【感想】異常気象と人類の選択

江守正多 / 角川SSC新書
(7件のレビュー)

総合評価:

平均 3.7
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ブクログレビュー

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  • グアルデリコ

    グアルデリコ

    自然科学者らしく、エビデンスに基づいて地球雨温暖化がどの程度進んでいるのか?何が確からしくて何が不確かなのか?様々な要素が絡んでの結果としての気候なので、予測は困難を極めるが、それでもどの程度の確率なのか?を前提に確実に人為的要素によって地球は温まりつつあるというのが理解できる書籍。続きを読む

    投稿日:2019.11.06

  • kohamatk

    kohamatk

    温暖化と異常気象の関係が論じられているほか、主要な懐疑論への回答がまとめられている。

    熱中症による平年の国内の死亡者数は200〜400人だったが、2007年は900人を超え、2010年には1700人を超えた。温暖化によって大雨が降りやすくなるが、雨の日の日数は減少している。亜熱帯域では上空が高温になって大気が安定したり、相対湿度が低くなるため、雨が降りにくくなる地域がある。2011年にIPCCが発表した極端現象に関する特別報告書によると、人為起源の温暖化による可能性が高い影響は、高温の増加、低温の減少、高潮の増加くらいで、異常気象と温暖化の関連は認められない。夏に北極海の海氷が少なくなると、低気圧が北極よりの経路を通るため、冬にシベリア高気圧が発達しやすく、日本の冬が寒くなりやすい。

    水蒸気の変化は気候システムの内部の過程なので、外部要因には含めない。気温の変化がCO2濃度の変化に先行しているとの指摘については、CO2の増加が原因で気温が上がり、その結果として陸上生態系がCO2を吸収しにくくなり、気温上昇を増幅すると説明している。太陽活動の変動によって地球に降り注ぐ銀河宇宙線が増減し、雲の形成に影響を与える説については、20世紀後半に銀河宇宙線が弱まっていないこと、CERNの実験で銀河宇宙線が雲の形成にもたらす効果は限定的という結論が得られていること、マウンダー極小期の気温低下が0.5℃という推定値が今後予想される温暖化に比べて小さいことをあげている。最近15年間、気温上昇が止まっていることについては、海の持つエネルギーの観測データや海面上昇が続いていることから、温室効果によるエネルギーは海の深層に吸収されていると考えられ、太陽活動が弱まっていることも要因としてあげている。ただし、気候モデルに与えている外部要因や、外部要因に対する気温の応答を大きく見積もり過ぎている可能性にも言及している。IPCC第4次報告書の間違いについては、確かに1〜2か所あったが、3000ページの報告書全体が疑わしいと考えるのは大げさだと主張する。

    産業化前を基準に2℃を超えないためには、温室効果ガスの排出を炭素換算で1兆トンを上限にすることになる。すでにおよそ半分を排出しており、現在の排出量が続くと40年で許される排出量に達してしまう。積極派は2℃のフレームワーク、慎重派は経済価値のフレームワークで考えるため、両陣営の議論は平行線になる。
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    投稿日:2015.08.13

  • danner

    danner

    慎重にして謙虚。温暖化の議論は本書読了を前提に始めるべき、というくらい、俯瞰的で網羅的で中立を保っている。バランスの取れた良書。結論を出せるだけの材料と頭脳を持ちながら、断定を避けて「確からしい」を積上げている。それだけに、第2章の終わり「陰謀論の泥仕合」は実に読む価値がある。続きを読む

    投稿日:2015.07.08

  • sazuka

    sazuka

    著者名を検索すると「江守正多 嘘」とgoogleさんが提案してくる。著者もそのことに触れ、温暖化ブームの際に懐疑派から相当攻撃を受けたことを語る。

    あれ? 異常気象の本だと思ったら、その原因の一つと考えられる地球温暖化がテーマの本だった。温暖化ブーム、と書いたように、温暖化問題は流行だった。

    温暖化対策積極派と慎重派は、単純にではないにしても、それぞれデモクラシー支持とテクノクラシー支持に結びつくようだと述べられている。

    けれど専門家が単純な答えを出すのは難しいし、陰謀とかすぐ信じちゃう市民が正しい判断を出すのも、もちろん難しい。

    著者は政治は専門外だとしながらも、「国民的議論」を政治に届けるための選択も述べている。温暖化ブーム2.0の時代には、シロクマがかわいそうだから省エネ、なんていうチープなものではなくて、誰かが何とかしてくれのではない、という参加の仕方が必要だ、と。

    というわけで(と書くほど中身を表せてないが)、後半はまさに「人類の選択」のやり方の本だった。
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    投稿日:2014.12.20

  • haru2012

    haru2012

    地球温暖化論が間違っているという証拠はいまのところない。積極対策、慎重派どちらもリスクがある。賭けるに値する人類の選択は何か、市民には意見形成が求められている。

    科学はんぶん、政治と社会はんぶん、全体のフレームが示されています。夏休みの宿題が手つかずあと3日、寝ないでがんばっても終わるかも、の状況‥なのですね。続きを読む

    投稿日:2014.02.04

  • kaz22

    kaz22

    このレビューはネタバレを含みます

    IPCC第五次報告書が2013年9月から出始めましたが、その執筆にもかかわり気候変動の進行の深刻さを知る著者が、日本国内の議論を前に進めていくために書いた野心的な一冊。

    第一部では、最新の気候変動科学の知見を平易に解説。また、代表的な懐疑論へ丁寧に反論し、真剣な気候変動対策をじわじわと妨げ、先延ばしさせる懐疑論を一蹴している。

    第二部は、本書の特に読むべきところであるが、第一部の科学的な事実を前提とした上で、いかに今後の対策の選択のプロセスについて科学技術社会論と絡めて次のように提案している。
    著者は、気候変動対策についてのこれまでの議論が進まない要因として、積極派と慎重派のフレーミングの違いを指摘する。積極派は「産業化以後2℃未満」、慎重派は「経済価値の最適化」が前提であり、両者それぞれがもうひと回り大きいフレーミングで議論をしていく必要性を説く。そして、専門家の持つ専門知識と市民の持つ価値判断をうまく融合させたうえで、最終的な決定は政治が責任をもって行うことを著者の理想として紹介している。


    感想としては、平易な書きぶりの新書だが、極めて本質的な内容だと思う。科学者として対策論のところは一線と画してきたが、プロセスについてそろそろ言いたいことを言わせてもらうといった感じだろうか。

    もう世界平均気温の温度上昇は人為起源であることには疑う余地がなく、さらに産業化前を基準として2℃未満に温度上昇を留めるのはほぼ無理な段階まで事態は進行している。いまだに、日本では2ちゃんなど匿名のネット右翼に留まらずあの田原総一朗さんまでもが懐疑論に引きづられていたりと、いわゆる文系の人びとの理解がかなり遅れている。安井至先生は「最近、科学的な推論には不確実性があるということが必要以上に強調されている」と主張されているが、全くそのとおり(それは精度よく範囲の分かっている誤差に過ぎない)で、日本もそんな段階は早く卒業しないといけない。(本書でも導入される、リスクの概念も文系の人にはなかなか理解を得られない。)
    http://www.yasuienv.net/LimitPrediction.htm
    http://www.yasuienv.net/AR5IPCC.htm


    個人的には、CCSや気候変動工学の信頼性も国民はフォローしていくべきだと思う。ウルトラCが存在しないことに自覚的になることで、今の病気の進行具合をより真剣に考えるきっかけになると思うので。仕事で、宇宙工学をやっている技術者の人の話を聞いたのですが、人類は地球の重力にあわせて体ができているので他の星に移住して長く暮らすことは困難だと言っていました。この地球を捨てるという選択肢は(anthropocentricの立場だとしても)今のところ考えないほうがいい。そうしたら、あとは100年後の世代にどういう地球を残すべきかと、そこまでにいかに社会的にソフトランディングさせるかという方法をみんなで真剣に考え、実行していかなければならない。

    現状の正確な認識は戦略的に対策を決定し、実行していくための大前提。そして、気候変動対策においては、社会的な合意を作りあげる過程で、価値観の問題(本書でいう共通のフレーミング作り)を避けては通れない。今の日本は、それを議論せずに官僚が審議会の委員選びやスケジュール調整で、前提や議論の方向性をもう作っていて、気づいたら重要な政策が国民の知らぬところでどんどん決まって(或いは先送りされて)いく。自民党政権で衆参のねじれが解消されてからは、その傾向は強まっている。
    後世代にどう見られるかは今の国民一人ひとりの価値判断にかかっている。そして、気候変動は国内にとどまらない地球規模の問題であり、日本人の科学リテラシーと気候変動対策への本気度がまさに国際社会から問われている。そろそろ真剣な議論をはじめよう。

    気候変動は本当に大きくて複雑で難しい問題であるが、本書はその導入として最適だと思う。

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    投稿日:2014.01.02

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