【感想】クルマ社会・七つの大罪

増田悦佐 / 土曜社
(1件のレビュー)

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  • yasz

    yasz

    今から11年前の8月に、私がずっと新刊が出るたびに追いかけている増田氏の書かれた増補改訂版です。奇しくも元版のレビューを11年前の今日に書いています。

    今年6月に改訂版が出るとネットで知って予約していましたが、ようやく届きました、この1週間は在宅勤務の合間をぬってこの本を楽しませてもらいました。

    コロナ騒動が始まる直前(令和2年2月上旬)に社会人になって2ヶ月目にしてローンを組んで買ったクルマから数えて、4台乗りましたが、ついに車を手放すことを決意しました。不便が生じたら買えばいいと思った決断でしたが、一向に不便を感じません。コロナのお陰で気晴らしには、一人ドライブよりも家の周りを1時間程度歩くことが健康的にも良いことがわかりました。

    さてこの本の内容ですが、元版では触れられていなかったポイントとして、電気自動車の行く末についても追加(8つ目の大罪)として書かれています。世の中、電気自動車や自動運転の議論が真っ盛りですが、私の知る限り、本でしっかり反論しているのは増田氏だけのように思います。私自身、自動車関連業界に勤務しているので、非常に参考となる考え方でした。

    以下は気になったポイントです。いつものことですが、増田氏の本は記すべきポイントが多いのですが、今回は改訂版であることから、追加された8番目の大罪について記したく思います。

    ・世界中の先進国でクルマが日常交通機関の王者を鉄道から奪い去った、東京と大阪という二大都市圏が高い鉄道依存度を維持しながら「高度消費社会」へと突入した日本経済が先進国では唯一の例外である(序章、p3)

    ・アメリカがなぜ大きく伸びたかというと、世界中から移民を受け入れ若く貧しく、しかしひたすら働く意欲だけは有り余るほど持った人達が大勢入ってくることによって内需主導で伸びてきかから。欧州の大国が軒並み植民地主義で外に出て行ったのとは対照的であった。さらに天然資源の埋蔵量の偏りと、科学技術の進展の絶妙なバランスによって、植民地帝国を樹立するのではなく、自国内のエネルギー効率の高さで世界の最先端を切り開く国に成長していった(序章、p36)

    ・石油さえ枯渇しなければ自動車文明は安泰だとも言い切れない重要な2つのポイント、1)自動車の販売台数が、原油価格が下がっても2016年の1755万台をピークに減少し続けている、2)成人一人あたりの年間走行距離は、2000年代半ばをピークにガソリン価格が下がっても減少し続けている(序章、p41)

    ・電気や水素で動かす車の最大の問題は、再生可能エネルギー源による発電も、電気・水素を動力源とした自動車も、化石燃料より遥かにエネルギーを浪費することである(8章、p319)あまりの高コストに悲鳴をあげて、世界一クリーンで安上がりなエネルギー源である「天然ガス」の積極利用に戻るだろう。その結果実現する社会は、多分現代日本の大都市圏がそのまま世界中に広がった姿に似ているだろう(p320)

    ・地上1.2-1.5メートルの所に設置された気温測定装置は、特に北半球の人口密集地帯や幹線道路沿いで顕著に上昇している。それは個人家庭に冷房が普及し、ほとんどの自動車に冷房が標準装備されただけで説明できる。温度を上げる技術はいろいろあるが、上げる技術は存在しない。温気を冷媒で固めて別の場所に置き換えるだけ、冷房が普及するほどエアコン室外機、自動車の排熱により薄皮一枚程度の気温は上がる、しかし、地上9-17キロに及ぶ対流圏全体や海水温が、地表の温度同様に温まり続けている兆候はない(p323)

    ・設備能力をフルに活かせると仮定すれば、太陽光発電や風力発電は安上がりである、太陽光は原子力の44%、風力は25%で済むことになる、だが原子力発電所の稼働率は90%、太陽光は9.5%、風力は16.6%である、稼働率や想定稼働年数を考慮すると、原子力は有利となる、太陽光なら原発の10.4倍、風力は3.4倍である(p325、326)

    ・天然ガス発電は現在存在するあらゆる発電法の中で一番一次エネルギー源から電力への変換効率(65%程度)が高い、複合発電である。これは、ガスタービンを回すときの排熱を水を沸騰させて蒸気タービンを回すために使って発電量を増やす方法である(p328)

    ・テスラが最近当期損益で黒字になったが、電気自動車を売るたびにエンジン車を一台売る権利をもらっているが、その権利を他の自動車会社に売っているから、本業が振るわない理由は、価格が高く、一回の充電での走行距離に誇大宣伝をしていて、しかも事故が起きた時の人体へのダメージが大きいから。総重量を抑えるために、本来なら堅牢な金属にしなければならない部品をプラスチックにして軽量化している(p333)

    ・クルマ社会が死滅するからといって、自動車という輸送ききのあり方全体が衰退するわけではない、シェアを拡大し続ける分野として、軽自動車・トラック・オートバイ・スクータといった、平和国家として再生した日本が守りつつけた分野で実用性を重視した分野である。大きく衰退するのは、自家用大型乗用車、アメリカのビックスリーが得意として、利益率が大きかった分野である(p337)

    ・ただし、トラック・二輪車・軽自動車部門を始めから持っていなかった企業や、系列化の他企業に移管してしまっていたり、部門丸ごと他の自動車メーカに売り渡してしまった企業の地位は下がるだろう。トヨタのトラックは日野からの技術導入だろう、日産は日産ディーゼルをボルボに売却、今はUDトラック、軽自動車はOEMにしてしまった。(p339)

    ・トヨタという会社はかなり運の良さに助けられた会社なのに世間では過大評価されている、かんばん方式がなぜ成立したかというと、東京・大阪圏で工場の新設・増設ができなかった時代に、名古屋の自動車会社だったから、名古屋周辺の広い道路を使って資材の搬入や製品の搬出が自由にできた要因が大きい。同様に浜松に本社のあったホンダ、スズキも極度に圧縮した在庫管理ができた。(p340)

    ・1950年代半ばでトヨタと日産の間で工場網建設の計画性に雲泥の差がついていた、日産は自由に主力工場の増設・下請け工場の結集ができなかった、その時点では数年の遅れで済むはずの差であったが、1959年に東京圏で、工業等制限法、1964年に大阪圏で、工場等制限法が施行されて、この二大都市圏で工場、大学の新増設が一切禁止された(p341)この法律が撤廃されたのは、2002年である(p357)

    ・営業の最前線では数値目標は非常に重要である、しかしトップがコミットメントしてはいけない、組織というのは、数値目標を掲げた途端、それを達成するためだけに突き進むことになる。短期的には効果があるかもしれないが、続くわけがない(p352)

    ・高度経済成長が、安定成長・低成長・ゼロ成長、そしてマイナス成長となった理由は明確である、それは経済成長の原動力とも言うべき「都市化」がストップしたから、三大都市圏への流入人口の激減した。本当に労働生産性を高めたかったら、人を生産性の低い地方に押し留める政策は取るべきではなく、人口移動奨励策とまではいかなくても、地方から三大都市圏への人口移動の邪魔をしない政策を取るべき(p363)車社会化した欧米では、道路渋滞がボトルネックとなって90%を超える人口都市化は非現実なのに対して、鉄道網がある、東京・大坂圏内ではその都市化にも十分対応可能である(p363)

    2021年9月12日作成
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    投稿日:2021.09.12

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