【感想】世界史を大きく動かした植物

稲垣栄洋 / PHP研究所
(55件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
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ブクログレビュー

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  • Treasoner

    Treasoner

    農作物が文明を支えたのはある程度一般常識だが、それ以外にも様々な植物が歴史に紐づけられていて非常に面白い。古代オリエントはコムギ・オオムギ、インダス文明はイネ、黄河文明はダイズ・ムギ、長江文明はイネ、アステカ・マヤはトウモロコシ、インカはジャガイモ。生産量トップ5は当然入ってくる(トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモ、トマト)、三大穀物がいずれもイネ科なのは必然のようだ。 自然が豊かな地では農業は発展せず、逆に環境が厳しいところでこそ手間暇かけて農業をやる背景になる点が印象的。アフリカ東部で出現した人類が大地溝帯によって森林から草原での生活に代わり、それがどのような淘汰圧を作用させたのか気になる。牧畜をやるにしても食用にするのが難しいイネ科植物が結局必要なので植物の重要性は変わらない。黄河文明と長江文明の激突である春秋戦国時代も結局は寒冷化による農作地確保の争いが原因。その後、敗れた越の人々は山の中に棚田を拓き、日本にも伝わってきた。もともと自然が豊富だった東日本は縄文時代後期の寒冷化後に遅れて農業が広まってきたとのこと。イネは欧州で主流だったコムギなどと比べて収穫できる量が格段に大きく、日本の人口を支える要因となった。畑を休ませる必要もなく、田んぼでは毎年イネを育てることができるのでなおさらだ。ダイズと合わせれば必要な栄養が全部揃うが、ダイズはほとんどアメリカ大陸からの輸入に頼っている状態。戦国武将はそれぞれ山に囲まれた拠点にいるイメージだが、まさにコメの穀倉地帯を巡る争いだったともいえる。その後平和な江戸時代が来ると平野部の開発も進んだ。もともと東南アジア原産だが南国は自然も豊かなため、北限地域である日本ほどイネに依存しなかった模様。逆に欧州では草原を動物に食べさせて家畜肉でも栄養を取る必要があり、保存のためのコショウが重要で大航海時代を迎える下地となった。十字軍がきっかけでコショウが知られたとされるが、世界史はまさに植物というか食糧に支配されているかのようだ。トルデシーリャス条約の分岐点はもっと大西洋東側かと思ったが、ブラジルはポルトガル領となったように結構西側だったのだと再認識した。その後のサラゴサ条約の境界線がちょうど日本とは…結局は布教活動をしないオランダとの国交が確立する形になる。 ところでアフリカとの交易で黒人奴隷が増えて自国の生産性が落ちたとか、富が腐敗をもたらしたからポルトガルが衰退したと指摘しているが、出資元のイタリア諸国について述べておらず、金融という観点から歴史の本質を見れていないのが残念。オランダについても世界初のバブル経済といわれるチューリップ・バブルが衰退の原因と指摘しているが、商売気が強くて海軍力に投資しておらず軍事力でイギリスに敗れた本質が欠如しているのも残念。
    各国の料理は古い伝統の印象があったが、大航海時代がきっかけとなっているケースが多いのは驚くべき事実。トウガラシはアメリカ原産でありながら欧州よりも暑さの厳しいアジアで受け入れられ、トムヤムクンやグリーンカレー、四川料理などが発展。韓国でもトウガラシが受け入れられているのは元の支配下で仏教が禁じていた肉食が習慣化したからだった。聖書に載っていないジャガイモが苦労の末に欧州でも普及するが、その結果ジャガイモを食べる唯一の家畜である豚が広まり、欧州の肉食が進んだ。ドイツのソーセージもポテトも大航海時代の結果の一つ。麦類に変わってジャガイモが主食となると、やせた土地でも寒冷地でも収穫ができ保存もきくため余裕ができ、人口が増えることで国力も上がり、産業化への労働力も確保できる。さらにビタミンCを多く含むため航海食での壊血病も防止できる。アイルランドは単一種のみジャガイモを栽培していたので病気によって大飢饉になり、その時の移民がアメリカで活躍する因果もある。イギリスの船乗りが保存食で採用し、後にイギリス海軍や日本海軍にも取り入れられたカレーの由来は、インドの古くから伝わる伝統料理のイメージがあったが違った。
    ジャガイモと同様にアンデス原産のトマトも、大航海時代の結果まずナポリで普及し、スパゲティやピザが誕生した。地中海料理のルーツも大航海時代の賜物というわけだ。
    食用以外では産業革命のもとになったインドの綿も紹介されている。綿花と奴隷による三角貿易の他に、綿製品とアヘンによる三角貿易も紹介されている。インドの紅茶も中国産に依存しすぎたイギリスがアッサム種を発見したことが起源となるのでそれほど古い話ではない。
    ほかには、中央アジア原産のたまねぎのおかげで古代エジプトが栄えた事例や、戦国時代の軍用食としての味噌なども取り扱われている。
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    投稿日:2024.04.04

  • さけといわし

    さけといわし

    トウモロコシは怪物なんだという記載が一番頭に残っている。
    人の歴史はつくづく植物に、動物に振り回されて作られているのだなと思う。それは工業時代になり、石油というものがそこに名を連ねても、社会における動植物、特に主食となる作物を含む植物群の扱いは変わらず、彼らに一喜一憂され続けるのはこれからも変わらないだろう。
    彼らは人を利用して広がっていると言うのも、あながち間違っていないと感じられるほど、我々は植物に翻弄されるのだ。
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    投稿日:2024.02.06

  • 海外おやじ

    海外おやじ

    このレビューはネタバレを含みます

    タイトルにもある通り、本作は主に食物(植物)を取り扱います。

    やや劇的なタイトルではありますが、確かに歴史にインパクトのあった食物がフィーチャーされています。

    列記しますと、コムギ、イネ、コショウ、トウガラシ、ジャガイモ、トマト、ワタ、チャ、サトウキビ、ダイズ、タマネギ、チューリップ、トウモロコシ、サクラ、となります。

    ・・・
    何が良いかというと、やはり稲垣先生の徹底的な植物好き、植物に関する深く広い知識が面白くてよいですね。

    植物の生態だったり形状だったり進化の理由とかを説明しちゃう。そしてそれがまた非常に合理なのでついつい「へぇー」となる、という感じです。

    例えば、イネ科の植物について。イネ科の葉は全般に繊維質が多く、消化しづらいそうですが、これは葉っぱを食べられにくくするためだそう。また成長点が地面スレスレにあり、それより上の茎が動物に食べられても成長点から再び生えてくることが出来るそうな。
    って、世界史とは関係ないのですが、こういう「ちなみに、」的な話の方が印象深かったりします笑

    こうした実った種は、単なる食糧であるに留まらず、将来の収穫を約束してくれる財産、分配可能な余剰、富ともいえるとし、貨幣経済の黎明とも連結していることをほのめかしていらっしゃいます。これまた「大きな」はなしなのですが私はこういうのが好き。

    ・・・
    それから、農業についての逆説的な説明も面白かったですね。

    農業は重労働で、食物が豊かなところでは行われないという話。例えば稲作は弥生時代に九州に伝わり、東海地方まで瞬く間に広がったとされますが、東北地方にはあまり広まらなかったそう。これは稲垣先生がいうには「縄文時代の東日本は稲作をしなくても良いほどゆたかだったから」(P.35)とのこと。

    東日本では西日本の10倍の人口密度があり、それを賄える豊かな食物が自然の中で手に入れられたとのこと。確かに東北や北海道に多くの縄文時代の遺跡がある話を思い出しました。

    なお上記イネについての話が印象に強かったのですが、それ以外にもピーマンとかトウモロコシの話も面白かったですね。

    ・・・
    ということで稲垣先生の著作でした。

    途中、あっという間に終わってしまう章もあり、何だか編集者に乗せられて書いたのか?みたいな素人の勘繰りをしてしまう所もありますが、植物についてはどれも詳しく、面白かったです。

    故に、広く浅くで読むのには丁度よい書籍かと思います。

    逆にもっと深堀りして歴史の移り変わりを知りたいかたは、よくある「〇〇の歴史」「○○の世界史」みたいな本を購入されたらよかろうと思います。

    食べ物好き、うんちく好きにはお勧めできる一冊。

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    投稿日:2023.12.20

  • くんぷう

    くんぷう

    高校生の頃、オリーブの研究をしている先生が「ローマ時代のオリーブの役割と交易にもたらした影響」といったテーマで講演をしてくれた。とても印象に残っていて面白い講演で、まさにこの本のはなしに通じるな、と。
    そしてこの本も面白かった!
    普段食べているものだからこそ歴史を身近に感じる。
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    投稿日:2023.12.16

  • 寄せ鍋

    寄せ鍋

    今年度はどうやら「社会科」に興味があるようで、歴史、地理、政治、経済などにまつわる書物を主に読み耽っております。
    こちらは、いくつかの食材になる植物を題材にザッと「社会科」が学べる作品でした。
    イネとかコショウとか…どのような質で、どこから来たのか、どんな国を渡り歩いてポピュラーになったのか。この植物たちと人間の関わりとは、など。
    とても身近な食材ばかりなので、改めて見直す機会にもなりました。
    続きを読む

    投稿日:2023.10.21

  • 文音こずむ@『はじめての』文芸部1期生

    文音こずむ@『はじめての』文芸部1期生

    お茶からアヘン戦争が勃発したのは有名な話。では他の植物の影響は?飢餓、富の象徴、文明の繁栄、産業革命…衣食住は人間の開発ではなく植物の恩恵なのかもしれない。中でも桜の項目が印象的だった。本当に散る桜は美しいのか?続きを読む

    投稿日:2023.06.11

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