【感想】天皇訪中実現への道――日中対外戦略の展開とその帰結

蒋奇武 / 晃洋書房
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  • 怪奇なアイテムのコレクター

    怪奇なアイテムのコレクター

    このレビューはネタバレを含みます

     今師事している先生の作で先生の博士論文に基づいてできたものである。22年後半、順調に出版したとの朗報を聞いて先生から一冊を頂いた。学識の少ない僕には学術的な値打ちがどれほどあるか論評を加える筋合いがないと知りながら、本書におけるいくつかの良いところをシャアして評価したいものである。
     1、中国人の天皇(制)認識は源流がどこにあるか考えたことが個人的にないので、その問いの提出そのものが面白くて追及する意義があろう。第一章において、作者は戦時、野坂参三が天皇のイメージづくりについて中国人に与えた影響をも考察したことにより天皇制に対する初めての印象と認識を解き明かした。そういう点はなかなか独創的な視座を誇っており評価するものであろう。
     2、終章における歴史的意義の部分、天皇訪中の失敗の一面を評価する一文で、なぜ天皇訪中の話が持ちかけられたかその事件の動因をひっくり返して読み手に考えさせた。第二章から第五章まで至る錯綜した中日の応酬で読者の僕がただ事件の屈折した過程だけに目を向けていることにとっさに気づいた。その突然な一問は僕を天皇訪中の本質を突き止めることに働きかけた。第二章に立ち返って読んでみると、天皇訪中はそもそも1978年に中国が日本を引き込めてソ連を抗うという策略に駆動されて持ち出された招請に応じるものであったが、ソ連への配慮を抱えた日本は対ソ関係の悪化を防ぐために見送った。その懸案はソ連解体後、再び浮上した。その折、日本には対ソ関係の配慮がなくなり、気ままにその懸案に決着をつけるものであったが、また中日両国とも面していた内政的圧力のせいで依然として検討の状態にとどまっていた。1992年の江の訪日まで度重なる招請をわけに中国も日本も国内の圧力を打ち切って天皇訪中実現への決定的な一歩を踏み出した。そこまで、訪中事件は、両国関係を修復してソ連への対抗的統一戦線を結成しようとする旨から中国の改革開放に力を貸して経済的連携を図る趣旨へとおのずから変わったのであった。歴史の展開は予期と全く想定外であり、出発点と到達点との間にはこれほどの差があるとは。

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    投稿日:2023.01.29

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