【感想】正義を振りかざす「極端な人」の正体

山口真一 / 光文社新書
(22件のレビュー)

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ブクログレビュー

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  • Take

    Take

    情報に触れる機会が多い現代社会。意図せずともSNSやメディアによる文字により炎上が起き、心を痛めて命を絶ってしまう人もいる。
    これまでの事象を実際のデータにより分析してメカニズムを紐解いた、教養としてすごくいい本だと思った。続きを読む

    投稿日:2024.02.10

  • yonogrit

    yonogrit

    836

    山口真一
    国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。1986年生まれ。博士(経済学)。専門は計量経済学。研究分野は、ネットメディア論、情報経済論、プラットフォーム戦略など。組織学会高宮賞、情報通信学会論文賞、電気通信普及財団賞、紀伊國屋じんぶん大賞(2017年23位)を受賞。他に、東京大学客員連携研究員、日本リスクコミュニケーション協会理事、海洋研究開発機構アドバイザーなどを務める


    なお、排外主義と関わらないためネット右翼ほど話題になることはないが、逆サイドのネット左翼と言われる人々ももちろんいる。このようなネット右翼とネット左翼は普段はそれぞれ隔絶され分離したコミュニティ・繋がりの中でコミュニケーションをしている。  しかし、ひとたび叩ける材料があればこぞって批判とも言えないような差別的な誹謗中傷をすることも珍しくない。当然両者が分かりあうのは困難で、ネットでの自由な議論によって政治的な妥協点を見つけられる可能性は、極めて小さい。

    アメリカにおける既存の右翼・保守思想に対する別の選択肢という意味で「オルト(alt)」という言葉が「右(right)」についた言葉。反フェミニズム、反多文化主義(排外主義)、反ポリティカル・コレクトネス、そしてレイシズムやミソジニーが特徴だと、駿河台大学准教授の八田真行氏は指摘する。

    例えば、極右の人は政治というテーマについて確固たる考えを持っており、自分の政治信条について強い想いを持っている。往々にして、政治に全然詳しくなくて極端になったというよりは、かなり調べており、そのうえで極端になっていることが多い。これはもちろん、反対の極左にもいえることだ。  一方、中庸な意見を持っている人は、それほど強い想いを持っていない。自分の考えを多くの人に伝えなきゃという使命感にかられるようなことはないし、そもそも当該問題に関心の薄い人も多いだろう。

    さて、ここまでは社会もネットも変わらない。しかしここから、ネットのある特徴が、ネットを「極端な人ばかり」にするのである。それは、ネットには「発信したい人しかいない」という特徴である。

    しかし、ネット空間ではそういうことはない。ネットはとにかく発信したい人が発信したいことを言う場である。仮に極端な意見や誹謗中傷的な発言をしたところで、それを止めるような司会者もいない。強い想いを持ったら、その強い想いのままに、何の気兼ねもなく次から次へと発信していくことが可能なのである。  そう、とどのつまりは、ネットとは「能動的な発信」だけで構成された、極めて特殊な言論空間なのである。

    しかし、SNSの自分のアカウントで好き勝手に極端な意見や誹謗中傷を垂れ流しても、それで嫌な顔をする人はいないし、遮る人もほとんどいない。たまに遮られても、今度はその遮ってきた見ず知らずの他人を攻撃すればいいのだ。ネットニュースやブログへのコメントも同様である。  実は、この「万人による能動的な発信だけで構成された言論空間」がここまで普及したというのは、有史以来初めてのことである。ネットが普及して情報革命が起こり、人類は未だかつてないコミュニケーション環境に晒されたのだ。

    能動的な発信だけで構成されている言論空間というのは、「極端な人」にとっては天国のような空間である。誰も自分の歩みを止める者はおらず、ひたすら自分の意見を世界中に、時には嫌な人に直接、書き込み続けられるのだ。

    そうすると、社会に大多数いるであろう中庸な人――他人の意見に耳を傾けられる人・ある物事や人について弱く支持している人・ある物事や人について不快に感じたり反対に思ったりしたが直接攻撃しようとまでは思わない人など――は、ネットの言論空間にはほとんどいなくなってしまい、代わって少数であるはずの極端な意見の持ち主が、ネットのマジョリティを占めるようになる。

    しかし第三者が自分の評価軸で内容をジャッジし、個人に対して誹謗中傷や批判を浴びせかけ、その人が社会的制裁を受けるまで攻撃し続けるのは、私刑(リンチ)と変わらない。

    そう、ほとんどの人は「悪いことしてるなあ」と思っても、わざわざそれをネットで本人に直接書き、さらに人格否定のような誹謗中傷や、個人情報の拡散なんてことはしないのである。そのハードルを越えて過剰に批判をするのは、まさに「極端な人」の所業なのだ。  そして「極端な人」が元気なネットは、過剰性を持つことが知られている。この場合の過剰性とは、制裁の過剰だ。学生がコンビニに迷惑をかけたからといって、退学や罰金などの罰を受けるだけでなく、長期間にわたりまともに社会生活を送るのが困難になるのが、本当に妥当な罰なのだろうか。「極端な人」によって制裁がなされるからこそ、過剰な結果を生み出してしまうのである。

    典型例が、「スマイリーキクチ中傷被害事件」だろう。これは、お笑いタレントであるスマイリーキクチさんが、女子高生コンクリート詰め殺人事件(5) の犯人であると誤解した人から、 10 年以上誹謗中傷を受け続けた事例である。

    大阪大学准教授の辻大介氏も似たような結果を導いている。辻氏の研究では、ネット右翼的な人は、ネット利用時間が長い(とりわけSNS利用時間が長い)傾向は見られたものの、年齢に特別な傾向は見られず、性別では男性が多かった。また、どちらかといえば年収800万円以上のクラスで比率が高かった。  いずれの事例も、研究結果も、ネット右翼が低学歴のひきこもりであったり、ネットに慣れていて時間もある若い学生であったりというようなイメージと相反するものだ。

    政治もそうである。右も左も、当然あるべきだ。そして、それぞれの意見を持つ人たちが、冷静に議論を重ねて合意形成を図っていくことはとても意義のあることだろう。しかし、極端に右になったり左になったりしてしまえば、相手を罵倒したり、人格を否定したりといった行為をして、全否定するようになってしまう。適切な批判と、頭ごなしに否定することは全然違う。ましてや人格否定は明らかに議論の域を超えている。

    一番重要なのは、我々自身が「極端な人」にならないことなのだ。そしてそれには、次の5箇条が効果的である。
    ① 情報の偏りを知る
    ② 自分の「正義感」に敏感になる
    ③ 自分を客観的に見る
    ④ 情報から一度距離をとってみる
    ⑤ 他者を尊重する  
    たった5つ。この5つを守れば、あなたはきっと「極端な人」にはならないだろう。以下、これらを順に見ていく。

    もしテレビの前で声を荒らげて批判しているとしたら、「極端な人」予備軍である。「自分はこの人たちと違って正しいんだから批判して当然」と思った時、あなたは正義中毒に侵されているのだ。  そういう時には、一歩立ち止まってみよう。自分はそれを批判できるほど常に立派な人間だろうか。最近批判ばかりしているけれど、自分は社会のために何をしているだろうか。客観的に自分の行動を捉え、我が身を振り返ることが大切だ。

    そして批判ばかりするのではなく、感謝することを重視するような生活に変えてみよう。人間、批判したり罵倒したりすると、一時的な快楽は得られる。しかしそれで満たされることは稀である。他人の良いところを見つけ、してもらったことに感謝することに重きを置く。些細なことでも感謝を忘れない。そうすれば、人生はもっと豊かで、楽しく明るくなるはずだ。
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    投稿日:2024.01.23

  • ジェシー

    ジェシー

    何か不安や不満を持っている人が、正義感と思い込んで、極端な人となり発信をする。

    韓国で匿名性の廃止をしたが、あまり意味はなかった。それどころか色んな領域の発信が減った。違憲として匿名性は元に戻った。

    炎上させるのはロングテールな感じで、複数回発信する人はどんどん減るが存在する。

    ネットには中庸な意見を発信する人がいないので、両極端にいる少数が言論を作っていくイメージがある。
    現実社会だと、極端な意見を言い続けても会話にならないが、ネット空間だと会話にならなくてもいいので、発信し続けることができる。
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    投稿日:2023.08.21

  • kohamatk

    kohamatk

    ネットで批判や誹謗中傷を書き込む人は、「ネット上では批判しあっていい」「世の中は根本的に間違っている」「ずるい奴がのさばるのが世の中」などの考えを持っている傾向がある。社会に対して否定的、不寛容、攻撃的で、まさに極端な考え方を持っている人たち。
    極端な人たちが数多くの投稿をしており、数百のアカウントを使って、別々の人物を装って誹謗中傷を繰り返している人もいる。

    炎上を知る経路として最も多かったのは、テレビのバラエティー番組で59%を占め、ツイッターは23%にとどまる。さらにマスメディアは、炎上したことを取り上げて、より厳しく追及する役割も果たしている。

    実社会でもクレーマーは中高年男性に多く、高学歴、高所得で社会階層が高い人が多い。自尊感情が高く、完全主義的な傾向が強く、社会的不満が高い特徴もある。ネットの炎上に参加している人も男性、年収が高い、主任・課長クラス以上といった属性である。

    日本に先駆けてネット上の誹謗中傷や炎上が深刻な社会問題になっていた韓国では、インターネット実名制が導入されたが、通常の投稿は大幅に減少した一方で、誹謗中傷的な投稿の割合はほとんど変わらなかった。この制度は表現の自由の保障という観点から 2012年に違憲判決が出されて廃止された。

    発信者情報開示請求の手順を簡略化したり、より多くの情報が開示されるように法律を改正する動きによって、誹謗中傷を安易に書き込む動きが鈍化する抑制効果が期待できる。実際に、プロレスラーの木村さんが亡くなった後、攻撃的な投稿の60%ほどが削除された。

    Googleブックス Ngram Viewerは、Googleが電子化して保有している1500年以降の500万点以上の書籍(これまでに出版された全書籍の約4%)に出現する約5000億の語句を追跡できる。
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    投稿日:2023.04.05

  • 阿頼耶識

    阿頼耶識

    主にSNSについて。意見を書きこむ極端な人はどういう人でどうすればいいのか。データを駆使して説明されているのでわかりやすかった。

    投稿日:2023.02.13

  • かおり

    かおり

    私自身にとっては、新鮮な情報というよりは、手持ちの情報の裏づけとなる情報が掲載されていた。
    中高生くらいが読めばちょうどいい感じかも。
    大学生の頃、革マルとか中核派とかの残党が学食の入り口でアジやってたけど、あれが徒党を組めなくなって、かつ、俗なネタにも反応するようになったのが「極端な人」のような気がする。だとすると、誰でもそうなる可能性はあると思う。私の友達だって、絶対そうならなさそうな人だったのに、寮に入って感化されてしまった。「寮」という閉鎖空間が、外部との関わりを薄くした結果だったんだな、と今なら思う。まして、スマホはもっと極端な「閉鎖空間」だ。家の中でもスマホをいじっているメンバーは家族から切り離されている。
    自分が今、どういうバイアスでものを見て、考えているのか。常にチェックし、相対化することが第一の解毒剤なんだと改めて思った。
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    投稿日:2023.01.09

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