【感想】認知症の親の介護に困らない「家族信託」の本(大和出版)

杉谷範子 / 大和出版
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  • akiuwa

    akiuwa

    [荒川区図書館]

    図書館の法律関連(NDC324)で見かけた本。
    "家族信託"の文字で借りてきたんだと思う。

    こちら側の予備知識が増えているせいもあるだろうが、分かりやすく比較的平易な文章で説明されていて分かりやすかった。各説明においては「簡単で常用できる関係図」を一つ用意したうえで、それに対して追加事項を付記して説明してくれるとよりよかったが、表題の状況に焦点をあて、更に後半の3章以降は実例紹介も豊富にあって良かった。

    ■認知症時に凍結される資産(p. 27)
    ・銀行:窓口取引全般。キャッシュカードは使用可能でも法的には問題あり
    ・不動産:本人名義&共有名義の自宅の建て替え、売却賃貸など
     収益不動産の場合は契約更新や融資
    ・株式:株主総会の開催や社長交代

    ■諸知識
    ・後見人になれるのは(p. 36)
    東京や千葉などの都市部では、預貯金が500万程度で専門家が後見人に選ばれる。
    また、預貯金や有価証券の額や種類が多い場合も。そして、「一度後見人をつけたら、遺産分けや保険金の受取が終わった後も、原則、本人亡くなるまで外すことはできない」

    ・申し立て(p. 38)
    家族が後見人になるのは案外難しい。そして申し立てを一度すると取り下げられない。更に裁判所が決めた報酬(東京家裁の場合基本報酬は月2万、財産が1000-5000万で月3-4万、5000万超なら月5-6万、逆に専門家の少ない地方の方が高額のこともあり、毎月20万とか、4000万の財産で月8万などのケースも。)が毎年通帳口座から引き落とされる。

    ・後見制度支援信託(p. 41)
    日常的に使う金銭を手元に置き、通常使わない金銭を信託銀行等に預ける(信託する)仕組み。この場合、信託契約の手続きをした専門家や銀行に支払う報酬も発生する上に、裁判所の指示書がないと払い戻しができない。

    ・「任意代理」&「任意後見」のススメ(p. 58)
    「任意後見契約」を判断能力が落ちたり亡くなる前に結んでおけば死後の契約行為も結べる反面、これはあくまで"後見"のため「本人が元気なうち」は代行不能。なので本人が元気なうちから発効可能な「任意代理契約」もセットで結んでおけば、認知症になる「前」と「後」をスムーズに繋げられる。
    それでも"後見"に移行したのちは"後見監督人"がつくため、年に数回の報告義務や各種制限(指導)が入るので、そのデメリットを避けるのであれば、「家族信託」を。

    ・不動産を贈与、売買、信託時の税金(p. 86)
    『贈与』の場合は、「登録免許税:2%」「不動産取得税:4%」「譲渡取得税:なし」「贈与税:場合によりかかる」
    『売買』の場合は、「登録免許税:2%」「不動産取得税:4%」「譲渡取得税:場合によりかかる」「贈与税:なし」
    『家族信託』の場合は、「登録免許税:0.4%」「不動産取得税:なし」「譲渡取得税:なし」「贈与税:なし」
    一例として一億円の不動産の場合、贈与時の税金は原則税率で約5600万、家族信託なら約40万。贈与時に与える各種特例を受けたとしても、その差は大きい。但し家族信託をしても、「"受益者"が亡くなって受益者が移行する」と、相続と見なして「みなし相続税(死亡保険金にかかる相続税などと同じ)」と呼ばれるものが発生する。

    ・受益者の義務(贈与税)(p. 88)
    「他益信託」は「自益信託」と違って委託者と受益者が異なるので、"ケーキを持っている者"(受益者)に贈与税が発生する。

    ・名義人の義務(不動産の固定資産税)(p. 89)
    固定資産税の納税義務者は受託者(名義人)で、通知書も受託者の元に届く。
    固定資産税の納付以外の"管理"や第三者への補償も、"ケーキの箱をもっている者"(受託者)の義務となる。

    ・実ケース:金銭贈与目的の家族信託(p. 94)
    "ケーキ"の持ち主は委託者本人にしておくこと。受益者を他者(孫など)にしてしまうと、信託財産すべてに一度に贈与税がかかってしまうから。
    また、受託者の一存での行為を抑えたかったら、「受益者代理人」を設けて、「受益者」or「受益者代理人」の同意なく受託者が贈与行為が出来ないようにすればよい。

    ・実ケース:実家の売却や管理を目的とする家族信託(p. 97)
    委託者兼受益者が認知症になっても、問題なく売却し、ローン返済にあてられる。
    「相続時精算課税制度(下記参照)」も似ているが、そちらは「相続税」にしか関与しない(上記参照)のがデメリット点。更にその家に相続人が同居していない場合には、「3000万円の特別控除」や「10年超所有軽減税率の特例」などの税務上の特例も使えない。その点家族信託は贈与税以外の登録免許税、不動産取得税、譲渡取得税に対しても優遇される上、受託者(名義人)として実家を売った後、更に相続時精算課税制度を使って「売却金」の贈与を受けることが出来、不動産そのもので贈与を受けるよりも税負担が軽くなった分手取り額も増えた。

    ・相続時精算課税制度とは(p. 99)
    原則60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫に対し、財産を贈与した場合に選択できる贈与税の制度のこと。但しこの制度を一度使うと、以降年間110万以下の暦年贈与は使えない

    ・家族信託の「1年ルール」(p. 102)
    受益者の死亡時、みなし相続税の対象となり、受益権を受託者が取得した場合、「受益者も受託者も自分自身(同一人物)」という"信託契約(状態)"を最長で一年続けられる。この「名義と財産権が分離している一年間」の間に名義権のみ移転すれば、二度目の登録免許税を課せられることなく新たな名義者との信託契約を結ぶことが出来る。但し一年を過ぎると"自動的にケーキは箱の中に入って"しまい、新たな信託契約を最初から組まなくてはならず、手続き費用や税金が再度かかってしまうので注意。

    ・家族法人(p. 107)
    受託者が最後まで元気とも限らないため、「家族で一つの法人」を作り、その法人との間で不動産を共有する各人が信託契約を結ぶことが多くなってきた。但し法人にした場合、法人の設立費用もかかるし、売り上げがなくても均等割課税があるため、原則年7万程度の税金を納める必要がある。

    ・クレームを避けるために(p. 139)
    契約者を当事者の署名・捺印のみの「私署証書」にせず、「公正証書」にし、認知症診察された場合は医師の診断書に「契約能力あり」の一言をいれてもらうと、公証人が認めた上に、医師が確約したものとなるので、裁判でひっくり返されることはまずない。 
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    投稿日:2022.05.08

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