【感想】あの夕陽 牧師館 日野啓三短篇小説集

日野啓三 / 講談社文芸文庫
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    「向こう側」
    ベトナム戦争のさなか
    報道特派員として現地に入っていた日本人が
    「向こう側に行く」と言い残して奥地へと消えてしまった
    消えた男の同僚である主人公は
    行方を追ってバスに乗る
    彼らはいったい「向こう側」に何を期待してるのだろう
    安息の地か、冒険のスリルか
    あるいは「ありのままの現実」かもしれない

    「あの夕日」
    特派員として韓国に赴いた主人公は、現地の女と恋におち
    妻と別れることを決意して日本に帰国した
    韓国の女は、日本の女よりもずっと意志的で
    自由な明るさがあふれているように見えたのだ
    ところがそれを、なかなか妻に切り出せず
    女の写真やフィルムを見せたりして、遠回しにアピールする
    この元妻のプロフィールが
    やがて「抱擁」のヒロインたちへと発展したように思う

    「蛇のいた場所」
    戦時中に交際していたかつての少女が
    病に倒れて死にかかっているらしい
    しかし嫉妬深い妻に遠慮して、会いに行くことはできなかった
    個人の一生なんて、そんなものであろうか
    自然の時の流れに比べれば…

    「星の流れが聞こえるとき」
    いつも何かに追われている(と思い込んでる)男が
    麻布の高台をドライブ中、ふしぎな少女に出会う
    見た目七、八歳の彼女は音に敏感で
    普通の人間には聞き取れない自然界の音を
    いつも一人で聴いていた
    デンパ系ロリコン趣味のはしりみたいな作品である
    この時期から作者は
    息子を通じ、サブカルチャーに触りはじめたのだろう

    「風を讃えよ」
    山上の石切場跡に、巨大なストーンサークルを作る
    それをすることで男は、風とひとつになり
    ありのままの自分として生きていくことになるのである

    「ここはアビシニア」
    文明の進歩は、同時に多くの廃墟を生み出してもきた
    遅かれ早かれすべては虚無に行き着く
    アルチュール・ランボーは、その後半生を貿易商として暮らし
    武器の取引を企てることもあった
    しかし失敗したという
    ある種の芸術家が、美の究極として滅亡を志向することはあるが
    しょせん個人にできることはかぎられており
    結局、自分自身を廃墟として生きるぐらいが関の山かもしれない

    「牧師館」
    大病を患った男が、一時退院をした際
    思いつきで奥多摩の渓谷に出かけてゆく話
    日が暮れていくなか、彼は谷間に教会の十字架を見つける
    志賀直哉の心境小説など意識してるかも

    「示現」
    オーストラリアのエアーズロックに行き
    そこのモーテルで変な夢を見て
    アボリジニの老人に死後の話を聞く話
    死んだら風になって世界に一体化するらしい
    まだ生きてるうちからそんな
    「向こう側」のことばかり気にしてしまっている
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    投稿日:2021.04.30

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