【感想】女たちの平安宮廷 『栄花物語』によむ権力と性

木村朗子 / 講談社選書メチエ
(3件のレビュー)

総合評価:

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  • skullandbones

    skullandbones

    物語を論じているのか歴史を論じているのか曖昧な印象。部分的に、栄花物語と史実や大鏡の記述とを対比させていて栄花物語について論じていることが明確な箇所もあり(安和の変のくだり等)、そういう箇所は面白いが、正直、栄花物語の作者の考え方を論じているだけで、それでこの時代の社会や政治や権力や性のあり方を論じ(ているように見え)るのは、どうなんだ?と思ってしまう。栄花物語と史実の相違を明確にしていない箇所も多いし(というかその方が多い)…。
    疑問な箇所も多数。
    ・朱雀女の昌子内親王の冷泉への入内について、「外戚となるべき保明親王が没しているのであるから、この入内はどこにも利益をもたらさない。」(p.67)と書いているが、昌子の母方の祖父である保明(保明女が朱雀女御となって昌子を生む)は外戚ではない(これが外戚だったら、彰子入内について、源雅信を外戚と言うようなもんだ)。どうしちゃったの?
    ・皇女・女王の藤原氏への降嫁について、「源氏となった女子との婚姻関係において天皇家との結びつきを得ることはできない。」からなぜ「したがって、藤原氏は権威の再分配として直接に天皇の娘でしかも臣籍降下されていない内親王を求めなければならないことになる。」「…親王の娘である二世女王(天皇の孫)は価値をもたなくなる。」(p.70)のか? 臣籍降下を問題にしているのに、なんで、臣籍降下していない女王の価値までなくなってしまうの?
    ・「兼家の息子道長の栄華の礎となった一条帝退位ののち、その権力の延命をはかるのが超子の生んだ三条帝なのである。」(p.95)と書いているが、道長はすぐに自らの孫後一条に践祚させたがって三条を圧迫しまくったのに、どうしちゃったの?
    ・一条践祚により兼家が摂政になったことについて、前関白「頼忠は太政大臣として残るが、関白の地位は摂政兼家に譲ったことになる。」(p.130)と書いているが、摂政になったんだから、「関白」の地位を譲ったわけじゃない。
    ・一条後宮に定子以外の女君が入内したのは、実際には長徳の変以後なのに、栄花では道隆・道兼の死後としているが、この操作については言及していない。かなり大きな改変だと思うのに、なんで?
    ・伊周の娘は宮仕えに出すなという遺言について、「伊周の遺言空しく、姉君は道長の息子三位の中将頼宗を婿取ることになる。」(p.202)、「けっきょく姫君二人ともが、伊周が案じたとおりの生きかたを余儀なくされることになる」(p.203)と書いているが、宮仕えに出た妹君はともかく、頼宗の正室となり、3男(極官は中納言、右大臣、内大臣(贈太政大臣)3女(小一条院女御、後朱雀女御、後三条女御)を生んだ姉のほうは、全く伊周の案じたとおりじゃなかろう。
    ・子のできない頼通を案じて、母倫子が召人でもいいから子供を産んでくれれば、と言ったのについて、妻ではない使用人の性はオープンだから頼通の子であるかどうかも問題ではない(「…通房が頼通の子でなかったとしても、道長と倫子に引き取られたのだから、もはやどうでもよいともいえる。」「…この猶子関係の根本は、通房に道長の権威を与えることにあるのであって、その子が頼通の子であるかどうかはさして問題ではないことを暗示させもする。」(p.218))と書いているが、そんなこと倫子が思っていた(と読まれることを栄花作者が想定している)わけないだろう。養子にすればオッケーなら、父母ともどこの馬の骨かわからないより、もっと身近なところから養子取ればよいだけじゃん。
    ・「…頼通は入内させる娘だけでなく、天皇の系を継ぐことにも失敗したのである。」(p.261)と書いているが、入内させる娘がいなかったから(相当遅くなってから入内させても皇子を生むことができなかったから)天皇の系を(藤原氏により)継ぐことができなかったのに、なんで「だけでなく」なの?
    また、密通(一妻多夫制)と男色という著者の関心に引き付けて深読みしすぎ(言及が唐突)と感じられる箇所もままあった。
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    投稿日:2020.08.16

  • なー

    なー

    このレビューはネタバレを含みます

    副題にあるように『栄花物語』を中心に同時代の『大鏡』と比較しつつ、摂関政治から院政へのオモテの政治だけでなくウラの後宮事情を説く。巻末の「天皇・源氏系図①②」「藤原氏系図①②」は今までに見てきた家系図の中でも異色の出来。単なる女系図ではなく、姻族を廃して直系親族に焦点を当てている。特に親王・内親王は母親名が併記され、「誰の妻か」でなく「誰の母か」が見通せるようになっており、斬新。

    「重明親王、登子・兼通兄妹、円融帝、村上帝、安子」の絡みは、何読んでもボンヤリで、いつも詳細不明でモヤモヤする。今回は更に藤原芳子の産んだ永平親王の暗愚振りが加わった。

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    投稿日:2019.09.03

  • koochann

    koochann

    「栄花物語」は「大鏡」に比べ、同じ時代を描きつつも、女性の役割が詳しく書かれている。醍醐・村上天皇も聖帝とされる所以が、政治より学問、文学、後宮の女性たちとのバランスある接し方にあったという言葉が皮肉ではなく、事実!だと変に納得した。女好きだった花山帝という個性の強さにも興味深い。藤原氏が、天皇・東宮に(正妻の産んだ)娘を輿入れさせ、子(特に男)を産むかどうかに掛かって権力闘争が行われた。まるで籤引きで権力が決まるかのよう。道長の権力基盤は本人の能力もさることながら、その好運に依っていた面が大きいし、頼道夫妻が子に恵まれず、天皇家との関係が希弱化していったらしい。一方、後三条・白河がその仕組みを逆用して藤原氏を脇に追いやり、院政が始まっていくということが面白い。正妻の家格が娘の格に影響し、天皇家の内親王(娘)、そして2世女王(孫)、3世女王(曽孫)の格の中で藤原氏だけが、内親王、2世女王を嫁として迎えることができたという構造の強さは初めて知った。続きを読む

    投稿日:2015.08.26

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