【感想】アルハンブラ物語 下

アーヴィング, 平沼孝之 / 岩波文庫
(10件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • ayafj

    ayafj

    2023/4読了
    アルハンブラの伝説や物語も面白いが、作者を案内するアルハンブラ周辺の住人たちが実に魅力的。

    投稿日:2023.04.06

  • クマオ

    クマオ

    読み終わってしまった。が、これは何度でも楽しめる類の本。下巻はアルハンブラそのものより、現地で見聞きした伝説や噂なんかの小話が多い。

    ああ、行ってみたい。
    しかし3年も住んでたっていう当時の事情もすごいなあ。続きを読む

    投稿日:2022.08.16

  • がと

    がと

    19世紀。スペイン旅行中のアーヴィングはグラナダを訪れ、アルハンブラ宮殿に滞在するという幸運に恵まれた。スペイン語に堪能だった彼は、代々城塞内で暮らしてきた人びとの語りや図書館に残る古文書を紐解き、在りし日のイスラム王朝の姿と今もグラナダに伝わる黄金伝説を書き綴り、旅の記録と共に異国情緒あふれるおとぎ話をアメリカに紹介した。時空を超えた旅行記。


    再読。一度はイスラムが全域を支配し、その後700年以上をかけてキリスト教に再征服(レコンキスタ)された歴史を持つイベリア半島。カトリシズムとイスラム文化の混淆、そして険しい山々が生みだした物語とそれを語る人びとの騎士道精神に満ちた気風を、アメリカ人のアーヴィング目線できらきらと活写している。
    改めて読むと文章が上手い。訳が良いのはもちろんとして、アーヴィングって原文も読みやすそう。アルハンブラ内をぶらつくアーヴィング自身の滞在記と、現地の人びとから聞き書きした物語が交互に語られる構成が良い。読者は彼と共に城塞を彷徨い、それぞれの部屋に残された記憶や古老の問わず語りに耳を傾ける。〈世界遺産〉という概念が生まれる前のアルハンブラは、廃墟好きだけが訪れるひっそりとした観光地だったらしい。夜の宮殿内をうろつき、手入れされずに荒れた庭を眺めるアーヴィングの心境が肝試しから徐々に幻想的な過去の世界へと入り込んでいくのと同じくして、読者も「アラビアンナイト風の」魔法の物語に誘われていく。
    どこまでがアーヴィングの創作なのかはわからないが、「アラブの占星術の伝説」の後日譚が「二体の思慮深いニンフの像の伝説」だったりと構成がしっかりしている。鳥語を話せる王子がフクロウとオウムをお供に旅する「アフメッド・アル・カーミル王子の伝説」はコミカルで可愛く、二つの宗教の狭間に揺れた悲劇のヒロインの伝説が18世紀イタリアの音楽家パガニーニのヴァイオリンに接続される「アルハンブラの薔薇の伝説」も面白い。かつて異教徒の土地だった証が山の上に堂々と残り続けているからこそ、魔法がまだ生きていると信じられていた場所。〈アーヴィングのアルハンブラ〉という幻想の土地への旅を楽しませてもらった。
    続きを読む

    投稿日:2022.05.04

  • transcendental

    transcendental

    19世紀アメリカの作家アーヴィング(1783-1859)が、スペインのグラナダにあるアルハンブラ宮殿に滞在した際に執筆した旅行記であり、かつ当地で見聞したいくつかの伝説を記録したもの。初版1832年、改訂版1852年。本書の影響により、当時あまり知られていなかったアルハンブラ宮殿は、"異国情緒"あふれるイメージと結びついて広く西洋世界で親しまれ、人気の観光地となった。



    スペイン(イベリア半島)という地域が、西洋世界にとって、最も身近なオリエント(東方世界、則ち"異国")として認識されていることが、以下の個所によく表れている。

    「しかし、これほど長きにわたる統治にもかかわらず、スペインにおけるイスラム教帝国は、輝かしい異国でしかなかった。あれほど見事な花を咲き誇らせながら、スペインの地に根付くことはついに叶わなかった。西欧の地にあって、信仰と習俗の垣根によってすべての隣国から切断され、オリエントの同胞からは海と砂漠とによって隔絶され、「モーロ系スペイン人」は孤高の民だった。スペインにおける、その存在の形態そのものが、侵略の地に砦を築いて守り抜く戦いのそれであり、それは果敢で騎士道的華やかさを装いはしたが、いつの日か、終息する以外にないものだった」

    「実のところ、スペインは、その歴史、習俗、風俗、思考様式のいずれにおいても、他のヨーロッパ諸国とは隔絶している。スペインは、ロマンス香る外つ国である。ロマンスの国スペインと言われる、この異彩を放つ伝奇的要素は、当節の西欧型ロマンスのもつ感傷的な伝奇趣味とは無縁だ。スペイン型ロマンスの中心にあるのは、輝かしい東方世界と直結する、高邁なサラセン[イスラム教徒を指す語]直伝の騎士道精神である」

    西洋人がオリエントに付与する"異国情緒"のイメージは、西洋人に対してどのように機能するのか。

    「この古い、夢見ているような宮殿には、ことあるごとに人を過去の夢想へと誘い、失われた世界を幻のように現在によみがえらせ、むき出しの現実を数かずの幻想で包み込んでしまう、不思議な力が潜んでいる。わたしは、「無いものが有るもののように見える世界」を歩き回るのが好きだ」

    現実には「無いもの」が想像の中で「有るもの」とされるとき、それは往々にして理想化された幻想となる。即物的で散文的なものでしか在り得ない現実に対して、それをロマン的に粉飾し、理想的な幻想として創出するためのイメージの核として、オリエントは機能する。そこでは、西洋人の精神的な"慰み物"として劣位に置かれている。オリエントはそうした幻想を提供するための一つのきっかけに過ぎない。

    ここにあるのは、本気で現実化しようとは思っていない理想を或る一定の距離を置いて仮想的に創出し鑑賞しようとする消費の欲望であろう。「見たいものを見る」という認識の欲望であろう。他者を自己が作りだすイメージ通りの客体として固定しておくことで、自己にとって有利な他者との関係(不均衡な支配-被支配関係)が変更されてしまうことを回避し、他者への優位性を安定的に維持しようとする欲望であろう。それは、自己像の変更に対する恐怖心の裏返しであるとも云える。則ち、突き詰めれば、西洋による西洋自身の自己定義の欲望であると云えるだろう。

    オリエントという表象は、ロマン的に称揚されているように見えながら、実際は西洋のオリエントに対する優位性を再確認し植民地支配をイデオロギー的に再生産するための契機に過ぎない。



    上巻は、大部分がスペインの風土文化やアルハンブラ宮殿にまつわる歴史の記述に費やされており、やや退屈である。しかし下巻には、当地で収集した民間伝承をもとにアーヴィングが再現した「伝説」が多数収められており、楽しく読める。特に、恋物語の「アフメッド・アル・カーミル王子の伝説――恋の巡礼行」「三人の美しい王女の伝説」、秘密の財宝が登場する「モーロ人の遺産の伝説」「二体の思慮深いニンフ像の伝説」が面白かった。

    「今日のように、大衆文学が低俗さを売り物にし、人間の悪徳と愚劣を見世物にし、世界を挙げて利潤の追求が詩的感情を踏み躙り、魂の瑞みずしさを枯渇させている時代に、このような、高い誇りに生き、気高い思念が支配した時代の記録に立ち戻り、古いスペインの騎士道ロマンスの世界に身を浸してみるのも、あながち、意義のないことではないだろう」



    訳文について、助詞の使い方が不自然な箇所が散見された。
    続きを読む

    投稿日:2018.06.12

  • multi-vitamin

    multi-vitamin

    このレビューはネタバレを含みます

    下巻は伝承が中心。いずれも秀逸。幻想的な話と魅力的なキャラクターで、読んでいると心が温まる感じがした。特に良かったのは次の2つ。「アフメッド・アル・カーミル王子の伝説」では、オウムとフクロウの力を借りてお姫様と結ばれる。「ドン・ムニョ・サンチョ・デ・イノホサの伝説」では、カスティーリャ人騎士とモーロ人騎士とが騎士道精神を示す。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2013.05.19

  • 深海いわし

    深海いわし

    上巻よりも伝説の収録が多くて、千夜一夜物語的な世界を楽しめました。スペインの昔話として馴染みのあるストーリーもいくつかあって、なんとなく懐かしい気持ちにもなったり。描写もやっぱり好みだなあ。描き出される風景もどこか懐かしさがある気がしました。続きを読む

    投稿日:2012.12.05

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