【感想】土 地球最後のナゾ~100億人を養う土壌を求めて~

藤井一至 / 光文社新書
(35件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
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ブクログレビュー

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  • touxia

    touxia

     痛快な本だ。学問するのは、楽しいと思わせる。世界中をスコップを持って飛び回り、蚊に刺されながらも土を掘る。そこで、土の何かを発見する。まさに、学問は現場にあるのだ。
     人口爆発、食糧危機、環境破壊、砂漠化、土壌汚染。土は、地球最後の謎と言われている。
    藤井一至は100億人を養う土壌を求めるのである。土だけで、これだけ楽しく語るのは素晴らしい。世界の土壌には大まかに分けて12種類ある。大まかに分けると黒い土が三つ。赤い土が一つ。黄色い土が一つ。白い土が二つ。茶色い土が一つで、残りは、凍った土、水浸しの土、そして何の特徴もないのっぺらぼうの土。まさに、多様な土が存在する。
    とにかく、12種類の土を、スコップで掘って確かめるのだ。地球上で、最も肥沃な土地が、チェルノーゼムだと言われていた。それは、私もそう思い込んでいた。チェルノーゼムは、①黒海からウクライナのチェルノブイリ辺りで、ウクライナが世界の30%が集中している。ロシアの侵攻は、豊かな土を欲しがった。 ②北アメリカの五大湖近辺から南北に貫くプレーリー、③南アメリカのアルゼンチンにあるパンパである。チェルノーゼムは、黒い土なのだ。 日本の黒い土や泥炭土に比べて、ずしりと重い。粘土や砂の粒子を覆うように腐食がくっついている。土は中性である。プレリードッグ、ジリス、ミミズが土を掘り返している。それでもチェルノーゼムは毎年1センチメートルづつ減少している。
    ところがである、農作物が一番とれ、そして人口密度が高いのは、黒ぼくの土だった。甲子園の高校球児の白いユニフォームを黒く染める土。松尾芭蕉も「足袋 ふみよごす 黒ぼこ土」と詠んだ。黒ぼこ土は、北海道から東北、関東、九州に至るまで全国に分布している。その分布は、火山や温泉の分布と一致する。土が黒いことは、腐食の多い肥沃な土の証しだ。実は、チェルノーゼムより腐食が多い。(知らなかった)結局、CO2が一番蓄えられているのが黒ぼく土だった。
    チェルノーゼムの腐食と比べて、黒ぼく土は10倍の埋蔵量だった。素晴らしい。
    日本は、国土の70%が森林で、黒ぼく土は30%ある。ある意味ではCO2を一番蓄えている国でもある。黒ぼく土の発達が異常に速い。平均すると1万年の間に1メートル、100年に1センチメートルの厚さができる。これは南米やアフリカのできるの10倍速なのだ。縄文時代の人々が暮らしていた1メートル下の地面から盛り上がってきた。年中湿潤で温暖な日本生まれ、日本育ちなのだ。食べ物が腐りやすい気候は、土壌の微生物が旺盛なのだ。レタスがたくさんとれる野辺山高原サラダ街道は、縄文時代からの土の作り上げた土だったのだ。黒ぼく土は落ち葉が一年もすれば跡形なくなる。チェルノーゼムでは、五年経過しても落ち葉の半分が残存する。水が足りなく、微生物が働かないのだ。
    人口増加の時代に、人口減少する日本の土が、一番人間を養うことができるのだ。
    結局、腐食の多い黒い土と雨が多く降る地域が人を養うことができ、また水田が連作障害が起こらない農法だった。
    この土を巡る物語と人口100億人を養う土が日本の土だったという結論は、大きな希望を持たせる。この土を大切にしていないなぁと痛感して、地球規模で土を巡る研究が旺盛になされていることに、藤井一至の大きな活躍の意味があった。いい本を読んだ。そして、いい気づきがたくさんあった。もう一度土をしっかり見つめて、土の期待に応えよう。
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    投稿日:2024.03.23

  • 月猫夕霧

    月猫夕霧

    前半は世界の土壌を12種類に分類してそれぞれの土を訪ねていきつつ特徴を説明し、後半ではどの土壌が食糧生産に適しているのかを考えます。肥沃な土壌と言えばチェルノーゼムですが、それも現代の大規模農業で使い込むとあっさり栄養が無くなるそうで土だけに頼るのも難しいのですね。
    それにしても、こういう自然科学系の本を読むと、日本列島って変なところだなぁと改めて思いますね。
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    投稿日:2024.02.27

  • あがり

    あがり

    地学、生物学、環境学、化学の知識を組み合わせ、土について探究。
    世界各地を飛び回る筆者。

    内容は専門的かつわかりやすい。無駄のない文章だ。

    頻繁に入ってくる雑談的な話も見逃せない。くだらないわけではなく、時事やテーマに沿っており、ためになる。

    したがって全文をじっくり読む必要があり、読了に時間がかかった。

    たくさんのカラー写真やイラストがあるのに手頃な値段であることも良い。

    読了180分
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    投稿日:2023.12.21

  • クロ

    クロ

    地球上のすべての人間を食わせることができる豊かな土壌を求め、世界中を旅して土の謎を解き明かそうとする筆者の自伝的な研究紹介。
    私の大好きな、研究大好きクレイジー系科学者。もう少し本人の人間臭い部分が出ていても良かったとは思うが、土壌大好きの筆者に飲み込まれて一緒に土が好きになる。続きを読む

    投稿日:2023.09.27

  • ペンコフ

    ペンコフ

    藤井一至氏が2018年に刊行した土に関する新書。

    ニュースで高校地理が必修科目となると聞いて、久々に地理の勉強してみるかーと思い購入し、一晩で読破。

    藤井氏がシャベル1つで世界中の12種類の土を巡る旅?(研究)の様子がとても読みやすくまとめられている。
    まるで藤井氏と一緒に世界中の土を巡っている気分が味わえた。

    読後は改めて私たちの生活の土台となっている土は、当たり前のものではなく、日本という国は恵まれていることが再認識できた。
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    投稿日:2023.08.28

  • yonogrit

    yonogrit

    1012

    「地球にしか土がない」というのは、勉強を始めたばかりの頃、私にとっても意外だっ



    私たちは、記憶や愛が〝風化〟すると 喩えるように、風化=劣化・消失と捉えがちだが、風化はただ岩を分解するだけではなくて、そこから土を生み出す現象を含んで



    まだ見ぬ世界には農業に適さない土があるという。北欧が一例だ。サンタクロースの故郷であるフィンランドは、寒冷で肥沃な土壌も少ない。フィンランドの人々は、なぜ自分たちの祖先がフィンランドを選んで定住したのか? と自分たちの生活を面白おかしく笑いの種に



    フィンランド人の起源は明確ではないが、岩と沼地が多いという土に関する記述は正しく、凍っていない湖さえあれば水泳をしようとするフィンランド人の習性は今も健在である。プータロと呼ばれるサウナ小屋と湖を行っ���り来たりする。断っておくが、現在のフィンランドは、世界で最も教育水準の高い国の一つで



    緑豊かな熱帯雨林とハイビスカスの花のように赤い土壌。コントラストが鮮やかな景色はエキゾチックだが、赤色の土なら日本にもある。それも東京都だ。山手線を浜松町で降りてフェリーに乗り継いだ1000キロメートル先、小笠原諸島で


    チガヤは日本でも道端に生えているイネ科の雑草だ。窒素やリンは乏しいが、カリウムを多く含む。乾いた草原はしばしば火事を受け、その灰が土に加わる。そこには再び、チガヤが育つ。圧倒的な生命力



    私の専門は、土壌学という。研究対象が地味な上に、私自身アピール力に自信はない。「裏山の土の成り立ち」を研究する若者にはスポンサーが不可欠だ。研究費がなくなり、にっちもさっちもいかなくなって恩師の研究室に電話をすると、こちらが話す前に「ナンボ足りんの?」と迎えてくださった小﨑隆京都大学名誉教授(現・愛知大学教授)には、感謝の言葉もない。恩師は、近く国際土壌科学連合の会長として「国際土壌の 10 年(2015~2025年)」の旗振り役を務める。「先生はいつ電話がかかってきてもよいように準備されていましたよ」と秘書の方から伺い、スコップを持つ手にも力が入っ



    フィンランド人の起源は明確ではないが、岩と沼地が多いという土に関する記述は正しく、凍っていない湖さえあれば水泳をしようとするフィンランド人の習性は今も健在である。プータロと呼ばれるサウナ小屋と湖を行ったり来たりする。断っておくが、現在のフィンランドは、世界で最も教育水準の高い国の一つで
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    投稿日:2023.07.19

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