【感想】走って、悩んで、見つけたこと。

大迫傑 / 文春e-book
(32件のレビュー)

総合評価:

平均 4.1
11
11
4
2
0

ブクログレビュー

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  • fukayanegi

    fukayanegi

    このレビューはネタバレを含みます

    何かとメディアで取り上げられることの多い大迫傑。
    日本陸連相手にSNSで斜に構えた抗議を行ったり、駅伝で襷渡し後に倒れ込む選手は”アピール”に過ぎないかのような物言いで苦言を呈したりと、昔から「おいおい、大迫節だなぁ」と思っていた。
    もう少し、言い方とか配慮とかあるんじゃないの、と。

    それでも、その何かちょっと自分中心主義みたいな物言いだけでなく、数々の実績や心に響く行動を伴ってきた。

    ・早稲田大学入学後1年次からエース級の活躍を見せ、箱根駅伝では18年ぶりの総合優勝に貢献
    ・2017年の福岡国際で日本人最上位、日本歴代5位(当時)の記録を納め、それまでトラック選手のイメージだった彼がマラソンの大迫と一気に知名度を上げ、そこから日本男子マラソン界を牽引してきた
    ・2019年のMGCで佐久長聖高校の先輩、佐藤悠基が給水を取り逃すと、すっとボトルを差出す
    ・東京オリンピック出場後、一度は競技生活を退きテレビ解説や後進育成に活動の場を移すも、「また走り始めたい」と活動を再開し、プロランナーとしてGMOインターネットグループに参画するという異例の復活劇を見せる
    ・2023年のMGCで自身のゴール後、早稲田大学の後輩、高田康暉のゴールを雨の中じっと待つ

    こういった言動を見る中で、一目置かざるを得ないなぁと思ってはいた。
    そんな中、2023年のMGC後のトークショーで、「自分の身体の反応を予測しない」という発言をしたという記事を見かけた。
    気になって読んでみると、「キツいことを続けていると、自分の身体の次の反応はこうだ、と決めつけてしまう。変に冷静になってしまうというか、『壁』を作ってしまうことが多い」とのこと。

    目から鱗の考え方。
    自分も30km走とか長い距離を走るときは、時点時点で「よし、今日はまだどこも痛くないぞ」とか「だんだん、脚が張ってきたな、あとどれくらいもつかな」とか考えながら走ってしまう。
    それは自分の身体との会話であり、ペース配分を調整する上で不可欠な行為だと思っていたが、それを『壁』と言ってのけるとは。
    確かに、本当はまだいけるはずなのに、頑張ればまた楽な時間が訪れるのに、勝手に過去の自分と比較して限界を設定してしまっているような気もする。
    やはり、考えることが違うし、発信力が凄い。

    ということで、前置きが長くなったが、俄然気になる存在となり読んでみた本書。
    めちゃくちゃ面白かった。
    ぐさぐさ刺さってきた。
    すごく走ることが好きで、すごくよく考えているのだなぁということが伝わってきた。
    同調できない考え方もあるけど、なぜ、どんな気持ちでそんなことを考えるのかはとても理解できた。

    意外だったのは、結果よりもプロセスやメンタル面を重視していること。
    でもそれは彼の考え方としてはぶれていないとも思う。
    目標を定めて、着実に「今」できる練習を積み重ね、万全の状態でスタート地点に立ち、あとは42kmを走るだけ。

    1番にもの凄くこだわっているというのも面白かった。
    小学校のとき徒競走で負けた翌日から、毎日手のひらに「1番」と書いて学校に行っていた。
    1番の駐車場が空いていたら1番に停めるし、1番のロッカーが空いていたらそこを使う。
    1番が埋まっていたら、11番、それがダメなら111番。。。
    1という数字へのこだわりもさることながら「1番」という言い方が印象的。
    東京オリンピック後のインタビューで「6番だったけど、、、」という発言をしているのを見て、普通「6位」って言うけど、何か可愛らしいなと思ったのを憶えているが、こうしたこだわりを読むと、根源的に純粋でがむしゃらな競争心が潜むが故の言葉なのだなと思った。

    MGCで佐藤悠基に給水ボトルを渡したシーンはリアルタイムでも観ており、感動ものだったが、実は2018年のシカゴマラソンで日本記録を出したときに、同じことを同僚のモー・ファラーにされていたという事実を知り、そのありがたみを自然に自分の中に取り込み、とっさに高校時代の先輩に対して行えるというのは、出来そうで出来ないことで、心の柔軟さも感じた。


    さて、もう間もなく、彼がGMOインターネットグループの一員として参画するニューイヤー駅伝が開催される。
    MGCの関係で出場が決まっている中での東日本予選でのGMOの気の抜けた走りっぷりは目に余るものもあったが、近年の大迫の参画、村山、小野の移籍、島津、ムルワの新戦力加入と株式会社青山学院のような状況も緩和されてきており、どんな本気の走りを見せてくれるのか楽しみなところ。

    ブクログもかつてGMO傘下でしたよね。
    何となく縁があると、応援したくなります。

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    投稿日:2023.12.30

  • たまぞう

    たまぞう

    現役を退いたあとは指導者への道を思い描いてるとのことだけど、きっと「物言わぬ鬼コーチ・鬼監督」になっていそう。もちろんその鬼自身がかつて、誰よりも自分自身への鬼となって、限界まで我慢し尽くすストイックな日々を生き延びてきたからこその。

    「スタートラインに立った達成感」というフレーズが自分にはいちばん響いた。目標を達成できないのは、ゴール以前にまずスタートを目指さなきゃ駄目だからなんだと痛感。アスリートにかぎらずきちんと結果を出せている人たちは、きっと準備し尽くして臨んでいるんだろう。今からでも見習わなきゃ。

    【まとめ】

    Q1. 「走って、悩んで、見つけたこと」は何?
    A1. 走ることで悩んで、それを解決するのも走り続けることのうちにしかなかった。目指すゴールへと自分を導くためには、そこに至るまでのプロセス、練習の日々が大切。けっきょくどれだけ無駄なことを省き、ハードなトレーニングを毎日集中して続けられるか。つねに一人の時間を大切にして走り続けることで、それが正解かはわからないけど、答えはいつも見つかってきた。

    Q2. どうしても練習したくない日はどうすればいい?
    A2. したい、したくないではなくて、必要か必要じゃないかで考える。やらない理由は探さなくても簡単に見つかるもの。だからやらない理由よりも、やるべき理由をつねに探して積み重ねる。やらない理由を排除したら、やるしかないこと、やらなきゃいけないことだけが残る。そうやって意志を持って、物事をシンプルに、シンプルに、まっすぐに尖らせていくことを心がける。

    Q3. もう無理!と思うレースの終盤、どうやって粘りの走りをする?
    A3. もう無理!と思わなければいい。無理と思ったらそれは自分が諦めているということ。無理というネガティブなワードをポジティブなワードに置き換える。たとえば、どうやって残りのキロ数を走り切るかとか、これくらいのきつさだったら練習でもあったなとか、なるべく自分ができること、できたことをイメージするようにする。

    【キーワード】

    ・スタートラインに立つ
    ・余計なものを省いてシンプルに考える
    ・けっきょく練習の中でしか自信は戻ってこない
    ・いちばん辛い時期をいかに我慢できるか
    ・自分の感覚は当てにならない
    ・小さな妥協の積み重ねでできたギャップは埋められない
    ・きつさを分割して「今」に集中する
    ・どんなときでも意志を強く持つ
    ・無駄を省いて必要なものだけで自分の身を固める
    ・やらない理由/やるべき理由
    ・辛いときこそ前を見るのではなく、下を見て一歩いっぽ進む
    ・言い訳をしない、自分で決める、責任をもつ
    ・泥臭く走り続けることでしか強さは手に入らない
    ・シンプルに、できた/できなかった、やった/やらなかったで判断する
    ・まず大きな目標を立てる、ひとつひとつの決断はその理由がすべて最終的な目標とつながっていることが大切
    ・故障なく練習をする
    ・距離に対してリスペクトをもつ
    ・自分は強いと言い聞かせる

    【目次】

    はじめに

    自分の道を選ぶこと。
    マラソンを走るということ。
    どんな結果も受け止めること。
     コラム リカバリー&睡眠について。
    環境が変わっても生き残る力を持つこと。
    「今」を積み重ねること。
    意志を持ち続けること。
     コラム 食事について。
    ライバルをリスペクトすること。
     コラム ウエイトトレーニングについて。
    不安をコントロールすること。
    言い訳をしないこと。
    目標を立てること。
     コラム 1番にこだわる。
    子供たちに伝えたいこと。
    大人たちに伝えたいこと。
     コラム 「42.195km」との付き合い方。

    おわりに 走って、悩んで、見つけたこと。
    大迫傑に学ぶ Q&A みんなの疑問に答えます!
    続きを読む

    投稿日:2023.07.25

  • miya

    miya

    プロの覚悟はすごい。
    筆者の言う通り、最近は本当に市民ランナーのレベルが高くて、実業団の端くれよりもよっぽど意識の高い人が多いと感じる。私は、奇妙なことに走るのが好きではないのに大学まで長距離種目を続けた経験があり、そのときは言い訳ばかりで自主練等まったくしていなかったが、その時にこの本を読んで「必要か。必要ではないか。」の選択ができていたらと思った。続きを読む

    投稿日:2023.07.23

  • ずるずる

    ずるずる

    私自身もランナーの端くれなんで読んだ。

    今後、指導者にと言うのは意外だった。
    よく言えば、ストイックに自分を追い込む。
    悪く言えば、周囲に構わないと感じていたから。

    読みやすかったな。
    なんかこう、一流の人って独特な考えとか持ってそうだし。
    でも、すっと入ってきました。

    私のランニングに落とし込むとすれば、
    ・レースに向けたプロセスを大切にする
    ・練習を休む言い訳を探さない
    ・一本一本のランを大切にする
    ってことかな。
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    投稿日:2023.06.12

  • itsuji

    itsuji

    P74からの 「今」を積み重ねること。 で書かれていることは、仏教の瞑想法のようだった。
    仏教の説法。
    本気で何かを極めようとすると、同じところに行きつくのかもしれない。
    大迫さんは自分で考えることができて、自分で決められる人だ。
    しかし、世の中の多くの人間は、自分で考えることができず、自分の状態や長期展望を把握できない人が多い。
    だから、大迫さんが指導者になったら、その壁にぶちあたり、イライラするだろうと想像する。
    自分でできる人は、他者の「できない」がなかなか理解しにくいと思う。
    「なぜしないのだ」「なぜ考えないのだ」「お前自身はどう思っているのだ」
    そう思い続けるのではないか。
    人に言われるままにしか動けない、という人間もたくさんいる。
    そういう人たちの方が多いのではないか、と、私は感じる。
    だから、大迫さんが指導者になっても、彼と一緒にやっていける人はごく限られている、私はそんな気がした。
    私は、大迫さんの姿勢はとても好きだ。
    走ること以外を他者に任せることができる、というのは幸せなことだし、一般の人には無理だと感じるが。
    走ること以外は、弱そうな臭いもするけれどwww
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    投稿日:2022.12.12

  • ふくお

    ふくお

    彼女が職場の先輩から借りてきた本。部屋に転がっていたので手に取った。
    大迫さんは敬虔な仏教徒のようだなと感じた。近道を求めがちで、楽な方に流れがちな僕にとって、彼の主張は目が覚める印象を受けた。

    ねくりまわして、何かやった気になるのは簡単だが、それでは何もなしえない。やらない理由を排除して、やる理由にフォーカスし、シンプルに物事を積み重ねることが何よりも難しい。

    タイトルにもあるが、悩んでもがいて見つけた答えには非常に大きな価値がある。スマートなプロセスで同じ答えにたどり着いても、果たして価値は同じなのか。

    テキトーに人生を歩んできた自負があるので、もっともがく経験が必要かなと感じた。
    とりあえず、日々の勉強とトレーニングを愚直に続けようと思う。今に集中することを意識。
    続きを読む

    投稿日:2022.08.14

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