【感想】ハンナ・アーレント、三つの逃亡

ケン・クリムスティーン, 百木漠 / みすず書房
(4件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • たまぞう

    たまぞう

    アーレントの伝記風マンガ。伝記「風」なのは、ところどころ著者による架空のエピソードが挿入されているから。おかげでどれが史実でどれがフィクションなのか判然としない。とくにアーレントが亡命中のパリで救おうとした印象的なルーマニア人孤児のナターリエ・ファルカスはおそらく著者の創作、と知ったときはちょっと拍子抜け。

    雑な落書きみたいな絵も最初はなじめなかったけど、暗い時代と人生をむしろよく描けているのかも、と途中から好印象。煙草とともに物思いに耽る表紙のアーレントもよい。ハイデガーの下衆な感じはハイライトのひとつ。

    ■まとめ

    Q1. 「三つの逃亡」とは?
    A1. ①ベルリンからパリへの逃亡、②パリからニューヨークへの逃亡、③ハイデガー=哲学との決別。

    Q2. アーレントが大切にしたことは?
    A2. 単一の(唯一の)真理を求めるのではなく、複数の真理に身をゆだねること。複数性に満ちた「素晴らしき新生活」の市民として活動すること。手すりなき思考、すなわち考え抜くこと。考え抜くことによって、より多くの問いを投げかけること。

    Q3. アドルフ・アイヒマンが犯した罪は?
    A3. 「物事を考え抜かない」という罪。

    ■キーフレーズ

    ケーニヒスベルク(カリーニングラード) カント ベンヤミン 歴史の天使 ハンナvsハンナ 手すりなき思考 どのようにして悪が生じたのか/なぜ悪が生じたのか 出生性 複数性 パーリア(社会ののけ者) 私の職業

    ■備忘

    母マルタの教え
    「もし誰かにユダヤ人であることを差別されたら、ユダヤ人であることに誇りを持ちなさい。もしユダヤ人として攻撃されたなら、あなたはユダヤ人として身を守らなければならないの」

    ナターリエ・ファルカス(の不在)
    「たくさんの子供たちのなかで、ひとり抜きん出ている子がいた。12歳のルーマニア出身の孤児で、ナターリエ・ファルカスといった。私は彼女の顔をほとんど直視することができなかった。私はただ彼女の不在だけを見ていた。もし彼女を運命から救うことができなかったとしたら、彼女がこの宇宙に残すであろう不在の穴を。」

    NYでの新生活、ハンナはほどなくして仕事を見つけてきた一方、仕事に就かずにいるブリュッヒャーを見かねて母マルタがこぼした愚痴
    「ニーチェを読んでて仕事がみつかるの? ニーチェは家賃も支払えなかったのに!」
    「マルタ、僕は仕事を探しているところなんです」

    モーゼス・ポメランクの転落
    「新たな力がこの惑星で解き放たれた。人間を人間たらしめているあらゆるものを人間からはぎとるような仕方で」

    天井の割れ目と対峙する、ハンナvsハンナ

    どのようにして悪が生じたのか →『全体主義の起源』
    なぜ悪が生じたのか →『人間の条件』(悪は、私的な感情が公的空間の領域に入り込んできたときに起こる)

    アドルフ・アイヒマン: 「物事を考え抜かない」という罪

    ハイデガーの卑小さとブリュッヒャーの包容力
    「生まれてくるのは辛いことさ 「人生は死へ向かう単なる苦行にすぎない」なんていう独我論的な確信に浸りながら、ハイデガーの後を踏み鳴らして歩くかわりに… 君は、彼と世界中の人々に向かって、生きることは終わりのない誕生の連続であることを示したんだ」
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    投稿日:2023.10.17

  • もとし♪げん

    もとし♪げん

    ハンナ・アーレントさんの書いた本にトライして撃沈したのが数年前。
    先日、職場近くの書店で見つけたのが本書でした。
    漫画なら読みやすいかと思いましたが、少し読んでは読み直し、少し読んでは読み直しと、時間はかかりましたが、やっと読み終えました。
    優秀な人って集まるんだなあ、と驚くことしきり。
    三つの逃亡は、次にステージを登って行くためのステップであることと、彼女の思想に触れることが少しでも出来たことで、有意義なものとなりました。
    続きを読む

    投稿日:2023.07.09

  • とおる

    とおる

    漫画なので気楽に読めるかなと思ったら、そうではなかった、、、バックグラウンドとなる知識を持った人が読むとすごく楽しめる本なんだろうなと感じました。
    自分には少し早かったですが、ドイツからフランス、アメリカへと逃亡するプロセスはリアルで当時の雰囲気が感じられました。続きを読む

    投稿日:2023.05.09

  • mamo

    mamo

    漫画というか、グラフィックノヴェルというかでたどるアーレントの物語。

    入門書とかでよく「人と思想」みたいなものがあるけど、これはほぼ「人」にフォーカスしたもの。

    代表作といえる「全体主義の起源」「人間の条件」の説明もほぼない。それを書くにあたってのアーレントの人としての思考のありようについての物語です。

    そもそも本の半分以上はアーレントの著作活動が本格化するまえ、つまり早熟な幼少時代、大学でのハイデガーとの出会い、ナチスの政権掌握にともなうパリへの亡命、ナチスのフランス占領にともなうアメリカへの亡命、その期間における戦後に有名になる思想家、芸術家、活動家との出会いが描かれている。

    アーレントの本は、こうした体験を通じての思考の積み重ねがグッと深まって言語化されたものともいえるので、このあたりは大事なところだと思う。

    もちろん、アーレントのこの波乱の人生物語は、スリリングなものなので、読み物としても面白いし。

    純粋な史実だけでなく、著者の想像、妄想などを織り込んだ物語であることを点を理解した上で読めば、アーレントという複雑な人に接近するとよい道になると思った。

    そういえば、アイヒマン問題については、わりとさらっと描かれているのが不思議だけど、この本の伝えたいところでは必ずしもなかったのかな。アイヒマン問題を中心に描いた映画「ハンナ・アーレント」もあるので、そちらのほうも観れば、人としてアーレントの理解を補うことができるかな。

    個人的にはヤスパースとの関係ももう少し描いてもいいのではないかと思ったが、やはりこういう作品では、どこかにフォーカスを絞る必要があるということかな?

    などなど思いながら、最後の数ページで晩年のアーレントを読み、最期に到達すると、なんだかウルッとしてしまった。

    あと全体主義の恐ろしさが、亡命者の視点として、じわじわと日常に浸透していくところが感覚的に伝わってくる。そして、これは今、世界で起きていることとかなりパラレル。

    自分たちの日常が以前どおりに続いているとしても、足元では地盤はどんどん侵食されていて、目にみえるときには手遅れ、ということになるかもしれない。

    そんな感覚もあった。

    漫画と思うとちょっとお高い本なのだけど、内容的には十分な読み応えがあるし、ときどき読み返すのに便利。

    アーレント初心者だけでなく、マニアにおすすめできる。
    続きを読む

    投稿日:2023.05.02

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