【感想】学校の「当たり前」をやめてはいけない! 現場から疑う教育改革

諏訪哲二 / ボイジャー
(4件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • まいまゆ

    まいまゆ

    わたしは公立中学校に17年勤めており、現在3年生の担任兼学年主任をしている者です。工藤氏の著書は既読しております。わたし個人の感想としては、本書の著者である諏訪氏の意見に頷ける部分もあるものの、若干工藤氏の主張に分があると感じています。その前提として、今の学校教育の現場は、遠くない未来に破綻するという実感があるからです。諏訪氏の現場感覚は素晴らしいのですが、彼の主張を裏付ける体力が現場にはもうありません。一番顕著なのは、担任制です。担任は確かにやり甲斐はあるのですが、その重責に耐えきれず、休職してしまう教員が後を断ちません。さらに、その代替教員は補充されることはありません。その結果、残された教員たちは疲弊し、子ども達への指導が不十分になります。なら、最初から全員担任制をひき、責任を分散させる工藤氏のやり方は理に適っていると感じます。諏訪氏の意見で頷けたポイントは、教育に方程式はなく、生徒は一人ひとり心の通った「個」未満の存在であるということです。学校生活での経験を積んで、近代社会の生活に適応していくのだと。(自律と自立のくだりは屁理屈のように聞こえましたが…。)いずれにせよ、工藤氏の理論が上手くいくかどうかは分かりませんが、現状維持では学校が立ち行かなくなることは明白です。「学校の当たり前」を変えていく時期なのではないかと思います。続きを読む

    投稿日:2023.12.12

  • ぷりん

    ぷりん

    本書は、書名を見ての通り、"学校の「当たり前」をやめた。 ― 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革」(工藤勇一 著)"を徹底的に批判する立場で書かれたものです。伝統的な学校教育の良さを説き、現在進んでいる学校のスリム化の流れにある教育改革について批判的に論じられている内容となります。

    冒頭で、学校教育の役割を「人間形成」と「人材養成」という視点を提起して、人間形成は勉強(学び)が自他のため、人材養成は自分のためだけ、利己的であるものと定義づけてから話が始まります。そして、今行われている教育改革が、「人間形成」重視から「人材養成」重視に転換するものとしてとらえています。

    著者は「人間形成」教育は「自他の利益」「強制性」「保守的」「集団主義」「理想的」、「人材養成」教育は「利己主義」「子ども中心主義」「開明的」「現実的」「経済中心」「合理主義」と考えていらっしゃるようでした。

    内容とは離れてしまいますが、「批判元となる書」も著者の経験や実践から導かれた考えを中心に書かれてありますが、本書もそのような内容でした。経験則が中心ですので、論じている内容の科学的根拠やそれによってどのような効果が見込まれるのかといった考察はほとんどありませんでした。ただ、両書を比較しながら読むことで、批判的な書籍の読み方、主張が感覚的なものなのか科学的なものなのかの分析などが身につき、本を読むとその著者の考えにすぐに引っ張られてしまう人には、批判的に本を読むとはどういうことなのか学べると感じました。どちらの著者も現場経験(管理職経験を含む)、教育行政があり、教育に対する熱意と経験はものすごく、それゆえ読み応えは十分にありました。同じような経験を積んだ両氏が学校教育について全く反対の考えをもつことになったことが面白くも感じられました。特に本書は相手の手の内を知った状態で書かれてある上、著者も現役時代に先鋭的な教育を心がけてきた経験があるため、批判がピンポイントでわかりやすかったです。

    個人的には工藤校長のお考えを少し誤解なさっている部分がある上、工藤校長の理念を片っ端から否定することに終始するというのは受け入れ難い部分もありました。ただ、伝統的な学校を維持することが子ども達のためになるのか、時代に合わせて学校改革を推し進めていくことが子ども達のためになるのか、「本書」と「批判元となる書」とを読んで比較することで、自分の教育についての考えを整理させてくれました。また、教育が何かの方向に突っ走ってしまったときに、冷静に俯瞰することの大切さを教えてくれました。
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    投稿日:2022.10.02

  • johntama

    johntama

     1年半くらい前に出て話題になった某書に対して、真っ向からもの申した1冊。なかなか読み応えがありました。

     最初に、学校教育の役割とは、ということで、著者の考えが整理されます。この論点が納得できないと、その後は読んでもよくわからない、ということになると思います。詳しくはフレーズに登録しておきましたが、「人間形成」と「人材養成」という筆者の造語で定義された、教育に対する根本的な考え方の違いを理解して読み進める必要があります。簡単に言えば、「人間形成」は、勉強以外に人格形成まで学校が担っているという立場で、この本では、現場がその立場ということになります。一方、「人材養成」は、子どもはすでに人格を保有しているため、自己の利益のために勉強するのであり、学校の役割は、その勉強を教えればいいという立場で、この本では、教育行政がその立場のようです。ちなみに、筆者は現場の代表であり、この本で反論されている某書の筆者は教育行政側の代表ということになります。

     さて、某書で「やめた」と書かれている「当たり前」には何があるのか。この本では、「服装頭髪指導を行わない」「宿題を出さない」「中間・期末テストの全廃」「固定担任制の廃止」を取り上げ、考察しています。やめたと言いつつ実際にはテストの回数は増えているとか、そもそも担任はクラスに固定しているから担任というのに、なぜあえて固定担任制というのかとか、そうした表面的なところから、そもそもその「当たり前」にどんな意味や価値があるのか、あるいは、「当たり前」をやめるために校長がどのようにそれを学校に持ち込んだのか、その手続きなどについても、某書を読み解きながら考察しつつ本書は展開していきます。

     面白かったのは、某書の筆者が掲げている「教育の原点」であるとか「最上位の目標」に対する反論です。私は某書も読みましたので、そのときは、某書の筆者があえて子どもや保護者にわかりやすい表現を使っているのかなととらえていましたが、本書では、教育の歴史的な経緯であるとか、最初にご紹介した「人間形成」と「人材養成」の整理で考察しています。特に、歴史的な部分は、私はよく知らない部分でしたので、興味深く読むことができました。

     某書を読んだ感想で、私は次のように書いています。
    「さて、この実践が、本当に未来からも評価される実践となっていくのでしょうか。それを確かめるには、もう少し長い目で見ていく必要があると思います。楽しみです。」
     教育というような、評価が難しいものを、いろいろな視点から論じることはとても大切です。某書のようなアプローチもあれば、本書のような考え方もあるわけです。私は現場の視点も教育行政の視点ももっているのですが、どちらの本も納得しながら読むことができました。ただ、この本の中にも、p.118「<出題範囲が事前に示されない>とわざわざ言い切っているところをみると、授業でやっていない内容と範囲も出題するというのが本意だろう。」というように、やや筆者の推測となっている部分もあるので、できれば、筆者と某書の筆者の直接対決、あるいは対談のようなものを聞いてみたいと思いました。逆に、今度は教育行政の立場から本書検証するような本がさらに出ると、盛り上がると思いますが、誰か出さないですかね。

    2020.9.29追記

    本の感想を送ったら、図書カードが当たりました。ラッキー
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    投稿日:2020.08.30

  • はる

    はる

    このレビューはネタバレを含みます

    工藤勇一氏が書いた、『学校の「当たり前」をやめた。』のアンサーブック。工藤氏の本を読み少なからず感銘を受けたので、しかし、本当にそんなにうまくいっているの?現場の先生の意見は?など気になる点もあり、諏訪氏の本も読むことに。

    真っ向対決。ガチで批判的。内容は、確かにそうかもしれないと思うこともあった。いい本を読んで、鵜呑みにするのは良くないという学びになったと思う。しかし、ここまでけちょんけちょんにする必要はあるのか。工藤氏の本に根拠がないというけれど、諏訪氏の方も根拠は示されていると思いません。現場経験の長さで自信があるのかもしれませんし、多くの先生と工藤氏の本について語り、批判的な意見に共感を得てきたのだろう。こんな意見もありますよーというスタンスならもっと受け入れられた気がするが、諏訪氏の口調?というか文調は、工藤氏へのリスペクトがない。現場経験があり、年長者として、当たり前にやってきたことにはこんなに意味があるんだよと語って欲しかった。そして、文章が難しくて、私にはわかりづらかった。しかし、じっくり読めば、工藤氏の言葉に対する解釈を、そういう考えもあるのかと思った部分もある。

    多くの人が対比して読めるようなわかりやすさなら良かったな。もちろん、私の理解力のなさもあると思いますので、あくまで個人的な意見です。

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    投稿日:2020.08.07

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