【感想】国宝 下 花道篇

吉田 修一 / 朝日文庫
(62件のレビュー)

総合評価:

平均 4.5
34
18
6
0
0

ブクログレビュー

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  • まる

    まる

    このレビューはネタバレを含みます

    圧巻の幕引き。喜久雄の芸は人智を超えた域に達し、美そのものに成った。私も心のなかで「三代目!!」と万感の拍手を贈る。
    この物語では色々な叫びを共に経験したように思う。仇への恨み、子を喪う哀しみ、病の苦しみ、嘲笑の悔しさ、報われる嬉しさ、生きる上で味わい得るあらゆる感情を揺さぶられた。そうされることで、2重写しになった歌舞伎という芸能との距離がグッと近くなる。演目の内容を知っただけではチグハグだったり納得出来ない話しでも、理解が及ぶ時代の流れと重ねると表現されたものの意味が拾えるようになる。是非出てきた演目の何かを観劇したい。
    徳次との再会がどうなったかは知りたかったところだけれど、徳次ならずっと弁慶を貫いてくれるだろう。


    芸能オンチの私でも「これはあの人か…この事件はあれか…」とモデルがチラチラ浮かび、まさに自分が「世間」という立場の人間である事を突きつけられる。竹野の大衆心理の掴み方は、メディアに視線誘導され、また無責任に人を追い込む大衆としての自分を意識させる。時代が変わってゆく中でどう「芸」を極めるか。公人に対して完璧以外を認めない姿勢を改めて、私は「芸」を見つめたいと思った。
    書籍は購入した。あとがきもとっても分かりやすく、理解が更に深まる。
    先にAudibleで聴いて本当に良かったと思う。歌舞伎素養の無い私には、セリフの字面のみではこの世界観を想像しきれなかったし、映画やドラマだけでは作り手の解釈の影響が大きく、大作であるからこそ複雑で重厚な物語を取りこぼしてしまう。数々の人物を1人できっちり演じ分け、声だけで歌舞伎の舞台を与えてくれた、朗読の尾上菊之助さんにも拍手と感謝を。AERAのインタビュー記事も良かった。
    映像も観たいから映画も絶対に見る。難しいだろうなぁ。吉沢くん頑張って!

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    投稿日:2024.04.10

  • MASIA

    MASIA

    出奔していた、白虎の息子・俊介が戻ってきたことで、悪役とされた、3代目半次郎。
    不遇により歌舞伎界から新派へと…

    半弥こと俊介とともに女形として、認められていく…
    そして、俊介の死…
    女形としての歌舞伎役者の道を極める3代目半次郎。

    3代目半次郎の波瀾万丈の人生。
    父の死から始まり、歌舞伎界へ。
    2代目半次郎の死により後ろ盾を失い、不遇に。
    出奔していた俊介の復帰、後ろ盾を期待した彰子との結婚でも不遇は続く。
    それでも芸の道を離れようとはしない3代目半次郎。
    芸をさらに極めようとする半次郎の思いに胸が熱くなる。
    芸がうまくなるためなら、何を失ってもいいと…

    父の仇、辻村の告白にも冷静でいれたのか…

    徳次の成功には胸が熱くなった。
    徳次は市駒と結ばれるのかと思ったが…

    喜久雄と彰子の間に子供は授からず…
    綾乃の存在や、一豊の存在がそうさせたのだろうか…

    ひとりの歌舞伎役者の大河ドラマを観ているようだった。

    ちょっと詰め込みすぎたような気も…


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    投稿日:2024.04.07

  • Limei

    Limei

    もう圧巻の一言につきます
    作者の独特な語りに、歌舞伎の世界に、歌舞伎役者の人生に、取り憑かれたかのように読み耽りました。
    こんなに深く引き込まれる読書体験はなかなかないかも、と思うほどに。

    任侠の世界。
    歌舞伎の世界。
    そしてラスト〜、どう受け止めたらいいの。
    人生ってしんどいな、そんなふうに思いながらずっと読んでいたけれど、登場人物たちのもがき苦しみながらも前に進む姿に、生きるってこういうことかと心にぐっときています。
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    投稿日:2024.03.13

  • かおちゃん

    かおちゃん

    花道編
    歌舞伎の芸道を極めようとすればするほど孤独ぶりが際立っていく様が描かれていました

    物語のラストがとても印象的
    三代目花井半二郎の舞台、本物の役者に彼はなったんだろうか…



    投稿日:2024.02.25

  • 檀

    このレビューはネタバレを含みます

    2024.2.14 読了


    たくさんの悲しみを背負うほどに歌舞伎役者として際立っていく喜久雄の孤独を知りながら周りの誰もそこに触れることができないやるせなさ。
    徳ちゃんがもう少し早く戻ってきてくれていたら何かが変わってただろうかと思わずにはいられないけれど
    それでも喜久雄は永遠に幕が下ろされることのない舞台へと旅立っていったのかもしれないなと哀しいのにどこか清々しささえ感じさせる最期でした。
    万菊の最期も印象的でした。何もかも捨てたつもりでもやはり最期は希代の女形六代目小野川万菊として逝かれたのだなと。
    歌舞伎に魅了され命を削りながら舞台に立ち続けた喜久雄や俊介たち。その世界がどれほど魅力的なものなのかもっと知りたいと思いました。

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    投稿日:2024.02.14

  • TK

    TK

    凄まじかった。
    戦後の日本、敗戦からの復興を目指しなりふりかまわず這いあがろうとした時代。
    登場人物たちも同じく過酷な環境からもがき続けていた。
    そこに周囲への配慮など一切ない。
    生きるか死ぬか、食うか食われるか。
    ただひたすらに自分が選んだ道を突き進んでいた。
     
    主人公・喜久雄の魅力はどんなにひどい目にあったとしても、あくまで芸を磨き続けていたこと。
    人にとり入るような愛嬌や要領の良さはないが、歌舞伎にかける思いは誰にも負けない。
    産まれや環境にハンデはあったが、それを恨んだり言い訳にしたりしない姿は、ただただ立派だった。
    何度も窮地に立つ喜久雄だったが、常に誰かが味方をしていたのはそんな姿に惹かれていたからに思える。
    特に、幼少時代からずっと喜久雄を支えた徳次の存在は後半になるにつれ際立っていた。
    初めは『なんだこの腰巾着…?』と、ドラえもんで言うスネ夫のように思えていたが、後半にはすっかり喜久雄の相棒、正に義経にとっての弁慶のような存在だった。
    作中誰もが自分のことでいっぱいいっぱいの中、徳次だけはいつも喜久雄を想い、味方であり続けていた。
    喜久雄にとって徳次かどれだけ大きい存在だったかは、終盤に「徳ちゃんだけはずっとおれの味方」という言葉にも表れている。
    父親、友人、恋人、師匠、愛人、娘、弟子、妻に至っても真に喜久雄の味方であり続けられた人はいなかった。
    国宝という高みに登りつつも、そこは他者を寄せつけない孤独な世界だった。
    最後に徳次が、喜久雄を現実に引き戻してくれたのか。
    どちらかでも良いからこそ、描かれてなかったと思う。
    どんな結末でも、最後に2人がそこにいればハッピーエンドなのだから。
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    投稿日:2024.02.13

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