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酉島伝法 / 集英社文庫 (11件のレビュー)
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まっしべ
終始「なんじゃこら」という疑問と戸惑いと共に読み終えた、幻覚のような小説。はっきり言ってまともではない。 這々の体で本編を読み終えて久坂部羊先生の解説に至り、ここでようやく味方を得た心地になった。久…坂部先生も「いったい何を描いているのかと、必死に考えながらページをめくるが、あまりの飛躍と難解さに、作者はまじめに書いているのかとさえ思えてくる(もちろん真剣にはちがいない)。疑問符だらけになりながら読み進めると、次第に脳が熱くなり、体温が三十八度くらいになったが、本質が見えないのは私の読み方がまちがっているからではないかと、そこはかとない不安に駆られた。」(p265)と振り返っておられ、私もまさにこの通りの思いであった。 続く解説で、医療小説の書き手である久坂部先生が医学目線からの分析を加えておられる。「現在、病院で行われている治療は、すべて信じるに足ると思っている人が多いだろうが、実はそうでないものも少なくない。」「見方を変えればおかしなこと、危ないことは枚挙にいとまがない。」(いずれもp269)という指摘は意外な盲点ではないか。 単純に反科学や反医学主義者に対するハードパンチなのではないかと理解をした気になっていたが、目線を変えれば現在主流とされている医学も、民間療法と呼ばれるような手法も紙一重の所はあり、いわゆる権威的なものとか胡散臭さみたいなものに巻き取られている無知なわれわれ一般的患者は、それらの間で踊らされている儚く剽軽な道化的存在であるというアイロニカルなメタファーなのではないだろうか。 いやー、難し過ぎますって。再読も厳しいなあ。 解説でこんなにほっと一息出来る作品もなかなか珍しいですね。 1刷 2024.2.24続きを読む
投稿日:2024.02.24
ぼじょまる
このレビューはネタバレを含みます
・あらすじ エセ科学、スピリチュアル、陰謀論と科学の信頼度が逆転したお気持ち至上主義社会の日本が舞台。 「三十八度通り」 結婚式場に勤める土屋は毎夜悪夢にうなされ、38度の「微熱」が続く日々。憑かれた体を治そうと自分の免疫力を信じ、様々な方法を試していく。 「千羽開き」 るん(笑)というカルマが絡み合ってできた内なる獣により体調不良になってしまった美奈子。 回復を祈り沢山の知り合いが作って送ってくれた黒い千羽鶴。 言霊の力を信じてひたすら作成者に感謝の言葉を伝え鶴を折りかえす。 「猫の舌と宇宙耳」 小学生の真と友人3人は人類の身代わりになった龍が祀られているという山にいく。そこにはたくさんの骨と初めてみる文字が書かれた様々な機械があった。 ・感想 SNS で陰謀論者とか見るの大好きな私なので割とどのネタにも見覚えがあった。 最初は科学とスピが逆転した世界のくせに電気使ってるし異端扱いとはいえ病院・薬はある。 荒廃しつつあるとはいえそこそこインフラも整ってる。 でも龍?がいたりするしどういう世界観なんだろうと思ったんだけど3作目を読んで把握した。 放射能に汚染され隔離された地域のディストピアものだったんだなぁ… 現状の科学では手の施しようがない地域に人々が取り残され、壊れそうな心を守るために生み出した様々なエセ科学。 「科学が勝てなかった」地獄の話だった。 (おそらく収容施設外の人たちは必死で解決方法探ってるんだろうけど) そこに住んでる人たちみんな体調悪いし、精神も不安定。 教育すらお気持ちが支配しているので、発展しないどころか言語すら危うくなっており退化するしかない現状が描写されている。 信心深い登場人物たちの視点で描写されるから、龍の正体が分かりにくかったんだけど牡蠣ってこと? 1番好きだったのは2作目の千羽びらき。 縁起が悪いからと廃止されたやまいだれに取り憑かれ、最後はやまいだれが使えそうな漢字には全部やまいだれがついてて笑ったw あと言葉を大事にしてきた主人公が最後に自分の追悼文を添削する場面で締めるのはいやミス的でよかった。 読了後に解説読むの結構楽しみにしてるんだけど、今作は解説がかなり微妙だった。 解説を読むことで自分では気づけなかった視点やより物語を理解し、考察する上でのヒントとかもらいたいのに。 特にこういう一見とっつきにくい作品でこそ物語と読者への橋渡しとして解説が重要だと思うのに、正直全く役に立ってなかった。 本人も「なんで自分が?」と書いててるし、解説内容も浅く物語の本質というか構造について解説されてなくてがっかりだったな…。
投稿日:2024.02.20
でんでん
解熱剤を使用すると「どうして自分の体を信じてあげないの!」と怒鳴られる、スピリチュアルが常識となった世界の話です。 電波防止シールはもちろん、盗聴防止かぶせ付ランドセルも当たり前。病気という言葉は波長…が悪いので、やまいだれを取って丙気と呼ぶという表現は上手いなあと唸りました。 序盤は世界観を楽しみ、民間療法の極めっぷりに薄ら笑う流れでしたが、3話目終盤、差別が当たり前の時代があったように、いつ普通が変わってもおかしくなく、常識は脆いと感じ急に深い話に思えてきました。続きを読む
投稿日:2024.01.29
sachi
家人が借りてた本だけど、面白かったわー。スピリチュアル最上の世界の描写がぞわぞわする。そして、今自分が信じているものは本当に信じるに足るものなのか?と認識を揺すぶられるのも、読書の醍醐味だな。
投稿日:2024.01.22
ま鴨
集英社文庫で酉島伝法作品出すのね・・・という感想はさておき、うーん、これはレビューが難しいなぁ。 鴨は氏のデビュー作「皆勤の徒」が大好きで、何度も読んで、その度に感動しています。あの独特な造語の本流、軽く流し読みするだけでは全く理解できない分厚く不可解な世界観、作品全体に漂う切切とした哀感、そして不穏な空気・・・唯一無二の作風だと、鴨は思っています。 他方、本作「るん(笑)」は、科学とスピリチュアリズムが逆転した日本(おそらく現代とほぼ変わらないでしょう)を舞台に、38度を「平熱」としたりホメオパシーで病気を治そうとしたり、猫が人を誑かす害獣と見做されて殺された死骸の山が存在していたりと、価値観が逆転することにより発生する恐怖をじわじわと描いています。ただ、その筆致はあくまでも淡々としており、登場人物の一部が「この状況はおかしい」と薄々感じていることも淡々と描き出し、特にこれといった事件が起こることもなく何も解決せず、この連作集は幕を閉じます。 怖いです。とても怖い作品です。でも、酉島作品としては、ちょっとイマイチかなぁ・・・というのが、鴨の偽らざる感想です。 グレッグ・ベア「凍月」を読んだ時と似たような感想になってしまうのですが、グレッグ・ベア同様、酉島伝法も針の振り切れた理解不可能な世界を丸ごと描き出すことを得意とする作風です。 そうした作風の作家が、実社会と地続きの価値観を引きずりながらSFなりファンタジーなりを書こうとすると、どうしても「・・・で、結局何を書きたかったの?」との違和感が拭いきれなくなってしまうんですよね・・・。 本作「るん(笑)」も、スピリチュアル系を盲信することの恐ろしさを表現した怖さはビシバシ感じますし、氏の他の作品「四海文書註解抄」(ハヤカワSF文庫「異常論文」(樋口恭介編)に収録)にも、カルト宗教的な”何か”に関する恐怖が描き出されていて、同様の怖さを感じさせます。 でも、これは本当に鴨の好みの問題なんですけど、酉島作品はやはりどこか遥か遠いところの、異質だけれど温かみのある、あの独特の世界観にどっぷりハマって”旅をする”読書体験が忘れ難いんですよねー。「るん(笑)」はあまりにも実社会に近すぎて、あまり入り込めなかったなー、というのが正直なところです。 SFというより、よりリアルなホラーとして読んだ方が正しい作品かもしれませんね。
投稿日:2023.12.29
うんこ
スピリチュアルが科学を駆逐した日本の日常。タイトルが軽快な感じだったけど読むとねっちりした文体で、読み終わるのに少し時間がかかったが、現実でもよく見るスピリチュアルあるある(ホメオパシー、マコモ風呂な…ど)の描写が多いため、他の酉島作品より分かりやすくて最後まで読めた続きを読む
投稿日:2023.12.06
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