【感想】ミハイル・ゴルバチョフ 変わりゆく世界の中で

ミハイル・セルゲービッチ・ゴルバチョフ, 副島英樹 / 朝日新聞出版
(4件のレビュー)

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  • seiyan36

    seiyan36

    著者、ゴルバチョフ氏は、元ソ連大統領。
    ウィキペディアには、次のように書かれている。

    ミハイル・セルゲーエヴィチ・ゴルバチョフ(1931年3月2日 - )は、ソビエト連邦及びロシア連邦の政治家。ソ連最後の最高指導者で、ソ連共産党中央委員会書記長、第11代最高会議幹部会議長、初代最高会議議長、初代ソビエト連邦大統領を歴任した。歴代の最高指導者で唯一の存命者であり、かつ最長寿(2021年現在90歳)である。

    1987年12月、中距離核戦力全廃条約(INF全廃条約)に、米ソの大統領、レーガン氏とゴルバチョフ氏が調印した。
    が、米のトランプ氏が、このINFを破棄するという方針を表明したりした。

    この辺りのことを、ゴルバチョフ氏は危惧されているのは、間違いなかろう。


    ●2022年8月31日、追記。

    ゴルバチョフ氏。2022年8月30日に亡くなられたとのこと。
    以下は、毎日新聞より。

    西側諸国との冷戦を終わらせたソ連最後の指導者、ミハイル・ゴルバチョフ元大統領が30日、病気のためモスクワで死去した。91歳。タス通信が伝えた。1980年代半ばに疲弊していた体制を立て直す「ペレストロイカ」政策に取り組んだが、結果としてソ連崩壊を招き、国内では批判にさらされた。一方でノーベル平和賞を受賞するなど外国では高く評価されて、皮肉な半生を送った政治家だった。
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    投稿日:2021.05.04

  • みけ猫

    みけ猫

    図書館への返却期限が今日だということにおとといの夜に気づいて、そこから必死で読み切った。

    非公式の会話も含むけれど、基本的には「ゴルビー君が各国トップと交わしたオフィシャル問答集」という構成だったので、礼節たっぷりな独特の言い回しが延々と続いて、目が滑る滑る。
    返却までに読み終わらないんじゃないかと焦った。焦って読むとさらに目が滑るのよね~。
    ちゃんと全部読解したか自信ないなぁ。

    本の前半はレーガンとの核兵器削減への道のり、後半はベルリンの壁とソ連のダブル崩壊について。

    前半はかなりいい感じでかじ取りをしているゴルバチョフだが、後半になると様相が違ってくる。
    時流に乗ろうとしている人たちに何度か不意打ちも喰らう。ソ連という国は彼の思い描いた理想とは違う方向に急展開していく。

    その当時、シンプルマインドな子供だった私の目から見ると、ドイツ統一とソ連崩壊は、この本でゴルバチョフ氏が全否定する "冷戦での西側の勝利" そのものに見えたのを思い出す。
    そして、子どもの私は、てっきりゴルバチョフもそれを望んでいたのかと思っていた。
    彼の解放路線は子どもにも分かるくらいに「歴史が動いている」感があったので。

    だから、彼がソ連をソ連のまま、単一の連邦国家であることにこだわり、独立国家共同体となることに断固反対な理由が読んでいて正直よく分からなかった。
    離脱しようとしている国には多くのロシア人が住んでいる、独立は分断と混乱を招き、社会保障などの制度が壊れ、多くの人に不利益が起こる、などというような理由を挙げていたが、説明にはいろいろと矛盾をはらんでいるように見えた。
    どうしても過去の歴史があるだけに、全体主義的な匂いを感じてしまう。
    もしかしたら、彼が目指す全体主義はスターリニズムとは全然違うもので、民主主義との真のハイブリッドで、もしかしたら私たちの知らない、一つの美しい理想の姿となりえたのかもしれないけれど・・・。

    後半のゴルバチョフの連邦維持への敗残兵的戦いぶりは全然知らなかったので、ちょっと驚く。
    特にベロベーシ合意後のベーカー国務長官との会談は蚊帳の外なのが浮き彫りで、読んでいてやや辛いものがあった。

    そういう意味では、ベーカーったら、答えに窮するような発言に対して答えるのうまいな、と感心しながら読んだ。相手を傷つけないように逃げるのがうまい。
    ベーカーだけじゃなくて、各国首脳たちの受け答えには時々「ほほう」と思った。なんと、あのブッシュ・ジュニアにも・・・。今まで何も知らないくせにバカにしててすみません、って感じだった。みんなダテに政治家のトップじゃないんだなぁ。
    私もその機転を見習いたいわ・・・。

    解説の方が「外交において首脳間の個人的関係が果たす役割を過小評価してはいけない」と書かれていたが、本当にそうだな、と思った。
    おっしゃる通り、私は今まで全く評価してなかった。(安倍ちゃんが、トランプ当選直後にいそいそとアメリカに渡って会ってたのを思い出すが、そこは急ぐところじゃなくね?って思ってた)

    しかし、昔語りはさておき、今も続く全人類の共通の問題、核兵器の恐ろしさをこの本は思い出させてくれた。最近は、原子力発電の事故や廃棄問題などの方に気を取られて、兵器のことは忘れてたかも。

    この本を読んだ限りでは、核兵器削減への道のりには、どちらかというとアメリカ側に露骨に妨害する勢力があったことがうかがえる(わりとおなじみの方法で)。

    ゴルバチョフも本の中でちらっと言及していたけれど、「アイゼンハワーがかつてその影響力について苦々しく語っていた」という軍産複合体のロビーの巨大化について、改めて考えさせられる。アメリカって、いや、世界のあちこちで、経済基盤に軍産複合体がガッチリと組み込まれていってるような。アイゼンハワーの時代からずっと、ますます、かなり強力に。
    人々の利害によって支えられているから盤石で怖い。
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    投稿日:2020.09.25

  • 澤田拓也

    澤田拓也

    ソヴィエト連邦最後の指導者ミハイル・ゴルバチョフの自伝。1931年生まれなので、もうすぐ90歳にならんとするお歳である。すでに長大な自伝『ゴルバチョフ回想録』を上梓しているにも関わらず、本書をその高齢の身で書き上げたのにはおそらく強い理由がある。副題「変わりゆく世界の中で」にも表れているように、プーチン大統領そしてトランプ大統領の出現によって自らがかつて押しすすめた核のない世界への歯車が逆に回っていることに対する強烈な危惧の表明がこの本には込められている。具体的には、自らもその実現に心血を注いだ米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約から2018年10月トランプの米国が離脱を宣言したことを挙げることができるだろう(同条約は本書の原書刊行後の2019年8月失効した)。この条約は米ソの中距離核戦力ミサイルの全廃を目指すもので、本書に書かれている1986年のレイキャビクでのサミットで原則合意し、翌1987年にゴルバチョフとレーガンの間で大きな壁を越えて調印に至った条約である。

    ゴルバチョフがソ連共産党書記長になる直前の1985年、Stingがリリースした”The Dream of the Blue Turtles”に”Russians”という曲がある。その曲では次の印象的なサビが歌いあげられる。

    ”How can I save my little boy from Oppenheimer's deadly toy
    There is no monopoly in common sense
    On either side of the political fence
    We share the same biology
    Regardless of ideology
    Believe me when I say to you
    I hope the Russians love their children too”

    この本の帯に「核戦争に勝者はいない」とあるが、まさに”There's no such thing as a winnable war”とも歌われる。その歌声に乗せられた訴えは、その時代には本当に切実なものに聞こえたのだ。

    https://www.youtube.com/watch?v=wHylQRVN2Qs

    デヴィッド・ボウイが主題歌を歌ったアニメ『風が吹くとき』が公開されたのも1986年。そして、その年チェルノブイリ原発事故が起きた。冷戦はそのピークに達し、西側諸国のソ連に対する不信感は極度に高まり、核戦争は決してあり得ない話ではなく、実際に多くの人が核シェルターを購入して自宅の庭に設置をしたという。その後の急激な東西冷戦終了に向けた動きは知る由もなかった。ゴルバチョフは、望んだものとは違ったのかもしれないが、その動きに大きな影響を与えた人物であることは間違いない。

    「全人類の利益と全人類の価値が存在するという思想は、多くの場合、広く根づいている考え方と相いれない」
    とゴルバチョフは書く。過去の自身が属したソ連共産党や米国の動きを見て、そのように語っている。しかし、ゴルバチョフ自身はその価値を信じていた。ベルリンの壁崩壊と東西ドイツ統合、東欧共産圏の崩壊、1991年のクーデター、連邦解体、などではゴルバチョフの思うようにいかなかったことも多かった。しかし、多くの西側諸国の首脳とやり合い、ソ連の立場からは後退を余儀なくされながら、守るべきところを譲ることがなかったのは、「全人類共通の価値」に対する信念があったからこそだろう。


    佐藤優氏があとがきを書いているが、このあとがきの有無で、この本の印象は大きく変わるだろう。佐藤優氏はほぼちょうど本書で書かれてたゴルバチョフが政治的絶頂期からその座を追われるまでの1987年8月から1995年3月の間、外交官としてモスクワに勤務している。日本人でゴルバチョフとその政権について語るにうってつけの人物の一人であることに間違いない。そこでは、ゴルバチョフが彼の足を引っ張った内部の人間の一人として名前を挙げたブルブリスとも深く付き合いがあったという。このあとがきがあるために、ゴルバチョフ以外の第三者的な目から見ると彼の改革はどのように見えていたのかが控えめながらも若干批判的な目線でもって語られる。しかしながら、最後に次のように締めるのである。

    「ゴルバチョフ氏がソ連共産党に就任した1985年時点で既にソ連は崩壊していたというブルブリス氏の認識は正しいと私は考える。ソ連という共産党独裁体制は、マルクス・レーニン主義という全体主義イデオロギーによって成り立っていた。このイデオロギーは全一的体系なので、そこに言論・表現の自由、民主的選挙による議会、市場競争という異質な価値観を部分的に導入することは不可能だった。この不可能の可能性に挑み、敗北していった理想主義者がゴルバチョフ氏なのだと思う。ただし、その敗北過程で多くの善きものを同氏が残したことを過小評価してはならない」

    もちろん、ゴルバチョフのイニシアティブが、ソヴィエト連邦にとっては好ましいやり方ではなかったという内からの批判や、あまりにも理想的に過ぎてナイーブであったという評価があるのは、おそらくゴルバチョフ自身も含めて多くの人にも認められているところだろう。しかし、佐藤優が書いた「その敗北過程で多くの善きものを同氏が残したことを過小評価してはならない」という言葉が彼を評価する際のすべてを表しているように思う。その「善きもの」を今こそ大事にしなくてはならないのではないだろうか。その「善きもの」について、率直に語るゴルバチョフの言葉から知ることができる本。今読むことが、彼の意に沿うことになるのではないだろうか。


    ---
    1993年の夏、大学院生だった当時、ソ連共産圏崩壊後の東欧を旅行した。そこで何が起きたのかをそのとき目にしておきたかったからだ。その後に、モスクワにもその行ったが、ロシア共和国最高会議ビルには、まだ砲弾の跡が残っていた。そのときはそういった表層的なところしか目にすることはなかったし、ゴルバチョフのペレストロイカやグラスノスチなどについてもこれっぽちの知識も持ち合わせていなかった。それでも、あのとき行っておいてよかったと思っている。そして、またいつか時間ができれば同じ町と国を訪れてみたい。
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    投稿日:2020.09.22

  • 湖南文庫

    湖南文庫

    本書は、ソビエト連邦最後の最高指導者であるミハエル・ゴルバチョフが、東西冷戦終結に向かった当時の国際政治の舞台を振り返り、更に、現在の世界の情勢を踏まえて、次世代へのメッセージを記したものである。原書は2018年に発表され、今般日本語訳が出版された。
    ゴルバチョフ(1931年~)は、1985年にソ連の指導者では異例の若さ(54歳)で共産党書記長に就任し、内政では停滞していたソ連の政治・経済の抜本的改革を目指しペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)を断行し、外交では新思考外交に基づき東欧の民主化革命を支持して東西冷戦を終結させた。その功績からノーベル平和賞を受賞し、西側諸国では幅広く評価されているものの、ロシア国内では米国と並ぶ超大国であったソ連の崩壊の責任者と見られ、人気は高くないという。
    私は1960年代前半の生まれで、物心がついた時から東西冷戦の構図にあり、世界が東西に分断された状態は未来永劫続くものと、何の疑問も抱かずに思っていたのだが、ゴルバチョフがソ連の最高指導者に就くや、わずか5年ほどの間に、あれほど頑強と思われたソ連が解体し、東欧諸国の民主化が達成されたのだ。。。(あの時点での連邦制の解体はゴルバチョフの望んだものではなかったが、彼のめざした方向性からすればいずれはそうなったと思われる) 当時はニュース等で日々の状況変化を追っていたはずなのだが、後に振り返ると、一夜明けたら世界が一変していたというような劇的な出来事であった。そして、今でも強く思うのは、もしあの時のソ連の最高指導者がゴルバチョフでなかったら、あのタイミングで、あのような未来志向型の冷戦終結は間違いなく起こらなかったということである。 
    本書でゴルバチョフは、いかなる価値観・信念に基づき、どのような覚悟で、米国のレーガン、ブッシュ両大統領、シュルツ、ベーカー両国務長官、ドイツのコール首相、ゲンシャー外相、フランスのミッテラン大統領、英国のサッチャー首相、メージャー首相らの世界の指導者たちと事を進めていったのか、また、国内において、連邦制の維持に反対する急進的なエリツィン大統領らに対応していったのかを、赤裸々に綴っている。
    そして、読了して、ゴルバチョフがいかに普遍的価値観を重視し、その価値観に沿った世界を創るという理想を追い求めていたのかが理解できたし、あの時代にゴルバチョフという政治家が存在したことの意味の大きさを再認識した。
    ゴルバチョフは政治家としては理想主義的過ぎる(結局、ソ連邦崩壊、国力弱体化という国益に合わない結果に導いた)という評価もあるが、私はそうした意見には全く与しない。ゴルバチョフは末尾でこう語っている。「1988年12月の国連での演説で、私はこう述べた。<我々の理想は、自らの対外政策活動でも法に従う法治国家による世界共同体である>と。この理想は今日も、まだまだほど遠い。しかし、これは決して、大きな目標と人類の理想を掲げて我々は無邪気な人間だった、ということを意味しない。単に我々は、それがなければ将来への道は克服できないと分かっていた。」と。翻って、今の世界を見ると、「理想」などいうに及ばず、自国民の利益すらそっちのけで、自分の権力維持しか考えない指導者が多く、嘆かわしいばかりであるが、そうした指導者を選んでいるのは外ならぬ我々なのであり、我々一人ひとりが、社会を、国を、ひいては世界をどうしたいのかを真剣に考えることから始めなくてはならないのだと思う。
    齢90を目前にした稀代の政治家ゴルバチョフが、次世代の我々に残す遺言ともいえる一冊である。
    (2020年8月了)
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    投稿日:2020.08.07

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