【感想】脳に棲む魔物

スザンナ・キャハラン, 澁谷正子 / KADOKAWA
(15件のレビュー)

総合評価:

平均 3.9
4
6
3
1
0

ブクログレビュー

"powered by"

  • 海外おやじ

    海外おやじ

    このレビューはネタバレを含みます

     悪魔にとりつかれる映画エクソシスト。実は類似の例が世界各地にあるそうです。ひきつけを起こす、手を奇妙な形に曲げる白目をむく、妄想にかられる・かと思うと正常に戻る。そしてこうした急激な変化と正常との間と行き交う。

     実は私の近しい人間(義弟の彼女)にこのような症状が出ました。物忘れが増え始め、ぼーっとしていることが増え、そしてある日突然意味不明なことをしゃべりはじめ、ひきつけを起こし、卒倒しました。錯乱の末階段から転げ落ち、前歯を一本折り、そのまま救急搬送されました。その後意識を戻ったものの彼氏のことも家族のことも認知せず、うめき声をあげるだけ。

     たまたま起きたのが旧暦のお盆の時期であったため(華僑の人たちはこれをゴーストシーズンといい、死者と生者と世界がつながると言われている)、家族は”この子は悪魔にとりつかれた”と思ったそうです。私がお見舞いに行ったときにも、虚ろな目でブルブルと震え、私のことも認識せず、私のことも見ているのか見ていないのかもわからずウーっとうなるばかりでした。

     本書は、上記のような症状を示す抗NMDA受容体自己免疫性脳炎という極めて珍しい病気にかかり、幸運にも生還した女性による、世界でも症例の少ない奇病についての手記です。自己の顛末を”他人から聞き取り”、一部自分の当時の記憶を取り混ぜつつ自分に起こったことを明らかにしています。

     この病気は、一見統合失調症らしく見えるため、精神科的アプローチを施されることが多いようですが、実際にはいわば脳でアレルギー反応が起こっている状態であり、これにより精神錯乱状態が起こされているようです。

     本書にも書かれている通り、うちの義弟の彼女にも大きな腫瘍が片方の卵巣に見つかり、この腫瘍を摘出したところ快方に向かい、約半年後には大分普通の生活ができるようにはなりました。

     この本の価値は、ひとえに、このような一見”悪魔憑き”のように誤って取り扱われてしまい適切な処置が施されない可能性のなる病気の存在、そしてその症状と治療の過程を知らしめ、そして誤診を防ぐという点にあると思います。その点では迷妄を科学へと連れ戻す非常に意義あるドキュメンタリーかと。

     他方、筆者が若いからなのか、あるいは翻訳の問題か、筆致がやや幼いというか自意識過剰気味で、その点が少し読んでいてゲンナリしました。

     精神を急に病んでしまった方が周囲にいる方、唯脳論を信じる方、リアルエクソシストについて知りたい方というのはおすすめできる本かと思います。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2021.05.10

  • rolling pistachio

    rolling pistachio

    翻訳はこなれていて読みやすい.医者の翻訳でないので,医学用語はおかしい個所があるが,これは校正者の問題.医者の翻訳は直語訳でひどいものが多いので,翻訳家の手によるものがずっといい.内容はもうひとつ.ベストセラーになる理由がよくわからないが,医療者でない人がよむと感動的なのかもしれない.続きを読む

    投稿日:2015.08.26

  • dm8774

    dm8774

    このレビューはネタバレを含みます

    感動的で貴著な本である。

    著者、スザンナ・キャラハンは本にある病気になった時24歳。
    訳者のあとがきにあるように、本書の構成は、前半が著者の次第に悪化していく詳細な精神症状と、医師による相次ぐ誤診、診断が確定されない中どんどんと精神状態が悪くなっていくさまと困惑する周囲の記述は、ホラー小説を読むかのよう。

    実は私は読む前から診断名を知っていたし、精神科医でもあるので、この前半は読み進めることが非常に辛かった。我が身を振り返っても、24歳という若さで幻覚・妄想が出て来た場合、統合失調症ないしは双極性障害と診断してしまう可能性は高い。あえて言えば、突然の発症、それまでの社会適応からして、『この人がこんな症状を呈するのだからそこには何かがあるには違いない」という確信が持てた時に、見かけの症状からの診断を疑うことができ、徹底的な検査を繰り返すだろう。

    スザンナ・キャラハンは何度も、精神疾患の確定診断から長期に不毛な治療へと導入される危機にさらされた。高名な神経科医からきっとこれは器質的な(身体に原因のある)疾患だと疑われて血液検査を受けても正常だったこともあり、一時は匙を投げられる。本人が書くように、本当にたまたま同じ病気を疑える病理に詳しい医師に出会えたこと、その医師でさえ3年前に経験していなければ果たして診断が出来たことさえわからない。

    診断に至るまでの間、離婚してバラバラだった両親との絆、そしてボーイフレンド(恐らく彼も若いだろうに!)の示す彼女への献身的な愛情が本人を支え続けた。信じがたいほどの彼女への愛と信頼だと感じられた。諦めなかった彼らに感動する。

    診断が確定すれば治療は一応進む。ただ、絶対的な治療が確定されているわけでもなく(現在もそう)、果たして上手くいくのかはハラハラする。勿論、本書を本人が書いている以上、回復したはずだとはわかっているのだが...。

    本書は、まれな病気から回復した本人が書いただけでも貴重だが、診断過程、そこに至る本人と周囲の人間の葛藤、そして回復した患者の心理(決して晴れやかなものじゃあ無いのだ)が余すところなく描かれている。
    感動的で、そして多分医者は(とりわけ神経科医、精神科医は!)必読の書と言ってもいいくらいだ。

    本筋とは離れるが、著者が若干24歳でニューヨーク・ポスト紙の記事をしっかりと任されている点や、周囲からの信頼を得ていることにも驚く。学生時代からインターンとして同社に所属し、活動していたこともあるのだろうが、アメリカ社会と日本との差を感じる部分でもあった。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2015.05.22

  • 澤田拓也

    澤田拓也

    著者は、New York Postの記者である。記者の仕事をしていた24歳のある日から抗NMDA受容体自己免疫性脳炎という病により心身に異常に見舞われた。本書は、発病から復帰までの混乱の一ヶ月の物語を、回復後に自ら周辺に取材をして構成したものである。欠落した記憶を埋めるために、自身が書いた(覚えのない)メモを読み解き、自分が知らない自分の様子を関係者への取材を行なうのはどのような気分なのだろうか。その奇妙な体験は一般読者の好奇心を刺激したのか、アメリカではかなりのベストセラーとなったようだ。

    脳炎による脳の機能不全のために記憶能力と自己を失っていく様子はわれわれが立脚する自己/脳の脆さを示し、うすら寒さを感じさせる。同じように脳卒中を脳科学者が体験した様を描いた『奇跡の脳』という本があるが、脳の損傷を体験した本人が語る心的体験は非常に興味深い。特に著者が病に苦しむ中で、救世主となる医師に壁時計を書いてくれと言われて書いた右半分に1~12の数字が並んだ異様な文字盤がわれわれの「意識」の奇妙さを生々しく感じさせる。(http://www.dailymail.co.uk/home/you/article-2254184/Real-lives-I-paranoia-hallucinations-nightmares-seizures--So-I-mentally-ill.html、などでもその図が見られる)

    なお、原題の「Brain on Fire」は、この文字盤を見て著者の病の原因が脳の機能障害に分かったときに、医者が両親に対して「お嬢さんの脳は燃えているんです」という本人と両親にとっては救いの糸ともなった言葉から取ったものだ。
    著者は、自身および両親の経済力、両親と恋人の献身的な支援、そしてこの病を知る医者との出会い、といった幸運が重なり自分を取り戻すことができたと感謝する。これまで同じ病にかかっても見逃されて、躁鬱病や統合失調症と診断されて精神科で過ごすか、命を落としていた人も多いと推定している。著者が抗NMDA受容体自己免疫性脳炎と診断された当時、200番目くらいの患者だったものが、今はその症例が数千を超えているらしい。その事実は、過去に同病に罹った患者が「精神病」として片付けられていたであろうとことである、また今でも「精神病」とされている患者の多くが同様の脳の器質性疾患であるという可能性もある。そういった患者は適切な治療を受けることができれば回復できた可能性がある。そのような患者が、幸運がなければ助からないようではいけない、というのが著者の主張だ。

    脳の不思議と人の強さを感じることができる良書。ベストセラーになったことも理解できる。


    YouTubeでも著者がTEDxで講演した様子がアップされている。便利な時代になったものだ。
    https://www.youtube.com/watch?v=bQvqAaOLBnw
    続きを読む

    投稿日:2014.11.25

  • 羊さん

    羊さん

    映画「エクソシスト」さなからの狂気の症状になる脳の炎症を患った筆者の体験とその病のリポート。
    すごい勢いで悪化する病、異常な症状、ひたすら信じサポートする家族とパートナー。
    巻末の謝辞で平凡だがと感謝の言葉です残した筆者の気持ちが痛々しいほど伝わる。続きを読む

    投稿日:2014.10.21

  • ぶっかけ

    ぶっかけ

    世界衝撃ストーリーといったようなTV番組で紹介されるようなタイトルですが、これはノンフィクションである上に、病気そのものから、そして病気による脳神経損傷からの快復をめざして闘いながら患者本人が書き上げた本です。語られる症状の重さを読み進めると、この事実だけでも驚くべきことでした。

    病にかかる前の日々においても、自分にとって大切なことを持つことが、快復への希望を持ち続けるために重要なのだと認識させられました。
    続きを読む

    投稿日:2014.10.06

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。