【感想】怖い短歌

倉阪鬼一郎 / 幻冬舎新書
(12件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • gaaco

    gaaco

    古今の「怖い」短歌を、570首も集めたアンソロジー。

    「怖い」にもいろいろな質がある。
    本書の九つの章は、その切り口を示している。
    1怖ろしい風景
    2猟奇歌とその系譜
    3向こうから来るもの
    4死の影
    5内なる反逆者
    6負の情念
    7変容する世界
    8奇想の恐怖
    9日常に潜むもの

    おぞましい対象がダイレクトに描かれているものもあるが、日常の何でもないことからふと見える異界、近づいてくる死を捉えたものもある。
    死への衝動、振り払ってもまつわりつく妄想などもある。
    一見ユーモラスだったり、かわいらしかったりするのに、よく考えてみると怪しさや怖さがにじんでくるものとか。

    私が好きなのは、吉岡太朗さんの次の歌。
    デパートでおばけを買うとついてくるちいさなおばけどこまでもくる

    幅広く、こんなにも多くの歌を集めることを考えると、大変な編集作業だったことがいやでも窺われる。
    夜あまり読まない方がいいかもしれないが、すごいアンソロジーだ。
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    投稿日:2024.03.31

  • 5552

    5552

    このレビューはネタバレを含みます

    作家、俳人、翻訳家の倉坂鬼一郎さんが集めた『怖い短歌』アンソロジー。

    西行法師から谷川電話まで、幅広いラインナップ。
    《怖ろしい風景》《猟奇歌とその系譜》《向こうから来るもの》《死の影》《内なる反逆者》《負の情念》《変容する世界》《奇想の恐怖》《日常に潜むもの》の9章仕立て。
    総収録短歌数は570首。

    ぞっとするもの、ピンと来なくて倉坂さんの解説を読んでハッとするもの、様々な三十一文字が読むものを恐怖の世界に誘ってくれた。

    私はよくも悪くも鈍いので、怖いと喜んじゃうんだけど、苦手な方は注意かもしれません。

    歌人というのは、あの世とこの世の境目、通常と異常の境界線まで降りていって、その景色を三十一文字で伝える芸術家なのでしょう。なんて。

    石川啄木の

    〈一度でも我に頭を下げさせし
     人はみな死ねと
     いのりてしこと〉

    は、前から大好き。
    そんなこと思ったことないけどね…。

    〈目の前の死のストレスが肉質にかかはる豚はやさしく押さえる〉池田はるみ

    〈盛り塩のやうに置かれるスマフォかなひとりひとりのスターバックス〉大松達知

    〈腸詰に長い髪毛が交つてゐた
     ジツト考へて
     喰つてしまった〉夢野久作

    〈だれの悪霊なりや吊られし外套の前すぐるときいきなりさむし〉寺山修司

    〈うしろの正面……誰もいる筈なき闇に言い当てられしわが名その他〉永田和宏

    〈逆光にのっぺらぼうが現れてすれちがうとき人間になる〉佐原八津

    〈死者といふ名をもつ若き園丁がちかづいてくる薔薇をなほしに〉大辻隆弘

    〈こはきもの失せたるときに髪の毛を三つ編みにして死が立ってゐる〉山田富士郎

    〈つり革に光る歴史よ全員で一度死のうか満員電車〉望月裕二郎

    気になった歌の引用元はみな巻末の文献一覧で参照できる。
    穂村弘さんや東直子さん、笹井宏之さん、木下龍也さん、笹公人さんなども選歌されています。

    他に気になったのは中澤系さん。

    〈牛乳パックの口を開けたもう死んでもいいというくらい完璧に〉
    〈3番線快速列車が通過します理解できない人は下がって〉
    〈いや死だよぼくたちの手に渡されたものはたしかに癒しではなく〉
    〈ぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわれてしまったぼくたちはこわ〉

    残念ながら2009年に38歳で亡くなられたそうです。
    惜しい。

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    投稿日:2022.10.12

  • solala06

    solala06

    石川啄木、猟奇歌詠んでたんだな……こ、怖……
    中島敦もなんか露骨に怖くて…怖…

    現代歌人もこんなに”読ませる”面白い短歌を詠んでる人がたくさんいるんだな~~~~
    こんなとこでしか絶対お目にかかれないから、勉強になったな続きを読む

    投稿日:2022.02.14

  • ofellabuta

    ofellabuta

    倉阪鬼一郎が俳句や短歌もやる人とは知らなかった。
    「怖い」短歌アンソロジー。夢野久作の「猟奇歌」みたいなものから、幻想的なもの、人の心理や、日常に潜むふとした闇を描いたものまで時代を問わず幅広く集めていて、ひとつひとつ解題がつく。
    「ほんたうにふとい骨の子になりましてこれは立派ななきがらになる」「うしろあるきにやつてくるのはたぶん死んだはずのおまへさんでせうね」とか良い。
    続きを読む

    投稿日:2021.07.12

  • がと

    がと

    〈向こうから来るもの〉、〈死の影〉、〈内なる反逆者〉、〈変容する世界〉……。この世に潜むさまざまな恐怖を掬いとって詠まれたような短歌を9つのテーマに分け、多数紹介するアンソロジー。


    絵画や写真のようにそこにあるものを瞬間的に掴み取り、説明を極力省く俳句とは違い、短歌は一首のなかで物語を描くことができてしまう詩型だと思う。書き出し小説やコンデンスト・ノベルは短歌の仲間と言ってもいい。それでいて、完全にフリとオチができあがってしまっているとその作品は怖くない。表層的な意味の奥にまた別の真相を隠しているような短歌が怖い。
    以下、気になった収録作。

    ◆ おそろしきことぞと思ほゆ原爆ののちなほわれに戦意ありにき 竹川広
    戦争の怖さと同時に、そもそも戦争というものを生みだす憎悪の深淵をじっと見つめている内省の歌。

    ◆ 少年の肝喰ふ村は春の日に息づきて人ら睦まじきかな 辺見じゅん
    内側の人間には日常の風景が、外側からは〈異常〉で〈猟奇的〉。異常な日常を生きる村が恐ろしいのか、他者の日常を異常と断じてしまうことが恐ろしいのか。茂吉に通じる作風。

    ◆ 不眠のわれに夜が用意しくるもの蟇、黒犬、水死人のたぐひ 中城ふみ子
    フュスリやゴヤの夢魔のような深夜の幻覚。「蟇」の字から墓が連想されて「黒犬」がでてくる感じが面白い。

    ◆ 男の子なるやさしさは紛れなくかしてごらんぼくが殺してあげる 平井弘
    下の句から感じる幼さと「殺」のおそろしさ。谷川俊太郎の「男の子のマーチ」が頭をよぎった。

    ◆ 生前は無名であった鶏がからあげクンとして蘇る 木下龍也
    食べるために育て、殺めたものに可愛らしいキャラクターを付与して売り、買い、食べる。社会的な罪の隠蔽システムが「からあげクン」の一語で表現されている。

    ◆ やさしくて怖い人ってあるでしょうたとえば無人改札機みたいな 杉崎恒夫
    軽い言葉の使い方とそこに宿る哀切からニューウェーブ世代かと思ったら、1919年生まれと知って驚いた。〈こわれやすい鳩サブレーには微量なる添加物として鳩のたましい〉もいいな。
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    投稿日:2021.03.25

  • M a !

    M a !

    あまり短歌は嗜まないが、面白かった。
    様々な『怖い』があり、想像してた『怖い』とは違った。良い意味で裏切られた。

    投稿日:2020.06.08

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