【感想】虚航船団(新潮文庫)

筒井康隆 / 新潮文庫
(42件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
22
8
5
2
1

ブクログレビュー

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  • fabi@第一芸人文芸部

    fabi@第一芸人文芸部

    このレビューはネタバレを含みます

    摩訶不思議。滅茶苦茶やん。
    そう思って、はじめの方は読み進めた。
    さすが奇書と言われるだけある。
    小説界のラーメン二郎と誰かが書いていたが、言い得て妙。それくらい濃厚。

    心して読んで欲しい。
    単なる読書ではなく、筒井康隆への挑戦となる。

    執筆に6年をかけたらしく、終盤では他の創作の依頼は断ったらしい。筒井康隆の集大成的作品とも言われている。

    ーーーあらすじと感想ーーー

    第一章 文房具

    宇宙船団の中のひとつに、山ほど文房具が乗っている文房具船があり、文房具たちは全員どこか狂っている。そしてP20までに大学ノートは死に、ダブルクリップが自殺する。

    は?

    自分は大事だと思うところや物語のキーになっているところに線を引きながら読むタイプだが、この本に関しては、見返してみると自分でも何故そこに線を引いたのか全くわからない。

    少しだけ登場人物(文房具)とその性格を紹介すると

    自意識過剰なコンパス
    性欲が抑えきれない糊
    誰彼構わず喧嘩して殴られるホチキス
    精神崩壊を起こしている輪ゴム
    自分を天皇と思っている消しゴム
    初老ナルシストの下敷き
    大作家である三角定規兄弟の兄
    兄への嫉妬に狂う三角定規兄弟の弟。などなど。

    文房具たちは、どこまで行くのか、いつ帰れるのかも分からない宇宙航海のせいで、一人残らずみな気が狂っていると書かれている。閉鎖的な文具船の中ではそれが増幅され、結果として狂っていることが正常という逆転現象さえ起こっている。

    なんとか航海を続けていたが、ある時中央船団から『惑星クォールの全住民殲滅』の指令が届く。

    第二章 鼬族十種

    惑星クォールの歴史物語。これがまた重厚で、二章だけで世界史の教科書を読破した気分になる。参考書を読む時のように何度も何度も、前ページの地図や家系図を見直すことになる。

    惑星クォールに住んでいるのは流刑されてきた鼬族の子孫で、原始的な状態から文明社会を築き上げていた。核兵器すら開発する。

    血塗られた歴史は世界大戦へと行きつき、最終的には核戦争が起こってしまう。それはちょうど文房具船が住民殲滅に来襲したのと時を同じくしていた。

    第三章 神話

    文房具対鼬の戦争。
    目線が何度も切り替わり、空間や時系列の移動も激しいのだが、読み応え抜群。バトル小説。
    第1章、第2章を読み終えたご褒美だとも感じた。面白い。

    そして賛否両論を引き起こした箇所が出てくる。僕は映画『大日本人』を思い出した。面白い人はここに行き着くのかとおもった。

    最後のセリフも最高だった。

    筒井さん曰く
    「第一章でまず、SF嫌いと、主人公にしか感情移入できぬレベルの者と、物語の展開だけを求めて小説を読む読者が疎外される」

    「第二章で、人間がひとりも登場しないことがはっきりし、人間以外の者に感情移入できないレベルの読者が排除される」

    「第三章で、通常のエンターテインメントの如く漫然と読んでいても筋は追えるとたかをくくった読者は作品から拒否されてしまう。あたり前だ。そんなに気軽に消費されてたまるか」

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    投稿日:2023.11.08

  • ちゃり

    ちゃり

    このレビューはネタバレを含みます

    『萌え絵で読む虚航船団』は2019年頃に知り、数回読んで更新日付に気付き、続編は望み薄であると察した。

    筒井康隆は、一冊だけ読んで通るのをやめた道である。やはり2019年頃、その一冊を読み直して評価が真逆に改まったので、なにか読んでもいいかなと思えるようになった。

    かような縁で本書に至る。
    『萌え絵で読む虚航船団』で見知っているので、登場人物が文房具である第一章に問題はない。また、現実の歴史をパロって架空の歴史の構築を試みている第二章については、哲学の貢献を省いているのだなとは思うものの、特に意見を持たない。ただ『シルマリルの物語』や『ペガーナの神々』が脳裏をよぎったのみ。

    問題は第三章である。
    この小説が発刊された1984年頃、この頃がどういう時期であったかしかと思い出すことはできないが、大雑把に当時とまとめることにして、漫画にせよ小説にせよ、作家が登場する楽屋オチや、内輪ネタともいえるようなものが散発的にだがわりとある頻度で見受けられたことを記憶している。よほど好きな作品作家でなければ読んで楽しいと思えたことはなく、好きな作家作品であってもときには生暖かい気持ちにさせられたものだ。「第三章 神話」は、そんな作品ではなかったのに、突如としてそんなものが押し寄せてきて台無しになった。そんなカンジ。第二章の半ばからそうではないかと察していたのだが、著者は飽きていたのだろう。

    これまで書かれた作品に対して「ヤクでもやってたんじゃないのか」という感想を抱くことはあった。あくまで書かれた作品そのものに対してそう思った。
    ところが今回の読書で、発刊されたことに対してそう感じたことが新しかった。関係各位、誰も止めることはできなかったのか。第一章、第二章はよく出来ているので、それを惜しんだのだろう、たぶん。

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    投稿日:2023.01.27

  • こうちゃん

    こうちゃん

    三度目の正直での読了。二回とも第一章での挫折。全体を通してみたら、第二章の鼬族十種が一番うんざりするところだ。延々と鼬族の歴史がつづられる。うんざりしたことも数しれずだ。世界史のパロディも笑えない。いちいち地図を参照した。見にくい地図だ。第三章は筒井本人も登場する。文具船員の文房具たちも全員死亡して殺戮者たちの末路ははかなない。文学の破壊に関して言えばソローキン『ロマン』が優れているが、こちらも破壊ではないが面白いかつ読みにくい。この世は文房具たちではないが、みな狂っているのが当たり前なのかもしれない。続きを読む

    投稿日:2019.03.22

  • bagel

    bagel

    一貫して狂気的。
    途中から理解できなくなったので、取り敢えず文章を感じることにして、最後まで目を通すことができた。

    投稿日:2019.02.07

  • kuroinohos

    kuroinohos

    作者は後にイタチ科惑星の“ファウナ”に、「ラッコ忘れた」と言ってゐるが、例へラッコもふもふが21世紀初頭に辛うじてあったやうな状態でも別にいいと思ふ。
     メタフィクションとして、選挙カーががなる人の名前らしきものが出て来る他、ホチキスが放つ針をカタカナに見立て
     ココココココココココ
    といふ表現が出て来る。
    続きを読む

    投稿日:2018.02.13

  • imemuy

    imemuy

    筒井康隆作品の、妙に人間臭いモチーフと、軽々と死ぬこと、最後が読点の極端に少なく混沌に落ちていく感じがどうにも苦手で、煙に巻かれたような気がしてしまう。
    パロディと比喩の境界、唐突な視点の切り替え、語句の繰り返し、年代がごちゃごちゃ、ページをまたぐ、作者の独白や思考が混入、、、手法としてはとても挑戦的で斬新。

    文章などが小説らしくなくて読んでる最中は面白いと思えないんだけど、のちに構成やそれぞれの登場人物(登場文房具?)の意味を考えていくと、深いものがあるなーと気付かされる。
    便箋と封筒の、他人から聞いたら何がなんだか分からない言葉の置き換え遊び、これがこの本全体にもあてはまって「違和感」を出していそう。なんでそんなもので喩えちゃうの!意味不明!みたいな。
    あとは虚構歴史を一通り目で追っていたおかげで、第3部の鼬界の「歴史上の人物」への言及が( 上半身の鼬とか )あああれね、という感じで理解できたのが面白かった。

    冒頭で意識過剰なコンパスが出てきて、これが最後まで印象に残る。最後はマリナクズリ視点で、「スマートで優しかった」と言われているのがこの本唯一の救いかしら。
    続きを読む

    投稿日:2016.12.22

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