【感想】文庫版 オジいサン

京極夏彦 / 角川文庫
(12件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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ブクログレビュー

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  • yurisyo

    yurisyo

    年末に本屋に寄ったら目についた、
    京極夏彦の文庫本。

    なんともゆるいタイトル、
    紙粘土のお爺さん、フォントの文字も気が抜けていて装丁がどことなくかわいらしい。

    鵺の碑で久しぶりに骨のある京極本を堪能したから、こんどはいかにも軽そうなのを読むか…、と手に取った。

    公団アパートでかれこれ40年一人暮らしをしている、72歳6ヶ月の益子徳一さんの1週間のとある時間を、端折ったり飛ばしたりせずにその時間のままツラツラと書き記すスタイルの小説。

    基本的に徳一さんのモノローグで話がすすむので、最後まで特になんのイベントも起きない。

    何日か前に「オジいサン」と呼びかけられたその記憶を、起き抜けに徳一さんが一生懸命思い出すモノローグだけで終わってしまう第1章。
    思考があっちへ行ったりこっちへ行ったり、忘れたかと思えば思い出したり、思い出しては腹を立てたり反省したり…、
    ずーっと徳一さんの頭の中の声で進むので、少し退屈に感じたりもするんだが、不意に描かれる徳一さんの人生哲学や老いや時間についての考えに、妙に納得したりする部分もあり、なんやかんやで読まされてしまう不思議。

    2章、3章も外に出て誰かと話したり、料理をしたり、なんてことない日常を徳一さん目線のモノローグで追っていくだけの物語なんだけど…、

    どんどん引き込まれるんだよなぁ。

    頑固で面倒くさいお爺さんのようなところもあるんだけど、それだけじゃない。
    人間にはいろんな側面があるんだなという結構不思議で当たり前のことに気がつく。そしてなんだか徳一さんを好きになる。

    何がいいって、定年退職してからはありあまる時間をなんの生産性もなく過ごしていて、地デジもわからないし、携帯電話もわからない。社会にこれと言った貢献してもおらず、生涯独身で妻も子もいないからもちろん孫もいない。ただただ面倒くさい一人暮らしの頑固爺だと自認しながら、自暴自棄にならず、自分なりの道徳を持って倹しく生きるその生活を、なんだかんだでちゃんと肯定しているところが本当に良い。
    本人は嫌だと感じている独り言のように、モノローグの中でふとしたはずみで出る、しあわせだな、の感情が、
    読んでいてめちゃくちゃ愛おしくなるのだ。

    一見ネガティヴに見える老いを描きながら、その実、あるがままの時間をあるがままに生きる、その清々しさ。

    とても好き。
    気持ちの良い小説でした。



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    投稿日:2024.01.15

  • nicico

    nicico

    主人公である益子徳一さんのモノローグがメインのお話です。近所の人との会話では多弁ではないけど、頭の中ではよく喋るオジいサン。
    深夜営業についての下りとか、”それでは徘徊老人である”の下りが個人的にツボでした。そして淡々と終わるのかと思ったら、終わり方があったかくてほろりとしました。

    京極氏の作品は百鬼夜行シリーズしか読んだことがなかったので、こんな平和なお話も書かれるんだとびっくりしました。会社で昼休みに少しずつ読みましたが、クスッと笑えて良い気分転換でした。
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    投稿日:2024.01.02

  • 一条

    一条

    最後の話がとってもほっこり☺️した〜!
    電気屋の繁くん(くんという歳でもないが)、うだつの上がらない人?て感じのぽやぽやな印象だったけど、なんやかんや可愛げのある人でした。
    波乱万丈も山あり谷ありも何もない徳一さんのささやかな日常を、ちょっと覗かせてもらう。穏やかな話を読みたいときにオススメです。続きを読む

    投稿日:2023.11.01

  • char8n

    char8n

    このレビューはネタバレを含みます

    のんびり穏やかにくらす、益子さんの日常。
    目玉焼きとソーセージについて考えている様子がとても可愛いなとほっこりしました。
    驚くような大事件はありませんが、とにかく益子さんの脳内でひとりボケツッコミが繰り返されていて、思わずくすっと笑ってしまいます。
    最後に田中電気さんからのお願いが、これからの益子さんにとってプラスになって、さらに楽しく生きていくんだろうなぁと期待が持てました。

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    投稿日:2022.11.28

  • タケ

    タケ

    このレビューはネタバレを含みます

    とある老人の一週間。一週間の何気ないひと時をあの文量にするのが京極夏彦だなぁ…と思った。最後に電気屋の二代目が結婚するとは思わなかった…。

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    投稿日:2022.07.06

  • tomo

    tomo

    面白かったー。72歳の益子徳一さんの日常。7日間のできごと。

    日常も日常。ほとんど何も起こらない。せいぜいが数日前のことを頑張って思い出してみたり、近所の人と話したり、自分のお昼を作ったりするくらい。でも面白くて、飽きずにずっと読めちゃう。

    日常をこなす徳一さんの心の動きが、よーくわかって楽しいんだよね。脳内のつぶやきやセルフツッコミ、展開しすぎてたまに哲学っぽくなる自分への分析。時間についての考察はしみじみ納得した。

    読むうち、徳一さんにどんどん親近感が湧いてくる。年齢のせいか少し忘れっぽかったり、考えがループしちゃったり、最新の機械に疎くて間違った確信を持っていたりするんだけど、そういうところがすべて愛らしく思えた。

    ラストもとても良かった。涙が出ちゃうくらい。

    私の年齢は、先日挫折した「麦本三歩の好きなもの」の三歩ちゃんと、徳一さんのちょうど真ん中くらい。でも感覚的な年齢で言うと徳一さんの方に近いんだろうなあ。言ってることがしっくりきた(笑)。
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    投稿日:2021.11.29

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