【感想】五輪と万博

畑中章宏 / 春秋社
(3件のレビュー)

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  • kuma0504

    kuma0504

    五輪と万博の歴史をこうやって観ると、この100年間に都市の妖怪(土神?)が、名誉や欲に駆られた日本人を陰で翻弄してきたような絵が浮かび上がる。民俗学者・畑中章宏さんは一切そんなことを書いていないが、私にはそう読めた。以下、印象に残った事柄を要約して紹介する。

    1936年、五輪ベルリン大会が開かれていた時、柔道の嘉納治五郎IOC委員が演説をして4年後のオリンピック東京大会が決まった。日本は関東大震災からの「復興五輪」を唱えていた。

    代々木公園の辺りが一旦はメインの競技場に想定された。当時は「春の小川」という童謡がここで生まれたような、武蔵野の一部、牧歌的な風景が続いていた。

    同時期、月島と横浜を会場に1940年万博が計画された。月島から晴海、豊州にかけて湾岸埋立がなされ勝鬨橋が作られていた。しかし、戦争が二つの大会を中止に追い込んだ。明治神宮競技場は学徒動員の舞台になった。1940年の五輪と万博は幻に終わった。

    1964年の五輪は、「戦争からの復興」が掲げられ進められた(59年ごろ)。が、まだ復興していないという意見も少なからずあった。61年、選手村を朝霧米軍駐屯地にするか、代々木のワシントンハイツ(現在代々木公園辺り)にするかで二転三転。(←米軍の振り回し、そして忖度。豊洲移転の時もそうだが、役人は普通の仕事ができない)64年夏には、極端な雨不足に陥った。8月には遂に貯水量が2%を切り「東京砂漠」という言葉が生まれた。突貫工事で荒川から水を引き入れ10月に間に合わせた。(←果たして現在の日本で5月、そんな神業的なことができるか?)因みに、61年の『モスラ』は水が枯渇する奥多摩湖・小河内ダムに出現し、米軍横田基地を経て、渋谷へ、そしてオリンピック工事中と書いたミニチュアを壊す。脚本の中村真一郎、福永武彦、堀田善衛の批判精神の現れだろう。

    (五輪で大金を使う旨みを知ったのか←私論です)64年2月に70年大阪万博を行うことを閣議決定する。会場の千里ヶ丘はかつて村らしい村もなく、有数の桃と筍の産地だった。

    オリンピックを終えた東京では、高度成長による歪みが露呈していた。都政では、公害問題、開幕直前の水不足問題、都議会黒い霧事件等々である。67年の都知事選挙で自民党は負けて、美濃部都政が誕生した。

    千里ニュータウンは、万博に先立つこと65年には人口が3万3000人となり、日本一のマンモス団地に成長していた。阪急千里線開業(63年)、北大阪急行開業(70年)近畿自動車道開通(70年)と、急速に都市化。わずかに千里中央駅南の豊中市上新田1-4丁目は現在も昔の面影を残している。

    大阪万博総入場者数は6千4百21万8770人。日本人口の6割以上が移動した(←私も岡山から親戚の家泊まりがけで移動しました。長いこと並んで2-3しか見れなかった)。2010年上海万博までは最多の入場者だった。万博史上初めて黒字を計上した。この成功体験もう一度と、その後税金を使って万博が雨の子たけのこ開催される。

    美濃部後の鈴木都政は新宿新都庁をつくり、臨海副都心を開発した。副都心は1940年の万博予定地と重なる。箱もの行政と批判されて、青島幸男都知事就任の後、肝煎りだった都市博は幻となった。お台場の会場跡地にはフジテレビ本社が建った。(←少なくとも副都心の五輪会場は今回も幻に終わるのか?)

    東京ではその後復興五輪が掲げられて20年にオリンピックが予定されていたが、延期になった。2025年に大阪夢の島で万博が予定されているが、もはや五輪も万博も、開発の起爆剤を求めていない。

    本書は五輪に対して宙ぶらりんのまま、20年6月に筆を置いている。今の段階では東京五輪があるかどうかはわからないけど、後2年後に加筆して是非とも文庫本を上梓して欲しいと思う。
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    投稿日:2021.03.24

  • Gleam

    Gleam

    TOKYO2020があるのかないのか分からない今、改めて「いだてん」には描かれていないリアルな部分を読み返した。駒沢や台場の整備の変遷などもわかって面白い。21世紀、五輪とか万博ってこれから担い手いるんだろうか。続きを読む

    投稿日:2020.11.03

  • けいちゃん(渡邉恵士老)

    けいちゃん(渡邉恵士老)

    競技としてのオリンピックや選手、あるいはその経済効果などに着目した本は数多くあるが、本書のように五輪と万博というイベントを巡る社会史を、その関わった土地の歴史とともに記した本はなかったのではないだろうか。
    1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博だけではなく、幻の1940年の東京五輪・東京万博や、後日譚としての1996年の東京の世界都市博覧会まで一気通貫で描かれており、各イベントの前後で社会がどのように動いて行ったのかがとてもよく分かる。
    そして、2020年の東京五輪。コロナ禍によって1年延期となったが、それが今後どうなるのか。
    本書のⅤ章はまさに現在進行中の物語であり、そのライブ感もあり非常に興味深い内容であった。
    2021年がどうなるかは分からないが、後年の歴史家が2020年代を研究する際には、本書は2020年の空気を伝えるのにとてもよい資料になるのではないだろうか。
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    投稿日:2020.09.13

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