【感想】亡命者トロツキー

ジャン・ヴァン・ジュノール, 小笠原豊樹 / 草思社
(2件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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    もはや小説に近い。世界最強の独裁者との政治闘争に負けた男の悲哀を感じる。1930年代の情景が蘇るように思える

    投稿日:2022.03.19

  • DJ Charlie

    DJ Charlie

    この種の翻訳作品を久し振りに紐解いたような気がするのだが、なかなかに興味深いものが在った。
    トロツキーはロシアの革命家である。演説の名手で、文筆家としても知られる知識人で、革命が成った後には要職も歴任した。しかし政争に敗れ、国外追放となり、トルコ、フランス、ノルウェーと亡命生活を続け、やがてメキシコに移ったが、そこで暗殺されてしまったという人物だ。
    本書は、表紙にトロツキーの写真も在るが、本人による何かの文章が収められているのではない。“亡命者”として各地に在ったトロツキーの周囲には、彼の身近で仕事をした、或いは交流が在った色々な人達が居た訳であるが、そういう人達の1人による回顧録が本書の内容ということになる。
    本書を現したのはジャン・ヴァン・エジェノールというフランス人である。左翼運動に身を投じていた青年であったが、母語のフランス語の他にロシア語も知っていて、左翼運動に身を投じていた中で亡命中のトロツキーを補佐する仕事に巡り合う。そして、トルコからメキシコまでの7年間の殆どの時間を「トロツキーの影の中」という程度に身近な場所で過ごすことになる。
    本書の内容は、著者のエジェノールが記憶している限りの見聞を実に淡々と綴っているという内容だ。全く「トロツキーの亡命生活」というものを客観的に描く“1次史料”という性質さえ帯びていると思えるのだが、これが「名状し悪い独特な味わい」のようになっている。そしてそういう一面に引き込まれながら本の頁を繰ることとなった。
    トロツキーは色々な意味で“ビッグネーム”である。が、“亡命者”という不安定な立場、そして執念深く抹殺を図ろうとしているソ連政権の関係者が亡命先に色々と揺さぶりも掛けるというような状況下に在る。他方で亡命時代に色々な著作が在ることが知られているが、“作家”のような活き活きとした活動も在り、方々の左派運動の精神的支柱、理論家という側面も保持していた。そういう“特殊”な感じの他方に、状況が許せば釣や近所の散策を愉しんでみたり、心憎からず思った女性との関係や永年連れ添った妻との複雑な関係が在るという“普通”の男でもあった。更に、彼と妻は「子ども達に先立たれてしまう」という不幸に見舞われたことも在った訳だが、そういう面でも“普通”な男だ。
    本書の著者のエジェノールは、そういう「色々な一面」を持っている「当たり前の人間」であったトロツキーという人物を、結果的に「最大限に客観的に描き出す」ということに成功しているかもしれない。
    “ビッグネーム”であるトロツキーに関しては、色々な本が在るのだが、エジェノールは末尾にそれらの本に言及して「ここが多分違う…」を列記するようなことまでしている。エジェノール自身の回顧録である本書は、「最大限に客観的に」というのを徹底している。
    率直に「トロツキー」には何となく惹かれる面を否定しないが、その人物に関して「自身の記憶の限りを淡々と綴る」という方法論で「最大限に客観的に描き出す」ということに成功している本作は実に貴重だと思う。
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    投稿日:2020.05.27

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