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劉慈欣, 大森望, 泊功, 齊藤正高 / ハヤカワ文庫SF (30件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
ずっと気にしていた『三体』の作者の短編集ということで、一目見るなり購入し、家で順番待ちしている本をかなり飛ばして読みはじめた。 訳者のあとがきによると、本書は原著となる短編集は存在しないものの、収録作品は著者側で選考したものだそうだ。 そのため、訳者や日本の編集者の意向は含まれておらず著者の趣向に近い作品集になっているようだ。 1999年掲載の処女作から2014年発表の表題作『円』まで13篇を掲載年代順に載せている。 1つ目の作品は「ぼちぼちだな」と思った程度だったが、 2つ目の短編を読み終えた時点で「あぁ、これ只者ではないわ」と感嘆した。 SFだけでなく、作家としての文章が優れている。翻訳の上手さももちろんあるのだろうが、それを差し引いても臨場感が素晴らしかった。あとがきを読むと、この『地火』には著者の生い立ちが多分に含まれているようだが、筆致の凄まじさに納得するとともにそれでも著者の力量を感じられた。 途中までは「地球上の狭い地域での出来事を現代科学のちょっと先の技術で」というテイストの話が多かったが『詩雲』では激変。 それまでとは大きく異なり、現代とは遠く離れたレベル、未来のSF設定と中国古代の漢詩を合わせる。それだけでも面白い発想だが、すべての組み合わせを試し全ての詩、最高の詩を科学で作るという試みも面白い。「これは傑作だ」と思った。 この『詩雲』以降は再び地球上での物語が続くが、扱うテーマが全球的な問題へとスケールアップしており、物語内での時間変化も大きくなり、作品の時空間的な厚みがグッと増している感じがした。 また、後半の作品群では、別の作品で是とされたものが次の作品では否定的に扱われること(ex. 『円円のシャボン玉』と『月の光』の太陽光発電技術)もあり、一つの技術に対しても多面的な設定の検討をしているようで面白かった。 表題作の『円』は最後に収録されている。 荊軻による始皇帝の暗殺未遂をモチーフに、コンピュータ(電子計算機)の原理を融合させるという非常に驚かされるアイディアの作品だった。 この『円』もそうだが、後半(2000年代後半以降)の作品達は、前半(2000年代前半発表)の作品群で使われたSF的アイディアを複合させたりブラッシュアップさせたりという部分が見られ、より洗練された感じがする。これはネタ切れというより、荒削りで実験的であった初期のアイディアを上手く扱えるようになっている感触で好意的に受け止められた。 個人的には4作目の『繊維』の設定が面白く、印象的だった。この作品を読んだせいで、各作品間でSF設定が相矛盾しても何も感じないどころか「遠い"繊維叢"なんだな」と納得する始末で、劉慈欣作品ならどんな設定が来ても楽しめそうである。 本書を読んでいて漢字の文化圏で良かったと思うことが何度もあった。 周の文王(: 儒教でよく目標にされる聖人の一人、太公望を見出した人物)や、李白、荊軻、始皇帝といった固有名詞だけでなく、『詩雲』で読み上げられる有名な漢詩を知っていることと、その味わいも(ネイティブには遠く及ばずとも)感じることが出来る。 同じ内容でも英語で書かれていたら絶対に同じ感覚は味わえないと思う。漢詩の形態のシンプルで規則的な美しさも、ごく短い文字数に極めて情緒豊かな表現を組み込めることへの驚きも、1つ1つの漢字(:表意文字)から浮かぶイメージや読んだ際の韻も、漢字を日常的に使っているからこその味わいだろうなと思った。 SF的な仕掛けは、著者がコンピュータ技術者ということもあり、機械工学、物理学的なものが多いが、環境工学、バイオサイエンス的なものもあり多彩。 物語の作りも含めて、13篇を読んで「またこれかぁ・・」というものはない。 「登場人物が(神の目線では)正しいことを懸命に行うも、志果たせず、報われず。しかし、個人としては上手くいかなかったけれど大勢には一定以上(問いには英雄的な)の影響を与える」という形態の話が多い。主人公の悲劇的な扱いは、なんとなく日本の近代文学を思い起こしたのだが、これは著者の作風なのだろうか?それともこの短編集の選考によるものなのか? ・・と思って読んでいたのだが、文庫版に収録された著者のインタビューで個から宇宙へつながる関係を物語として描こうと意識している旨が記されていた。 後半の作品では、個としてのバッドエンドは弱まった印象があるが、他の作品はどうなのだろうか。『カオスの蝶』などは物語中盤以降の主人公の境遇が気の毒すぎてページをめくるのがつらくなったので、全体としてはグッドエンドでも個別のキャラクターが不幸になりすぎる物語ばかりだとちょっとイヤだなと思っている。 巻末の『訳者あとがき』は著者の来歴が記されている点も良いが、作品に対する愛や感動が込められている文章も良かった。
投稿日:2024.05.01
ま鴨
中国SFの短編集といえば、これまでハヤカワで出された「折りたたみ北京」「金色昔日」を読了しており、勢いがあって面白いんですが、割と「これ、SFというより幻想小説では・・・?」と思ってしまうファンタジー…寄りの作品も多く(特に「金色昔日」)、まぁ日本SF黎明期もそうした作風が見られましたので、そんなもんかな、と思ってました。 しかしながら、さすがの劉慈欣。直球王道ハードSFを、SF初心者にもわかりやすいエンターテインメントに仕立て上げる腕前は、中国SFの中でも頭一つ抜きん出ている印象です。 収録された作品は、どれも科学的理論に裏打ちされた大ボラ話=ハードSFとしての骨格がしっかりしていて、安定感があります。鴨が特に好きなのは、「円円のシャボン玉」。小さな子供の頃から大好きなシャボン玉の研究を、小さな子供の頃の無邪気さそのままに推し進め、ついには世界を救う鍵となる話。かつては世界中で熱く語られていた「科学が切り開く未来の可能性」を肯定する、清々しい作品です。 「郷村教師」も、結果的に(地球規模では)何も変わらない切ないストーリーではあるのですが、日々の生活には一見して役に立たなそうな知識の存在意義を詩的な文章で静かに知らしめる、隠れた傑作だと思います。SF者として、初心を思い出させてくれる作品ですね。 正直なところ、今の日本のSF者として、若干の古臭さを感じないわけではありません。 でも、昔のSFってこうだったよなー、と思い返しながら、そのコンセプトを劉慈欣が描くとこのように展開するのね、と新たな視点から楽しむことができました。 しかしまぁ、何といっても表題作のスケールのデカさといったら(笑)ある意味、究極のバカSFと言えるかもしれません(←褒め言葉)。この作品がワンシーンに過ぎない「三体」、いやはや恐るべしです。続きを読む
投稿日:2024.04.21
scaramouche
『三体』で著名な劉慈欣のSF短編集。 風刺とユーモアに溢れた作品群で、作品によっては辛辣なところもあるけれど、それらの底には、人間の営みや知性、芸術への憧れが流れていると感じさせる。 『郷村教師』『詩雲』などは特に、良い意味でロマンティックな作品だとさえ思う。 『三体』は未読なので、そちらも今後読んでみたい。
投稿日:2024.03.19
ホースケ
今、中国SFが面白い。 三体を代表する劉慈欣の短編集。 時代遅れの炭鉱から、新たなエネルギー源を得ようと実証実験を開始するもそれは地獄の業火の始まりだった(地火) ボスニアヘルツェゴビナへ…の空爆に対し、地球上のある一点でアクションを行い、天候を操ることで阻止しようとする科学者がいたのだが(カオスの蝶) 秦の始皇帝は、数学者に「円周率を二年後に一万桁、五年後に十万桁まで求めよ」と命令した。 この難題に対し、数学者は三百万人の兵力を求めた。その方法とは(円) 全13編。続きを読む
投稿日:2024.03.10
fuming
地火 業務用スーパーの社長が地熱発電やってるけど大丈夫?? 郷村教師 最後の最後で救われた。 「今は理解出来なくても暗記しとけ」 詩雲 太陽系を潰してまで作った詠詞データベース。取り出し方がわからないってそんなの作る前から予想つくでしょ!? 呑食帝国が気の毒。 栄光と夢 泣けた… 人生 記憶の遺伝 円 「三体」で1番好きなエピソード。 荊軻のラスト、「チ。」を思い出した。 こういう短編集、もっと読みたい。
投稿日:2024.03.07
ukee4121
短編のひとつひとつが意外性に富んでいて楽しめた。解説にも書いてあるが、三体のエッセンスが随所に感じ取れる。この短編たちがあの傑作の礎になっているのかと、また違った意味での感慨もあった。
投稿日:2024.02.10
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