【感想】国力とは何か―経済ナショナリズムの理論と政策

中野剛志 / 講談社現代新書
(30件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
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7
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ブクログレビュー

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  • つー

    つー

    世界中の経済活動が相互に繋がった世界。ウクライナ紛争やスーダンの内戦、干魃や洪水などの災害が世界のどこかで発生すると、原材料の高騰や輸送手段が停滞して混乱を招くなど、現代社会はグローバル経済の名の下で綿密に絡み合っている。一方アメリカやイギリスでナショナリズムを鼓舞するような指導者が現れ、自国最優先を謳う政権が第1党になるなど、閉鎖的にブロック経済に向かう流れもある。とは言え一度絡み合った世界から抜け出すのは難しい。日本もTPP参加を積極的に進め、遅れてやってきた自由経済圏競争の流れに飛び込もうとしている。最近ニュースでも環太平洋諸国による強固な連携を強調することが多い。これはひとえに中国の南下政策への牽制の意味ではあるが、中国の経済力にものを言わせた覇権主義に対抗するためには、太平洋を囲む各国が経済的に連携・協力する事なしにこれを防ぐことはできない。
    本書はそのようなグローバル化する世界経済において、国力をベースとした経済ナショナリズムの優位性を説いていく。ナショナリズムというと、一時ニュース映像でも見かけた、国民の愛国心を煽って政府が国家一体の施策を強行するといった危険なものではない。ましてやナチスドイツ、帝国時代の日本とは全く違う。
    経済ナショナリズムそのものも複数の学説があり、自由主義に対抗する保守貿易などの閉鎖的鎖国政策を指すわけではなく、国としての政治・経済・文化・技術などの国が持つ能力を国力として蓄え伸ばすことを優先するものである。国が富む上では大きく力を以ってして他国から搾取・支配することによってもたらされるものと、自らが国力中でも経済を強靭化して富を作り出す方法があるが、後者について述べている。
    そもそも国自体に軍事力や経済力などが無ければ他国を支配するなど無理な事であるから、内部に力をつける考えは当然と言えば当然ではある。本書は能力を備えずにグローバル化する政府の方針には批判的だが、基本的に低生産性と独自の島国的な閉鎖社会を持つ日本が無策のまま世界に出ればどの様な結果になるかは火を見るより明らかだろう。
    筆者は後半そのような独自の文化圏や国民性を持つ日本において、今後どのように国力をつけて経済的な発展をすべきかヒントをくれる。経済的には失われた30年を経て、給料も経済も上向きする事なく停滞してきたが、日本は能力を失ったわけではない。寧ろそうした国民性は他国に比べてまだまだ強みであるし、米や酒、和牛にロボット、アニメなど先行している分野を強みとして生かしていく事で、本当の意味での国力を強化すべきと説く。
    労働者は皆、日本の給与水準が低いと嘆いているが企業の技術革新力や対外的な競争力低下を見れば
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    投稿日:2023.05.27

  • 馬オジ

    馬オジ

    このレビューはネタバレを含みます

    ネイション(国民)とステイト(国家)の違い、経済ナショナリズムの定義やらなんやら前半は難しかった。
    後半は明快で、
     ・新自由主義、グローバル化、構造改革の時代は終わり
     ・他国はステイトの力(軍事力、資源力)が強いがネイションの力は弱い
     ・日本はその逆、まさに経済ナショナリズム思想にふさわしい状態
     ・問題は経済自由主義のイデオロギーが上記を妨げていること。財政健全化など。
     ・日本の危機の真因はこのイデオロギーの支配から脱せないこと
     ・ここをパラダイムシフトしないといけないし、それができるのは国民の力のほかにない

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    投稿日:2023.01.29

  • aya00226

    aya00226

    グローバル化で、日本はデフレになった。アメリカは民営化されたケインズ主義によって、民間の債務が積みあがってデフレにならなかった。

    人間は将来の予測を正確にはできないので、将来の結果を期待するに過ぎない。結局資本主義は人間の期待に依存しているにすぎない。国際的な資本の移動性が高いと、金融危機が頻繁に起きる。

    民主主義国家のほうが、もっとも強力な国家。
    ルイ14世の絶対王政は、教会や都市ギルドの特権を修正する権力がなかった。民主主義は、法律で規制できる。

    勤勉の動機は利益の追求、ではなく、勤勉が利益追求の動機である。

    国民の意志は政党や議会の議論というフィルターでろ過される必要がある。その結果民衆のナショナリズムが穏健化する。議会、政党、行政組織、政治団体、市民社会など中間組織が存在しないと、民衆の意のままに先鋭化する。それが全体主義。
    戦後のルワンダやブルンジがナショナリズムが先鋭化したいい例。自由民主主義の制度さえ設ければ自由で民主化された社会ができるというのは、甘い見通しだった。

    経済自由主義は、社会防衛的運動の結果、全体主義の原因になる。戦後は、国際経済の自由化にはGATTなどの国家間の協議のおかげで、各国が先鋭化しないで済んだ。

    エマニエルドット=自由貿易は民主主義を破壊する。

    ラーナーの機能的財政=内国債は、国民の負担とはならない。
    国家資本主義=国家がプレイヤーとして市場を支配するシステム=アメリカの姿。
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    投稿日:2019.10.14

  • キじばと。。

    キじばと。。

    『経済はナショナリズムで動く―国力の政治経済学』(2008年、PHP研究所)の加筆修正版です。

    著者は、東日本大震災によってネイションへの共感、同朋意識が高まったことを受けて、危機を克服するために健全なナショナリズムにもとづく「国力」をただしく理解するべきだと主張しています。さらに、グローバル経済に抗して、経済ナショナリズムの立場からケインズ主義的な政策を擁護しています。

    近年になって、戦後民主主義を牽引してきた丸山眞男は国民国家論者として、また大塚久雄は国民経済論者として、厳しい批判を受けています。他方で、彼らの思想はむしろ保守の立場からこそ、戦後民主主義という現代のわれわれの直下にある「伝統」をただしく継承するために見なおされなければならないにもかかわらず、そうした仕事はいまだ十分になされているとはいいがたいように思っていたのですが、本書が提示する経済ナショナリズムの立場は、こうした問題設定に親和的な立場であるように思われ、個人的にはおもしろく読みました。

    ただ、「国力」によって実現されるべきものはなんなのかという問題への取り組みが欠けている点については、すこし不満を感じます。たとえば丸山は福沢諭吉を評価するにあたって、個人主義者であることにおいて国家主義者であり、国家主義者であることにおいて個人主義者であるところに、彼が理念と現実とのあいだで折り合いをつけようとしていたことを見ようとしていますが、本書における「国力」についての議論からは、そうした問いかけが欠けているように感じてしまいました。
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    投稿日:2018.10.24

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    このレビューはネタバレを含みます

    著者のテレビでのコメントなどから興味を持って読みました。

    現在のデフレから脱却し活力を取り戻すために、どうすべきかといった内容をわかりやすく説明した本でした。

    国民の力は弱体化したままなのか、他国にいいようにされてしまうのか

    10年20年先の日本のがどうなっているか、気になりますね。

    読み切るまでにだいぶ期間が空いてしまったので、
    もう一度読み返してみたいかな。

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    投稿日:2013.08.21

  • fmthepooh

    fmthepooh

    TPP亡国論で知って、若者受けしそうな経済学者ということで興味持って読んでみた。「国力」というものをネイション(国民)とステイト(国家)に分けて、ステイトがネイションの利益の為に動いている様を国民国家と呼び、それが国力を構成している、と。ふむ。
    そのステイトが自国民の為に動く主義を経済ナショナリズムと言うのだ!とかとにかく煽動的な単語が多かったw新自由主義に基づく「小さな政府」により地方自治体へと権力が分散することでステイトとしての集中的な機能が果たせなくなっているので、大きな政府に戻して公共事業を増やすべきだ!とかw
    各国が自律していくことで、結果的にグローバル・インバランスが是正されると。要は地に足をつけた国民生活目線の経済政策を、でもそれを行うのは中央権力で、金を落とす先は国内で、まずはネイションを保護することから、ということかな?相変わらず経済のコラムはよく分からん。
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    投稿日:2013.05.26

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