【感想】世界史の構造的理解

長沼伸一郎 / PHP研究所
(22件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
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ブクログレビュー

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  • 1753945番目の読書家

    1753945番目の読書家

    この人の本が面白い。
    文章がわかりやすい。

    理系武士団がまた登場するけどから、また!?って感じる人もいるかもだけど、本を超えた一貫性が感じられて、私は好きかな。

    投稿日:2024.03.20

  • echigonojizake

    echigonojizake

    長沼氏の本は自分が日ごろ使っていない脳の部分を叩き起こしてくれる感覚があり、はまるとクセになる。今回は私の好きな歴史をテーマにしているので構えながら読んだが、私の先入観を裸にしてくれる感覚で期待以上だった。

    この本のキーワードである理数系武士団と縮退化は覚えておきたい。人口が減り続ける日本にもチャンスはありそう。一方で人口減に入り潜在成長率が下がり始めている中国、およびインドをどう位置付けるのか著者の考えを知りたかった。もちろんこの構造的理解の枠組みを自分なりに駆使して思考実験しても楽しいのだが。
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    投稿日:2024.02.03

  • 1941522番目の読書家

    1941522番目の読書家

    短期的な欲望がディストピアを産むこと、見えない皇帝、トクヴィルのアメリカ民主主義の考察は面白かったです。

    投稿日:2023.10.11

  • yonogrit

    yonogrit

    1441

    長沼 伸一郎
    1961年東京生まれ。早稲田大学理工学部応用物理学科(数理物理)卒業後、同大学理工学部大学院中退。1987年、自費出版『物理数学の直観的方法』(通商産業研究社)の出版によって、理系世界に一躍名を知られる。その後も組織には属さず仲間と一緒に研究生活を送っている。著書に『物理数学の直観的方法 普及版』『経済数学の直観的方法 マクロ経済学編』『経済数学の直観的方法 確率・統計編』(いずれも講談社ブルーバックス)、『現代経済学の直観的方法』(講談社)など。

     理数系集団と武士の関連性というのは一見唐突だが、実は両者の密接な関連を示すものは多い。たとえば 蘭学者で医者として生きていた大村益次郎 が、長州藩の 参謀 として日本最初の近代戦で武士たちを指揮し、靖国神社にも銅像が建っているのはその好例である。そもそも日本の近代の数学・物理教育のルーツは、長崎の海軍伝習所にあり、当時新設された工学部には、 士族(武士階級に属す者に与えられた称号) 出身者の割合が際立って高いという現象がみられ、これはほかの国にはない特徴だった。

     第一タイプ「独創的な発想力をもつ思想家」  これは幕末だと、 桁外れの英明さで知られた薩摩藩主の 島津斉彬、また幕府側では勝海舟 などがそれに相当します。

     第二タイプ「開明派官僚」  このタイプは、自身はそこまで独創的ではなく、また性格的にも革命家ではないが、第一タイプの考えやその価値を十分理解でき、その一方で組織のなかで浮き上がらずにちゃんと生きていけるだけの順応性も備えている人々です。

     第三タイプ「各地の自発的学習者」  一方において、当時の日本が日本の数倍の国力をもつ大国を相手に 伍 していくには、一種の下支えとして、西欧技術を学んだ大勢の技術者が不可欠であった。幕末の場合、それを育成確保するために主力となったのは、幕府の制度的な機関よりも、むしろ各地に私的なかたちで生まれていた蘭学塾だった。

     第四タイプ「日本特有の文系出身の『伝道者』」  そして日本の場合において面白いのは、もう一つ、第四のタイプというものが存在しているとみられることである。この第四タイプの一番の特性は、自身は理系の出身ではないのだが、先述した第一タイプを神のように 崇めて、一生をその思想の使徒として生きることにある。そして先ほどの第二タイプの「開明派官僚」とは違って、組織の黒子に 徹するのではなく、しばしば第一タイプの〝代行者〟として日なたに出ています。

     ところが、理数系武士団を歴史のなかに置いたときの効果はこれに留まらない。実はこの場合、彼らが「自発的な連携で生まれるために、外からみてもその存在がわかりにくい」ということが、結果として大きな戦略的意義を帯びることになるのである。つまり、他国からみると、大きな力の 塊 が突然出現することになり、その存在自体が一種の 奇襲 効果をもってしまうということです。


    そして、筆者が物理学の世界のなかにいて痛感させられたのは、学ばなければならない情報量が増大し続けているがゆえに、きちんとした学問の習得に要する時間は最低限でも昔に比べて一・五倍ほどに拡大していて、その短縮化の方法がない、ということだった。そのため、今や年齢と学問習得のタイムテーブル全体をまるごと一・五倍に引き延ばさねばいけなくなっているのです。


     まず人間は一人ひとりをみると雑多な願望をもっており、それらは個人個人でばらばらである。しかしそれが大人数集まっていくと、次第にその個人的な差異の部分が 相殺 されていき、残った共通部分だけが互いに強め合う格好になる。そしてこういう場合、人間の願望などをたくさん集めていくほど、互いの誤差が相殺されていくのです。


     さて話を戻すと、天体力学はそれまで神の領域であったはずの天の運行を、全てこれによって人間が解き明かすことができることを示したという点で画期的なものであり、それだけでも人類の思想への天体力学の影響は何ものをも上回るほどに決定的だった。  そしてこの天体力学の成功は、このときに登場した画期的ツールである微積分学にも支えられており、長期的にはむしろこちらのほうが大きな影響をもたらした。実際にこのツールがあったからこそ、太陽系の惑星などの軌道と位置を数万年後までぴたりと正確に予想することが可能となったのであり、そのため啓蒙思想の時代には、このツールを使う際の方法論も、併せて参考にされたと考えるべきだろう。そしてこのときに有効だった方法論のうちの最大のものが、「物事はばらばらなパーツに分解すれば解くことができる」というものだったと考えられるのです。


     それを聞いて「彼のどこがそんなに偉いのかよくわからない」という読者もあるかもしれないが、それは当時の世界では大変なことだったのである。つまり十六世紀当時には「ハーモニック・コスモス信仰」ゆえに、惑星の軌道というのは幾何学的に完全な円でなければならない、ということが絶対的な宇宙の真理とされていた。そのためケプラーの「惑星の軌道はいびつな楕円で、太陽系は幾何学的にきれいな形はしていない」という主張が認められるには、現在のわれわれには想像もつかないほどの大きな壁を乗り越える必要があったのです。


    もともとキリスト教はほかの宗教に比べて、下級階級をベースに成り立ってきたという顕著な特性をもっている。それはイスラム教の場合とは対照的で、イスラム教の場合には初期の教団を構成していたのは当時のメッカの町の裕福な商人の子弟だった。そのため、若い彼らはそのまま中高年になれば、メッカの市政を 牛耳るエリートになることも十分可能だった。一方、キリスト教の場合、キリストの弟子たちをはじめ、初期の教団の大部分が下層階級出身者で構成されており、現世の社会体制に従う限り、彼らが世の中を動かせる立場に上ることは難しかった。

    ところが、ここでこの泥沼のサイクルに終止符を打って、結果的に西欧世界をコラプサー状態から脱出させたのが、イスラム勢力の台頭だった。イスラム文明は宗教の力によって商業的退廃に対する強い耐性を備えており、西ローマ帝国の廃墟に残っている商業文明に接触しても、その退廃に染まって軍隊の腐敗や弱体化を起こすことなく、腐ったゲルマン人の軍隊を 一掃 してたちまち地中海全体を勢力圏内に収めてしまったのです。
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    投稿日:2023.10.02

  • ハイジ

    ハイジ

    物理数学、経済学に対して「直観的方法」のシリーズ
    今回はなんと世界史

    一応お伝えしますと、長沼氏は物理学者である
    さらに補足しますと、世界史における構造的な理解なので歴史書ではない

    相変わらずの考察力の凄さに舌を巻いてしまうのであるが、面白ネタが尽きないので
    うまくまとめられそうもない

    興味深かったもののみ

    ■凄かった日本(理数系武士団について)

    幕末や戦国時代の日本の国難において「理数系武士団」というべき集団がまとまって
    出現し、大きな力を与えた
    これこそが日本最大の武器
    狭い理系の専門分野から脱し、国が進むべき戦略などに関して、これまでの文系的な
    一般常識を超えた独創的なビジョンを生み出すことで、国を先導する役割を果たした
    例)大村益次郎…蘭学者で医者 かつ長州藩の参謀
    (そしてこういう方々は国のお抱えではないところがポイント)

    日本の近代の数学・物理教育のルーツは長崎の海軍伝習所にある


    ■形のない皇帝

    始皇帝の中国統一は歴史の特異点であり、巨大なマイナス効果という
    管理社会のなかの沈滞した精神が国全体を覆っている
    これか現代のグローバリゼーションと似ているとのこと
    今の経済、メディア、抽象的・無形的なグローバル化が中国の専制体制に似てきてい
    る(世界全体で価値観や社会制度、生活習慣などが同じものになっていく)
    政府の権力が及ばない巨大企業(GAFA)、経済、メディアなど形のない力が世界を動
    かす主力となっている(これぞ形のない皇帝)
    さらに資本主義は短期的願望(目先の欲)がこれに拍車をかけ、抑制が効かない(確かに止められない)

    もはや恐れられるべき権力は独裁者などではなく、「資本主義」が富を生み出すメカ
    ニズムと不可欠に結びついたパワーが主力となっている


    ■イスラムの影響力

    メッカは世界の通商路であり、巨大な富が流れてくる
    経済メカニズムの点から軍隊維持は難しく社会の退廃を食い止めるのに(おそらく抑制という意味で)イスラム教が効果的であったという

    ~ここからは脱線して気になる微積分との関わり~
    イスラム法学者は「ウラマー」という国に属さない知識人たちがいた
    ウラマーの存在意義を称えながらも、彼らの中で微積分が発達しなかったため世界か
    ら出遅れたと指摘している

    この辺りの真実は誰がどう判断するのかによるのでは?と思いつつも興味深いものが
    ある


    ■今後について

    資本主義や民主主義がどれほどの問題を抱えていようともこれにとって代わる制度は
    ない
    メディアとマーケットのなかに発生して短期的願望を世界に広める「仮想的な巨大権
    力」が皇帝のように君臨する一種の帝政にある
    宗教や政治的圧力、科学など短期的な処方では変えられない

    フランスの政治家トクヴィル(渡米し、民主主義の本質を見抜いた)
    「表面的なお題目よりも手法や習慣の面で長期的な世界に属するものに囲まれてい
    く」ことが必要
    それによって人間が次第に「不滅性」ということに価値を置くようになって、最終的
    に一種の宗教のように自然に引き込まれていく…
    これが理想とする(抽象的なのでわかるようなわからないような…)

    著者の意見は「歴史に参加する」とのこと
    時に巨万の富の誘惑を凌ぐことができる
    ただし恒常的に頼ることはできない

    いずれにしても大きな課題であり、今後向き合い続けるべき問題だ
    このままいくとどうなるか
    世界は骨抜きにされ、極端な格差社会になるだろう
    恐ろしいなぁ



    環境問題だけで滅びた文明はない
    快楽カプセル ディストピアの例…
    あげればキリがない独創的な解釈があり、面白い

    中には疑問を感じる部分もあるが、とにかくとことん考え抜かれているところが気持
    ち良い!
    頭の良い方の着目点や構想、歴史から何をどう学ぶか…
    この角度を知るだけでも読む価値が十分ある

    地政学、宗教学、物理、天体、地理、歴史、哲学、古典…
    あらゆる知識をふんだんにしみこませた本書

    クセになるなぁ
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    投稿日:2023.08.22

  • ぐるす

    ぐるす

    著者は表現が独特で分かりにくいものも多かった。以下まとめ。

    ❶日本の歴史の節目や国難に現れていた理系武士集団

    ①コロナ問題は今まで潜在的に社会の底にくすぶっていた問題を表面化させた。例えば、実店舗で買い物せずECで済ますなどの動きは今後も進み、逆の動きに戻ることはないだろう。

    ②戦略の原則では、一般的に組織の力を『戦闘力×戦略力』で表す。戦闘力は個々の練度やポテンシャル、戦略力は優れた戦略力で優位なポジションを取るなどの知力である。過去の日本は頭数で優位に立てなかったことで、戦略力を磨いてきた。

    ③日本に必要なのは独創的なビジョン。先般の話でいうと『突出した戦略力』である。

    ❷『世界統合』vs『勢力均衡』の構造で見た世界史

    ①歴史は同じ形こそないが似たようなパターンで現れる。ここではナポレオン戦争と第二次世界大戦のパターンを検討したい。

    ②まずはナポレオンとヒトラーという個性強烈な独裁者を中心にした戦争であったこと、英国から見た立場で『海vs陸』という構図を持っていたこと、そして対ロシアで大敗したことが挙げられる。

    ③『世界統合と勢力均衡』は『世界を根本的にどういうシステムで運営していくか』の選択の問題として存在していた。
    ナポレオン戦争時は、ナポレオンは『世界統合』のビジョンで動いていたし、英国は大陸内部に覇権国が生まれることを阻止して、複数の国家がバランスをとりながら並行する『勢力統合』の世界を志向していた。

    ④現代のグローバリゼーションという現象を『世界統合vs勢力均衡』というテーマに沿って考えてみたい。これは、世界統合型の中国と勢力均衡型の西欧と読み換えることもできる。
    まず、世界統合型は帝国の支配を受け入れるとともに自由と独立を放棄する。その分、安定と平和を享受することになる。
    勢力均衡型は自由と独立を持ち続ける分、その権利を守るために戦い続けなければいけない。

    ⑤現在進行のグローバリゼーションは明らかに一種の世界統合を志向している。ヒトラーやナポレオンのような独裁者こそいないが、巨大メディアやマーケットといった複合体が人間の欲望を最大公約数的に掬い上げて、その実現手段を大量に供給して定着させる、一種の巨大権力として君臨している。

    ❸帝国化の宿命を負った中国の地形

    ①歴史的に平原では帝国しか生まれないと言われている。それは平原においては少し退いた場所で体制を立て直すというような軍事的オプションを取れないからである。

    ②中国においては山で囲まれた自然の要塞であった函谷関が最も重要な要所である。この場所を起点として中華統一を成し遂げたのが始皇帝である。

    ③欧州の勢力均衡の歴史の中で、大きな役割を果たしていたのがローマ教皇庁である。政治力を背景に自らの威厳を維持すべくバランスをとる戦略をとっていた。
    しかし、大航海時代に入ると、弱体化したローマ教皇庁に代わって、イギリスが海軍力を背景として、欧州の勢力均衡を司るバランサーとしての役割を果たすことになった。

    ④米国にとっての地政学はイギリスのそれとは意味が異なる。違いは米国の強みが空軍力であるということである。米国にとっては地形の話などはどうでとよく、空軍基地をどこに確保できるかが問題であった。

    ⑤現代に入ってくると軍事力より経済力が相対的に重要になってきた。また、無形な形の『地形の平坦化』がもたらす影響も考えるべきである。
    これは例えば、日本語が障壁になって英語のコンテンツが独占できないことなどを考えると良い。

    ⑥現代は情報量が多過ぎて、必要な知識の修得に昔の1.5倍はかかると思った方が良い。

    ❹資本主義を誤らせた天体力学の幻惑

    ①現在では軍事力に代わって、経済やメディアなど形のない力が世界を動かす原動力となっている。そして、これらの力は民主主義という枠組みの中で、一種の専制帝国のような振る舞いをすると思われる。

    ②ここで大事な概念として、『一般意志』と『全体意志』という概念を考えたい。『一般意志』は『長期的展望に基づいてこうありたいと願う理想目標』と定義する。一方、『全体意志』は『人々の短期的欲望を単純に寄せ集めた物』と定義する。
    通常、人間は欲望に弱いので全体意志が一般意志に優先されてしまう傾向が強い。

    ③国の政体には6つの政体がある。良い政体が『君主制』・『貴族制』・『民主制』である。悪い政体が『独裁制』・『寡頭制』・『衆愚政』である。
    良い政体は一般意志が全体意志を抑え込んでいる状態である。

    ④この6つの政体はよく出来ており、『君主制』→『独裁制』→『貴族制』→『寡頭制』→『民主制』→『衆愚政』→『君主制』というサイクルで動いている。これは政体循環論と呼ばれている。

    ⑤従来は一般意志が全体意志に優先されていれば、どの政体でも良いものと考えられていた。
    しかし、米国の価値観は違う。『民主制』こそ絶対的に正しい政体であり、それが君主制に戻るなどあってはならないと考えていることである。

    ⑥資本主義は短期的欲望を増幅する。『金が得られるということは社会的需要がある』という話をよく聞くが、まさにこれを象徴している。米国流の考えの『短期的欲望を多く集めれば長期的欲望につながる』が裏付けとなっている。

    ⑦人間社会の構成は複雑に出来ており決してシンメトリーな綺麗な形で出来ていない。それを単純なモデルで解こうとする試みがよく行われているが往々にしてうまくいかない。天体の軌道も3つ以上になると『三体問題』として解けなくなるが、これと同じである。

    ❺現代世界の『形のない皇帝』

    ①現代のグローバリゼーションは何ものの『意志』によって推進されているのか、古典と物理の両面から分析してみる。

    ②古典においてはフランスの政治学者トクヴィルの『アメリカの民主政治』(1835・1840)が参考になる。この本では『あまりにも自由で平等な社会では真の意味での多様性は消失するであろう』という予言をしている。
    彼の主張のポイントは、自由な民主社会においては、ファッションのような泡沫的な部分(短期的部分)においては、種々雑多な多様性が生まれるが、基本的な価値観や制度のような根本的なメカニズム部分(長期的部分)は逆に画一化してきて、両者は反比例する傾向にあると指摘する。

    ③現代に照らし合わせると、米国が世界通貨のドル、英語、軍事力を背景に世界の経済を席巻している。そして、各地で米国資本の大企業がシェアを奪っていき『縮退』させることで経済を拡大させている。

    ④この『縮退』を物理学的なイメージでは、エネルギー保存の法則を考えると良い。大企業が参入する以前の状態から大企業がシェアを奪う過程で、熱エネルギーが生まれるように『富が引き出される』のである。そして、元の状態には戻ることはない。

    ⑤縮退した社会では全体意志が一般意志を駆逐する。トクヴィルの予想する縮退した社会の結末は、『単一の制度・風習に固執して動かなくなる。社会の全てが目の前の安楽を求めることだけに使われて、そこから長期的に抜け出すための力が失われる。社会自体は絶えず動きながらも全く前進しなくなる』ことである。まさに、現在の日本そのものである。

    ⑥今後、ひたすら個を極大化させる勢力と、それをやめて縮退を止めようとする勢力の戦いが想定される。これは米中の対立の一段上の重要性があるものである。

    ⑦現代においては軍事力より経済力が圧倒的に重要になっている。なぜ、そうなったかは核兵器の存在が大きい。
    現在の戦争は経済面が中心となっており、歴史を踏まえると通常兵器の戦争の10倍時間がかかっている。

    ❻環境問題を包括する最重要問題

    ①現在の『多様化』は本来使われる意味の多様化ばかりではなく、短期的欲望を無制限に解放しただけのものも数多く混ざっている。
    過去には、ルネサンス末期に同じようなことが起こったため、この歴史を学ぶことは参考になる。

    ②ルネサンス末期は社会全体が商業的退廃に蝕まれていた時期で、誰もが『自分ひとりの個性』を叫んで、豪華な美術品が数多く生み出された時代である。

    ③過去の歴史上、環境問題で滅んだ国はない。過去何度も資源が取り尽くされる事態になると、すぐに代替物を見つけて社会全体がそちらに引っ越している。

    ❼コラプサー化を防いだイスラム文明とその『微積分学』での敗北

    ①西洋文明は過去2回、コラプサー化の危機から脱却した。どちらもイスラム文明との戦いの中で起こったことである。
    1回目はローマ帝国末期で732年の『ツール・ポアチェの戦い』だろう。ここで、フランス王国のカール大帝がイスラム勢の攻撃を食い止めたことがその後の西洋の歴史を変えた。
    2回目は前述のルネサンス末期である。
    現代を眺めると、今が3回目の危機ではないかと思わずにいられない。

    ②イスラム社会において、立法権は人間の手にはない。法の解釈権という立法権に準ずるものが存在し、それを持つのが『ウラマー』と呼ばれるイスラム法学者である。ウラマーは単なる法律家という立場ではなく、様々な学問を修めた人物である。イランなどを考えると分かりやすいが、宗教と法律の解釈権を背景として、大統領より強い権力を有している。

    ③西洋文明とイスラム文明で差がついてしまった要因として大きかったのが『微積分学』の活用であると考える。

    ❽歴史の中の『世界交通網』が生んだ日本の特殊性

    ①ここで唐突であるが、エルサレムになぜ聖地が集中したかについて考えたい。まず、地理的条件を見ると、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、アラビア半島の3つの結節点となる場所にある。要するに、砂漠の中の交通の要衝であった。
    ユダヤ教、キリスト教、イスラム教がいずれも都会から生まれ、その性質は、資本主義が抱えた矛盾に対しての1つの解答を示した類のものであった。(いずれも教義に違いはあれど、弱者救済を掲げている。)
    また、農業ではなく、商業の町であったため、民衆を軍事力という形で押さえ込むことはできず、宗教という形になったと考えられる。

    ②面白い視点であるが、このエルサレムを中心として、同心円上に世界を見ていくと日本が最も遠い文明国と見ることができる。これは、日本が鎖国を維持できた理由と合わせて考えると分かりやすい。日本は電車の駅でいう『終着駅』であり、コスパ上、日本まで行くメリットがなかったため、鎖国が可能だったのである。

    ③日本の開国は米によって行われたが、これも米国から船で西進し、中継地として中国や東南アジアに寄港できる価値があったからと考えると納得である。

    ❾世界の出口はどうすれば見出せるのか

    ①人間は『何ものにも囚われずに』生きることが可能か。マーク・トゥエイン仮説では個人の精神力だけではコラプサー化を止めることは難しいとされる。これは、米国が推し進める『自由の推進』とは逆の考え方である。

    ②政治の主導権の握り方の理想とし次のようなの 考え方がある。洋の東西を問わず、『君主』、『上級貴族』、『下級貴族』、『民衆』と4つのカテゴリーの中で、『下級貴族』が力を持っている時、最も社会が活力に満ちるという。
    その理由として、この階層が最も短期的欲望に侵される割合が低いからとされる。

    ③世界のあらゆる場所で短期的欲望が繁殖していることの根源は、人間の欲望にあって、人間誰しも現世で少しでも良い生活をしたい、安楽・怠惰に過ごしたいと願うものであり、これは誰にも止められるものではない。このストッパー役を果たしていたのが宗教である。『現世』ではなく『来世』の未来を見せることで短期的欲望が行き過ぎないようにしていたのである。

    ④ちなみに、宗教の世界を本格的に否定した後で、豊かになりたいという願望をシステム化したものが『資本主義』であり、現在は年間3%程度の成長を半ば義務付けられているシステムである。

    ➓日本の歴史はどう拓かれるか

    ①経済戦争において重要なのは『知的制海権』を制することである。日本は与えられた条件のもと、合理化を中心に競争しており、そもそも『不利になればルールを変える』という発想がない時点で負けているのである。米国は自分に有利な条件を他国に押し付けることにより知的制海権を行使している。

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    投稿日:2023.03.13

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