【感想】イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ

トルストイ, 望月哲男 / 光文社古典新訳文庫
(42件のレビュー)

総合評価:

平均 4.2
17
15
6
1
0

ブクログレビュー

"powered by"

  • koba-book2011

    koba-book2011

    ▼えぐいです。トルストイさん。

    ▼「イワン・イリイチの死」は、俗物の役人(貴族なんだっけな)が結婚して働いて子供もできて出世もするけど中年?初老?で病を得て死ぬ。なんだけどこの人がもう、なんのためにどう生きてきたのか、人生が絶望至極の中で病にもだえ苦しむ姿が、もう圧巻‥‥。実にひやりとじめっと冷たくて絶望的な強烈さと突き放したユーモアに包まれる衝撃。

    ▼「クロイツェル・ソナタ」要するに「嫉妬の余り妻を殺害しちゃった男の回想物語」なんです。19世紀?20世紀初頭?のロシア社会のなかで、この人は別段死刑にならずに数年して社会復帰している。そして、たまたま列車で乗り合わせた若者が、知識ゼロから彼の回想を聴く、という趣向。

    ▼嫉妬に心さいなまれ、壊れていく人格の描写がすごくって・・・。ふっと思い出したのは別の本の以下のやりとり。

    「私は人を殺すような人間ではありません!」
    「たれだってそうだ。最初の殺人を犯すまでは」
    (薔薇の名前だったか?)

    ▼比較すれば、当たり前なんですけれど「戦争と平和」にはかないません。「アンナ・カレーニナ」だって相当にレベルが違います。それにしても強烈な中編ではあって、トルストイっていう人も中年期に代表作書いちゃったから、老年期の創作っていうのは一種もどかしさもありながらも、それでもやっぱり力はあるんだなあ…と思い知りました。
    続きを読む

    投稿日:2024.04.14

  • りおん

    りおん

    このレビューはネタバレを含みます

    『イワン・イリイチの死』が特に好きだった。
    私もとある病気で、この苦しみから逃れられるくらいなら死んだっていいって思うくらいのお腹の痛みに苦しんだことがあるので、イワン・イリイチの苦しみの描写はとても共感できた。
    病気になると、周りは最初は心配してくれていても、そのうちこの嫁のように疎ましく思ったり病気になったことや苦しんでいることが他人への当て付けなんじゃないかと思われたりすることは本当にあるし、病気のせいで周りを暗い気持ちに引きずり込んでしまうこともよくあることだと思う。

    自分の人生は間違いだらけだったんじゃないか、こんな時に甘えることができるのは使用人だけなのかとか、なぜ自分だけがこんなに苦しまなければいけないのかとか…読んでいてすごく苦しかった。
    解説にもあるけど、恐れ→拒絶→怒り→戦い→絶望→鬱→受け入れという段階を踏むのも共感できた。
    最後に死を目前にして、「なんと歓ばしいことか!」「死は終わった」「もはや死はない」という場面があるけど、本当にそうだと思う。
    恐ろしいのは死自体ではなくてその瞬間に辿りつくまでの痛み苦しみを乗り越えるところだと私は思っているので、やっと全てにケリがつくと悟った段階でもうそれは死ではなくて救いや安堵だったのではないかなと思う。

    『かつて光があり、今は闇がある』という部分も好き。


    『クロイツェル・ソナタ』に関しては、一言で言うとなんだこの男……って話。
    汽車の中でたまたま相席になった男が、いや実は自分は妻を殺してましてね……と話し出す、というとサスペンスのようだけど、実際は性愛についてみたいな部分が多くてちょっとうんざりした。
    性欲に支配されすぎたおじさんにしかみえなかった。性欲がすべての中心すぎる。
    ここまで人間て性欲だけで動いてるの!?って絶望しそうになるほど性欲のことばっか考えてる。
    これは禁欲の大事さを訴えたかったのかな……?
    女を人間とも思わないような思想をずっと聞かされるのでだいぶしんどいけど、やっぱり小説としてはうまいのかなと思う。
    嫌だななんだよこのおじさん……と思いながら一気に読めた。
    読後クロイツェル・ソナタを聴いてみた。
    主人公が言わんとしてることはなんとなくわかった。

    レビューの続きを読む

    投稿日:2024.03.30

  • mario3

    mario3

    昨年夏にみた映画「生きる」カズオ・イシグロ版がとても良くて気に入る→お正月にそのオリジナルである、黒澤明の「生きる」を見る。なんかすごい話だな、志村喬の目の演技すごいな…。これの元になった小説があるんだ、しかもトルストイなのか→この本に辿り着く。

    こんな流れで読み始めた。
    トルストイは実ははじめて読んだ。
    戦争と平和、アンナ・カレーニナ。
    ドストエフスキーと並ぶ長大重厚露文作家である。
    私は長大も重厚も得意ではなく、読めた露文は、ツルゲーネフ(でももう忘れた)、チェーホフ(同じく)、プーシキン(面白かった)くらい。

    本書はトルストイの後期の中編が二本という構成。

    ◯イワン・イリイチの死
    倒叙スタイル。ひどい葬式だなと思うも、イワンの人生パートに入ると面白くて目が離せなくなる。
    結婚って、妻に子供が生まれることって、男にはこんなふうに見えるのか、さすがに今どきこんな考えの人はいないだろうけど身勝手150%でいろいろ不快。
    でも、死というものを描くもろもろがとても手が込んでいて、面白かった。
    死を前にした世界には、有無を言わせぬ迫力がある。
    というか、映画と全然違うのね?!
    公園もブランコも出てこないぞ。

    ◯クロイツェル・ソナタ
    これも倒叙。列車という舞台装置が楽しい。
    男女のもつれ、恋愛、結婚とは。謎のじいさんの告白。
    みんなをドン引きさせたその発言の真意は。
    というところから始まる、やはり現代とは倫理観の違いすぎる結婚すれからし物語。
    幼稚で身勝手な男の論理にムカムカと腹が立つし、情けなくてなんだか泣けてくる。
    でもやはり話はすごく上手い。こまかなボタンの掛け違い、ちょっとした関係改善と、またケンカ。
    あー、あるある、と読者を納得させる力がある。
    印象的だったのは、
    p294
    《妻ですか?そう、妻はいったい何者だったのでしょう?彼女は神秘です。昔も今もね。私には彼女が分かりません。私が知っているのは、動物としての彼女だけです。でも動物を押さえつけるなんてことはどうしたって不可能だし、またそれで当たり前なのですから。》

    女をこんなに他者だと思ってるんだな。
    その感覚が怖すぎる。

    クロイツェル・ソナタはタイトルのとおり、音楽とその作用が物語のキイ。
    いったいどんな曲だろうと思っていると、この本を読み終えた翌朝、ラジオ音楽の泉でベートーヴェンのクロイツェル・ソナタが掛かってびっくり。
    こんな曲かあ、たしかに狂おしい。


    続きを読む

    投稿日:2024.02.12

  • よっしい

    よっしい

    黒沢明監督の現代映画『生きる』がイシグロカズオ氏の脚本でリメイクされたと聞き、改めて生きるを視聴しよう!と思った矢先に出会った一冊です。

    黒沢監督はこのトルストイの短編から着想を得て、死を間際にした男が何を考えるか、説こうとしました。
    本作品はその原型として読んでみたのですが、似た展開をしつつ、違うものです。

    黒沢映画は、作中で主人公の死を突然挟むことで、観るものに驚きを与える効果を狙ったようにみえます。
    前半だけ観ていたら『もしかしたら彼は助かるかもしれない』と思うこともできる。

    対して、トルストイはそういった驚きよりも、不可避の死を冒頭数ページで描写します。
    助かるかどうかという可能性はゼロにして、必然的に起きる死に対して、その過程が書かれます。
    最期の数時間の描写は三度読みするほど迫真です。

    この原作と『生きる』、そして2023年公開の『living』を一気見して、三者三様の死との向き合い方を比べてみようと思います。



    続きを読む

    投稿日:2023.03.01

  • 一条浩司(ダギナ)

    一条浩司(ダギナ)

    トルストイ後期の中編2作を収録。普遍的なテーマ「死」「性と愛」をめぐる葛藤を鋭く描き、共感と議論を呼んだ。

    【イワン・イリイチの死】
    冒頭でいきなり死亡が告げられるイワン・イリイチ。45歳で死んだ彼の生涯は、果たしてどのようなものだったのか、死の間際に何を思ったのか、をたどるのが概要。

    外聞をはばかり仕事と家庭生活を切り分ける、つまり建前と本音を常に使い分けるようなイワン・イリイチの生き様の描写には、現代人を風刺するようなところがある。やがて病気により徐々に死に向かっていくなかで、そうした生き方が間違っていたのではないかと人生を振り返ることになる。

    嘘に塗りかためられた周囲の反応から、精神的に孤立してしまうが、召使のゲラーシムとだけは心を開いた交流ができる。その理由が非常に鋭い人間心理の描写となっており、この作品の本質を象徴するポイントだといえよう。

    「人生がこれほど無意味で、忌まわしいものだったなんて、おかしいじゃないか。……ひょっとしたら、私は生き方を誤ったのだろうか?」
    自問自答に果てにイワンが見出した答えとは……。トルストイ後年の精神性をうかがえる作品だったと思う。

    【クロイツェル・ソナタ】
    結婚観の論争から始まる本作。肉体的な性愛を超えた精神の親和ですらも、生涯続く愛情とはならず、現代の結婚などまやかしに過ぎないと豪語する白髪の紳士。陰のある彼の打ち明け話が本作の物語である。

    「性欲は悪です。恐るべき悪です。それは戦うべき相手であって、われわれの社会のように奨励すべきものではありません」
    という、性愛に対する徹底した否定的目線から、結婚生活における愛と憎しみを描いて読者に何かを問いかける。

    すべての男女にとって関心の尽きない問題について、「告白型」という引き込まれる語り口で提示されるので、読みやすい。既婚、未婚に関わらず、一度は深く思索してほしい作品。
    続きを読む

    投稿日:2023.01.27

  • もぎ

    もぎ

    どっちのお話の主人公の発想にもところどころ共感できて、他のトルストイ作品読みたくなった。この作品はあと10年後くらいにもう一度読んだらまた感想変わってそうでした

    投稿日:2022.07.23

Loading...

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。