは理解できるが、なりたいとは全く思えない。
0投稿日: 2025.01.29
powered by ブクログ日本語がとてもきれい。上級社会の隅でプライドを持って仕事に生きて来た執事。人生の終わりに差し掛かって振り返る過去と旅の景色とを交互に織り込んだ織物みたい。派手さはないけれど、人生ってそれでいいんだなあとじんわり来る、上品な作品だった。さらに年齢を重ねてまた読み直したい。
0投稿日: 2025.01.26
powered by ブクログ執事の道を追求することに全てをかけすぎて、それ以外の何もかもが見えていなかった男の話。男は主人のために「冗談」を習得しようと頑張ることも、読み終わった今となっては、男の人間味の無さとして表れているようでもあると感じた。
0投稿日: 2025.01.17
powered by ブクログ主人公の語る今、昔、更に昔。過去と今を行き来しながらも読者が混乱することは無いであろう。 翻訳の素晴らしさもあってか私は読み迷うことはなかった。構成もよくどなたにもお勧め。 初めて手にした著者の作品、次はどれにしようかな。
0投稿日: 2025.01.02
powered by ブクログ最後の余韻、素晴らしかった。 自分の人生を決定づける瞬間、その一瞬一瞬に、別の選択をしたら、人生の方向が変っていたかもしれない。 たとえ今がとりたて不幸ということでなくとも、どんな充実した日々を重ねたとしても、人生の折り返し地点にたったぐらいから、スティーブンと同じような感覚を持つ人は多いかなと思う。 よりよい人生とは、なんなのか。 模索して歩いたその先に、何が自分を待ち受けているのか。 そんな期待と後悔を持ちながらも、これまでの覚悟と選択の中でもたらされた巡りあいに、自分なりの誇りと充足感を感じる。そんな人生はとても美しいものなんだと思えた。
8投稿日: 2025.01.02
powered by ブクログ伝統的なイギリス上流社会が垣間見ることができる小説。語り手の職業が執事だからこそならではで、世界史の資料と照らし合わせながら読んでみるのも面白いかも。 プロ意識を持って執事という仕事に熱心に取り組んできた主人公。だけどラストになって仕事に全振りしたのに、仕事もプライベートに大きな失敗をしていたことに気づいた瞬間が切ない。後悔って、こういうことを言うんだろうなぁというのを文章でまざまざと見せつけられたよう。 意識を高くもって物事に臨むのは大事だけれど、自分の人生はスティーブンスにならないように、自分の感情というものをおざなりにしてはいけないと感じた。
1投稿日: 2024.12.31
powered by ブクログいつも以上に回想長めの、話前後多めの、後悔多め。カズオ・イシグロだあ、。 ほんとに優等生みたいな本の描き方するこの人。面白い。 読書してる気分になるから、たまには読みたい
5投稿日: 2024.12.04
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
執事の"忠誠的"品格たるものを追い求めてきたスティーブンスが、その品格の鎖に囚われて、人本来の大切なものたちを拾い損ねていたのに気づく。ミスケントンとは相思相愛にしか見えないのだが、これに気づけずに、長年の時がそれを思い知らせてしまうのが心を縛る鎖を証明するようで心が痛む。 彼の誇りは終わりゆくもの。そして、それは古き良き英国の消失としても示唆される。 しかし、彼も、英国もまた、新たな生を歩もうとしている。仄かに示された希望は、鎖が解けて、ようやく前へ進んでいけるような、解放に似た清涼感を漂わせていた。
0投稿日: 2024.11.24
powered by ブクログ物語の良さはこういうところにあると思う。国も性別も時代も考え方も生き方も全く違う人に寄り添って旅をする。100パーセント共感することも想像することも無理に違いない。でも、読み終わったあと、1日のうちで夕方が一番いい、としみじみとそう思う。人生においても終わり方が味わい深い、とこの歳になるとほんとにそう思う。スティーブンスは品格を備えた執事としての矜持を保ったまま、人生の夕暮れを迎えている。
9投稿日: 2024.11.18
powered by ブクログ書評読んで気になっていたので購読 イギリスの栄光と衰退、アメリカへの世界覇権の移行…といった時代背景もスッと入ってくるが、1人の人間の人生を振り返る話として読み応えがある。執事として仕事を常に人生の最優先事項とし、周囲のメンバーへの心遣いを忘れ、最も身近な素敵な女性の存在に気付きながらも職業人としての自分を優先してしまったことへの後悔… 人生のエッセンスが詰まってると思う。
1投稿日: 2024.11.17
powered by ブクログかなり好みの作品だった。英国執事スティーブンスは、仕えているアメリカ人の主人より休暇をもらう。主人の車を借りて、スティーブンスは短い旅に出る。旅の途中、過去に長年仕えたダーリントン卿への思い、父や女中頭との思い出、そして執事の品格に思いをはせる。しかし最終的には、世間から理解を得られなかったダーリントン卿に仕えた事実、女中頭の想いに気づかなかった事実、そして前ほどの仕事ぶりを発揮できない事実をスティーブンスは吐き出す。とはいえ、スティーブンスの語る「品格」は、個人的に胸をうつ。
0投稿日: 2024.11.11
powered by ブクログこれはノーベル賞納得。文体に魅力がものすごいあるわけじゃないから最初数十ページは面白さがイマイチ分からなかったけど、人生の悲哀を書くのが上手すぎるし、執事という視点も素晴らしい。
0投稿日: 2024.11.10
powered by ブクログ伝統的な英国の執事の世界。雇い主に対する忠誠心の強さ、徹底的なプロ意識。人生を捧げたその生き様に脱帽しました。けれど、時代の移り変わり、人生を振り返った時に感じた後悔に涙したのか…哀愁を感じました。
31投稿日: 2024.11.07
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
主人公視点だが常に客観的な見方をするから、主人公の感情は見えない。けれど、周りの人達の反応からするに、主人公は品格を保とうと冷静にしているはずが実は冷静でいられてないのではと思った。仕事、品格を一番にしており、それによって大事なものを失っていることに気づいていないような描写だが、実はそれに気づいていながら無視しているだけなのでは。 仕事以外の大事なことを捨てるのは簡単だが、捨てる判断が正しいと思い込むのは難しいのかもしれない。 それでも、世界を動かす影響を持つご主人に忠誠心を持って品格をそなえて仕える姿はとてもかっこいい。特に戦争の時代だったから。仕事とプライベートで、プライベートを取る人に読んでみてほしいかも。どんな感想を持つか気になる。スティーブンスは仕事をとったから違う視点。 主人公の執事の感情を直接描写せずに、周りの人の発言(ミスケントンが、スティーブンスのことを慌ただしいと言ったり、、)で描写しているところが面白かった。 「何か真に価値があるもののために微力を尽くそうと願い、それを試みるだけで十分であるような気がいたします」結果的にその行動が正しいかは分からなくても、全力を尽くす事自体に意味がある。満足感と誇りを持てる。
0投稿日: 2024.08.30
powered by ブクログ(⌐■-■)下働きの妄想ロードムービーてなもんか、読後感は夕焼け ⊂|⊃ [ಠ_ಠ]執事だろ!
0投稿日: 2024.08.24
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
物語は英国の伝統的な執事の一人語り調で進んでいく。 読み進めるにしたがって、なんか語りに違和感を覚える。嘘を言ってるわけじゃないんだけど、なんというか、昔あったバーティミアスというファンタジーの主人公のように、やたら自分を大きく見せたがっている人の語りのように感じてしまう。 最後まで読んでその謎がわかる。この執事は繰り返し一流の執事の条件を語るんだけど、それは社会の中心を担う偉大な主人をサポートすることだと語る。そしてどんな時にも職務を全うすることが品格だとも。 自分が尊敬してやまないダーリントン卿が、その人の良さによってドイツのナチスと通じていたという疑いをかけられ、不本意な死を遂げる。そのせいで、執事は自分が誰に仕えていたか聞かれても、自信を持って答えられないでいる。執事は心から卿を尊敬していたけど、もしかすると卿はもともと偉大とはかけ離れた人物かもしれない。 また、どんな時でも仕事を全うするという、執事が理想とする品格が邪魔になり、おそらく両思いになっていただろう女性と全くのすれ違いになってしまう。 この、自分が信じていた偉大な主人と品格が脆くも崩れ去ったという後悔と、自分の人生は立派だったと思いたい葛藤がむちゃくちゃリアルに描かれた作品。 ある程度歳を行けば、あの時こうしてたら人生違ったものになっていたのかなと振り返ることは多々あると思うんだけど、その辺の心情がすごく丁寧に描かれていた。
3投稿日: 2024.08.07
powered by ブクログふと昔、読んだことを思い出した。信頼できない語り手技法があるとしり代表的なものをと手に取った。諧謔に満ちた執事の切ない恋路の話だったと記憶している。
1投稿日: 2024.07.21
powered by ブクログ『おっしゃるとおり、私はお屋敷と込みでございます』 信頼できない語り手、とまでは言わないが、情報も内面も秘匿している執事の一人称小説。執事自身の、イギリスの、ある名家の斜陽が平易な表現の上に浮かび上がっていく。 執事という職業小説として読むと、人格=仕事=執事となっており、それ以外の主人公の内面や母の描写は消えてしまう。人生の夕刻以降は、新しい雇い主ではなくて、そちらにフォーカスし…ないのでしょうね。
0投稿日: 2024.07.07
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
品格とは? 古いイギリスのお屋敷で政治が行われていた(日本で言うところの料亭みたいな)という事に今まで気付いていなかった。そのやりとりの一部となることに誇りを持って仕事をしている執事についても。 自身の感情はなきものとして業務を最優先にすること。それが執事としての矜持であり、自分の能力に満足もしていたが。。。 支えていた主人がその仕事を誹謗されたまま亡くなり、屋敷は静まりかえっている。 時が過ぎて自分の能力の衰えを知る。 尊敬する父も女中頭も古き良きイギリスも全て失われてしまった。 旅をしながら過去を振り返り、無意識な差別感情や蓋をしていた恋愛感情を思い出すけれどもう歳をとりすぎている。ミス.ケントンを助け出すはずだったのに昔も今もこの二人は噛み合っていない。というよりミスター.スティーブンスが仕事人間で真面目で堅苦しいガチガチ男すぎるのだよね。 「私は夫を愛せるほどに成長したのだと思います」ミス.ケントンはいつも正直で素敵だな。 「夕方が一日でいちばんいい時間」 この言葉で前向きになるものの、これを小さな屋敷で執事をしていた男に言われるという皮肉。 私の人生も夕方だ。 美しいものを美しいと思える余裕と歓びに浸らなければ。 もっと熱意を持ってジョークの練習しようと思いつくラストも読後感良し。
2投稿日: 2024.06.28
powered by ブクログイギリスの執事として、自身の持つ美学に忠実に職務を遂行してきた。時代の変化によって価値観が変わり、過去の選択を悔やんだり、自分が信じていたものが誤りだったのではないかと悔恨する。 それでも最後には新しい価値観のもと前向きに生きていこうとする。 印象に残った場面 ◯邸宅で民主主義に関する議論が交わされている場面 国際問題のような複雑で重大な問題について、知識も十分でない国民が決定を下そうとする、それが民主主義なんだ。それが正しいことでそれが国民の品格というべきものなのか。国民は静かな日々の暮らしを望んでいる。目の前の生活で精一杯なのに、世の中の問題を全て理解し意見を持たねばならないのか?それがほとんど不可能であるからには、国民ひとりひとりは自身の職務を全うして、それが間接的に世の中全般を良い方向に進めるので充分ではないか。 ◯わたしは夫を愛せるほどに成長したんだと思う。 ミス・ケントンが、若い時にはスティーブンスへの想いを断ち切れず、不幸な結婚生活を過ごしていたと話す。しかし、時間が経ち、子供が生まれ状況が変わるにつれ、夫を愛するようになったという。それを成長という言葉で表現しているのが良いと思った。 長い人生不幸と感じる時期もあるが、自分も状況も刻一刻と変わっていき、幸せに転じることもある。逆も然り。諸行無常、盛者必衰の理。これは希望でもあると思う。
0投稿日: 2024.06.18
powered by ブクログ『わたしを離さないで』と同様にずっと心に残る本だった。 これから更に歳を取って子供達が自立した後に、旅先でゆっくり再読したい。 執事が旅に出て人生を振り返る。 仕事に忠実過ぎる、仕事以外には不器用過ぎる主人公。『コンビニ人間』を思い出す。 特別大きな事件が起きることもないし、ミステリーもSF要素もゼロ。 それなのに不思議と話に惹き込まれる。翻訳も素晴らしくてとても読みやすい。 ページをめくるとイギリスのノスタルジックな世界に没入できる。 歳を取った今だから共感する部分が多かった。何の悩みもない若い時に読んでもこの本の良さはわからなかったと思う。 本を閉じた後にじわじわくる読後感の良さにしばらく浸った。 押し付けがましい感動本は苦手だけど、この本は全くそうではなかった。 この本で読者が感じることは様々だと思う。 主人公の人生の振り返りを通して、私も人生を振り返っていた。 ★10 ↓以下は少しネタバレになります。 ◯刺さった言葉 『夕方が1日でいちばんいい時間』 ちょうど日曜の夕暮れ時に読んでいてジーンときてしまった。 人生も歳を取ってからが1番良いのかもしれない。残りの人生を最大限に楽しもう。 ◯この本で共感したこと ・尊敬していた父の老い ・親の介護と自分の仕事の両立 ・仕事を全力で頑張っていた若い頃 ・若い頃と同じようにできない自分の老い ・華やかな職種が時代と共に変化していく寂しさ ・この先の不安 ・あの時の自分は正しかったのか? ・あの時に違う選択をしていたらどうなっていたか? ・これからの自分の生き方 ちょうど1000人目の感想だった^_^
102投稿日: 2024.06.18
powered by ブクログ人間の品格とは何か、執事としてその矜持を持って生涯を捧げる主人公が、その生真面目なまでの生き方で、得られたもの、得られなかったもの、挫折、そしてそれを最後にどう乗り越えていったのかを通じて考え続けている。本人の発言は朴訥なまでにまっすぐではあるが、隠された心の奥の葛藤や悩みが行間に感じられる描写があざやか
0投稿日: 2024.06.09
powered by ブクログ良い物語だった。スティーブンスの執事としての生き様のようなものが彼の優しさとともに感じられた。こういう道の極め方もあるのだろうと思いながら清涼感のある読後感に浸れた。
1投稿日: 2024.05.05
powered by ブクログ同著の『クララとお日さま』を読み終えてからすぐにこの作品を読み始めました。 老齢な英国執事スティーブンス。 主に描かれているのは彼のもつ確固たる執事道からなる「品格」かと思いきや、、? 一見、堅苦しく気難しく見える振る舞いの裏に潜むぶれない覚悟がカッコいい。 読めば読むほどに好きになってしまいます。 物語が進むごとに立ち込める日の光、それを受けて再び歩み出すスティーブンス。 ラストはとても温かい気持ちになりました。
6投稿日: 2024.05.04
powered by ブクログ真のイギリス紳士に使える執事の物語。執事が過去をあれこれ振り返りながら、語られるが、語り口が紳士的で丁寧で読んでいて心地よい。執事としてのプロフェッショナルを発揮せんとするばかりに、自身の恋愛感情や政治観などを置き去りにし、仕事に専念する。その結果、時間が流れ、執事という仕事自体が古くなり、自身も老いてきた時、夕日のような哀愁に包まれる。過ぎ去ったイギリスにおける古き良き伝統と品格が感じられる一冊
0投稿日: 2024.04.30
powered by ブクログ凄かった。 スティーブンスの不器用さ 執事としての執務への入れ込み様が 読んでいて切ないほどだった。 ミス・ケントン側の方からの物語も読めたらもっと、もどかしてく泣いちゃうような物語だったかもね。 辛くて、切ないのに読了後は「読んで良かった!」としみじみと思えた小説だった。
3投稿日: 2024.04.03
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終始、表紙のイラストのような哀愁漂う雰囲気のお話です。 自分の執事としての人生を誇らしく思う一方で、徐々に明かされていくある一つの後悔。自分の人生が無価値だったのではないかと思い知らされたくない。そんな思いで隠されている真実を、主人公が少しずつ受け入れていきます。この絶妙で複雑に入り組んだ心情描写がカズオ•イシグロさんの好きなところです。 その心情をゆっくりと辿っていくことで物語の世界に没入していく感覚が好きです。 自分が欲しかったもう一つの人生。旅の終わりにそこに辿り着きます。しかし、やっとの思いで辿り着いたそこは既に手遅れの状態でした。 何もかもが完璧に手に入る人生なんてないと思います。選択した先に起こる後悔も自分の人生の一部。 その美しさがこの小説の醍醐味だと思います。
3投稿日: 2024.03.31
powered by ブクログ外国ルーツを持つイギリス人であるカズオ・イシグロがイギリスの伝統を描いた作品。 後に彼が「生きる」の英版脚本を手がけると思うと一層感慨深い作品でもある。 時代の移り変わりで、アメリカ人の主人を迎えた老境の執事。 彼のかつての主人は、戦間期に戦前よりのドイツのlordとの絆からベルサイユ条約を親子の協定ではないと嘆き、ドイツの立て直しのために各国の有力者の結社を作るという立場にあった。 戦中は敵として戦うが、終われば紳士の友情という世界観。だが実際にこういう結社の在り方もあっただろう。 奇しくもこの辺り、キングスマン:ファースト・エージェント見てると実感が湧いてくるというか.. あちらは第一次世界大戦が舞台だし、ロシアの階層ラスプーチンとドイツをぶっ倒せ!という脳筋状態の結社ではあったけど.. 執事らが関与する形で、国同士というか貴族同士の国境を超えた外交(shadow cabinet ならぬshadow Abby)が重要な選曲を握るという状態は面白い。
0投稿日: 2024.03.06
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夕方は一日の終わりで後ろ向きな印象、前を向くなら日の出の朝がいい気がした。スティーブンスはこれから前向きになれるのか。ジョークを学ぼうとしてるから、前向きではあるのかな。
0投稿日: 2024.03.04
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AIのような、私情を挟まない完璧な執事スティーブンスが、かつての女中頭のミス・ケントンに屋敷への復帰を打診するために旅をする話。回想形式の部分が多いが、品格ある真の執事を目指して滑稽なまでに淡々と執事業をこなすスティーブンスと周囲との微妙なズレにクスッとさせられる。 スティーブンスは品格ある執事を目指すあまり、主人ダーリントン卿を盲信して、自分で考えて行動することがなかった。そのうちにダーリントン卿はナチスに取り込まれ、無自覚のうちにナチスのイギリスにおける傀儡として利用されてしまっているのだが、周りからどんなにそれを指摘されても、そうとしか思えない指示をされても、スティーブンスはそれに気づかない。最終的にはダーリントン卿はそれを新聞で糾弾されて、名誉を失い人生を終えていく。また、ミス・ケントンはスティーブンスを愛しているのに、それにも気づかず二人のやりとりは空回りとすれ違いばかりでもどかしい。他の人と結婚して、もう今はその夫と共に生きる覚悟をして孫まで生まれようとしているミス・ケントンが奥ゆかしくその頃の思いをほのめかす場面が美しかった。スティーブンスは、敬愛するダーリントン卿も失い、無自覚ではあったかもしれないが愛していたミス・ケントンも失い、自分は自分の判断で行動していたわけではなく主人を信じていただけの品格を欠いた人間であったことに気づき、夕日に向かって涙する。 夕方が一番美しいんだ、と見知らぬ男から言われる最後の場面は、そんな人生の絶望を優しく勇気づけてくれる言葉に思われた。ミス・ケントンに会う直前の「四日目午後」まではかなり長く、というかこの作品の8割くらいを占めるのに、その後記述が再開されるのが「六日目夜」だから、それだけ打ちひしがれていたんだろうなと思うが、最後に見知らぬ人々がジョークを言いながら親交を深めているのを見て、ジョークの練習をしようと改めて思うスティーブンスで締めくくられているのが前向きでよい。
2投稿日: 2024.02.27
