【感想】魔女たちは眠りを守る

村山早紀 / 角川文庫
(28件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
7
9
7
5
0

ブクログレビュー

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  • PEANUTS

    PEANUTS

    身近なようなファンタジーのような。

    長い時を生きる魔女だからこそ見えるもの。
    良いことも悪いこともすべて。

    不思議な感じと切ない感じと
    ゆっくりしっとり読みたい作品。

    投稿日:2024.07.02

  • さてさて

    さてさて

    『この物語を読んでいるあなたの住む街にも、実は魔女は暮らしているのかも知れない』。

     (*˙ᵕ˙*)え?

    いきなり『魔女』という言葉が含まれた一文から始まった今回のレビュー。あ、そこのあなた、そう、あなたです。『魔女』という言葉に問答無用で画面を閉じようとしていませんか?ちょっと待ってください。はい、あなたの気持ちはわかります。中世ならいざ知らず、21世紀の令和の世の中にいきなり『魔女』と言われても困りますよね。

    でも、あなたが今訪れているのは、本のレビューの場であるブクログです。この世には数多の小説があり、そこにはさまざまな物語が存在します。否、存在する余地があるのです。そこに『魔女』という言葉が登場したとしても決しておかしくはないと思います。そもそも”いないこと”の証明は”悪魔の証明”とも呼ばれています。そう、幽霊が絶対にいないことの証明が不可能なのと同様に『魔女』がこの世にいないと証明することは容易ではありません。そう、

     『たとえば街角の占い師、あの中に本物の魔女が交じっていることもある』

    これを否定することなどできないはずです。

    さてここに、そんな『魔女』が登場する物語があります。他の作家さんならいざ知らず、『魔女』という言葉が、村山早紀さんの作品という絶対的安心感が保証されたこの作品。私たちがイメージする『魔女』のイメージを決して裏切らないこの作品。そしてそれは、『大丈夫。この世界の夜と眠りは、わたしたち魔女が守るから』という言葉の説得力にあたたかいものがこみ上げるファンタジーな物語です。
    
    『なんかもう、消えちゃいたいな』、と『古い街灯の下で、ため息をつく』のは平田叶絵(ひらた かなえ)。『街の地場チェーンの書店の本店』で『書店員』として働く叶絵は『店は常に人手が足りず、皺寄せは彼女に来る』という中にあっても、『本と書店が大好きで、一心に働いてき』ました。そんな叶絵は水路の『暗い水面を見つめ』る中、『疲れた足下がよろけて』『水路に転がり落ちそうにな』ります。『慌てて踏みとどまったけれど、瞬間、それもいいか、と思った』叶絵は、『自分がこの世界に生きている意味』を思います。『特別辛いことがあったわけじゃない』、『ただ少しずつ』『自分の心も折れそうになっている』と思う叶絵は、『休憩時間に新作のコミックスのPOPをバックヤードで作っていたら』、『そんなものは作らなくていいよ』と店長に言われたことを思い出します。『尊敬すべき書店人であ』る店長が『休めるときには休みなさい』という思いで言ってくれたことはわかるものの『そんなもの』と言われたことにひっかかる叶絵。『ああ、なんか疲れたなあ』と思い、『このまま少しだけ前に進んで、水の中に入れば…』と叶絵が思った『そのとき』でした。『ねえ、寂しいときは、ひとりで暗いところにいてはだめなのよ』という『柔らかい声』とともに『誰かの』『あたたかな、小さな手』『が、そっと背中に触れ』ました。振り返った叶絵は、『あどけない表情で、にっこりと笑っている』『長い赤毛の小柄な娘』を見て、『あ、この子知ってる』と思います。しかし、誰だか特定できない中に『こんな暗いところにいると、魔が差すから、さ、行きましょ』と『白い手を』差し出す娘。そんな娘は『この世界のものは』『心弱い誰かを暗い方へと引っ張り込もうとすることもあったりする』と『物語の中の言葉のようなことを』言います。『あたたかいものでも飲みにいかない?』と引かれる手に、そのままついて行く叶絵。『このお店なの』と連れて来られた先には『魔女の家』という『手書き風の看板』が掲げられたお店がありました。中に入ると『優しく穏やかな光に包まれ』た世界が広がり『思い出の中にある光みたいな色だ』と思う叶絵。そんなところに『おや、お帰りなさい、「ご同輩」ナナセ』と『銀髪の女性』が現れ、『ただいま、「ご同輩」ニコラ』と返す娘。そして、『こんな夜には断然ココアよね。わたしがご馳走するから、こちらのお嬢さんにもお願い』と言う娘に『あ、いえ』と財布を取り出そうとした叶絵でしたが『「前」はおごってもらったから、今夜はわたしがご馳走するわよ』と娘の手が『押しとどめ』ます。『そんなことあるわけない』と思う叶絵の脳裏に『高校生のときの記憶が』蘇ります。『ありがとう。次はわたしがおごるわね』と言う『赤い髪の転校生』はすぐにいなくなり『それっきり、彼女と出会うことはなかった』という過去の記憶。『七竈(ななかまど)さん、あの、七竈さんなの?』と『久しぶりで、その名を口にした』叶絵に、『はあい。やっと思い出してくれましたか。図書委員の平田叶絵さん』と覗きこむ七瀬。そんな七瀬は『わたしは平田さんが、わたしの名前を覚えていてくれたというだけで、十二分に幸せよ。それだけでも、この街に帰ってきた甲斐があったと思ってる』と続けます。そう、『あの日、叶絵がいったのだ。この街にまた帰ってきて欲しい、と』。そんな叶絵は、『こんな話、ほんとに信じてくれるの?』、『この世界には、いまも魔女たちが隠れて暮らしているの…』と語り出したあの日の七瀬との時間に思いを馳せていきます…という最初の短編〈第1話 遠い記憶〉。村山早紀さんらしく、『書店員』を主人公とする物語の中に魔女の七瀬を印象深く登場させる好編でした。

    “大丈夫。夜と眠りは、魔女たちが守るから ー。優しい涙が溢れる奇跡の物語!”と内容紹介にうたわれるこの作品。画家のまめふくさんが描かれたという如何にも魔女たちが集っているかのような印象深い表紙に白字で記された「魔女たちは眠りを守る」という書名が独特な雰囲気感を醸し出しています。『魔女』と聞いて何を思い浮かべるかは人それぞれだと思います。世界史の授業の”魔女狩り”を思い出す方もいるでしょう、60年台のアメリカのコメディドラマ「奥さまは魔女」を思い出される方もいるかもしれません。その一方で、そういうの興味ないです!とクールに答えられる方もいるかもしれません。そういった方の場合、今回の さてさてのレビューはパス!とすでに立ち去られていらっしゃるかもしれませんね(涙)。

    いずれにしても現代社会にあって『魔女』の存在を信じている方はいらっしゃらないでしょうし、一昔前に比べても遠い存在になってしまったようにも思います。私は今までに800冊以上の小説ばかりを読んできましたが、そんな中にもそもそも『魔女』が登場することはまずありません。読書の対象として”魔女もの”を選ぶという選択肢がそもそもないとも思います。しかし、数多の作家さんの中でそれが全くもって不自然ではなく当たり前のことと思える作家さんがいらっしゃいます。それこそが村山早紀さんです。”ときどき奇跡が起きる街、物語のような、不思議が起きる街”とされる”風早の街”を舞台にした物語の数々を送り出されてきた村山早紀さんの世界観に『魔女』は決して異物とはなり得ません。村山早紀さんが『魔女』を描く、これは作品を手に取る前から期待感が抑え切れません。

    そんな作品においてまずご紹介したいのは、ニコラが営む『三日月通りのカフェバー「魔女の家」』です。『魔女の家』がどんな風に描かれているかを見てみましょう。

     『店の中は、優しく穏やかな光に包まれていた。あたたかな蠟燭の火のような、ランタンの光のような、どこか懐かしい色の光。思い出の中にある光みたいな色』

    これは〈第一話〉で七瀬に連れてこられた叶絵が目にした『魔女の家』の光景です。『思い出の中にある光みたいな色』という表現が絶妙です。尋常でない雰囲気感を上手く醸し出しています。

     ・『天井には、真鍮が金色の光を鈍く放つ瀟洒なシャンデリア。百合の花束をかたどった磨りガラスの灯りは、いい感じに古めかしく、絵のように美麗』

     ・『耳に心地よく響くのは、壁にかけられた時計が時を刻む音。小さな扉は閉じているけれど、木に刻まれた鳥の意匠からして、カッコウ時計のよう』

     ・『テーブル席がふたつにカウンター。これもつややかな木のカウンターには大小のボトルシップが並べられ、古いガラス瓶は飴色がかった光をほのかに放っている』

    店内の描写を三つ抜き出しました。なんとも雰囲気感に満ち溢れた店内です。この作品の舞台はあくまでも現代、かつ日本という位置付けですが、『魔女』が中世ヨーロッパに似合うものでもあることから、そんな雰囲気感を感じさせもします。また、そんなお店には『三本足の鶏の絵が描』かれてもいます。物語では、その描写をもってはっきりとこんな風に記されます。

     『ここは魔女たちの住処だった…建物の主は、年を経た魔女である、ほっそりとした長身の、美しいニコラ』。

    そう、この作品は『魔女』がいそうな、とか、『魔女』かもしれないという雰囲気で語られる物語ではなく『魔女』がしっかり登場する物語なのです。この雰囲気感の出し方、流石だと思います。

    そして、物語では『魔女』がこんな風に定義されていきます。

     『魔女たちは特にその子どもの頃を過ぎると、その肉体はひとと比してゆっくりとしか年をとらなくなる。一説によると、十年に一歳ほどしか成長することも老いることもない』

    冒頭にご紹介した『長い赤毛の小柄な娘』の七瀬は、『見た目は十代の本好きの少女』、しかし実際には『齢百七十を超えている』ということが記されます。人間基準で見るとええっ!ですが、『魔女』からすれば、それがなにか?というところでしょうか?では、そんな『魔女』はどうやって暮らしているのでしょう?

     『たとえば街角の占い師、あの中に本物の魔女が交じっていることもある…さりげなく著名人や政治家に助言を与えていることもある…油田や鉱山を第六感で見つけて、その権利を持っているものもいる』

    なるほど。『魔女』も生活をしなければいけません。しかも『十年に一歳ほどしか成長することも老いることもない』となると生活の糧は当然必要です。とは言え、『街角の占い師』をやっているかもしれないと思うと、占い師さんを見る目が変わりそうです(笑)。そして、私たちが期待する『魔女』の姿も登場します。

     『使い込まれたほうきに腰をおろし、長く赤い髪をなびかせて、少女は空を行く。春の風には桜の花びらが交じり、ほうきが飛ぶ高い空まで、たまに吹き上げられてくる』。

    おおおっ!これです。これ。『魔女』と言えば『ほうき』で空を飛ぶイメージは外せません。この作品では幾つかの場面で『魔女』の七瀬が空を駆けてくれます。これはご期待ください。まさしく、『魔女』のイメージそのものです。では、そんな『魔女』の最後はどうなるのでしょうか?

     ・『魔女は長く生きるけれど、あまりに疲れすぎていたり、ひどい怪我を負ったり、魔法を使いすぎたりすると、「死んで」しまうこともある』。

     ・『肉体は空気に溶けるように消えてしまって、ただかすかなきらめきのような光だけがそこに残り、その光もいつか見えなくなる』。

    生活の様子は私たち人間と同じような印象でしたが一気に神秘性が高くなりました。いかがでしょう?いきなり『魔女』と言われて目を白黒させたあなたにも少しは『魔女』のイメージが思い浮かばれたのではないかと思います。この作品は村山早紀さんの作品に必ずと言って良いほど登場する”風早の街”こそ舞台にしませんが、『魔女』の存在自体をもってそこにあらゆることが起こってもおかしくない雰囲気に仕上がっています。物語世界に自然に誘ってくださる村山早紀さん。やはり、このジャンルにおいては圧倒的な第一人者でいらっしゃると改めて思いました。

    そんな作品は、6つの短編+〈エピローグ〉という構成になっています。冒頭にご紹介した〈第1話〉のイメージだけだと、『魔女』の七瀬が各短編に登場する主人公たちを『魔法の力』で救う、その繰り返しというような展開を思い浮かべられるかもしれません。しかし、そうではないのです。これは、私にとっても予想外でした。というより、そのように展開すると勝手に思い込んで読み進めたのが間違いであり、実際の内容は短編ごとに大きく展開を異にします。では、6つの短編の概略を見てみましょう。

     ・〈第1話 遠い約束〉: 日々の生活に疲れた書店員の叶絵の前に現れたのは『魔女』の七瀬。高校時代の一時期を共に過ごした転校生であったことを思い出す叶絵は、過去を振り返ります。

     ・〈第2話 天使の微笑み〉: 『仲のよい友達がいた』と今はもういない『魔女』のことを話し出したニコラは、その『魔女』がヨーロッパで旅する中に『列車が事故に遭った…』と話します。

     ・〈第3話 雨のおとぎ話〉: 『ハンバーガーショップ』で働く空哉は学校に行けなくなり、身を寄せた祖母のことを思い出します。久しぶりに会いに赴くも祖母は病に伏していました。

     ・〈第4話 月の裏側〉: 『私設の小さな図書館』を営む佐藤時計店の店主が『子どもの頃に』『妖怪の女の子が友達』と話していることを聞いた七瀬は『遠い日の七月の物語』を聞きます。

     ・〈第5話 サンライズ・サンセット〉: 『今日は八月十四日。お盆』という日『昭和の頃にはよくこの街で見かけたような夏休みの少年の姿』を見るニコラは野球ボールを持つ彼に声をかけます。

     ・〈第6話 ある人形の物語〉: 『昭和二十年の夏』、本来心などない『金髪の抱き人形』は『気がついたら動けたのだ』と森の中にいました。そんな中に『ひとりの女の子が迷い込』み…。

    六つの短編をごくごく簡単にご紹介しました。もちろんこれだけではなかなかイメージはつきづらいとは思いますが、ヨーロッパの話が出てきたり、どこか意味深な『お盆』という単語が登場したり、そして〈第6話〉では、『金髪の抱き人形』に心が?というまさしくファンタジーな物語が展開することがわかります。これらの短編はあくまで『魔女』で繋がる連作短編ですが、内容は極めて多岐に渡っています。そんな物語は『魔女』の存在が欠かせません。それは、一見人のような外見でありつつも上記したように人とは全く異なる一生を送る『魔女』という存在が見せるものです。そんな物語には、『魔女』として生きる七瀬のこんな感覚が象徴的に語られます。

     ・『ひとの一生は、どうせ短い。笑って泣いて、憤り、喧嘩して愛しているうちに、夢見るような速度で、終わってしまう』。

     ・『おそらくは、ひとの子が蟬の一生を見てその短さを嘆くように、魔女たちはひとの命の短さを惜しむ』。

     ・『生きている間、精一杯にうたい続け、やがて地に落ちて儚くなる、ひとの子の一生を』。

    人から見て蟬は儚さの象徴として語られる生き物でもあります。しかし、『魔女』という存在からすると私たち人の一生がそれと同じように見えてしまうのです。改めて私たちの一生というものに思いを馳せもします。そんな物語は、ちょっと乱暴に扱うと粉々に壊れてしまうほどの繊細な感覚の中に私たちが大切にしてきたもの、大切にすべきものを浮かび上がらせていきます。そこには、『魔女』という存在を物語に自然に溶け込ませる中に、村山早紀さんらしい優しさに満ち溢れた物語が描かれていました。

     『この物語を読んでいるあなたの住む街にも、実は魔女は暮らしているのかも知れない』。

    『古い港町』という『三日月町』を舞台に、『魔女の家』を訪れた『魔女』の七瀬を描くこの作品。そこには、まさかの『魔女』という存在を雰囲気感豊かに描く物語の姿がありました。パターン化された展開ではなく、予想外に描かれる事ごとに集中力が切れないこの作品。漠然と思い描いていた『魔女』という存在がくっきり浮かび上がってもくるこの作品。

    “村山早紀さん × 『魔女』”という組み合わせの想像以上の相性の良さに、どっぷりと物語世界に浸らせていただいた素晴らしい作品でした。
    続きを読む

    投稿日:2024.05.11

  • ありあ

    ありあ

    現代日本でこっそり生活する魔女たちのお話。
    どのお話も心温まるものばかりでとてもよかったです。何話かは泣きながら読んでいました…。電車とか外で読む際は要注意。
    雨のお話が一番好き。

    投稿日:2024.03.20

  • ぽんこつ

    ぽんこつ

    タイトルに惹かれて読んだものの、
    思ってたのじゃない…と言う感じでした。
    魔女ではない者たちの非力さが辛かったです。

    他の方が書かれているように、
    回りくどい言い回しが私も苦手でした。
    おおよそ5時間ちょっとで読める文量のようですが
    たぶんもっとかかったと思います。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.07

  • mikke

    mikke

    表紙とタイトルに惹かれて買ったほど、世界観や魔法使いというモチーフ、エピソードはとても素敵なのに、とにかく文章が苦手でした。
    説明くさいくどさと、三人称視点のわりには心の声が大きすぎるのとで、ファンタジー好きなのになかなか物語に入り込めず、読み進めるのに苦労しました。
    高校生ぐらいまでだったらもっと素直に読めたかもしれません。
    続きを読む

    投稿日:2024.01.29

  • なつむ

    なつむ

    このレビューはネタバレを含みます

    悲しみと優しさが絶妙にブレンドされてて良い  
    ファンタジーだけど、魔法のような力が存在すると思うと日々を楽しく過ごせそう

    戦争で理不尽な命の失い方をしている人も現在もおり、自分の日常がこんなにも当たり前に平和である事が奇跡的であることに感謝しかない

    胸がギュッとなり涙が溢れたサンライズ・サンセットが好き

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.01.08

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