【感想】暴力と不平等の人類史―戦争・革命・崩壊・疫病

ウォルター・シャイデル, 鬼澤忍, 塩原通緒 / 東洋経済新報社
(18件のレビュー)

総合評価:

平均 3.6
2
7
6
1
0

ブクログレビュー

"powered by"

  • kaz.f

    kaz.f


    四騎士として戦争、革命、崩壊、疫病を挙げ歴史上それらが不平等の解消にどれくらい寄与したのかが細かいデータに基づいて述べられている。
    結論から言うと暴力を伴わない富の再配分は効果が薄く、累進課税制をはじめとした平和的な制度によるアプローチは論外でフランス革命や共産主義革命ですら効果は限定的だったという救いのない考察。個人的にはベターな選択肢として第三次世界大戦が始まるよりも格差のある平和な世界を望んでしまう。

    Chaos isn't a pit.Chaos is a ladder.
    読みながら「ゲームオブスローンズ」リトルフィンガーの言葉を思い出した。
    続きを読む

    投稿日:2024.02.10

  • MSTK

    MSTK

    序論 不平等という難題

    <第1部> 不平等の概略史
    第1章 不平等の出現
    第2章 不平等の帝国
    第3章 不平等の拡大と圧縮

    <第2部> 第一の騎士――戦争
    第4章 国家総力戦――日本の大規模な平等
    第5章 大圧縮――2度の大戦による先進国の富の劇的な分配
    第6章 前産業化時代の戦争と内戦――平等化の効果はあったか

    <第3部> 第二の騎士――革命
    第7章 共産主義――全面的没収の実現
    第8章 レーニン以前――共産主義革命の原型

    <第4部> 第三の騎士――崩壊
    第9章 国家の破綻と体制の崩壊

    <第5部> 第四の騎士――疫病
    第10章 黒死病――暴力ではない暴力的破壊
    第11章 流行病、飢饉、戦争――複合して発揮する平等化の効果

    <第6部> 四騎士に代わる平等化のてだて
    第12章 改革、経済危機、民主主義――平和的平等化
    第13章 経済発展と教育――最大級の力を持つのか
    第14章 もしも……だったら? 歴史から反事実的仮定へ

    <第7部> 不平等の再来と平等化の未来
    第15章 現代はどうか?
    第16章 未来はどうなる?

    補遺 不平等の限界
    続きを読む

    投稿日:2024.01.04

  • sakufuu

    sakufuu

    不平等とその是正が繰り返された社会の歴史。不平等が是正された時には、「戦争(特に総力戦)」「革命(ほぼ20世紀以後の共産主義革命)」「国家の崩壊」「疫病」の四つ(平等化の四騎士)が必ず要因になっていて、しかもそれ以外の出来事(平和的な改革など)は全く要因になっていない、という説の書。
    石器時代からの歴史に数値を入れて分析しているので、仕方ないことではあるが説得力が低くなり勝ち。しかも数値の根拠を明示するのが大変なため、その説明に多量のページを割いている。その文章はおおよそ論文調だ。それが本書の分厚さと退屈さを増している。
    結論は単純で、「やはり私の分析の結果、不平等解消には四騎士だけが効果がある」というもの。それでもこの暗澹たる結論ではいけなく思ったのか、最終章を「それでも歴史を数値で分析するのは甚だ限界があるし、現代多く言われている様々な人類の新たな技術で未来はどうなるかわからない」と申し訳程度に結んでいる。
    理論自体はある程度興味深く、同意も出来るが、この堅苦しく長過ぎる文章はいただけない。

    移民政策のヨーロッパは、外国生まれの人口が増えている。その増加速度は史上類を見ない。これにより福祉政策などの不平等是正が減少する。何世代も自国に暮らしているグループ(多額の税を納め政治的影響力の大きい超富裕層もこのグループ)が他国ルーツ者への福祉に関心を持たなくなるからだ。これは元々移民国家であり、同時に超低福祉国家のアメリカの理路と同じになることであり、不平等もアメリカ水準に近づいていくと予想される544

    不平等の是正に効果的な土地の再分配。これが史上初めて効果があったのは大化の改新の口分田制度451

    中国の共産主義革命。当時の富農の資産は、他国や他時期に比べ極端に多かったわけではなく、むしろ格差は控えめたったが、革命のためにでっち上げられ没収された。この革命は過酷で、富農は全財産を奪われ殺された。1000万人の地主が土地を奪われ、200万人が殺された。「雇農」というものは無くなりほぼ全ての農民は「中規模の小作人」になった。彼らは土地の90%以上を所有した。
    これは望みうる限り最も完璧に近い平等化だ。288

    (日本の急速なアジア拡大、総力戦と敗北がもたらしたものを、その究極で代表的な例として)貧富の差を縮められるのは「格別に広範囲な軍事行動」だけだ155

    時代や経済発展段階を超え、大きな暴力的破壊のないことこそが、甚だしい不平等の決定的な必要条件だった84

    一般的には!不平等と格差は農耕が始まって起こったとされるが、狩猟採取社会でも起こっていた可能性が高い。北アメリカではシャケが登る川を巡り、序列と格差が存在した証拠がある。但し、その序列と格差は、農耕社会のそれに比べれば規模がはるかに小さそうだ46

    われわれに最も近い現世類人猿は強い序列社会を作っていて、それは人間で言う収入格差を作っている。それから逃れる術はない。34

    巨大な暴力である戦争・革命・国家崩壊・疫病の四騎士が唯一、格差・不平等を改善する。政策などの平和的メカニズムで歴史上この四騎士と同じ効果を産み出したものはない。現在、歴史上最高レベルでこの格差が広がっているのは、世界でこの四騎士が遠のいている(平和だから)だ12

    続きを読む

    投稿日:2023.11.18

  • kfznhmst

    kfznhmst

    歴史的に見て、不平等が解消されるのは(大量動員)戦争、革命、国家崩壊、疫病という非常に大きなイベントが起きたときのみで、それ以外の状況では格差はどんどん拡大していくという内容。
    シンプルな内容だが、学術書としてデータ積み上げて事実を論証していく大著。続きを読む

    投稿日:2022.05.08

  • K

    K


    世界大戦により不平等が圧縮された歴史があるが、過去何度かにわたる戦争の中ではなかなか富は再分配されなかった

    ペストや疫病でも、不平等は圧縮された
    しかし、今後そのような大きな戦争は起こる可能性が低い(おこってほしくない)
    そのようか中で開いていく格差をどのように埋められるのだろうか…

    #速読
    続きを読む

    投稿日:2022.02.27

  • ブルーツ・リー

    ブルーツ・リー

    ・世界の不平等の歴史を探究する難題
    ・世界で最も裕福な1%の世帯が、世界の個人純資産の半分あまりを保有している
    ・「平等化の四騎士」=戦争、革命、国家破綻、伝染病が不平等を是正する
    ・本書の目的は、不平等が減少するのはなぜかという疑問に答え、平等化のメカニズムを突き止める。
    ・古代の遺跡や埋葬からも、ヒエラルキーや階層社会のような不平等社会はみられている。
    ・経済的な余剰の多寡が政治的不平等を発展させていることがわかる。たいした余剰生産のない集団は86%が政治的不平等の形跡がない。
    ・最初の「1%」ー少数のエリートを生み出す構造 →国家構造がうまく維持されている限り、エリート支配は安定していた。
    ・世界のリーダーとは、地位の低い農業生産者の搾取者にほかならなく、派手な消費をすることは、力関係を明らかにして強化する重要な手段であった。
    ・富の獲得方法は、歴史上2つしかない。作るか、奪うか。
    ・資源をおのずと権力者に集中させることが近代国家の特徴
    ・大きな暴力的破壊がないことこそが「不平等」の決定的な必要条件
    ・何百年と続いたエリートへの富の集中による不平等が、ヨーロッパと中東でおきた疫病によって一変する。人口が減ることで労働賃金は上がり、地代は減るのでエリート層の資産は下がる。
    ・日本は鎖国まではあまり不平等が進んでいなかったが、世界経済に向けて国を開いてから不平等化が進んだ。
    ・日本はかつては地球上で最も不平等な国の一つだったが、第二次世界大戦による劇的な展開で、類をみないレベルの平等化が起きた。日本は戦争由来の平等化の教科書的な事例。
    ・日本は開国してから不平等化が進み、地主、株主、企業幹部は莫大な利益を得ていた。
    ・ところが1938年の春に「国家総動員法」が制定されて、政府は日本の経済を戦争遂行のために自由に使うことができることになった。
    ・戦争は勝者は不平等が拡大し、敗者は平等化になる。勝者側の指導者層は利益を期待できるのに対し、破壊された側は不平等が縮小された。
    ・伝染病で土地の地価が下がり、労働賃金が上がるため、地主や雇用主が貧しく、労働者が裕福になり不平等が抑制された。
    ・「誰もが世界の終わりと思った」中世後期の伝染病の流行。ペストに感染すると細胞壊死と神経系の中毒症状がでて50〜60%は数日で死亡。肺ペストに感染すると肺から放出される飛沫で人間同士で直接感染する。こちらは死亡率ほぼ100%。
    ・ペストは一世代に2、3度発生して人口を抑制し、その結果1430年代のヨーロッパの人口は13世紀末と比べて半分以下になった。
    ・平和的な平等化に関しては確実な証拠は得られていない。土地改革、不況、民主化は功を奏する時があるものの、不平等を体系的に軽減する効果はない。
    ・未来はどうなるか。人体の改造も不平等の進展になる。富裕層だけがバイオテクノロジーや遺伝子改良を特権的に享受できるようになるかもしれない。
    デザイナーズベイビーを創り出すことで、遺伝子操作やサイボーグ化による「持てるもの」と「持たざるもの」とにわかれ、最終的には2つの種に分岐することになる。それが遺伝子エリートとその他多勢=天然人
    ・こんにちの世界では平等化の最も有効なメカニズム=4騎士はどれも作用していない。
    ・時とともに人類は平和になってきている。
    人類の平和化を強めている具体的な要因のひとつは人口の高齢化である。人口の高齢化が暴力的紛争の可能性を全体として減らすとみられている。
    ・次に疫病の可能性について。近代以前の感染爆発の規模に匹敵する厄災が発生すれば世界で何億人もの死者が見込まれる。おおむね発展途上国に限られるかもしれない。
    また兵器製造技術でスーパー細菌がつくられるかもしれないが、そのような物資をばらまこうとする発想を国家の首脳が抱くことはまずありえないという。
    ・また、現代では疫病による経済的影響で所得と富の不平等が平準化するまでになるかはわからない。インフルエンザは貧しい人に影響はあるものの、経済全般にはほとんど害がない。
    現代において真に破壊的な疫病が世界中で何億もの人命を奪うとすれば、少なくとも短期的には抑えられない。伝染病で疲弊した経済においては、やがてロボットが失われた労働者にとって変わるかもしれない。
    ・四騎士が消えつつあることで、将来の平等化の見込みは薄い。
    ・経済的平等性を称える者すべてが肝に銘じるべきなのは、ごく稀な例を除いて、それが悲嘆のなかでしか実現してこなかったこと。
    続きを読む

    投稿日:2021.09.19

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。