【感想】青い眼がほしい

トニ・モリスン, 大社淑子 / ハヤカワepi文庫
(57件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
15
23
9
0
3

ブクログレビュー

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  • キムチ27

    キムチ27

    筆者に初めて触れたのは「ホーム」を読んだ時。朝鮮戦争から戻った兄妹の無残な、救いのない話。あたかも御須メルを文でなぞるような癒しと救いの魂を感じた。

    先日フォークナーを久しぶりに読み、難解で捉えようのなかった偉大なノーベル賞作家に再度くらいついてみる気になったから。
    読むという行為は「単に頁を捲り、その世界に触れる」だけでは無謀で、入念な下調べとプロット研究、筆者の成育、生活歴、家柄を知って・・成って行くと私には初めての足踏みをしつつかかる。
    そこに浮き上がってきた、トニ・モリスン・・フォークナーと同じ、ノーベル賞作家、しかも扱うテーマが人種差別。

    何も知識がなかったら、やはり食いつき辛かったと感じさせられた。
    叙述が積み重なり、時系列を度外視した一見ばらばらの連作が集まってできている。
    ピコーラという少女は12歳、物語を綴るのは筆者の分身と思しきクローディア。そしてピコーラの父チョリーと母ポーリーンの過去が掘り起こされて行く。表題になっている「青い眼が欲しい」と請われるソープヘッド・チャーチの身辺が浮かび上がる。

    作品の舞台は1941年、太平洋戦争が始まろうとしている暗雲垂れこめた米世界。フォークナーがノーベル賞を受賞したのは1946年。アメリカ社会を分断した北軍と南軍のしこりが歪みを持ったまま、南北戦争の解決は南部貴族、プアホワイトなどを新たに生み出したまま世界大恐慌へ。追い打ちをかけるような相次ぐ天災の爪痕(スタインベックの作品によく書かれている)を持ったまま、なだれ込んだのがこの時期だ。

    南部の貧困層(大半は黒人、それも奴隷層)を抱え込んだまま今に至っている。フォークナーの信奉者であるトニ・モリスンの想いが随所に表れている。フォークナーは南北分断の犠牲者が抱く虐げられた感情をそのまま負とするのではなく、乗り越えて行くために勇気が必要とうたったが・・その後続いた数々の事件を盛りスンはどう捉えたであろう。2019年に世を去るまで彼女の胸に去来した想いの原点がここに詰まっていることを静かに、重く、まるで霊歌の響きのように訴えている作品だ。

    グリーンブックを見て感じたのは主役の演奏家の姿、瞳の毅然とした輝石のような煌めき。あのような方も、同時期に苦悩と差別と煩悶の中で戦い生きていたのだという感慨が再度蘇った。4半世紀かけないと世の光が当てられなかったことを噛み締める、そんな作品だった。
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    投稿日:2024.01.22

  • 司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    司書KODOMOブックリスト(注:「司書になるため勉強中」のアカウントです)

    「誰よりも青い眼にしてください、と黒人の少女ピコーラは祈った。そうしたら、みんなが私を愛してくれるかもしれないから。白い肌やブロンドの髪の毛、そして青い眼。美や人間の価値は白人の世界にのみ見出され、そこに属さない黒人には存在意義すら認められない。自らの価値に気づかず、無邪気にあこがれを抱くだけのピコーラに悲劇は起きた-白人が定めた価値観を痛烈に問いただす、ノーベル賞作家の鮮烈なデビュー作。」

    「暗い話だが、読むのをやめようという気にはならない。モリスンは差別を見据えて憎みながらも、人には優しいからだ。ピコーラの両親の生い立ちにも触れながら、なぜこの悲劇が起きたのかを構造的に見せていく。
    社会は、白人による価値観でできていた。だから黒人は、白人による差別だけでなく、黒人同士のさげすみや偏見にもたらされた。例えばピコーラがいじめられる場面。いじめているのは黒人の少年たちだ。ー「侮辱にはげしい勢いを与えているのは、自分たち自身の黒さに対する軽蔑だった」とモリスンは書く。」
    (『いつか君に出会ってほしい本』田村文著 の紹介より)
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    投稿日:2023.10.31

  • 人生≒本×Snow Man

    人生≒本×Snow Man

    デビュー作?
    とんでもない作品だ。
    比べるべき作品は、『苦海浄土』しか思い浮かばない。

    差別を僕らはある決まった物語の尺度でしか見ていなかった。

    その奥底、本当の意味をトニ・モリスンの言葉、表現で初めて知る。しかし、それは序の口という印象だ。悲惨に底はない。
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    投稿日:2023.08.22

  • 天下泰平

    天下泰平

    やはり洋書の翻訳本は読みづらい。副詞が多くて回りくどい表現の嵐。ストーリーを理解するので精一杯でした。私には不向きのようです。気が向いたら再読してみます。

    投稿日:2023.06.09

  • パン食べ隊

    パン食べ隊

    文章の素晴らしさに驚いた。「秘密にしていたけれど、1941年の秋、マリーゴールドはぜんぜん咲かなかった」「秘密にしていたけれど」の言葉の意味が持つ親密さ、打ち明け話、信用、このニュアンスが持つ子供の無垢さ。それが差別、暴力の助長につながる。そこをとてもうまく同居させている。続きを読む

    投稿日:2023.05.18

  • チャッピー

    チャッピー

    難しかった
    白人の容姿が美しい、黒人はひどいという対比を白人が書くことはできないと思うが、だからといって黒人である作者が、そう考えて差別的なことも書いていくのは衝撃だった
    確かにピコーラが白人の青い眼を持っていたら、いじめを受けたり、父親から酷いことをされずに済んだのだろうか
    文体がピコーラをただ憐れに思わせないようにしているとあったが、結末的にいえば、やっぱり暗くピコーラは可哀想と思ってしまった
    ただ、チョリーの過去話も挟んでいるので、なんとなく理由はあったのかなという同情する余地はすこしだけあった
    貧困、差別、黒人だからしょうがないのかという諦めのように受け入れつつ、青い眼を望むピコーラの姿が悲しい
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    投稿日:2023.02.11

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