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トリイ・ヘイデン, 入江真佐子 / 早川書房 (15件のレビュー)
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総合評価:
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ミラク
このレビューはネタバレを含みます
タイトルの通り、様々なうそをつく少女ジェシー九歳の物語。 ジェシーはグループホームで暮らしている。両親はジェシーが放火事件を起こしたことで、「一緒に暮らしたくない」と訴えジェシーは家庭から離される事になった。 そのグループホームへトリイはボランティアとしてセッションをしながらジェシーに関わる。 大筋はこんな感じ。 トリイは今までの作品と違って、ボランティアとして関わるので細部が若干、『わからないまま』物語が進んでいく。特にジェシーの両親は後半を過ぎてからチラリと出てくるだけで、前半はジェシーやスタッフであるメレリの言葉や記録を見てという情報しかない。 そして、繰り返されるジェシーの嘘の数々。それだけではなくて、場を支配しようとするパワーゲームがトリイとのセッションで毎回行われる。 正直、読んでいるだけで疲れる。九歳の子供がこんなだったら……と思ったが、うちの九歳児もここまで酷くないだけで似た点は多々ある。 嘘をついて、自分が上位に立ちたいと思うのは、別に子供に限らず誰にでもある。 ただ、ジェシーの嘘はとことん人を追い詰める悪質なものもある。前半はとにかくジェシーの嘘が繰り返され『ジェシーは嘘をつくが、それこそが問題の本質である』と書かれている。 そして、本の中間地点で大事件が起こる。 『男性スタッフが私の大切なところを触ってきた』とジェシーが告白したのだ。 子供の話を受け流す時代は終わっていた。正確な年代は書いてないが、恐らく1990年代ごろではないかと後書きに書かれていた。 ジェシーの告白で男性スタッフも、ジェシーもそのグループホームにいる事は出来なくなった。 日本が子供の性被害にどれだけ敏感なのかは知らないが、アメリカやイギリスでは子供の告白に対処するための仕組みがあるらしい。 ジェシーがホームからいなくなってしまった事で、一旦、トリイとのセッションも中断される。 その後、色々あって、ジェシーとのセッションが再開され、ジェシーも里親の元で上手くやれずにホームに戻る事になる。 すでにお腹いっぱい。 物語の造りがうますぎて、うさん臭さすら感じてしまう。以前はここまで劇的な物語の造りにはなっていなかったような。と思い始めてしまった。このケースはたまたまこのように『上手くいった』というものなのだろうか? それとも、上手くいかなかった部分を端折って物語として魅力的な部分だけをピックアップしすぎているのだろうか。 とにかく物語としては面白いのだが、面白いだけに『結末』を期待しすぎてしまう。大丈夫なのだろうか……という気にさせられた。今までの作品は『問題だけが残り、結局何も解決できなかった』というようなものもある。結局、そっちに向かうのだろうか?とも、考えてしまった。 物語に戻る。 ホームに戻って再開したセッションもジェシーの嘘やめちゃくちゃな行動が、毎度毎度おきる。その中で少しずつ、見え隠れする事実が混ざっていく。 最終的にはジェシーに性的加害を加えたのは姉だったと発覚する。その姉もまた両親のネグレクトとさらに上の姉たちからの虐待に苦しんでいた子供だったという事実が明らかになる。男性スタッフが触ってきたというのは嘘というのも発覚。 姉妹間の虐待の連鎖が根底に転がっていたと分かり、物事は急速に収束していく。 最終的には十年後のジェシーから『世界中を飛び回っている』と手紙が来たところで終わる。 この最後の手紙には「日本にも行った」というような事まで書かれているのだが……さすがにこれは翻訳される国ごとにその国の名前を入れているのでは?と思ってしまった。 そんな感じで、所々がちょっとなと思う点はある。 でもそれを抜いても、『面白い』と思えた。 『昔はこんな風に子供に接していた。今はこんな風にしなくてはならなくなった』という話も興味深い。最初の作品『シーラという子』の時代は本当に手探りで、何も確立してなかったのだなと思った。 物語が上手くいきすぎている点は気になったし、男性スタッフは人生をめちゃくちゃにされているし、ジェシーを虐待したお姉さんもその後どうなったのかは分からない。 「お姉さんは大人なのだから」というトリイの言葉一つだけなので、それなりの罰則があるのかそれとも福祉に繋がるのか謎である。 発覚時は大人でも虐待を行っていたのは子供時代の場合はどうなるのだろうか。 いろんな事が複雑すぎるのに、最後が『いい感じ』で終わってるのは、物語に寄りすぎな気がする。 うーん。何だろうか。 以前までの物語の印象では『家族丸ごと』な話が多かったような気がしたので、今回の「うそをつく子」はジェシー一人だけに光を当てすぎているような気がしてしまう。特にお姉さんなんて問題が起きるまでは、「面倒見がいい子だった」という両親の言葉やジェシーの「あんな人嫌い」という極端な話でしか出てこなかったのに、最後にいきなり光が当たっている。 家族の問題の物語としては、家族が薄くて……ちょっとイマイチな感じ。 ただ、タイトル通り『うそをつく子』として考えると、「なぜうそをつくか」にずっとライトが当たっていたと思う。 ジェシーが主人公なわけでもなく、『うそ』が主役だった。 そういう点では少し不満。
投稿日:2024.02.28
山根 愛
信頼できる大人にいうのが正しいのよ。 ものごとは決してよくならないという気になるときがあることは分かってるわ。でもね、たった一つでも本当のことから始めれば、そこから取り組んでいけるのよ。 本当のことを…いうことが、あなたにとって安全な選択とは感じられないのは気の毒だわ。 本当のことをいう努力をしていきましょう。 誰もが幸せになりたい。誰もが愛とつながりにあふれた充実した人生を送りたいと思っている。不幸になることを選ぶ人などどこにもいない。もし自分がやっていることのせいで誰かが不幸せだとしても、それは最初から意図した結果ではない。どんな理由があるにせよ、自分がやっていることが気分をよくすることに役立つと思っていたのだ。 自分を不幸にするためにわざとそんなことをしたわけではない。ただそのときにそれ以上のことができなかっただけなのだ。 状況を変えるためには、非難するのではなく支援するほうに焦点を変えなければならないのだ。続きを読む
投稿日:2023.11.14
neudeggergasse
望まれずに生まれてきたがために、愛情を受けることなく幼少期を過ごし、子どもらしからぬ嘘をつくことでしか生きていられなかったジェシー。心底同情したくなる一方で、こちらの信頼を損ねるような態度と出来事が続…きまくったら、愛情を注ぎ続けることは困難になりそう。諦めることなく心を砕き続けた筆者には脱帽。ジェシーの嘘で人生の一時期冤罪を背負わざるを得なくなったジェームスがその後立ち直っていることを心から願う。そして、ジェシー自身が、嘘をつくことなく今生きているのかどうか気になる。負の連鎖が生まれていないことを切に祈りたくなる。続きを読む
投稿日:2023.08.12
りか
高校の頃から好きな作家さんで、久しぶりの新刊をワクワクしながら読みました。 色んな家庭環境がある中、あってはならない環境に身を置いている人は想像するよりもずっと多いです。そんな環境から身を守るためにこ…じれた子どもがトリィや周りのスタッフに支えられながら、新しい自分の居場所を見つけていくところが好きです。その子の本当の気持ちや、恐怖心はどこから来るものなのか、推理しながら読んでいます。続きを読む
投稿日:2023.06.30
よんだ
全作品読んできた大好きなトリイ・ヘイデン16年ぶりの新刊。 初めて読んだ「シーラという子」から変わらないトリイが読めたことに心が震える。 暗闇の中1人で苦しみと戦わざるを得なかった子供が、トリイと出会…い光溢れる世界の入り口を見つけた瞬間の笑顔の描写は何度読んでも感動してしまう。 解説が信田さんという所もまた素晴らしい。 訳者あとがきに書かれていた新作の出版が楽しみ。続きを読む
投稿日:2023.03.29
モリヒロ
トリイがウェールズに移り、ボランティアとして1人の女の子を相手にセラピーをする話。 ジェシーは日常的に嘘をつき、周りの人々をあらゆる手段を使って困らせてしまう。ジェシー自身の心の苦しみが伝わってきて、…やりきれない気持ちになってしまうことがあった。 そんなジェシーに対して献身的に、愛情深く接するトリイ。ボランティアという形でなければ、もっと色々なことがトリイならできたのではないかとも思った。でも、少しずつジェシーにとって良い方向に事が運び良かったと思った。 そして現在、ジェシーが幸せで精神的にも楽になっているといいなと思う。続きを読む
投稿日:2023.02.17
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