【感想】誰ひとり取り残さない 住民に伝わる 自治体情報の届け方

佐久間智之 / 学陽書房
(2件のレビュー)

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  • すいびょう

    すいびょう

    【感想】
    公務員の広報が、他の企業の広報と違うところは2つあると思う。

    一つ目は「網羅性を求められる」ということだ。
    公務員がターゲットとしているのは「住人」であるが、当然ながら、住人の間に差をつけてはならず、一人も取りこぼしてはいけない。そのため、検診や講習受講、イベントのお知らせなど、さまざまなジャンルのどれでも全ての人を対象としなければならない。

    本書でも述べられている通り、広報のコツはターゲットを絞ることだ。ペルソナ分析をし、年齢層に合わせた広報媒体をチョイスする。大切なのは情報の届け方にメリハリをつけることであり、それは民間企業でも公務員であっても同じである。
    しかし、この意識をなかなか持つことができない。老若男女が住む「街の全て」が公務員の市場である以上、「買いたくない人には売らない」という選択が不可能なのだ。

    この「網羅性」が役所の広報をダサくしている。「なぜこの情報を発信していなかったのか」をとがめられるのが公務員の性質であり、それが注釈だらけの広報誌やパンフレットを生み続けている(無駄な情報ばかりを発信していて、大切な情報が目に留まらなかったなら、それは発信してないのと同じだと思うが……)。

    二つ目は「説明責任を求められる」ということだ。
    例えば、とある人気女優を使ったポスターを作ったとする。
    そこで上司から尋ねられるのは、「使うにしても何故この女優なのか」という疑問だ。(現在では広告代理店に委託することが多いため、自分たちでチョイスすることはなかなかないと思うが)
    若者に人気がある、CMによく出ている、現在売り出し中である、という漠然とした理由では弱い。上司に「それならば違う女優でもいいじゃないか」と突き返されるのがオチだ。
    対して、強い理由としては、「同じ県・街の出身である」ことが挙げられる。他にも「インスタグラムやツイッターのフォロワーが〇〇万人いるため、△△人への宣伝効果が期待できる」といった定量的な理由が強いだろう。

    そうしたデータ分析は当たり前じゃないか、と思うかもしれない。
    しかし、ポスターに使うのが女優の写真ではなく「イラスト」だったらどうだろうか。

    イラストに、「このデザインでなければ不可能な理由」なんてない。ポップなデザイン、文字だけのデザイン、近代アート風のデザインなど、作り手の主観によって多様な選択肢が生まれ、どれか一つが正解なんてありっこない。しかしそうだとしても、少しでも説明可能なデザインであることが求められる。
    それは何故かといえば、上司や議員から「どうして今回これにしたの?」と問われたときに、少しでも説得力を上げるためのエビデンスを求めているからなのだ。

    ほとんどの役所では、こうした詰問に対して一番楽な選択肢を選んでしまう。
    そうしてできあがるのが、おなじみの「前例踏襲」なのだ。

    網羅性と説明責任、この2つが作用し、公務員の広報の幅はかなり窮屈なものとなっている。
    大切なのは、理屈を超えた「センス」を持ち、「良さ」を言葉ではなく感覚で捉えられる上司がどこまでいるか、にかかっているのではないだろうか。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

    【本書のまとめ】
    1 行政にありがちな広報
    ●逃げ道を作りすぎて注釈だらけ、何が言いたいのかわからない。
    →本質だけを伝える
    ●情報を発信することが目的になっている。
    →広報はあくまで手段。目的は住人を惹きつけること。
    〇〇さん!こっち見てください!といった「相手に届ける広報」を意識する


    2 企画
    インターネット時代の情報シェアプロセスは、従来の消費者的プロセスではなく、「共感」と「シェア」が挟まることになる。まず住民に共感を与え、自分ごとにさせ、「情報をシェアしたい」という気持ちにさせる。

    ●どの成果物を作るのか
    アナログ媒体→高齢者に刺さる
    ・広報誌
    ・掲示物、チラシ 
    デジタル媒体→若者に刺さる
    ・ホームページ
    ・SNS

    大切なのは、やって終わりにしないこと。各メディア(オウンドメディア、アーンドメディア、ペイドメディア)の性質を知る。発信したあとは効果測定をし、数字が伸びない理由を探る。


    3 媒体
    ・思い切ってターゲットを絞ってみる。すべての人に届けようとせず、仮想の人物像を設定して対象を絞る。
    ・文字を最小限にしてノイズを減らす。
    ・メリットだけではなくベネフィットも情報に加える。これにより、住民の当事者意識を向上させ、情報に引き込むようにする。
    (例)
    メリット→給付金により10万円がもらえる
    ベネフィット→そのお金で日々の不安が少し解消される


    4 作成
    ・広報誌の表紙は、情報の核心となる「お知らせ欄」へ誘導させるための近道である。つまり、まず手に取ってもらいたくなるような見やすいデザインにすること。
    同時に、お知らせ欄のわかりやすさが、その自治体の広報力になるため、分かりやすいデザインや文字にすること。

    ・CMSであっても、ブラウザをグーグルクロームにすれば、デベロッパーツールを使ってスマホ表示をお試しできる。


    5 ナッジ
    行動分析の手法を取り入れる。
    バーナム効果:敢えて曖昧な表現を使うことで、当事者化を促す
    ベビーフェイス効果:赤ちゃんや子供の写真、曲線を使うことで優しい印象を与える
    バンドワゴン効果:「周りがやっているから自分もやらないと」という気持ちにさせる
    (例) 「〇〇でお困りの方がお使いいただいています」


    6 発信
    ・病院の待合室は暇なため、意外と広報誌が読まれる。医師会と連携して広報誌やポスターを掲示してもらえるとよい。
    ・お金に関する郵送物は、封筒を目立たせる。外は目立たせながらも、すぐ振り込んでもらえるように、内容物はシンプルにしたほうがいい。
    ・自治体のイチオシ、必ず見てほしい情報はバナーで表示する。一目で情報がわかり、クリックしたくなるようなバナーデザインにする。
    ・アナログとデジタルをつなぐ「クロスメディア」を導入する。チラシには最小限の情報とQRコードを入れ、より深く知りたい人へウェブサイトへの導線を引く。


    7 分析
    ・SNSを使っている場合は、エンゲージメント率を分析する。得たデータから見られた/見られなかった理由を分析する。
    ・SNSをやることは目的ではなく手段と心得る。
    ・ウェブサイトを運用している場合は、グーグルアナリティクスを使えば、サイトにどのようなプロセスで来たのか、なんの検索ワードで来たのかを辿れる。
    ・広報誌をデジタル配信していれば、毎号、閲覧数や閲覧時間、閲覧ページのデータ抽出ができる。

    大切なことは、「アリバイ作りの情報発信」で終わらせないこと。
    そして、広報部署だけではなく、公務員一人ひとりが広報に携わる人材だという意識を持つことである。
    続きを読む

    投稿日:2021.05.14

  • yoichiokayama

    yoichiokayama

    アリバイ作りの情報発信、言い訳のための情報発信方法など、自治体目線の情報発信は、まだまだ多いかもしれません。
    行政は、一人ひとり確実に情報を届けることが重要です。
    アナログ、デジタルを使う広報手法や、情報を受け取りやすくする方法などが満載です。
    本書自体が、「伝わる情報の届け方」の見本になっています。
    デザイン性も高く、読みやすく、すぐに役立つ本です。
    続きを読む

    投稿日:2021.03.05

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