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加藤典洋 / 講談社文芸文庫 (1件のレビュー)
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kivune
第一部では、前作の敗戦後論を振り返るとともに、改めて戦後日本が抱えた死者の分裂と対外的な二重人格性の指摘がなされます。他国より自国の死者を先に意味付けることを批判されたことに対する応答が多めです。第二…部では、吉本隆明や吉田満ら戦中派の戦争への没入という誤りに、戦後社会が立脚することの意義が述べられます。そして丸山真男ら進歩的知識人たちでは自らのうちに内外に発信するべき強度のある理論を構築できない理由が説明されます。第三部では矛先が逆に保守派の佐伯啓思の言説に向かい、主体が自然的共同体でなく近代主義的であるべき説明がなされます。私利私欲が近代社会で位置付けられてきた経緯や、そこからはみ出したドストエフスキー的な悪にも愛があるという説明は、独立した近代社会論やドストエフスキー論のようです。第四部では、三島由紀夫を題材に戦前と戦後の断絶を改めて強調し、左派と右派が長年してきた「浅い川を渡る」ような解釈が戒められます。 戦中派が死者に近い場所にいるということは興味深く読みました。しかし全体を通しての問題意識が、「日本の謝罪が他国に受け入れられる為に」というところにあるので、2010年代の今どれほど役に立つ議論になっているのか疑問です。人格分裂を内在化したままに克服することは、正論だと思いますが、主体の構築と相まって、今の世ではますます本書のいう謝罪から遠のく一方のように感じます。昨年、広島と真珠湾で慰霊をした日米トップは、政治的な背景がありつつも、互いに人格分裂を内在化しているがゆえ謝罪をしなかったのではないでしょうか。もちろん本書でいう浅い川を、さも深い川かのように渡っているだけのパフォーマンスかもしれません。しかしその浅深はいつか歴史が判断するでしょう。 また、いつまでも川の深い場所を探し続けることが時流に会うのかと、敢えて考えてみます。今では、死力を尽くして戦った父祖がいた、悲惨な銃後を彷徨った子女がいた、そのことが現代の価値となって様々な平和思想の啓蒙になっています。浅い川も案外悪くないのではと思うと同時に、死者と戦中派に想いを寄せることもまた可能なのではないかと。続きを読む
投稿日:2017.01.05
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