【感想】「都市の正義」が地方を壊す

山下祐介 / PHP新書
(1件のレビュー)

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    本書は、地方創生の必要性(人口減少と東京一極集中の是正)の必要性を真っ向から論じつつ、現在の政府の地方創生施策が目的(人口減少の抑制)を忘れ、手段(経済、稼ぐ)が目的化している状況を鋭く指摘している。


    P64では、
    「地方消滅は、二十万人程度の都市への集中へ。
    そして地方創生の中心は「地方の新たな仕事づくり」に。
    いずれも共通するのは、ひと(人口)の話をしながら、そこから外れて、カネ(経済、財政、産業)の話になっていることだ。」
    と、増田氏と政府がいずれも、論点がずれていることを指摘している。

    さらに、P80では、
    「人口減少の①都市化要因説と②低経済要因説は相容れず、二律背反…1都市化要因説を採用…。そもそも都市化要因説をとることから地方創生は始まったのであるから、背反する低経済要因説にのっとった現行の地方創生事業の方向性には、大きな論理的欠陥(自己矛盾)があるといわざるをえない。」と述べ、人口減少の要因を正しく認識しつつも、施策の段階でおかしくなっていることを指摘する。

    P85では、
    「地方にない仕事は、威信のない仕事であり、そして首都圏が頂上で大都市がその次、地方都市、農山漁村はさらに劣位にと序列されている以上、地方には威信の高い仕事は構造上ないということになるのである。」と述べ、その上で、職業威信の序列、地域間の序列がを作り上げたものは、まず国の行政の仕組みと指摘している。この構造にどこか行き過ぎが生じ、過剰に首都に集まっていることが問題であると。まさしく大卒者が就きたい仕事がない(本来重要な仕事はあるわけだが)、ことが問題。

    P111では、
    「必要以上に国家を中心にものごとを考える発想につながってはいなかったか。そして経済や財政の面のみで社会をとらえ、そのことによってニンゲンのあり方を軽んじる政策を是とするような風潮が蔓延したのではないか。(略)
    私たちはどこかで人口減少を経済の問題だと考えてしまっている。たが、そうしたすべてを経済中心に考える思考法そのものが、人口減少を引き起こす元凶なのだ。人口減少は経済の問題ではない。心と社会の問題である。その根源には価値のはき違えがある。」と述べ、これが著者の本書を貫く大きな思想となっている。

    P122では、
    「問題は少子化をどう止められるかであり、今後、出産・子育てを国民がどんなふうにこなしていけるかである。
    問題は経済でも、また行政・財政でもない。この国の社会、国民の心に問題の核心はある。そしてその原因は、国家への過剰な権力集中にあり、そうした集中をもたらす国民の過剰な国家依存にある。壊れてしまった心を立て直し、あるべき価値を取り戻して、社会を皆でともにつくっていく。そういう状態にこの国を戻していかなくてはならない。」として、問題の核心を著者なりに整理している。

    P228では、
    「肝心の地方創生の政策や事業では、依然として国家ぎ上、中央が上、東京が上という発想が根気強く残っていて、様々な形で顔を出しているということだ。」と地方創生施策を批判する。本来創意工夫か求められていた地方創生はもはやなく、2015年の基本方針から、稼ぐことばかりに焦点が当てられ、一体何を目的としたものなのか、市町村レベルでは、政府の考えが全く分からなくなっていたように思う。
    本書では、さらに国のPDCAの甘さも鋭くしており、本書が政府関係者に読まれることを期待したい。

    最後に、著者なりの地方創生策として
    P264では、
    「人口とインフラの適正な配置が、実は、大都市に集中する人口移動を止めるためにも最も大きな課題であり、手段になる。」
    P265では、
    「農業に限らず、同じように社会にとって不可欠な労働については、同様にその所得の保障を適切に設計することが求められる。しかもそれは、「弱者支援」ではない、「共生の思想」をふまえた「お互い様」としての所得保障のシステムとして構築される必要がある。」
    P266では、
    「どんな仕事に就いていても、それぞれが送る人生ステップが保障され、不安に陥ることなく今を生きていけるという道筋を、しっかりと、提示していくことが必要なのである。」
    として、ハードソフト両面での対策を提示している。漠としたものではあるが、地域で人が生きるためには、今の政府が並べる外来語ばかりの実態に合わない政策群よりも、遥かに重要な対策であると共感した。

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    投稿日:2018.08.10

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